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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十三章 神器都市フェルタリア過去編『ライラとフレス』
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封印

「アーーーッハッハッハッハッハッハッハッ!! ついに、ついに私は、この手で!! このゴミムシを片づけましたわあああああ!! 見ていて下さいましたかお父様!! このアイリーン、ついにラグリーゼ家の為に成し遂げましたわあああああああああッ!!」



 狂喜乱舞のアイリーンに、未だ現実が理解できず、放心状態のフレス。


「……ら、ライラ……」


 ライラの遺体を、ただ光のない目で見つけるだけのフレスに、シュラディンは声一つを掛けることが出来なかった。


「あー、すっきりした。メルフィナの所に報告してきましょう!」


 子供が善行を行えば親に褒めてもらえると、そう期待して報告するのと同じように、アイリーンは今にもスキップでもしそうな程幸せな表情で、書斎へと向かおうとする。


 その時だ。

 フレスの目に、怒りの光が灯ったのは。


「――許さない」


 あまりにも深い怒気の孕んだそのフレスの声に、シュラディンも戦慄を覚える。


 大親友が、目の前で殺された。

 それがどれほど辛いことか、ライラの事を我が子のように思っていたシュラディンにも痛いほどよく分かる。

 シュラディンとて、フレスと同じ思いだった。


「――許さないよ」


 フレスの眼光の奥に、赤と黒の光が宿る。

 バサアッと背中には六枚の羽が現れた。


 刹那、音を伴って輝きを放つ膨大な魔力が、フレスの周囲に漂い始める。


 それはこれまでシュラディンが経験したことがないほどの。


 下手をすれば、この魔力だけでこのフェルタリアが凍土と化すほどの、圧倒的なる冷たい魔力の塊。

 

 フレスの己の命をも顧みない、全身全霊、何もかも全て込めた魔力だった。

 もう、フレスは我を忘れていると言っていい。


 フレスに纏う魔力はあまりにも強く、彼女を縛っていた闇の手も耐えきれず崩れ去る。


「……フレス、何をするの……?」


 龍であるニーズヘッグすらも、これほどの魔力は見たことがない。

 これだけの魔力を放てば、当のフレスも無事では済まない。


「止めるの! フレス、死んじゃうの!!」


 フレスの命すら危ない魔力量に、ニーズヘッグも制止を求めた。

 だが、ニーズヘッグの言葉など、フレスの耳に入るわけもなく。


「……ライラ……!!」


 輝く魔力を帯びたフレスは、ゆっくりとライラの亡骸へと寄り添うと、その身体を抱いた。


「ごめんね、ライラ……!! ボク、君を守れなかった。ボクはずっと君に守って貰っていたというのに……!!」


 龍の生命力をライラに与えてみても、すでにライラの魂はこの世にはない。

 もう手遅れだと言うことは嫌ほど判っている。

 それでもフレスは、戻ることのないライラの暖かみを渇望するかのように、ぎゅっと抱きしめる。

 フレスに笑顔を残したまま果てたライラのおでこに、そっとキスをした。


「ボクの方こそ、ありがとう、ライラ。君と一緒に暮らせて、ボクは本当に幸せだったよ」


 溢れ出す涙は、ライラの頬を塗らし、線を描いて床へと落ちていく。

 涙を拭うと、ライラの亡骸を優しく床に寝かせて、改めてフレスは立ち上がる。

 そしてその視線は、アイリーンの方へ一直線に突き刺すように向けられた。

 今の今までの慈愛に満ちた優しい顔のフレスは、もうここにはいない。


 ――残るのは、龍としての本能。


 ――敵を排除する為に力を行使しようとする、殺戮の瞳。


「――ボクは君を殺す。もちろん、君も殺すよ、ニーズヘッグ」


 ちらりと背後に立つニーズヘッグを見る。


「…………!!」


 あまりにも激しいフレスの形相に、ニーズヘッグはガタガタと震え、無言のまま、その場に跪いた。


 闇の手からシュラディンも解放され、すぐさまフレスの元へと向かう。


「フレス……!」

「……オジサン。ボク、もう何もかもどうでも良くなっちゃったよ」

「何を言っている! お前はライラの分も精一杯――」

「生きていけって? ダメだよ。ボクはライラがいないとダメなんだ。ごめんね」

「フレス……」


 フレスの切なすぎる表情に、シュラディンはこれ以上言葉が出てこなかった。


「オジサンは逃げててよ。ボク、もう自分を抑えられない。ボクからライラを奪ったこいつらを、ボクはボクの全てを費やして消し去ってしまいたいんだ。ここにいたらオジサンも巻き込んじゃうからさ。だから逃げて」


 シュラディンは悟る。


 ――もう、フレスは死ぬ気なのだと。


 無限の生命力を持つ龍が、死ぬ気でこれから暴れると宣言している。

 それは下手をすればこのフェルタリアだけではなく、この大陸全土に影響が出ると言うことだ。

 フレスの気持ちは分かる。

 でもそれだけは止めねばならない。

 だがフレスにはもう説得は通用しそうにない。


(……どうすれば……!!)


「うあああああああああああああああああああ!!」


 シュラディンに考える時間はもう少ない。

 フレスは魔力を無差別に放ち始めた。


「アイリーン、お前だけは許さない!!」


 絶対零度の魔力の塊が、アイリーンの方へ向かって一気に放出された。


「ダメ、フレス! 死んじゃうの!!」


 フレスとアイリーンの間にニーズヘッグが入り、瘴気の壁で、その魔力を受け止めた。


「それ以上、魔力を出したら、フレス、死んじゃうの!」

「別に構わないよ。死んだらライラのところにいけるもん。丁度いい、君も殺したかったんだ、ニーズヘッグ!!」

「ご、ごめんなさいなの、フレスがこんなに怒るなんて思わなかったの……!! だって、相手は人間なんだから!!」

「ボクは言ったよ! 大切な親友なんだって! ライラはボクの命より大切な親友だったんだ! 何度も言った! それなのに君らに殺された!! ニーズヘッグ、もう君はボクにとっては敵なんだ! もう気安く名前を呼ばないで!!」

「フレス、ごめんなの……!!」

「名前を呼ぶなって言ってるんだあああああッ!!」


 氷の塊を流星群のように放ち続けるフレス。

 その一つ一つが、膨大な魔力で包まれており、受けきるニーズヘッグにも止めきれなくなっていく。

 そろそろ限界かも知れない。


「あ、後はよろしくね、ニーズヘッグ!」


 想像を絶する猛攻に恐れをなしたアイリーンが、書斎方面へ逃げていく。


「うらあああああああああああ!!」

「く……!! きゃあ!!」


 ついにニーズヘッグの瘴気の壁が崩れ去る。

 フレスの氷はその周囲全体を破壊し尽くした。


「ふ、フレス……!!」

「これでお終いだよ。羽一本残さず消し去ってあげる!」


 バチッバチッと魔力がはじけ、フレスの頭上に魔力が浮かぶ。


「……ダメなの……!! 人間の姿のフレスじゃ……それを撃てば死んじゃうの……!!」

「関係ないって言ってる! ボクがどうなってもおおおおお!!」


「――ダメだ、フレス!!」


「――うっ!?」


 ドンと突然横から衝撃を加えられ、フレスは身体を床に叩き付けられた。

 シュラディンが、フレスを止めるために体当たりを仕掛けていたのだ。


「な、何するの、オジサン!」

「それ以上はダメだ。見てみろ。もうフレスの勝ちだ。これ以上はよせ!」

「何言ってんの! ライラの仇を討たないと、ボクは死んでも死にきれない!」

「お前が死ぬだと!? 馬鹿を言うな! それにライラはこんな事望むような子じゃないだろう!! 自分の為に親友がその手を血に染めたと知って、ライラは喜ぶのか!? 自分の為にフレスが死んだと知って、喜ぶと本気で思っているのか!?」

「…………!!」


 違う。ライラはそんな趣味など持ち合わせてはいない。

 とても心の清らかな、美しい女の子だ。

 自分の為に親友が罪を犯すことを、喜ぶわけがない。


「……うう、だって、だって……!!」

「フレスの気持ちは分かる! ワシだって、あいつらをぶち殺してやりたい! だが、その為にお前まで死ぬ必要もない! もう限界なんだろう!?」


 シュラディンの叫びに、ニーズヘッグが頷いていた。


「あれだけの魔力を、人の姿で出した……。これ以上フレスは……いや、もうすでにフレスは、限界を超しすぎているの……!! いつ死んでも、おかしくないの……!!」


 フレスの放った魔力は膨大すぎた。

 見ればこの部屋だけでなく、窓から漏れ出た冷気が、宮殿の半分以上を凍らせ、宮殿を囲む林すらも、まるで冬季になったかと思うほど全域を凍らせている。

 龍の姿ではなく、人の姿で放つことの出来る魔力には限界がある。

 人間の身でありながら龍の魔力を扱うと言うことは、小さなコップで滝から流れる水を全て受けきる事と同義。

 当然、人間の身体でそれを行えば、必ずどこかに亀裂が入る。

 今のフレスはすでに限界を超し、亀裂が入るどころか、生命の危機にすら陥っているほどの状態だ。


「はぁ、はぁ……あれ、ボク…………!!」


 限界突破の影響は、すぐにフレスの身体を蝕み始めた。


「う、ぐぐぐ、ぐあああああああああああ!!」


 出現していた翼の色が黒く変色し始めて、羽がボロボロと落ちていく。


「フレス! おい、フレス!! どうすればいいんだ!?」


 フレスの命だけは、なんとしても助けなければ。

 フレスまで守れないとならば、亡くなったライラに申し訳が立たない。


「おい、そこの龍の娘! 貴様は知っているだろう!? どうすればフレスが助かるかを!!」

「……うん。知っているの……!!」


 ニーズヘッグは、落としてしまっていた一枚の紙を、シュラディンに見せた。


「龍はこうやって絵に封印される。封印された龍は、封印されている間、自分の身体を修復するの。だからフレスを、もう一度封印すればいいの……!!」

「封印すればフレスは助かるのか!?」

「助かる。だけど、完全じゃない」

「完全じゃない? どういうことだ!?」

「身体は完全に治る。でも、フレスの記憶には、多くの障害が残る。多くの記憶を……忘れてしまう。本当に、大切な、記憶は残ると思う……けど、そうじゃない記憶は、消える……!!」

「記憶が……!!」


 もしフレスがライラのことを忘れてしまったら。

 それはあまりにも悲しすぎる。

 苦しみのあまり血反吐を吐きながら転げ回るフレス。

 その様子を見るに、もう時間はあまり残されてはいない。


「……早く決めるの」

「すぐにやろう。大丈夫、フレスなら絶対に忘れない。ライラの事は……!!」


 心で繋がっていた二人の事。

 例えどれほど時間が経とうとも、フレスは絶対にライラの事を忘れない。忘れるわけがない。


 ――フレスにとって、ライラのこと以上に大切な記憶など、ないだろうから。


「やり方を教えてくれ」

「……判ったの。紙を用意して欲しいの」

「紙か……。 あれを使おう……!」


 シュラディンは廊下に掛かっていた王のコレクションである絵画を見つけた。


「絵画の裏を上にして床に置いて欲しいの」


 その絵画を額から取り出して、ニーズヘッグに言われたとおりに床に置く。

 すでにフレスは痛みのあまり失神している。

 やるなら今がチャンスであり、これ以上時間を先延ばしには出来ない。


「急がないと危ない。すぐにするの」


 ニーズヘッグは、自身の指を噛んで血を滲ませた。


「足りない、足りない……!!」


 血が足りないのか、ニーズヘッグは噛んで出来た傷口を、さらに広げるようにガジガジと噛んでいく。

 ボタボタと血があふれ出たのを見て、その血を使って絵の周りに魔法陣を描き始めた。


「急ぐの。オジサン、絵画の上にフレスを乗せて、その上に手を置いて。これは人間でないと出来ないから」

「こ、こうか」


 失神しているフレスを抱きかかえて、優しく絵画の上に乗せ、フレスの鳩尾の上に手を置いた。


「……始めるの」


 ニーズヘッグは歌い始める。

 その歌詞は意味も分からぬ、神の詩。

 その詩に呼応するように、血の魔法陣は赤く輝いていく。


「……フレス、ごめんなさいなの……!!」

「フレス嬢ちゃん……!!」


 輝きはよりいっそう強くなる。

 最後は目も開けることが出来ぬほどの強い光が放たれた。

 

 光が止んだとき、そこにフレスの姿はない。

 代わりに現れたのは、龍の絵が描かれた絵画。

 蒼い龍が天に向かって飛翔する、美しい絵画だった。


「この絵は貴方が持っているべき、なの」


 ニーズヘッグは、おずおずとフレスの絵画を丸めて、シュラディンに手渡した。


「お前らはこれを集めるつもりなんじゃないのか?」

「うん。……でも、いいの。怒られちゃうけど、いいの」


 シュンと俯くニーズヘッグは、そのままシュラディンに背を向けると、


「……ごめんなさいなの……フレス」


 と、それだけ呟いて、フレスのとは別の、元々持っていた絵画をグッと握りしめて、割れた大窓から身を乗り出し、そのまま空へ身を投げた。


 その様子をシュラディンは、ただ黙って見送った。


 月の影に浮かぶ、大きな翼を、ただただ黙って見送ったのだった。



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