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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編 『ステイリィ英雄譚』
414/500

巻き込まれ体質

 ――それはアムステリアの呟きから始まった。


「そう言えば『不完全』も龍を集めようとしていたわね……。もしかしたら何か関係があるのかも」


 皆の意識が『セルク・ブログ』に集まっていた中の、アムステリアの一言。


「『不完全』……?」


 唐突に出てきた、ウェイルにとっては忌むべきキーワード。


「奴らが、龍を……?」

「ええ。ウェイル、貴方自身も、奴らの目的を直接聞いたはずよ? あの地下オークションでね」

「……そういえば……」


 そう、ウェイルは確かにこの目的を奴らのメンバーから直接聞かされていた。

 サグマールの秘書としてプロ鑑定士協会に潜りこんでいた女――エリク。

 奴は確かに、龍を集めることが目的だと高らかに宣言していた。

 サラーの正体をエリクは知っていた。

 それはつまり、『不完全』は龍についての情報を十分に得ていたということだ。


「真珠胎児の事件の時から、奴らの目的は龍であるサラーだったのかもな……」

「そういえば、サラー達がまだ『不完全』に手を貸していた頃って、『不完全』はどのくらい『龍』の存在を把握していたのかな?」


 フレスが指を折りながら、龍の存在を数えていく。


「ボクとサラーと、ミルとニーズヘッグと、そしてティア。ボクはウェイルとずっといたし、ミルも違うだろうけどさ。他の三体は一時期『不完全』にいたんだよね? どうなの?」


 フレスがニーズヘッグの方を向くと、ニーズヘッグは頷いていた。


「サラーと、私、たぶんティアも……。でもティアは、見たことがない……。この前、フロリアと一緒の時、久しぶりに再会、した……」

「それはもう『不完全』が潰れた後の話だよな?」

「うん……」

「なるほどな」


 つまり『不完全』は目標達成にかなり近いところにいたわけだ。


「なぁ、ウェイル。僕は龍の話について疎いから、およそ感で喋らせてもらうけどいいかな?」


 テメレイアは一度そう前置きすると、ウェイルが頷いたのを見てから喋り出した。


「結局『不完全』の目的は何だったのかと言う話さ。奴らが龍を集めようとしていたのは判る。でもそれが最終目的ではないよね? おそらく龍を使って何かをしようとしたというわけさ」

「まあそうだろうな。龍をコレクション目的で集めるというのは納得できない。裏があるのは間違いないだろうさ」

「裏がある。じゃあそれは何か。それこそがこの話題の要点だよ。そしてその要点を、今の僕達は容易に推理できる。そうだよね?」

「……三種の神器に関係するとそういうわけだな」

「しかも三種の神器の中の最後の一つ、フェルタクスについてのことだろうね。アテナやケルキューレは現実に現れたが、その降臨に龍は関係がなかったんだろう?」


 セルク・ブログには龍についての記述は多いが、実際その大半が最後の神器、フェルタクスの周辺に出てくる。

 実際にケルキューレとアテナが出現した際に、龍が必要だったかと問われれば、それは違うと断言できる。


「奴らはフェルタクスを欲していた。フェルタクスには龍の何かが必要。だからその為に龍を集めていたと、そういうことか……?」

「それはちょっと違うかな?」


 そこまで推理が及んだ時、唐突にフロリアが口を挟んだ。


「どういうことだ?」

「実は私も詳しくは知らないんだけどさ。でも、『不完全』が『フェルタクス』を欲していたのかと言われると、それはどうも違う気がするんだ」

「理由は?」

「理由と言われてもなー。私下っ端だったし、本当の話は教えてもらってはいないけど。ただこれだけは言えるのが、『不完全』を潰したのは、プロ鑑定士協会でも治安局でも、他の誰でもない『異端児』なんだよ。そしてその『異端児』のリーダーは、ケルキューレを手に入れた。これってつまりそういうことだよね」

「「……そうか……!!」」


 思わずテメレイアと声が重なってしまう。それくらい判りやすい例えだった。


「奴らが『不完全』を潰して独立した理由は、『フェルタクス』をめぐってのこと……?」


 龍を集めていた『不完全』の目的は、おそらくではあるが三種の神器、それもフェルタクスに関わること。

 『異端児』連中も三種の神器を手に入れることが目的であるのならば、本来であれば組織を裏切る目的にはならない。何せ目標が同じなのだから。

 元々考えが合わなかった。

 組織という体制に、異端と呼ばれるほどの連中とは肌が合わなかった。

 奴らが組織を離れる理由はそう言った推理の外の話である可能性はある。

 だが、腑に落ちるような理由を考えてみると、出てきた可能性は二つほどある。


「――フェルタクスを巡って、内部で分裂を起こしたか。もしくは――」

「――そのフェルタクスの運用方法について意見が割れたか、だね」


 この推理に、フロリアも否定的な顔を見せなかった。


「というかフロリア、お前本当に何も知らないのか?」

「知らないよ。ウェイルも知っているだろうけど私はずっとアレスの傍に潜入してたんだからさ。正直な話『異端児』が『不完全』を潰した事件だって私は関わってないし、ニーちゃんとうだうだ遊んでいる間になんだか組織が大変なことになっていたって感じでさ。未だに『不完全』が消えてなくなったって、実感わかないもん。皆死んじゃったのかなぁ?」


 フロリアは少しだけ特殊な立ち位置にいることを、ウェイルもよく理解していた。

 こいつはヴェクトルビア買収事件の時もアレスの傍にいたし、クルパーカー戦争後、一度も組織に帰っていないことを確認している。

 フロリアの供述はあながち全部が嘘ではない。


「『不完全』に生き残りはいないの?」

「さあ? いないんじゃないの? イドゥ達が手を抜くとは思わないしね」


 生き残りがいれば話聞けるのに、とフレスが漏らしたのを、ウェイルは聞き逃さなかった。


「……そうだ、聞けばいいんだ」

「ウェイル?」


 自分の呟きが拾われたことにキョトンとするフレス。

 事情を知るウェイルとアムステリアだけが、互いに視線を交差させた。


「アムステリア、エリクの奴はまだ生きているのか?」

「生きているわよ。プロ鑑定士協会はエリクと司法取引を何度かしていたみたいだし。監獄の中にいるのは違いないけどね」


 ウェイルは『不完全』が龍を集めているという情報を、エリクという女から聞いたのだ。

 であれば、そのエリクは当然、龍を集めている理由を知っているはず。

 それがこの案件の真相を求めるのに、非常に重要なキーとなるはずだ。


「ウェイル、もしかしてそのエリクって人に、会いに行くの?」

「ああ、それが良さそうだ。『異端児』の目的を知るのにも、それが一番早いだろうからな」


 ここで数少ない情報から推理するよりも、答えを知っていそうな者から直接話を聞いた方が解決は早いに決まっている。

 その情報は、もしかすればセルク・ブログの意図するところを読み解くに必要なパーツとなるかもしれない。

 ならば善は急げ、だ。


「レイア、すまないが、引き続き鑑定を任せていいか? 俺達は今言ったようにエリクという女に会ってくる。カラーコインのレプリカやセルク・ラグナロクのレプリカも、全てこの部屋に置いていく。情報を手に入れたらすぐに電信で伝える。頼めるか?」

「ああ、任せてくれ。少し一人で鑑定してみるさ。僕らはここに残る」

「すまないな。面倒な役目押し付けて」

「気にすることはないさ。君の為なら何だってするよ。それに折角のウェイルの部屋なんだよ? むしろ外に出るのは勿体無いというものさ。のんびりと鑑定させてもらうことにするよ」

「……俺の枕を抱きながら言うと少し怖いぞ……」

「ちょっとぐらい良いでしょ? ああ、良い臭い。濃いウェイルの臭いだ」

「わらわ、今ちょっとレイアに引いておるのじゃ……」


 感情を隠さなくてよくなったということで、最近テメレイアからの露骨なアタックが多いのだが、時に怖くなるほど度を超えたことを平然と言ってくるものだから、胸が冷たくなる時がある。

 隣を見ると、ミルも苦笑を通り越してドン引きしていたほど。


「ま、まあそっちも何か判ったら連絡くれ。定期的に支部の方へは寄るから」

「了解。う~ん、しかしウェイルのベッドに寝転べるなんて、僕はなんて幸せ者なんだろうね。いくら大金を積んでも、この快楽は買えないね」


 ……聞かなかったことにしよう。


「フレス、旅の支度だ。アムステリアもついて来てくれ」

「ええ、判ったわ。出発はこれから一時間後。集合は駅でいいわね?」

「ああ、よろしく頼む」


 颯爽と出ていくアムステリアを見送って、ウェイルもすぐにバッグに旅行グッズを詰め始めた。


「ねーねー、ウェイル、ボク、次の行先がどこか判らないんだけど。まだボクが行ったことないところ?」

「そうだ。次の行先は――司法都市『ファランクシア』だ」


 ウェイル達の旅の目的地が決まった。

 それは運命のいたずらだろうか。

 ウェイル達がファランクシアを訪れたその夜に、ファランクシアでのテロ事件が発生するのであった。


 ――巻き込まれ体質と言うのは伊達ではない。





 ――――


 ――




「ううう、レイアが壊れたのじゃ……」


 後は任せろと豪語したテメレイアは、ウェイル達を見送った後。


「うっほー、ウェイルのベッド最高―っ!!」


 なんてしばらく鑑定をほっぽりだしてコロコロベッドを転がり悶えていたのであった。

   

「レイアが気持ち悪いのじゃあああああああああっ!!」


 ミルの雄叫びはサグマールの部屋まで届くレベルだったという。

 


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