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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編 『ステイリィ英雄譚』
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司法都市 『ファランクシア』



 芸術大陸――『アレクアテナ』。


 そこに住まう人々は、芸術や美術を嗜好品として楽しみ、豊かな文化を築いてきた。


 そしてそれら芸術品を鑑定する専門家をプロ鑑定士という。


 彼らの付ける鑑定結果は市場を形成、流通させるのに非常に重要な役割を果たしている。


 アレクアテナにおいてプロ鑑定士とは必要不可欠な存在なのである。


 そのプロ鑑定士の一人、ウェイル・フェルタリアは、相棒である龍の少女フレスと共に、大陸中を旅していた。


 仮面の男を筆頭とする、過激なるテロ組織『異端児』。

 

 ウェイルの仇である贋作士集団『不完全』をも崩壊させた彼らの目的は、運河都市ラインレピアに眠る三種の神器の一つ『心破剣ケルキューレ』であった。


 ラインレピアの崩壊を防いだウェイル達と交戦する『異端児』達。


 しかし『異端児』のリーダーである仮面の男、メルフィナの手に入れたケルキューレの力によって、フレスベルグを失ったウェイル達は敗北を期す。


 ウェイルの過去、フレスの過去。そしてフェルタリアの真実。


 その全てが明らかとなった今、物語は終局へと加速していく。







 ――●○●○●○――






 ――司法都市『ファランクシア』。


 この都市の型式は、他の都市とは一線を画する。

 何せこの都市に住まう者は、皆治安局や司法に関わる者ばかりだからだ。

 治安局の総本山としてこの都市は君臨し、また治安局の他にも大陸唯一の最高裁判所『ファランクス』、これまた大陸唯一の監獄『コキュートス』も存在し、物々しい雰囲気の漂う都市だ。

 型式の近しい都市としては銀行都市『スフィアバンク』が挙げられるだろう。

 あちらが経済関係のみで循環している都市に対し、此方は司法関係のみ、ということだ。

 また都市を取り囲む城壁も、スフィアバンクに近いものがある。

 まず都市への入都は基本的に鉄道と海道のみであるし、その際の審査も、例え相手がプロ鑑定士でも審査に一切の容赦は無い。


 神器の持ち込みも厳しく制限され、武器に相当する神器については全て都市管理局が強制的に預かる事になる。

 これは司法の最高機関である『ファランクス』を守る為であり、また大監獄『コキュートス』に投獄されている犯罪者に武器が渡る可能性を最大限減らす為である。


「全くもう! ボクは変態なんかじゃないもん! 失礼しちゃうよ!!」

「まあまあ、もう二度目なんだからそろそろ慣れろよ」

「慣れるわけないでしょ!?」


 プンスカご機嫌斜めなフレス。

 その理由はと言うと――


「やっぱり新しいワンピース欲しいよぉ! ウェイル、買って!」

「お前自分の金があるだろうに」

「ウェイルに買って欲しいんだよぉ!」

「嫌だ。お前買ってやっても勝手に翼だして破くだろうが」

「だからっていつまでも穴の開いた服ばかり着られないよぉ!!」

「だからこそ自分で買え。俺だって破かれる前提で服を買う気はない」

「むぅ、ウェイルのケチ!」


 フレスは興奮する度合いによって、背中から翼が飛び出るという癖がある。

 そのせいで彼女のワンピースには翼用の穴が開いていたりする。

 以前、プロ鑑定士協会本部へ入場する時の身体検査で、この穴を指摘され、白い目で見られた挙句失笑されたことがあるのだ。


「あの検査官、どうして穴なんて開いてるんだ、なんてボクにしつこく聞いてくるんだよ!」

「なんて答えたんだ?」

「本当の事言えないからさ。これは全て師匠の趣味ですって答えてやったもんね!」

「……な、なんだと……」


 ……おかしい。

 確かプロ鑑定士協会に入る際には『暑いから』なんて言っていたはずだ。


(……フレスめ、あの時と違って全て責任を俺に擦り付けたな……!!)


「あらあら、師匠は変な趣味をお持ちの様ね?」

「笑うな、アムステリア!」

「そしたらさ! お前の師匠もド変態だなって! なんだか可哀そうな子を見るような視線をボクに向けてきてさ! ホント、酷い話だよね!」

「酷いのはお前だ……」


 この都市ではあまり目立ちたくなんてないと言うのに、早速目立ってしまったウェイル達一行である。


「そう言えばウェイル、貴方も結構検査に時間が掛かったのね」

「俺は神器の方でな」

「そう言えばボクの剣、持ってないね。渡しちゃったの?」

「ああ。『氷龍王の牙(ベルグファング)』は規制の対象になっちまったよ。おかげで当面は丸腰だ。この都市にいて丸腰で困ることはないだろうがな」

「ちゃんと返してもらえるんだよね? なくなったりしないよね?」

「当たり前だ。ここの神器倉庫の管理はスフィアバンクの比じゃない」

「検査で預かった神器を始め、犯罪者から押収した神器なども保管してるから。ファランクシアは大陸屈指の神器が集まる都市なのよ。だから倉庫の場所は当然非公開だし、その警備も万全ってわけ。当然失うこともないわ」

「そうなんだ」


 神器『氷龍王の牙』(ベルグファング)はフレスの体の一部のようなものだ。

 ウェイルの手元から離れるということは、製作者であるフレスからも遠ざかるという事。

 その事がさぞかし不安なのだろう。


「ま、ちょっとの間預かってもらうだけさ。エリクの話を聞いたらすぐに帰るつもりだしな。あまり気にするな」


 表情に影を落とすフレスの頭を撫でてやると、いつもの笑顔が戻ってきた。


「メシ食べに行くか」

「うん!」


 ともあれ、時間こそかかったが検査を無事に終えた三人は、無事ファランクシアへの入都が許されたのだった。







 ――●○●○●○――






 ファランクシア都市内には、飲食店が多く連なっている。

 これにはいくつかの理由があるが、最も大きな理由はというと、この都市に住まう者はその大半が治安局、監獄、並びに裁判所の関係者であることである。

 住人のほとんどが、それら機関に属していて、日夜業務に励んでいるのだ。

 時には昼食をとる時間さえないほどの忙しさの日だってある。

 それほどの多忙の中、自らの腕を奮って料理を嗜もうとする物好きな人間など、そうそういやしない。

 必然的に彼らの食生活は、時間と手間の関係上、外食ばかりとなっているのが実情である。

 仕事の疲れを癒すには、上手い料理に舌鼓を打つのが手っ取り早い。

 そういう理由で、この都市には飲食店が多いのである。

 日々外食を繰り返す彼らの需要を幅広く満たすために、この都市の飲食店は様々な工夫を凝らしており、そのレパートリーの多さは大陸随一だ。

 ある意味グルメが多いのもこの都市の特徴にもなっているのかも知れない。

  

 そしてそんな外食産業の栄えた表通りを、目を輝かせて――もとい涎を垂らしながら――意気揚々と歩く少女がいる。


「良い匂いが一杯で溺れ死んじゃいそう……!!」

「フレス、汚いから涎を拭け」

「ウェイル! どこの店に入るの!? ボクもうお腹空きすぎて死んじゃうよ!」

「お前が死ぬわけないだろうよ。何の比喩でもなく、な」

「むむ、そうだけどさ! それくらいお腹が空いているって意味!」

「だからといってイチイチ店先まで匂いを嗅ぎに行くなよ……」


 指を咥え、目を輝かせながら、店舗の先々で匂いを嗅ぎまくる我が弟子に、ウェイルも思わず頭を抱えてしまう。


「ウェイル、どこに行くの?」


 後ろをついてくるアムステリアもそろそろ何処かへ落ち着きましょうと、ウェイルにそう尋ねてくる。


「もう少し行った所だ」

「目的地があるの?」

「ああ。あそこならフレスも満足だろうよ」

「ボクが満足できるお店!? それってもしかして――」

「――一応先に断っておくが、メニューに『クマ』はない」

「なななな、なんですとおおおおお!? どうして台詞がバレた!?」


 クマがないと聞いて、顔面蒼白になるのは大陸中探してもフレス位なものだろう。


「ワンパターンなんだよ、お前はさ」

「そんな~、そんなのじゃ、ボクが満足するわけないでしょ~!」

「いつも腹いっぱい満足するまで食ってるじゃないか……」


『くまくまくまくま~!!』、と駄々をこねるフレスの首根っこをひっ捕まえて引きずりながら歩いていくと、ほどなくして目的の店へと辿り着いた。


「ここだ」 

「あらら、なるほど」


 店の看板を見上げるアムステリアも、意を察したのか頷いている。


「うう、ここ、どこなの……?」


 その意というものが分からぬフレスがキョトンと呟く。


「ここはな、ヤンクが出している店なんだよ」

「ヤンクさんが!?」

「正しく言えばデイルーラの系列店だ」


 なるほど、確かに看板にはデイルーラの文字がある。


「そっか! ここなら好きなだけ食べてもいいってことだね!? 全部デイルーラ社が代金持ってくれるとか!」

「んなわけあるか。ここはな、色々と配慮してくれるんだよ。秘密裏の話をしたいときには持ってこいだ」


 ウェイル達の持ち得る情報から交わされる情報は、何かと危険度が高い。

 ここならば他の客には聞こえぬよう、配慮してくれるはずだ。


「ねーねー、もうお話はいいから入ろうよぉ! もうお腹空きすぎて死んじゃうよぉ!!」


 フレスが再び駄々をこねかねない状況であるので、さっさと店内に入ってしまうことにした。


「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件で?」

「ちょっと鑑定でな」

「分かりました。お部屋へ案内いたします」


 受付にてウェイルがそう告げただけで、店主の表情一つ変えずに、ウェイル達を店の奥にある扉の奥へと誘った。


「ごゆるりと」


 店の奥の、4人入るには少しだけ手様な部屋に残された4人。


「ねーねー、今のやりとりって、何かの暗号なの?」

「暗号ではないが、まあそれに近いな。暗黙の了解って奴だ」

「あんもくのりょーかい?」

「鑑定士がこういう店舗を利用する時に『鑑定』が目的、と言えば、大抵聞かれてはまずい話をする時という、一種の習わしみたいなものがあるわけ。といっても、これが通用するのはマリアステルにある店舗と、デイルーラ系列の店舗だけだけど」

「へぇ……、変なルールがあるんだねぇ」

「私も初めて知りましたよ」

「ルーキーなら仕方ないわね」

「ギルにも教えてあげよーっと」


 合格したてのプロ鑑定士が、こういう場所を使うのは珍しいことであるので、知らないのも仕方はない。これから徐々に慣れていけばいい。


「さて、せっかくここまで来たんだ。それ相応の話をしようじゃないか」

「やだ! 先にご飯!」


 ぐ~っとフレスの腹の虫まで文句を垂れるものであるし、


 ――グ~~。


「…………あ」


「…………えへへ、私もお腹空いちゃってるみたいです……」


 腹の虫の大合唱が始まる前に、腹ごしらえをするべきだろう。


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