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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編 『ステイリィ英雄譚』
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戻りし記憶

「フレス、大丈夫か!? フレス!!」

「あ、あれ? ボク……」

「良かった、目を覚ました! ミル、やったよ!」

「うむ!」


 どうしてかフレスの視界にはウェイルの顔がドアップであった。


「ど、どうしたの?」

「どうしたのもこうしたものあるか! お前たった今倒れたじゃないか!!」

「ボクが倒れた……?」


 背中を支えて起き上がらせてもらうと、視界にはニーズヘッグのむせび泣く姿が。


「ニーズヘッグ……? …………ッ!!」


 ――思い出した。


 ニーズヘッグの歌を聴いた瞬間。


 あの楽しかった日々と、忌々しい記憶。


 ライラの笑顔と、壮絶なる最期。


 走馬燈の様にフレスの頭を駆け巡る、残酷で暖かい記憶。


(……そっか。シュラディンさんは……!!)


 何もかも、思い出すことが出来た。

 それがあまりにもショックで、倒れてしまったのだと。


「ニーちゃん! フレス生き返ったよ! 大丈夫だって!」

「ひぐっ……、ふ、フレスに……もしもの、ことがあったら……!! 死んでも……死にきれない……!! ひぐっ……!!」

「大丈夫だって、フレス復活したから!」


 ニーズヘッグが泣いている。

 どうしてだろうか。そのことになんだか申し訳なさを覚えた。

 ライラのことは絶対に許せない。

 反面その後に自分の命を助けてくれたことも思い出していた。


 ……だからだろうか。


 フレス自身、ニーズヘッグの事をもう少し知りたいとさえ思っていた。

 果たしてニーズヘッグは、一体何がしたいのだろうか。一体何が目的なのか。

 いや、フレスはその解答を知っている。

 ただその解答をフレスが認めたくないだけだ。


「お、大げさだよ、ウェイル。ボク、もう大丈夫だからさ! ミルも治癒力使ってくれなくていいよ! ちょっと驚いて倒れただけだもん!」

「ほ、本当か!? なら良いのじゃが……」


 治癒力強化を使ってくれようとしてくれていたらしい。

 ミルは両手から光を消す。


「うん、ありがとね、ミル」

「礼ならレイアに言ってくれ。わらわは頼まれただけじゃ」


 そう言って顔を赤らめて顔を逸らすミルの仕草に、可愛いなぁとテメレイアが笑う。


「さて、びっくりしたけど、鑑定を続けよう。それでいいよね? フレスちゃん?」

「うん、ボクは大丈夫だし、それに思い出したこともある」


 キッとニーズヘッグの方を睨む。

 ライラの事がちらついて、ニーズヘッグに対してはこのような態度しか取れない。

 未だグズグズ泣いているその姿に、フレスはちょっとだけやるせなさを感じたのだった。


「今ニーズヘッグが歌った詩、間違いなくボクも知っている詩だった。どうしてニーズヘッグが知っているかは判らないけどね」

「…………」


 ニーズヘッグは答えない。

 フレスも特に期待はしていなかったので、そのまま続けた。


「この詩が、まさかカラーコインに書かれていた詩だったなんて驚いたよ」

「どこで、どういう風に聴いたか教えてくれるかい?」


 そう言われて、フレスはスゥッと深呼吸する。

 そしてウェイルの方を見て、告げた。


「ボクの親友、ライラが、とある人から頼まれて作り上げた詩だ。そしてこの歌を聞いたのは――フェルタリアだよ」

「フェルタリア……」


 予想はしていた。

 このカラーコインに書かれていた文字が旧フェルタリア語であった時点で、フェルタリアに関することだとは予想はしていた。

 それでもウェイルには故郷のことを触れられるのはきついところがある。

 何せついこの前、自分はフェルタリア王子の影であることを知ったのだから。


「フレス、続きを」

「う、うん」


 ウェイルとて、フェルタリアの話題に胸が冷えないわけじゃない。

 それでも今は自分の事情を棚上げだ。何せ自分はプロの鑑定士なのだから。


「この歌は、ライラがフェルタリア王に頼まれて、書き直した曲なんだ」

「……フェルタリア王に!?」


 唐突に出てくるフェルタリア王という言葉に、思わず声が上擦る。


「何故だ!?」

「……ボクも、たった今あの時の記憶を全て取り戻したばかりで、頭の中が混乱しているんだけどさ。確か神器に関わることって言っていた気がする」

「神器……? しかし、お前からよく聞くライラってのは、どれほどの腕前だったんだ?」

「ライラは天才でね、大陸最高のピアニストだったんだよ。僕と二人で作曲したこともあるんだ」

「フレスが作曲!? なんというか、似合わんな……」

「余計なお世話だよ! ある時王様がライラに仕事を持ってきたんだ。その時にライラが書き直したのがこの曲なんだ」

「フレスちゃん、書き直したってというのはどういうこと?」

「何でもこの曲は大昔からある曲みたいなんだけど、古すぎるから曲の大部分が欠けていたんだ。王様はライラにこの曲の修復を頼んだんだよ。ボクはライラと一緒に修復作業をしたんだ。……ほとんどライラだけでやっちゃったけどね」

「なるほど。それでフレスちゃんは知ってるわけか。古い曲の修復作業が出来るだなんて、そのライラって子は素晴らしい才能を持っていたんだね」

「うん。とっても優しくて、ちょっと変わったところもあるけどさ。最高の親友だったんだ」


 ライラのことを語るフレスの顔は、いつだって輝いていた。

 本当に彼女のことが好きだったのだろう。


「フェルタリア王が、どうしてこの曲を欲したのか、そこに興味があるね。カラーコインもフェルタリア絡みだし、ここに来てフェルタリア王のお話。それも神器に絡んでいるというのならば、尚更フェルタリアが怪しくなってくる」


 『カラーコインに書かれていたのは『セルク・ブログ』にも登場した、フェルタリアに伝わるお伽噺。


「『セルク・ブログ』にもフェルタリアは出てくるな。『邪の器はフェルタリアに』と」

「フェルタリアがぐいぐいが絡んでくるなぁ。どうにも難しくなってきた」


 テメレイアが珍しく顔をしかめていた。

 その理由はフェルタリアのことを知っているものならばよく判る。


 ――滅亡都市フェルタリア。


 今でこそ『不完全』の策略により経済破綻、および敵の進攻によって住人達が都市から逃げ出し、幽霊街と成り果てて滅亡したとされる都市ではあるが、当時の都市の二つ名は次の通りであった。


 ――神器都市『フェルタリア』。


「フェルタリアの神器絡みとなってくると、途端に考慮素材が増えるんだよね」


 フェルタリアは神器製造に長けた都市であり、それにより発展したと言っても過言ではない都市であった。

 そんな都市であるから、記念硬貨としての神器構造を組み込んだカラーコインの一つや二つ、作られていても、なんらおかしいことではない。


「だが、セルク・ブログと組み合わせれば判ることはあるぞ」

「だね。この邪の器ってのはフェルタクスのことだ」

「そしてそのフェルタクスは、カラーコインと関わりがあって、そして今は――フェルタリアにある」

「もうさ、この『急』の章なんてあからさまに答えが書いてあるよね」




 ― セルク・ブログ 『急』 ―




 女は愛を、聖は鍵に、神たる龍を糧として。


 邪は動き出す。

 邪の操作には七色と、鍵たる一色を用いる。

 邪は楽器に近い。

 その音色の根源は、世界を彩る七色と、この世を覆う闇である。


 我はその七色と一色を盗み出して、この大陸の各地へ隠した。

 七色の音色には歌がある。

 至る終焉への讃美歌だ。

 フェルタリアに伝わるその歌が、全てのプロローグになるはずだ。


 女は地下に、邪は城に隠してある。

 女は女神の姿にて、魔力の全てを司る。


 邪は大砲。

 世界に破滅をもたらすだろう。


 聖の剣は、ラインレピアの五つの鐘が、同時に、強烈に響き渡る時、現れる。


 邪を動かすために、龍が犠牲となるだろう。

 時計の鐘を必要以上に鳴らしてはならない。


 邪の者が、目覚めてしまうだろうから。



 ――――



「この前読んだ時も、答えにぶち当たった気がしたがな。改めてみるとまさに答えそのものだな」


 七色と鍵たる一色。

 これはカラーコインの八色のことを差しているのだろう。

 そして気になるのは次の文節。

 


 七色の音色には歌がある。

 至る終焉への讃美歌だ。

 フェルタリアに伝わるその歌が、全てのプロローグになるはずだ。



「今フレスが歌った詩こそ、この意味にあてはある代物なんじゃないのか?」

「おそらくは。今はこの詩が何に必要かは判らないけど、予想は立てられる」


 そこでテメレイアは、スフィアバンクから持ち帰った資料を二部ほど机に広げた。


「これは僕がインペリアル手稿を解読したものを記したものだ。そしてこっちは『神器封書』の内容。神器封書には三種の神器について、書かれていた。といってもほとんどは『アテナ』の記述だったんだけど」


 テメレイアの解読した資料を見てみる。

 確かに量は多くないものの、三種の神器の『アテナ』以外の神器についても載っていた。


「ウェイル、この『ケルキューレ』に関する記述、凄くよく当てはまっている。性能がそのまま書かれているみたいだよ」

「……だな。心を壊す力を持つと、しっかり能力まで記述してあるな」

「それ、本当かい?」


 テメレイアはケルキューレを見たことがない。

 だがその聖なる剣を見たことのある者は皆、この記述を見て驚いていた。

 見たこと、体験した事がそっくりそのまま記載されていたからだ。


「やっぱりこの情報は信頼できるということだね。とすれば、残りの一つも……」


 最後に書かれていたのは三種の神器の最後の一つ。

 その正式名称を――――『異次元反響砲フェルタクス』。


「以前に解読資料を見た時は、この内容が良く判らなかったが、今見れば一目瞭然だな……」


 『異次元反響砲フェルタクス』。


 小さく記載されたイラストは、まさにセルク・ブログに出てくる通り、大砲と呼ぶに相応しいもの。


「世界に破滅をもたらすだろう、か……」


 おそらく誇張ではないはずだ。三種の神器ともなれば。


「なぁ、フレス、余が気になるのはこの文じゃ」


 ミルが指さしたのは、以前フレスも気にしていた一文。


『女は愛を、聖は鍵に、神たる龍を糧として』


「女って言うのは、『アテナ』のことで、『聖』ってのはケルキューレのことなのかも」

「じゃあ龍を糧に、っていうのはどういう意味なのかのう?」

「……たぶん、そのままの意味なんだと思う」


 フレスは、少しの間目を閉じた後、そしてそう答えた。


「龍の、つまりボク達の持つ魔力を使うんじゃないかなって、そう思うよ」

「わらわ達の……!?」


 ミルは話を聞いた最初こそ驚いてはいたものの、彼女の経験則からか、どこか納得するところがあったらしい。


「いつの世も、人間は龍を利用したがる。そういうことじゃのう」


 と、寂しそうに漏らしていた。

 そんなやり取りの後のこと。

 フロリアが「あれ!?」と声を上げる。


「どうかしたの?」


 アムステリアが問うと、珍しくフロリアは素直に首を縦に振っていた。


「あのさ、私、今変なこと思い出したんだけど」

「変なこと? 何なんだ?」

「これ、見てよ」


 フロリアは持ってきていた、自分が作った贋作の『セルク・ラグナロク』を取り出して、皆に見せた。


「これってさ、やっぱり龍が描かれているよね。それに、今ウェイル達が言ってた大砲とかも」

「……これ、本物そっくりに描いてるんだよね? だとしたら……」


 これにはウェイルもテメレイアも絶句していた。

 フロリアの指摘、それはまさにセルクが自ら答えを示していたようなものであった。


「セルク・ラグナロクはセルク最後の作品。もしセルクがこのブログの内容をここに書いていたのだとしたら、このイラストの意味は理解可能だ……!!」


 セルク・ラグナロクには五体の龍の姿が描かれている。

 それぞれが中央に向かって飛翔し、その中央には、光が輝いているような構図だ。

 そしてその周囲に描かれているものは、実に興味深く、そして今のウェイル達ならばすぐさまピンとくるようなものがある。


「剣と、女神や天使と、そして大砲、か」

「まさに三種の神器だね。セルクはこの絵に、三種の神器のことを描いていたんだね。この日記を読んだものに、何かを伝えたくて」

「この絵が、一体何を伝えたいかは定かじゃないが、少なくとも三種の神器と、フレス達龍には何らかの関わりがあると、そう捉えてもいいな」


 とはいえ絵画は抽象的なもの。

 一瞬ドキリとするような一致があったものの、これを見て今すぐ何かが理解できるわけじゃない。


 三種の神器と龍。


 この存在が一体どのように関わってくるのだろうか。


 ――その答えを探し出す発端は、アムステリアの呟きから始まった。


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