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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編 『ステイリィ英雄譚』
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フレスの覚悟と大勝負

「ウェイル~、もうお話終わった? 終わったんなら、トランプでもして遊ぼうよ」

「もうすぐファランクシアに到着だ。仕事だ、そろそろきっちりしろ」

「えー、もう着いちゃうんだ。うん、分かったよ」


 仕事と聞いては、フレスの表情も引き締まる。


「あら、意外と素直ね」

「ボクだって、仕事とプライベートはきっちり分けるもんね! プロだもん!」

「そうだ、プロだからな」


 なんてウェイルは同調しつつ、少しだけ驚いていた。


(……ずっとくっついているかと思っていたんだがな)


 想定と違って案外しっかりとしていたフレスに安堵したが、腕にある暖かみが離れることが少しだけ残念と思ってしまったウェイルである。


「さ、お仕事お仕事! このバッグはボクが運んじゃうからね!」


 持ってきた鑑定道具入りのバッグを自ら進んで背負うフレスに、二人は顔を見合わせた。

 そんな二人を見て、フレスが口をとがらせる。


「あのね、ウェイル。ボクだって、いつまでも甘えているようなワガママな子じゃないんだからさ! ……それに二人がずっと気を遣ってくれていたの、ボク知ってるから」

「フレス……!?」

「ありゃ、気づかれてたわね」


 これにアムステリアも驚いていた。

 驚く二人に、フレスはこう続けた。


「ボクさ、やっぱり寂しかったんだ。心にぽっかりと穴が開いているみたいにさ。でも不思議と――ううん、やっぱり、かな。ウェイルの隣にいられるときだけ、心が暖かかったんだ。なんだかライラと一緒にいた時みたい。だからついつい甘えちゃった。……あれ? だとしたらやっぱりワガママだったのかも?」


 エヘヘと苦笑するフレスに、ウェイルは心を締め付けられる想いだった。


「フレ――」

「馬鹿な娘ね」


 ウェイルの言葉を遮りって、アムステリアがズズイと一歩前に出た。

 その際ちらりとウェイルの方を振り向いて、目で「離れてなさい」とサインを送ってくる。


(はいはい)


 軽く手を上げて、ウェイルは二人の声が聞こえない座席へと移動した。


「あれ? ウェイル?」

「フレス、お聞きなさい」


 アムステリアはゆっくりとフレスの名を口にすると、そのままフレスの頭の上に、自身の右手を静かに乗せた。


「……テリアさん? どうしたの?」

「ワガママで、当然じゃない。皆そうなのよ、貴方だけじゃない」

「みんな、ワガママ?」

「ええ、そうよ」


 そこまで言って、アムステリアは声のボリュームを一気に下げた。

 耳の良いフレスにだけ聞こえるような、小さな声だ。


「……だって、譲れないじゃない? 本当に大切なものはね」

「…………うん……!!」


 その言葉の意味を、もうフレスはとっくに気づいていた。

 心の半分を失ってまでも、守りたいと思った大切なもの。


「でも、さっきのは許せないわ」

「ふゃあ!」


 頭の上に乗せていた手で、ペチンと叩いた。


「うう、痛いよぉ、テリアさん……」


 フレスがアムステリアの顔を見ると、彼女の顔は打って変わって厳しい形相になっている。


「今のは罰よ。貴方、今ウェイルにかなり酷いことを言ったんだから」

「ぼ、ボクが!? 何か酷いこと言ったかな……?」


 自覚がないとフレスは頭を横に振る。


「言ったわよ。貴方はね、さっきこう言ったも同然なの。『ウェイルの近くに居ると、寂しさが紛れる』って。『ライラと一緒にいる時みたい』ってね」

「え……?」

「貴方に何があったのか、私はよく理解している。かけがえのない大切なものを失ったということも。でもさっきの貴方の言葉は、その心に空いた穴を埋めたいが為だけにウェイルに甘えている、ウェイルを利用しているって、そういう意味なのよ。それって酷いとは思わない? だって、ウェイルという存在は、失ったものの代わりなんだって、そう本人に突きつけたようなものなのだから。ウェイルは決してフレスベルグの、そしてライラの代わりなんかじゃない」

「ち、違うよ! ボクはそういうつもりで言ったんじゃ――」

「違わない。あの言葉はそういう意味。私にはそう捉えられたわ。だからこそ私は貴方の頭を叩いた。私の大切な人に、酷い言葉をかけたのだから」

「…………」


 フレスは、少しばかり震えていた。

 だって、自分が言った言葉の意味を、今ようやく理解したのだから。


 ――そうだ、自分は今、寂しさを紛らわす材料に、ウェイルを利用しただけだ。


 悲痛な顔なフレスに、厳しい顔であたっていたアムステリアの顔が、ふっと柔らかくなる。


「もっと正直な方が、貴方には似合うわよ」

「正直……?」

「寂しさを紛らわせたかったら、甘えていたの? それ、違うわよね」

「……うん」

「ならどうしてウェイルに甘えていたの? その答えを、そろそろ自覚しなきゃね」

「…………そっかぁ……」


 どこか腑に落ちたような、そんな顔だった。


「そうだよね。うん、ボク、いい加減気づいちゃったよ」


 ――自分の気持ち。


 どこか今まであやふやで、曖昧で、気づけなかったこの想い。

 甘えたいという気持ちの根源。


「私には大切なものがある。それは貴方にもね」


 本当はもっと前から気づいていたのかもしれない。


 でも、覚悟が固まったのは、この瞬間だった。


「勝負しましょうか。貴方と私と、多分他にも沢山いると思うけど」

「勝、負……?」

「そうよ。賞品は、もう貴方は言わなくても分かるはず。私の気持ちも、貴方の気持ちも」

「…………うん!」


 フレスは力強く頷いた。


 この勝負。

 それは今までに経験のないほど、難しく大変な、一世一代の大勝負。


「勝った者が全てを手に入れることが出来る。それはどこの世界でも同じよね。私は負けるつもりはない。全力で行くわ」

「ボクだって!」

「私以外にも沢山敵はいるわね。治安局のおチビちゃん……は敵じゃないとして、あの天才鑑定士。あの子は強敵中の強敵でしょうね」

「レイアさん、最強っぽいもんねぇ……。というかウェイルって、本当にモテモテなんだね……」

「そうね。たまに憎らしく思えるほどだわ」

「ほんとだよね!」

「おーい、もう駅目前だ。そろそろそっちに戻っていいか?」


 ウェイルの二人を呼ぶ声がする。

 フレスとアムステリアは互いに不敵な笑みを浮かべ、そして頷き合った。


「いいよ、ウェイル!」


 以前テメレイアと交わした『フェア』のことを思い出す。


(うん。これでようやくフェアになったよ、レイアさん)


 汽車はスピードを徐々に落として無事に停車。

 車掌がファランクシア駅へ着いたことを告げながら歩いていく。


「降りるぞ、話はもういいか?」

「うん! ありがとね、ウェイル、そしてテリアさん!」

「いいって事。私だってフェアに行きたいからね」

「うん、フェアにね! ボク、先に降りているからね!」


 ぴょんと、軽快な足取りで一足早くフレスはホームへと降りた。

 そんなフレスを見送って、車上に残る二人は降りる前に一度だけ視線を合わす。


「ありがとな」

「別に、礼を言われるようなことじゃないわ」

「そっか。でもありがと」

「……まあ、これから大変よ、貴方」

「え?」

「フレス、待ちなさい!」


 どういうことかと訊ねる前に、アムステリアもフレスを追いかけて飛び出ていった。


「……大変、か。そうだよな……」


 ウェイルだって、ここまでされて気づかないほどの馬鹿じゃない。

 いつか、自分は大きな判断をせねばならない。その時は必ず来る。


「でも、もう少しだけ、いいよな」


 自分の周囲を渦巻く、大切な人達の関係。

 いつかは変化を求められる。


 でも、それは「いつか」だ。


 逃げと言われればそれまでかも知れない。

 だけど、ウェイルは現状も結構楽しいと思ってる。

 もう少しこのままで。このままの関係で。


 決断の時は、嫌でも勝手にやってくるのだから。


「おい、俺のことも待ってくれよ!」


 もう少しだけ。

 もう少しだけ、このままでいよう。


 ウェイルはそう自分自身を納得させて、二人を追いかけた。


 この時のウェイルは、全く考慮すらしていなかっただろう。


 決断の時。


 その時が―――来ないなんていう可能性について、を。



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