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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編 『ステイリィ英雄譚』
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一方その頃、ステイリィはというと。

 ―― 一方その頃、治安局ソクソマハーツ支部では。



「ステイリィ上官、本部よりお達しの封筒が届いてますよー」

「知るか! そんなもん、その辺に破って捨てておけ!」

「そうも行かないでしょう……。全く、仕事を放棄しようとするなんてお子ちゃまなんだから。大きいのは態度だけですね」

「心と器と懐も大きい私に何を申すか!」

「大体全部同じような意味ですし、それに自分で言っていて悲しくなりませんか? 全部大外れですし。でも背丈と胸は自分でも小さいって判っているんですね」

「ちょ!? 敢えてそこには触れなかったのに!?」

「あら、貧乳なこと、気にしてるんですか?」

「し、してないわー! …………してないもん」

「可愛らしい間の取り方ですね……。思わず謝ってしまいそうですよ……」


 周囲がクスクスとやり取りを笑うレベルで喧しい漫才をかましているのは、ここ治安局ソクソマハーツ支部の支部長であるステイリィ・ルーガルとその秘書官、ビャクヤである。

 アルカディアル教会が潰れた後の医療都市ソクソマハーツを再建すべくここに派遣されたのが、今や治安局内では英雄と名高い、このちっぽけな女局員ステイリィであった。

 英雄と呼ばれるほどの武勲を立て、部族都市クルパーカーの王からも信頼が厚いとされる彼女であるが、実の所その武勲の大半は偶然拾ってしまったものである。

 というのも、いつもながらにウェイルをストーカー気味に追いかけ回していくうちに、ウェイルが勝手に事件に遭遇し、そしてこれまた勝手に解決してくれている。

 たまたま傍にいた(ストーキングしていた)だけであると言うのに、手柄が勝手に降ってきているわけである。

 そんなわけで彼女は瞬く間に昇進を重ね、今や一支部の支部長を任されるほどとなった。


「この都市退屈すぎるーー!! あーー、ウェイルさんに会いたいよーーーー!!」

「だからって机に突っ伏さないでください。ほら、仕事仕事」

「もう支部長はビャクヤがやってよ。私、外で遊んでくるから」

「無茶言わないでください。それにステイリィさんが一人で外に出たら、結局またここに連れ戻されますよ?」

「……どう意味かね?」

「迷子になった子供と間違えられて、ここに届けられるってことです」

「そんなわけあるかーーー!!」

「一度ありましたよね。そんなこと」

「ありましたね」


 着任したばかりの頃、土地勘も一切ない状態で仕事を抜け出し散歩をしていたステイリィは、お約束と言えばお約束であるが速攻で道に迷ってしまい、号泣しながら歩いているところを住人に保護されたことがある。

 世間では英雄と讃えられている彼女であるが、その真の姿、もとい素の姿とは、少し彼女のことを知れば愕然と失望するばかりか、そのうち嘲笑に変わるレベルのものである。


「うう、嫌だ、遊びに行きたい、お休み欲しい」

「有給休暇は全て使い果たしていますよね?」

「……支部長権限で私の残りの有給休暇を倍にします!」

「そんな権限はありませんよ。それに元々ゼロなんですから倍にしたってゼロです。馬鹿ですか?」

「……最近ビャクヤって私に酷いよね」

「英雄として尊敬されている人の真の姿が、まさかこんなにズボラな人だったなんて知れば、皆私みたいな態度を取り始めると思いますよ?」

「ちぇ、別に私だって好きでそう呼ばれているわけじゃないのにさ」

「出世して良いことなんて、案外ないのかも知れませんねぇ」

「くそう、腹が立つから今度本部にビャクヤの昇進を推薦しておいてやる。覚悟しろ!」

「それはありがたいお話ですね。是非そうしてください」


 すぐにムキになるステイリィを軽く流して上手くあしらうビャクヤの秘書としてのスタイルは、ソクソマハーツ治安局員の間では最高のエンターテイメントになっていた。

 といっても、皆の笑いはどこか優しいものだ。

 なんだかんだ言って、いざとなれば頼りになる場面もあるし、皆ステイリィのことを嫌ってはいない。むしろ好いている。

 ステイリィは、心のどこかでは自分は今のポストに向いていないと思っているが、ビャクヤ達はそうは思っていない。

 むしろステイリィが上官だからこそ、どこかほっとけない上官を上に構えてこそ、自分達がしっかりしなければという共通認識が生まれ、上手く組織が機能しているのである。

 愛され上手というのは、ステイリィのことを言うのだろうとビャクヤは思っていた。

 本人がそのことに全く気付く気配がないのが可哀そうに思えるほどだ。


「あー、もうビャクヤの相手をするも疲れたー。まあいいや、本部からの通達、なんてあったの?」

「封書が来ていましてね。私が開封するのも悪いと思って、まだ中を見ていません。どうぞ」

「ありがと」


 開封の為にそっとナイフを差し出す気遣いが出来るビャクヤを、なんだかんだで信頼しているステイリィである。


「えーっと、何々……?」


 ジーッと手紙を眺めるステイリィの姿を、皆ちらちらと見守っていた。


「ふむふむ……って、えええええ!? めんどくせええええええッ!!」」

「ど、どうしました!?」


 ステイリィが唐突に大声を上げることは多々あるが、今回の大声に多少驚きの色が混じっていたので、一同何事かと傍に駆け寄った。


「上官、一体何が?」

「これ読んでみ。招集だってさ。本部が私に聞きたいことがあるんじゃないの? めんどくさいなぁ」


 手紙を机の上に広げると、一同それに覗き込んだ。


「えーと、『ステイリィ・ルーガル。治安局最高責任会議への出席を命ずる』……」

「……治安局最高責任会議って……!?」


 一同が絶句したのも無理はない。

 むしろこの内容を読んで少し驚いただけのステイリィがおかしいのだ。


「ね? 面倒くさいでしょ? てか最高責任会議ってなんぞ?」

「ちょっと上官! 何言ってんですか! 最高責任会議って、治安局最高幹部以上ではないと出席出来ない超重要な会議ですよ!! それに出席しろだなんて! 一体何やらかしたんですか!?」

「何もしてないってば! むしろ何もしてないのにこの地位にいる私はおかしいんだって!」

「自分で言いますか、それ」

「あ、あの、ビャクヤさん、多分その解釈は違いますよ?」


 普段から喧しく互いの素を出しながら口喧嘩――もといじゃれついている二人以外の局員達は、この手紙の意味を正しく理解していた。


「これ、ステイリィ上官が何かしたから呼ばれた、ってことじゃなくてですね。たぶん実力が認められて最高幹部として扱われているから呼ばれたと、そう捉えられませんか?」


 この部下の言葉に、他の局員達も一同頷いた。


「私が、最高幹部に……? マジ?」


「マジもマジ、大マジです。ステイリィさんって、一応英雄ってことになってるでしょ。なら会議に呼ばれてもおかしくないですよ」

「その一応という所が少し気になるけど、うん、そういうことなのか」


 ステイリィの素の姿を置いておくとするならば、彼女の実績は最高幹部へと昇進させるに十分相応しいものがある。

 実際、この医療都市ソクソマハーツも、ステイリィの着任直後から急激に復興が進んでいる。

 無論、これについてもステイリィの総指揮があったから、というわけでなく――もちろん多少は口も出したし手も尽くしたが――元々この都市に住んでいた住人達が復興に尽力したという点が非常に大きい。


「復興が進んだことも上官の手柄にされている……!?」

「な、何? ビャクヤ、なんだか目が怖い」


 なんてこの人は運の良い。……いや、良すぎるのだろう。

 そうビャクヤは心の中でステイリィのことを恐れていた。


「……これで昇進は決定ですね。ざまあみろ、です」

「また勝手に出世してしまった……」

「他の幹部候補が聞いたら殴り殺されますよ? 気を付けてくださいね?」


 トントン拍子というのは、まさかステイリィの人生のことを差す言葉かもしれない。

 恋愛の方はというと前途多難と言わざるを得ないが。


「でもなー、出世すればするほど仕事が楽になるかと思っていたのに、逆に面倒なことばっかりだなー」

「その愚痴も外では漏らさないようにしてくださいね」

「判ってるってば。あー、めんどー」


 プスーと頬を膨らませながら、椅子に深く腰掛けるステイリィ。


「仕方ない、行きますか。ビャクヤ、それに皆の衆! 私は偉いから変な会議に参加せねばならなくなった! お供いたせい!」


「「「はいはい」」」


 何ともやる気と士気を低下させる命令であったが、それでもなんだかんだで皆苦笑しながら頷いたのだった。


「で、ビャクヤよ。場所はどこだっけ?」

「治安局本部の会議なんですから、司法都市ファランクシアに決まってるでしょう。……ほんと、どうしてこんな人に限って出世するんでしょうか……。世の中奇妙なことばかりですね!」

「ああ、偶然にもファランクシアでウェイルさんに会えないかなぁ!」

「無視ですか。 ……しても十六人会議に呼ばれるなんて……」

「ビャクヤ~、旅行の準備おねがーい」

「自分でして下さい」


 ――治安局最高責任会議。


 治安局の最大決定権を持つこの会議に、ステイリィは参加することとなった。


 それは偶然にも、そして彼女の望む通りウェイルと再会することになり。


 そして治安局史上最大のテロ事件に巻き込まれていくのであった。




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