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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第一部 第二章 競売都市マリアステル編 『贋作士と違法品』
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終幕

「あら、相談は終ったのかしら?」


 クランポールの上に立つエリクが、余裕ある笑みを向けてきた。


「そっちこそ、ようやく絡まったクランポールが解けたみたいだな?」


 挑発じみた返事を返す。


「ええ、ようやくね。でもこれでやっと終わりね。貴方達」

「果たして終るのはどっちかな?」

「どういう意味かしら?」

「こういう意味だ! いくぞ! フレス!」

「うん!」


 フレスと唇を重ねる。たちまち青い光が周囲を包み、蒼き翼と後輪を持つ神龍『フレスベルグ』へと変身した。

 だがエリクに驚きはない。


「あら、龍が出てきちゃったわね。いいの? お腹の中の彼女、死んじゃうわよ?」

「関係ないさ! エリク!」


 氷の刃を展開し、クランポールに乗るエリクに向かって跳躍し、切り掛かる。


「激しいわね、ウェイル。何が狙いなの?」


 手に持つ鞭を巧みに操り応戦してくる。


「狙いって、もちろんお前を逮捕だよ!」


 今はとにかくエリクの注意を引く。

 クランポールの上で激しい攻防を続ける。エリクの激しい鞭に体を傷つけながらも、少しずつ追い詰めた。


「しつこい男ね……! 嫌われるわよ?」


 大きく振りかぶった鞭を、ウェイルは避けなかった。体全体を使い、その攻撃を受けた。


「ぐっ! だが掴んだぜ……!」


 身を挺して鞭を掴んだ。


「く、鞭を……!」


 唸る鞭の衝撃を受けながらもウェイルは更にエリクへと接近した。


「一旦下がって体勢を立て直した方が良さそうね……」


 剣と鞭の接近戦では鞭の方が相性が悪い。そう判断したエリクはクランポールから降りるように跳躍した。

 

 だが、これこそウェイルが体を張ってまで待ち望んだ絶好のチャンスだった。


 エリクの体は宙に浮き、動くことが出来ず満足に鞭も振るえない。

 ――これ以上の機はない!


「今だ!!」


 ウェイルは叫んだ。その合図は確実に三人へ届いた。


 フレスベルグの目の前には二体のクランポール。不気味に動き、体液を撒き散らしていた。


『下衆共が……!』


 その時、ウェイルの合図が聞こえてきた。

 アムステリアに振り向くと、分かっていると頷いていた。

 蒼き光が光のリングに集まり、光が一度に解き放たれた!


『無に帰れ!!』

「行くわよ! うらぁ!」


 先程クランポールを吹き飛ばした蹴り以上の力で足に掴まったイレイズを蹴り飛ばす!


「サラー! 必ず助けます!」


 イレイズの覚悟。ダイヤの腕に力が篭る!

 蒼い光が輝き、そして――

 ――轟音と共にイレイズが凍ったクランポールへと突っ込んだ!


「な、何なの……!?」


 宙に浮くエリクが驚愕していた。その目に映ったもの。それは完全に凍結したクランポールと、そのクランポールにまるで隕石のように突っ込むイレイズだった。

 周囲に砕かれたクランポールの皮膚が飛び交う。


「これは……クランポールの……! ウェイル、貴方達、一体何をしたの!?」


 エリクとウェイルが着地したとき、クランポール達は原型を留めることなく、全てが粉々に砕かれていたのだ。


「何を、って。決まっているだろ? サラーを助けたんだよ!」

「サラマンドラを? 馬鹿言わないで! そんなことしたらサラマンドラまで!」

「心配するなよ、エリク。あれを見ろよ」


 ウェイルが指差した先、そこにはダイヤの腕でサラーを抱きかかえるイレイズがいた。

 サラーの胸は微かに上下していた。イレイズは無事サラーを助けることに成功した。


「無事成功したみたいだな」

「そ、そんな馬鹿な……」


 エリクは言葉にならないといった感じだ。代わりにウェイルが言葉を続ける。


「お前はフレスやサラーを恐れていたんだろ? だからこそ人質をとしてサラーを飲み込んだ。こちらが攻撃出来ないように。だが、今それは破綻した。お前、いや、『不完全』の負けだ」

「くっ!!」


 ウェイルの話が終る前にエリクは駆け出していた。

 とにかくここから逃げる。エリクは今までサグマールの信頼を取り続けてきた。

 今ならサグマールは自分の話を信じるに違いない。自分の都合のいい説明をして、全ての罪をウェイルとイレイズ、ルシャブテに全て被せればいい。そう考えていた。


「無駄な事は止めろ」

「えっ?――ひゃうっ!!」


 青い光が床から発せられたかと思うと、エリクを大きなツララが取り囲んだ。

 フレスがエリクを閉じ込めるために作ったのだ。


「もう逃げられん! 諦めろ、エリク!」


 ウェイルの言葉を聞いたとき、エリクが狂ったように笑い始めた。


「あははははははははっ!! 諦めろですって? 冗談じゃない! 私は何もしてないわ!ウェイル、貴方の方が問題ではなくって? 『不完全』を助け逃がそうとまでしたじゃない! 逮捕されるべきは貴方の方なのよ? サグマールがこのことを聞いたら、貴方、もう鑑定士としては終わりなのよ!!」


「――終わりなのはお前の方だよ、エリク」


「――え?」


 エリクが声のした方と振り向く。

 その顔は、今まで見たことが無いほど青ざめていた。


「――どうして!? 何故ここに!?」


 エリクの問い。それはこの男――サグマールへと向けられたものだ。


「簡単なことだ。あそこでのびている連中を逮捕するためだ」


 サグマールが指差した方には、アムステリアが気絶させた富豪達がいた。

 全員違法品取引の容疑で逮捕されたのだろう。

 治安局の職員に連れて行かれていた。その中にはルシャブテの姿もあった。


「お前が『不完全』と繋がっていたのは数年前から知っていたよ。今までわざと放置していただけだ。お前が俺から聞きたいことは即ち、『不完全』の行動に繋がるからな。今日もずっと監視をつけていたのだ。一部始終は見させて貰ったよ。鑑定士全員をベガディアル・オークションに導こうとしたようだが、それは失策だったな。おかげで裏オークションの開催を事前に察知することが出来たよ」

「そ、そんな……」

「連れ出せ」


 ついにエリクが膝から崩れる。治安局員が回りを囲み、縄で縛った。エリクは抵抗せず、こちらを一瞥すると素直に連れて行かれた。


「よくやったな、ウェイル。……と言いたいがな。エリクはさっき『不完全』がどう、とか言っていただろう」


 サグマールがイレイズとサラーの方を見た。


「それはあいつらのことか?」


 確かにイレイズたちは『不完全』に属していた。しかし今はもう違う。


「あいつらは……俺の大切な――仲間だ」


 サグマールと目を合わせる。互いに真剣な眼差しで、たった数秒ではあるが互いの腹を探り合った。


「……そうか。いい仲間なのだな。じゃあ俺は残りの作業に戻る。真珠胎児はお前が責任を持って押収しろよ」


 サグマールの顔に笑顔が灯る。そして去り際に、


「貸し一つだぞ?」


 とだけ言い残して行った。全くサグマールには頭が上がらない。


「終ったの?」

「ああ、全部終わったよ」


 アムステリアやイレイズ達もこちらへと集まってきた。来て早々イレイズが頭を下げた。


「ウェイルさん、フレスちゃん、そして貴方も、本当にありがとうございました」


 貴方とはアムステリアの事だ。

 いつの間にか歩けるようになったサラーもつられて頭を下げる。


「礼を言われるような事はしてない。取引だからな。それより体は大丈夫なのか? ダイヤになったときの火傷とかは」

「大丈夫ですよ。サラーの力がありますからね。時間は掛かりますが元の皮膚に戻ります」


 ――そうか。フレスと同じようにサラーにも治癒能力があるのか。


「私はたっぷりお礼して貰いたいわね。名前も知らない奴を助けてやったんだから! 礼として、この破れたドレスに変わるドレスくらい、買って貰わないと」


 アムステリアが腰に手を当てて文句を垂れた。


「ははは、分かりました。必ず買ってお返しいたします」


 互いに名も知らないこの二人が握手を交わし、一件落着かと思ったとき、


「あーっ!!」


 と、フレスが何かを思い出したように声を上げた。


「忘れていたよ! ボク、ウェイルに服を買って貰う約束だった!! ねー、ウェイル。ボクにも買ってよ~!」


 ――そう言えばそんな約束もしていたっけ。さっき話したことなのにすっかり忘れていたな。


「そうだったな。お前の活躍で解決出来たんだ、ちゃんと買ってやるよ」


 思えばたった数時間の間に色々あった。ウェイルの過去、フレスの過去、そしてフェルタリアのこと。

 今更だが俺はフレスを守らなければならない。『不完全』がフレスを狙っていることもある。

 だがそれ以上に俺はフェルタリアの意思を引き継ぐ者だ。フェルタリアの人々が国を挙げて守ったフレス。

 今度は俺が命を掛けて守る番だ。


「こんな陰鬱な場所からさっさと出よう。腹が減ったろ? 何食べたい?」


 フレスから出てくる料理名はこれしかない。


「熊の丸焼き!」


「それは無理」



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