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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編 『ステイリィ英雄譚』
421/500

素敵で無敵な秘書官、ビャクヤ

「お、おおおお、おおおおおおおおおおおおおおおっっ!?」


 ステイリィと分かれたウェイル達御一行はというと、新たな仲間ビャクヤを引き連れて、目的地である最高裁判所へとやってきていた。


「なんじゃこりゃあああああああああああああああ!?」

「ウェイル、フレスが壊れたわ」

「ああ、いつものことだ」


 アムステリアの辛辣な台詞は置いておくとして、先程から素っ頓狂な声で驚きを示すフレスの気持ちを理解できぬわけではない。


「でっかあああああああああい!?」

「毎回この子は大袈裟ねぇ……」

「ま、これを初めて見たのならこういう反応も仕方ない」


 フレスが見上げているそれは、この司法都市の象徴とされるオブジェ。

 ファランクス最高裁判所の玄関前に堂々と聳え立つ、巨大な黄金の天秤である。


「どれくらい高いの? 上に登ってみてもいい?」

「いいわけねーだろうよ。このオブジェはな――」


 ウェイルが説明をいつものように始める。


「このオブジェの高さはな、なんと33メートルもあるんだ」

「33メートル!? それは大きいね!」

「33ってのに意味があってな――」


 3という数字は、司法、行政、治安局の3つの組織が互いに均衡して存在しているという意味の観点から、アレクアテナでは秩序の象徴たる数字とされ、行政機関や治安局系列施設の多くの所に用いられている。

 裁判所の象徴たるこの天秤方のオブジェもそれに習い、元々20メートル前後であった建設計画を、わざわざ33メートルへ変更したという逸話もある。


「――とまあ、俺が知っているのはこれくらいだな。詳しいことは知らん」

「あれ? ウェイルでも知らないの? 珍しいね」


 我が師匠はこういうことに詳しいと思っていたので、フレスにとってウェイルが知らないとは意外だった。


「あのなぁ、俺は鑑定士であって、裁判所の人間じゃないからな。そこのプロに聞いた方がいい」


 一同の注目がビャクヤに集まる。

 彼女は元裁判所の職員。いわば裁判所関係のプロである。


「期待する視線をいただいて申し訳ありませんが、私だってあまり存じませんよ。いくら私が裁判所で働いていたといっても、ホンの数年間だけですから。そもそも裁判所はあまり好きじゃなかったんですから」

「そうなのか?」

「ええ。人の一生を他人が決めるって場所ですからね、ここは。私は裁判官ではありませんでしたけど、他人の人生を勝手に決めるというプレッシャーは感じていまして。お給料が良かったから続けていましたけど、正直今の仕事の方が楽です。上官もステイリィさんですし」

「ステイリィといた方がもっと疲れるような気がするがな……」


 とはいえウェイルと、そしてアムステリアも裁判所のことはあまり好きではない。

 特にこのファランクス最高裁判所には苦い思い出もある。

 大切な先輩を助けることが出来なかったという、痛々しい過去だ。


「ウェイル、さっさと手続きを済ませましょ。あまりここに長居したくないでしょ? お互いにね」

「ああ、そうだな」


 このオブジェの周辺は、ウェイル達と血塗れ姿のダンケルクが最後にすれ違った――互いに決別した場所だ。

 ここにいれば、嫌でもその時の光景を思い起こされ脳裏を過ぎる。


「私についてきてください。コネさえあれば手続きはすぐに終わりますから。世の中やっぱりコネですよ、コネ」

「なかなかに黒いことをいう秘書だな……。ステイリィの側近としては丁度いいもかもな」






 ――●○●○●○――





「受付って、結構時間が掛かるのよね」


 当時裁判所に通ったことのあるアムステリアが、そうポツリとつぶやく。

 ここファランクシアのルールとして、監獄に用事がある者は、大抵この裁判所にて入場許可を取らねばならない。

 無論監獄というこの都市きっての重要ポイントに、身分不明な者を入れるわけにはいかない。

 故に、この裁判所内でまず簡易の許可を取り、それから監獄へ入場審査を受けなければならないのだ。


 ちなみに収監者等の家族の面会という場合には、許可は必要ない。

 ここでの許可と言うのは、監獄内を自由に歩き回る権利を得るためのものだ。

 そしてこの簡易許可が下りるには、そこそこの時間が掛かる。

 何故なら監獄への簡易許可という作業は、裁判所から言えばサブ業務に過ぎないからだ。

 それに入場許可を求められるケースというのは、実際のところかなり少ない。

 一般人の中に、監獄内を自由に歩き回る必要がある者なんていないからだ。


「おそらく一時間は待たんと行けないだろうな」

「えー、そんなにー?」


 長いよーとぶつくさ垂れるフレスを、適当にウェイルがあしらっていると。


「心配いりませんよ。五分で終わりますから」

「……え?」


 ビャクヤがそんなことを申し出てくる。


「五分です。皆さんは結構急いでいるのでしょう?」

「まあな。だがそんなことが出来るのか?」

「ええ、任せてください」


 そう言い残し、ビャクヤは何故だから貫禄が伺える背中を見せて、裁判所の受付へと向かっていった。



 ――ビャクヤの行動は、凄まじく迅速で、そして効率的である。



「お久しぶりですね、皆さん」


 ビャクヤは受付を飛び越えて、唐突にスタッフルームへと入り込む。


「「「――――ビャクヤさん!?!?」」」


「ファランクスへの入場申請用紙を下さい。そこの53番棚に入っていますから、急いで。後、囚人契約申請書も。それは112番にありますから。後ペンを貸して貰えます?」

「は、はい」


 知り合いであろうか、彼女の登場に驚くスタッフに対し、ビャクヤはお構いなしにテキパキ次々と指示を送る。


「23番に身分証明書、89番に身分プレートがあるから出して。身分証明は3分以内で書くから、2分で許可を取って下さいね」

「あ、あの、ビャクヤさん、ただいま上官が出張中ですので、これから電信を送りますから少しばかり時間をいただきたいのですが……」

「あの人なら許可を出さないってことはないでしょ。適当にハンコ押してください。私が来たと言えばあの人は文句を言いませんよ」

「え、ええ、まあそうでしょうね」

「それに入場するのはプロ鑑定士の方です。心配は無用です」

「鑑定士の方、ですか。……判りました。私が上官代理として許可を出しますよ」

「迅速な対応、感謝します」


 というやり取りを終えて、予定通り五分で意気揚々と戻ってきた。


「許可、取りましたよ。監獄に行きましょう」


 一連のやり取りの様子を、受け付けの小窓から見ていたウェイルとフレスは、彼女の無敵すぎる行動に、ただただ唖然としていた。


「どうしました? 許可とりましたけど」

「あ、ああ。ありがとう」

「……ウェイル、この人、どうしてこんなに優秀そうなのにステイリィさんの近くにいるの?」

「アレクアテナ大陸最大の謎かも知れん」

「私の上司が酷い言われようですね。でも、確かにその通りかも知れませんね」

「やはり腹黒いぞ、この秘書」

「うん。真っ黒」

「ステイリィ上官が真っ白すぎるだけです。……だから心配なんですよ」


 最後の台詞を話すビャクヤの顔は、少しばかり憂いを帯びていて――


「まあ、判らんでもないな。あいつを野放しにしておいては確実に自滅する。なまじ権力が無駄にあるだけにな。誰かが見守っていてやらんと」

「ウェイルさん、その役目を貴方がしてあげると、上官はとても喜ぶと思いますが」

「御免こうむる。アンタくらいしっかりしている人が丁度いいのさ。うまくあいつをコントロールしてやってくれ」

「え、ええ。まあお仕事ですからね。私も嫌なわけじゃないですし」


 ホンの数十分前に出会い、会話もそれほどしてはいないはずのなのだが、彼女はステイリィと一緒にいる時の方が楽しそうに見えた。

 ステイリィにしてもまた然り。

 まさに良いコンビなのだろう。

 このビャクヤという秘書は、心底優しい素敵な女性なのだなとウェイルは思った。


「それに上官の近くにいると簡単に出世できますからね。媚売りまくり、揉み手しまくりです。指紋なくなっちゃいますね」

「…………」


 ――優しいが、黒いところはやっぱり黒い。


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