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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編 『ステイリィ英雄譚』
423/500

十六人会議



 ――治安局本部 重役会議室にて――


「――では満場一致ということでよろしいかな?」


 レイリゴアのその一言は、ステイリィの運命を大きく変える宣言であった。

 であるというのに、ステイリィはその言葉を、ただ呆然と――例えではなく本当にポカンと口を開けて――半ば放心状態で聞いていた。

 それくらい、今の今まで行われてきた目の前の会議が衝撃的な内容であったからだ。


 聞く者が聞けば羨むところだが、ステイリィからすればただただ迷惑。

 いや、迷惑を通り越して、不幸だともいえる内容。


「それではステイリィ・ルーガル支部長を、『十六人会議』のメンバー候補に加えることとする!!」


 レイリゴアの荘厳な一言によって、周囲から賛成の拍手が起こる。

 しかしよくよく見れば、その拍手にも色々な意味がある様だった。

 彼女の部下達は拍手をしつつも苦笑を浮かべ、ステイリィの希望を考えれば素直に喜べないでいたし、逆に他支部の局員からはギロリと鋭い視線と激しい嫉妬に突き刺される。


 幹部連中からは口々に『おめでとう』と祝われ、幹部達からは握手を求められた。

 他の局員からは口々に『手柄泥棒が』と呪われ、部下達からは災難ですねと肩を叩かれた。


 この瞬間でもこの女局員、『ステイリィ・ルーガル』の意識は、ここにはない。


 あまりにも唐突に、そして不幸にも大昇進の機会が巡ってきたことに、彼女の精神は現実逃避に走っていたのである。


(あはは~~、もうどうでもいいや~~)


 暖かい日差しの指す、どこまでも広いお花畑の中で、お手製ウェイルぬいぐるみを抱きしめながらゴロゴロするという至福の妄想の世界へと旅立っている。


「上官! ちょっと上官!! しっかりしてください! お気を確かに!!」

「――ハッ!?」


 部下の耳打ちと揺さぶりでようやく意識を取り戻す。

 楽しい妄想の世界から、無駄に出世をしてしまった現実の世界へ帰ってきたステイリィの瞳には涙まで浮かんでいる。


「……ううう……」


 この場に集う多くのお偉いさん方は、ステイリィの涙は出世の喜びの感激から来るものであると都合よく勘違いしてくれているみたいで、皆笑顔が暖かい。


 ――しかし、実際はそうではない。


 出世の大チャンスを掴んだというのに悲しむステイリィの姿に、部下達の視線はただただ鋭い。


(どうしてこんなことに……)


 何が一体全体どうしてこのような事になったのかと言うと、話は三十分程度前に遡る。







 ――●○●○●○――






「本日の議題は、この十六人会議に関することだ」


 此度招集された会議の議長を務めるのはこの男、治安局最高責任者であるレイリゴアであった。

 司法都市ファランクシアの治安局本部内に新たに設置された、非常に先進的なデザインを為す会議室にて、その会議は始まった。

 ちなみにこの会議室のあった場所は、あのクルパーカー戦争にてイレイズとレイリゴアがフロリアに襲撃を受けたあの場所である。

 木っ端微塵に破壊された会議室を再建して、今のような会議室になったのだ。


「議題には、本日お招きしたステイリィ氏にも大いに関係する事」


 突如として名前が挙げられて、一斉に視線が部屋の奥へと向かう。


「ふえっ!? わ、私!?」


 正直な話、この場にステイリィが居ること自体が、あまりにも不自然な事である。

 何せこの場は最初にレイリゴアが言ったとおり、『十六人会議』なのである。


 十六人会議とは、治安局の在籍する上位十六人の大幹部達によって形成される会議であり、治安局内では事実上の最高機関なのである。


 大きな事件の度に招集がかかり、十六人の意見や考えだけで事件を解決に導く。

 つまりこの場に集まっているレイリゴアを含めた十六人は、治安局内でとてつもなく巨大な権力を握っている。

 そんな大幹部達を前に、一支部長のステイリィがいることは、不自然と言わざるを得ないわけだ。

 無論そのことはいくらステイリィとて分かってはいる。

 まさか自分が招集された会議が十六人会議であるとは思いもしなかった。


(おい、私が出席するのって最高責任会議じゃなかったのか!?)


 小さい声でステイリィが隣の部下に耳打ち。


(上官! 何言ってるんですか! 最高責任会議とは『十六人会議』の事ですよ! 正式名称が最高責任会議というだけであって、幹部連中は皆通称である『十六人会議』って方を使ってるんです!!)


(そうなの!? 十六人会議と最高責任会議って同じものだったの!? 全然知らなかった!?)


(((アンタ本当に治安局員か!?)))


 思わず敬語すら忘れてしまう部下達のそう突っ込みを受けながら、冷や汗を拭くステイリィ。


「どうしたのかね、ステイリィ氏」

「え!? いえ、なんもないです~……」


 自由奔放、自分勝手がモットーのステイリィではあるが、さすがに最高責任者レイリゴアの前だけは大人しくシュンと黙っている。

 実際は呆気にとられているだけではあるのだが。


「今日の議題の中心人物は彼女なのだ。彼女の英雄的活躍は、皆の耳にも入っていることだと思う。彼女なくして今の治安局はない。そう言い切れるほど、彼女の功績は大きいものとなった。そこでどうだろう。彼女をこの十六人会議に迎えてはいかがだろうか?」

「へ? ……ふぇえええええええええええッ!? ……あ、ごめんなさい」


 思わず叫びが出てしまったのも無理はない話。

 十六人会議に迎えられる。

 それはつまり治安局内における最高権力を握ったも同然であるのだから。

 この突然の提案に、他の大幹部達から反対が起きる。


「レイリゴアさん、それは流石に事が性急すぎるでしょう。いくら何でも突然十六人会議に入れるなど」

「そうです。それに彼女はまだ若い。若すぎる。そんな若輩者が会議に加われば、如何様な影響が出るか分かりますまい」

「その通り。どうかお考え直し下され」


「――そうだそうだ!! ステイリィを昇進させるな! これ以上、無駄に偉くなるのは色々と面倒なんだ! 取り消せ!」


「……上官、心の声漏れていますし、それ周りに聞かせたら殺されますよ」


「はっ!? つい!」


 反対する幹部+ステイリィがレイリゴアに意見。

 だがそれをレイリゴアは一蹴した。


「彼女の為した功績は、すでに勲章では両手の指では数え切れないほどの数だ。それにクルパーカー王家、ヴェクトルビア王家からの信頼も絶大。貴方方に、これほどの功績はありますかな?」

「……くっ、それは……」


(そんなに私勲章持ってるの!? 知らなかった……)


 実の所ステイリィより勲章を持っている者など、現代ではレイリゴア以外にはいないほどである。

 これもただ単にウェイルの後を追っかけていたところに偶然拾ってしまった勲章であるのだが。


「宗教戦争の時、誰よりも早く現地に入り、部下を指揮して無事アルカディアル教会を止めたのも彼女の功績。彼女の功績の大多数は運も絡んでいるだろうが、それを生かせる実力がある。それは誰にも否定は出来まい」

「……確かにそうですが。しかし現場とここは違います」

「それが問題なのだ。我々の会議に現場の声は入りづらい。故に彼女だ。現場の声を聞くには、当然現場にいた人間の声を聞くのが一番良い。彼女を選んだ一番の理由がそれだ」

「しかし、彼女は若い。若輩者の言うことなど聞ける者かと、現場から文句が出るのではないですか!?」

「それを言えば誰がやっても出るだろう。年齢だけでなく、勲章の数でもな。この場にいる皆よりも、現場にいる者の方が多く勲章を持つ者だっている。目の前のステイリィがそうではないか。現場からの文句を収めたいのであれば尚更彼女は会議に参加すべきだ。年齢のことを言う連中には年老いた我らの名前を出せば良いし、勲章の数でいえば彼女の名前を出せば良い。誰もが納得するだろう」

「……ぐ……!! た、確かにそうですが……!!」


(あ、あれ!? なんだか反対派が負けてる!?)


「今この会議には若い者の声が必要なのだ。先にラングルポートの時、我々は凝り固まった頭のせいで手痛い目に遭ったのを忘れたか。厳戒令を出すことをもっと早くしていれば、命散った部下達の数も抑えられていたかも知れん。彼女の様に若く、柔軟な考えが今の治安局には必要なのだと思うのだ」


「「「…………」」」


(や、やばい……このままだと昇進しちゃうじゃん……、どうにかしないと……!!)


 とはいえ昇進を拒否というのも難しい。

 この場の空気は完全にレイリゴアの意見が支配している状況だ。誰も論破に動けない。


(誰か助けてくれーーーー!!)


 ステイリィがそう心で叫んだ時である。


『――その判断はお待ち下さい!!』


 扉を開けて入ってきたのは、顔も知らない三人の治安局員であった。


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