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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十三章 神器都市フェルタリア過去編『ライラとフレス』
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終焉への邂逅

「な、なんなんだ、あれは!?」


 それは、フェルタリア郊外にある巨大な城壁に見張り番の、悲鳴にも似た叫び声から始まった。


「おい、交代だ」


 叫ぶ男に、呑気に交代を告げに来る仕事仲間。

 そんな仲間に、震える男は天を指さし、仲間にそこを見るように促す。


「お、おい! お前、上を見てみろ!! いいから早く!」

「上って、月が綺麗だとか、そんなことを言うつもりじゃないよな? お前みたいなオッサンに、ロマンチストな行動は似合わんぞ?」

「ば、馬鹿野郎! そう言う意味じゃない! い、いいから早く!!」

「はいはい。全くなんだって――――なんだあれはっ!?」


 一度嘆息して、彼の言う通りに渋々目線を上空へと向けた男はというと。

 次の瞬間、彼と同じように叫ぶことになったのだった。

 何故なら二人の見張り番が見上げた先には、月の光を遮り影となって映った、巨大な神獣の姿が悠々と空を飛んでいたからだ。


「な、ななな、何だあれは!? ろ、ロック鳥か!?」

「いや、違う! あれは――」


 優雅に空を泳ぐ、紫色の翼を持つ神獣。


「ド、ドラゴン……!?」

「馬鹿! ドラゴンが実在するわけが!」

「だがあの姿はどう考えても!!」


 長く黒いカラスのような翼は、周囲に旋風を起こしながら、ゆっくりと城壁を越えていく。

 ひらひらと落ちてきた羽根を手に取り、見張り番たちは我に帰った。


「緊急事態だ……!! 龍の襲来が現実に起こるだなんて!!」

「と、とにかく、すぐにでもこの事を王宮へ伝えないと!!」


 二人は手に持った警備用の槍を投げ捨て、震える身体を抑え付けながら、すぐさま情報を伝えに城壁を降りていった。








 ――●○●○●○――







「気づかれたかしら?」

「多分ねー」


 龍の姿となっているニーズヘッグの背にはメルフィナとアイリーンの二人がいた。

 夜の冷たい風は、興奮している二人にはちょうどよい加減で気持ちが良く、会話も弾むというもの。



「どうする? 殺す? どの道消えてなくなる連中でしょ?」

「そうだけどさ、やっぱり人を殺すのってあんまりよくないと思うんだ」

「どの口が言うんだか」

「直接手を下すってのが気が引けるの! だって実際気持悪いよ、人間の死体というのはさ」

「ま、それは同感だけど。グロイし」

「でしょ? だからやるなら神器やニーちゃんに任せたいんだよねー。それに別に気づかれたっていいんだよ。もう隠れる必要もないから。後は一気に片をつけるだけなんだからさ」


 すでにシュラディンの前に姿を見せた以上、自分達の所在は王に伝わったとみていい。

 どうせ全ては今日、終焉を迎えるのだ。

 多少邪魔の数は増えるかも知れないが、ニーズヘッグの力の前では底まで影響があるとも思えない。


「ニーちゃん、急いで僕らを王宮の上空へ連れて行ってね。後は僕ら飛び降りるからさ」

「……わかったの……」

「え? 飛び降りるの!?」

「お姉ちゃん、僕に抱きついていれば大丈夫だから」


 ニーズヘッグの空を翔けるスピードが上がる。

 あっという間に、真下には王宮が小さく見えるところまで来た。


「さて、お姉ちゃん、つかまっていいよ!」

「お姫様抱っこくらいして欲しいものね」

「あはは……。まぁ、してあげてもいいけどさー」


 メルフィナはそう言うと、一枚の仮面を取り出して、その顔に付けた。


「さて、確認。僕らはすぐにお父様達のとこへ。そしてニーちゃんは例の絵を盗って、後で合流。いい?」

「……わかったの……。龍の力、感じるから……すぐに判るの……」

「できる限り早めにね! じゃあそろそろ行こうか。この仮面の力で」


 仮面はメルフィナの顔で緑色に光り輝き、周囲には風が吹き荒れる。


「この風に乗るからね。一気に行くよ!」


 メルフィナはアイリーンの要望通りに彼女をお姫様抱っこの要領で抱きかかえると、ニーズヘッグの背を蹴り、闇の支配する夜の空へと身を投げた。


「さて、盛大な歌劇の幕開けと行こう! 物語のプロローグは、この演目が定番さ! ――『見送りの風』!!」


 仮面は再び輝くと、二種類の風を生み出した。


 一つは優しいそよ風。


 落下していく二人を包み込み、重力に逆らう浮力を生み出していく。


 一つは激しい乱気流。


 それは風の弾丸となりて、王宮へと降り注いでいく。


 終焉への邂逅。


 全ては風の弾丸の一撃が、王宮の窓ガラスの最初の一枚を吹き飛ばしたところから始まった。







 ――●○●○●○――






 フェルタクス制御の準備は、この神器の存在自体がトップシークレットであるため、全てを王一人で行っていたせいで相当時間が掛かってしまった。

 全てを終えてライラを呼ぶ段階になった時は、すでに夜中の一時を回っていた。


「急がねば……!!」


 『不完全』と手を組んでいる以上、我が息子は一刻も早く神器を手に入れようと必死になっているはず。

 メルフィナ達が行動に出る前に、全ての制御点検を終え、封印してしまわねばならない。

 すぐさま書斎からライラ達のいるゲストルームへと向かう。


「シュラディン! ライラ達を起こしてくれ! すぐに始める!!」

「ライラ嬢ちゃん、フレス嬢ちゃん、起きなさい。急いで!」

「う、うみゅう……眠い……」

「これが終わったらいくらでも寝て構わん! ほら、ライラ嬢ちゃんも!!」

「判ってるってば。もう起きてるよ。ほーら、フレス、起きた起きた!」

「はーい……」


 未だ眠気眼のフレスであったが、フレスの眠気が一瞬で吹き飛ぶ事件が発生した。


 比喩ではなくそのままの意味で『吹き飛んだ』のである。


 ――王宮の窓ガラスが、一斉に粉砕されたのだ。


 一瞬何が起きたのか判らず固まる三人。

 唯一シュラディンだけが俊敏に動いて、三人を抱えて部屋を飛び出す。


 ガラスの砕ける音が、王宮全体を包んでいくのが判った。


「王、まさかもう敵が……!!」

「そのようだ。急ごう!!」

「な、何が……!?」

「ライラ! 行くよ!」


 唐突な襲撃に固まっていたライラだが、ようやく現実を認識出来たのだろうか。沸き上がってきた恐怖に足が竦み、動けないでいる。


「怖くて足に力が入らないよ……」

「大丈夫。ボクがついてる」


 震えるライラをそっと抱きしめるフレス。


「絶対に君はボクが守る」

「……うん!」


 力強いフレスの存在に、ライラもようやく落ち着きを取り戻せたのか、足の震えは止まっていた。


「いこう」


 フレスはライラの手を引いて、シュラディン達について行く。


 ゲストルームと王の書斎の間には、大きなロビーが存在する。

 特に目を引くのは、バルコニーに続く大きなガラス窓。

 壁全体がガラスの窓で出来ており、昼は大陽の光を取り込んで明るく、夜は星を見上げるのを楽しむことが出来る部屋だ。


「この奥だ、急いでくれ!」


 王の先導で、月の光が差し込むこのロビーを駆け抜けるフレス達。

 ここさえ何事もなく乗り切れれば――と、そう願う願う皆であったが、それは叶わぬ願いになるようだ。

 フレスが窓に映る月に、暗黒の翼を携えた者の姿を、その目に捉えたからだ。


「……何か来るよ……!! ライラ、みんな、すぐにボクの近くに集まって!!」


 月影から黒き翼は姿を消す。

 だが強大な魔力が迫っていることを、フレスは感じていた。


「フレス……!!」

「大丈夫。ボクがいるから!」


 フレスの腕を掴むライラの手は震えている。

 少し冷たい彼女の手をゆっくりと撫でて、そして周囲の気配を察知するため目を閉じた。


「……――伏せて!!」


 龍の鋭いという表現では生ぬるいほどの感覚で、周囲に渦巻く力を察知したフレスが叫んだ。


 そしてフレスの叫びと同時に、それは来た。


 強烈な風が、巨大なガラスの壁を粉砕して室内に押し寄せてきたからだ。


「きゃああああああ!!」

「い、一体何が!」

「風だよ。勿論自然の風なんかじゃない! 神器だ! 微かだけど風に魔力を感じる!」


 強烈な風が一同を襲う。 

 立っていられぬほどの勢いで、周囲の物をなぎ倒していく。

 襲い来るガラス片は、全てフレスが作った氷のバリケードで防いだ。

 続いて降り注がれたのは風の弾丸。

 弾丸は廊下の至る所に風穴を開けて、爆撃のように襲ってきた。


 ――風が止む。


 フレスの氷に包まれて、皆怪我はない。

 一気に静寂に包まれた廊下。

 だが、耳を澄ませば聞こえてくる、歩幅の違う二つの足音。


「……もう来たのか……!!」


 頭を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる王が見据えたその先には。


「――メルフィナ。来ると思っていたぞ」


「――お久しぶりですね、お父様」


 不気味な仮面を付けてせせら笑うフェルタリアの王子メルフィナと、失踪中の貴族アイリーンがそこにいたのだった。




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