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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十三章 神器都市フェルタリア過去編『ライラとフレス』
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フェルタリア崩壊への、第一歩


 アイリーン達との接触後、シュラディン達はとにかく急いで王宮へと向かった。

 ニーズヘッグやアイリーンによる攻撃は現時点での可能性として少ないとはいえ、代わりにメルフィナが何か企んでいる事は間違いない。

 すぐさま王へメルフィナのことを伝えねばならない。


 贋作騒ぎを収めるために厳戒態勢となっていた王宮では、三人の入城許可を得るためには相当な時間が掛かることは容易に予想できる。

 そのため、シュラディンは王族・貴族が頻繁に用いる隠し通路から王城へと入城することにした。


「いいの? こんなとこ通ってさ。怒られちゃうよ?」

「時間がない。メルフィナ様が現れたことを王に伝えねばならん。いちいち入城許可を取るのも面倒だろう。怒られても構わん。全て終わった後ならな」

「わ、オジサンかっこいい!」


 一度王宮に入りさえすれば、シュラディンは何かと顔が利く。

 シュラディンが王城内をうろつくこと自体は全く怪しまれることはないだろうし、入城許可がないと指摘されてもさほど問題にはならないはずだ。

 三人は隠し通路を抜けて王宮に入ると、急ぎ足で王の私室へと向かった。


「王!! いらっしゃいますか!?」

「誰だ!?」


 部屋の前で警護をしている兵士を無視して勢いよく扉を開いて中に入ると、突然の事に驚いて立ち上がった王の姿があった。

 すぐにシュラディンの前には兵士達による槍の壁が出来るが、そんなことはお構いなしに王へと叫ぶ。


「王、メルフィナ様が現れましたぞ!」

「――なんだと!? ……それは本当か!? 詳しく話してみよ」


 王がさっと手を上げると、兵士達は槍を引っ込めて下がっていく。


「メルフィナにいくつか問を投げたのですが――」


 シュラディンは先程の出来事を包み隠さず王に話した。


「認めたのだな? 我が息子は『不完全』と関わっていると」

「その通りです。残念ですが、彼本人がイエスと肯定しました……!」

「そうか……」


 例え予想はしていたとはいえ、重すぎる現実を知りショックだったのか、王は力なく椅子に腰を下ろした。


「あやつの目的は聞いたか……?」

「ええ。もっとも詳しくは話しませんでしたが」

「なんだ、それは」

「自分の目的は『神器』であると、ただそれだけを言っておりました」

「やはり神器か……。あのうつけめ、本気で『フェルタクス』を狙って……!! 背後に『不完全』までつけて、そこまでして手に入れたいか……!!」

「……『フェルタクス』とは一体何のことです?」

 王の呟きの中に、聞き慣れない単語があった。


 ――フェルタクス。それは一体何のことなのか。


 メルフィナが狙うというのであれば、これは何らかの神器を差す単語に違いないだろう。


「シュラディン、ライラ、フレス。この件はお前達にはもう無関係ではない」


「「ボク達も?」」


 確かに命を狙われた以上、無関係とは言いにくいかも知れないが、その神器について二人は当然何も知らない。

 フェルタクスという名前すらも、今初めて聞いたばかりだ。

 どのように関係しているのか、それを王は説明し始める。


「これからの話は他言無用にして欲しい。これは我が王家にのみ代々受け継がれる秘密なのだ。息子メルフィナにも、その影ウェイルにも一切明かしていない秘密なのだ」


 そう前置きをして、三人が頷いたのを見た後、王はゆっくり話し出す。


「――『フェルタクス』。正しい名前を『異次元反響砲フェルタクス』といい、このアレクアテナ大陸に伝わる伝説の神器、『三種の神器』の一つなのだ」


「三種の神器!?」


 その単語を聞いて目を丸めて驚くフレス。


「……フレス、知っているのか?」

「うん。知ってるよ。といっても三種の神器が実在するって事を知っていただけで、このフェルタクスっていう神器については全然知らなかったけどさ。三種の神器の一つがこのフェルタリアにあるの!?」

「その通りだ。我々王家の人間は、代々フェルタクスを守り封印してきた一族だ」

「三種の神器を外に出しちゃいけないよ……!! この大陸が崩壊するよ……!!」


 神獣の中でも最強の存在たる龍のフレスが身体を震わせている。

 それほどまでに危険な代物なのだろう。


「あのさ、そんな危険な代物とボクと、一体何の関係があるのかな」


 フレスは龍である故に、神器と何か密接な関わりがあるのかも知れないが、ライラは違う。

 ただの一般的な、平民の少女であるのだ。関係があるとは思えない。


「ライラに託した曲があるな?」

「……え!? うん……えっと、まさかこの曲って……!!」

「フェルタクスを守るということは、フェルタクスの整備もせねばならんということだ。もしフェルタクスに異変が起これば、それを制御せねばならない。その曲はフェルタクスを制御するのに必要不可欠な曲なのだ」


 王が言うに、フェルタクスは二百年に一度整備をせねばならないという。

 そうしなければ内にたまった膨大な魔力が暴走し、フェルタクスが暴発しかねないという。

 だが、フェルタクスを制御するためには、あの石版に書かれた詩が必要。

 詩の歌詞は残っていたのだが、肝心の楽譜が時と共に欠けていたという。

 王は音楽に対して興味は人一倍であるのだが、だからといって作曲をする才能があったり演奏を行う才能があるわけではない。

 代々フェルタリア王宮が音楽家を大切にしてきたのも、フェルタクスの制御を行うには音楽家の手が必要であるからだと説明した。


「この度の制御の際、ワシが選んだ音楽家はライラ、お前だったのだ」

「ボクが、神器を操る……?」


 あまりにも突拍子もない話に、ライラは面食らっていた。


「ボクにそんな事が出来るわけがないでしょ!?」

「出来る。フェルタクスの制御は、ピアノの弾くのと同じ要領で行うのだから」

「でも!」

「ライラが怒る気持ちは分かる。勝手に全てを決めて済まなかった。だが、今は本当に一大事だったのだ」


 王の声のトーンが落ちたので、ライラも自然と追求の声を止める。


「メルフィナがフェルタクスの存在を知ってしまったのだ。あいつの好奇心は狂人の域よ。もし下手にフェルタクスを操作した場合、この都市、いやこの大陸が崩壊することになると知っても、あいつはやる」


 それは『不完全』という犯罪組織をバックにつけてまで行っているのだ。

 まだ十にも歳行かぬ子供が、そこまでの行動を起こしている。

 王の懸念は間違いないのだろうし、事実、そうであった。


「フェルタクスを正しい方法で制御し、再び封印する。メルフィナが何かしてくる前に、それを遂行せねばならない」


 先程のメルフィナ達の様子を考えれば、彼らが何かを仕掛けてくるのはそれほど遠い未来ではなさそうだ。


「……判った。ボクが力を貸す」

「やってくれるか……!!」

「大丈夫なの、ライラ!?」

「ピアノ弾くだけでしょ? だから大丈夫だよ。それに、さっきの人達に、この都市をメチャクチャにされたくない」


 ライラがそう決心すると、フレスは彼女の手を握った。


「ボクがついてるから。大丈夫だよ」

「ありがと、フレス」

「曲は完成しているのだな?」

「勿論。ばっちり」

「ならば急ごう。フェルタクスの方の準備に少し時間が掛かる。少し王宮内で休憩していて暮れ。準備ができ次第呼び出す。シュラディン、お前がこの時間まで二人を守ってやってくれ」

「……かしこまりました」


 そして王は例の書斎へと入っていく。


「……王は何か起こると予感していた。嫌な予感は外れてくれたら良いのだが……」


 王が書斎の奥の秘密部屋に入って早八時間。


 日付も変わり、すでに深夜と言うことでライラとフレスはグウグウと王のベッドで仲良く眠りについていた。


 そんな静かであるはずの夜の出来事。

 フェルタリアの空に、黒き龍が姿を現したのだ。








 ――●○●○●○――







 王の「贋作買い取り」計画は成果を上げ始め、住民達からの不満の噂も鎮圧へと向かっていた。

 また贋作流入経路を抑え、贋作は王宮が買い取り処分するとの事で、一般の住人達の神器購入に対する意欲はかなり改善されたといえる。


『不完全』がよく利用する、住民達の不満感情という武器が、今や機能しなくなっていた。


 シュラディンの的確なアドバイスが、このフェルタリアを乗っ取ろうと画策する『不完全』の動きを封じることになり、危機的状況は未然に回避されたのである。

 これにより『不完全』穏健派からはこの度の作戦の中止が言い渡されたのだが、そうなると立場が悪くなるのが王子のメルフィナと、彼を利用し、また利用されていた過激派である。


「穏健派はフェルタリアから一旦手を引くだとよ。龍についてもしばらく様子を見ると。俺達はどうする?」

「すでに贋作製作にかなりの費用を割いている。フェルタリアから何も引き出せずに、ただ撤退というのは過激派として許されることではない」


 メルフィナを利用し率先して動いていたのは過激派であるため、此度の作戦失敗の責任は過激派にある。

 穏健派連中にそれを突かれるのは、今後の活動に多大なる支障が出かねない。


「穏健派にいいように言われるのは癪に障る」

「王子様、どうするつもりなんだよ」


 すでにフェルタリアに侵入していた贋作士らが、メルフィナに責任を求め、語気を荒げてそう問うた。

 だが、大の大人二人から睨まれても、当のメルフィナはどこ吹く風。


「どうするって、別に作戦に変わりないよ。最初の目的通り、神器と龍を手に入れる。それだけでしょ」

「だから穏健派が撤退したんだよ! 聞いていたのか!?」

「だったら過激派だけでやればいいでしょ。そんなに難しいこと?」

「あのなぁ、ガキには分からんかもしれんが、こいつはビジネスだ。すでに組織は相当な投資をしている。単なるガキの戯言ならいざ知らず、王子様が申し出た作戦だからな。見返りは大きいと踏んだ。実際それはある程度うまくいっていたよ。後は俺達が住民感情を煽って暴動を起こせばよかっただけだ。そうすれば王は脅しに屈して、神器か龍は手放しただろう。だがそれは未然に防がれた。聞いていないぞ! 敵にプロ鑑定士がついていることなんて」

「あのね、だから何が言いたいのさ? 回りくどすぎる話はいいから、簡単に言ってよ。僕、子供だよ?」

「……大きな投資分の責任をお前と俺達過激派が背負わなければならないということだ」

「どうして?」

「――だから!!」

「あのね、おじさん。前提が間違っているよ? おじさん達は作戦が失敗したと、もうフェルタリアを侵略することは出来ないと、そう思っているんだよね」

「……何が言いたい?」

「もっと簡単にすればいいじゃない。変な策略なんて取らなくてさ。邪魔する人達は、みんな殺しちゃえばいいだけでしょ? ね? お姉ちゃん?」

「そうね。その通りだと思うわ。というか私、最初からそれにしか興味なくってよ?」

「……な……!? な、何を言っているのだ!? 物事はそれほど単純じゃない!」

「単純だってば。心配しないで。組織が最も欲しい物――龍は手に入れてきてあげるからさ。後は僕達に任せておいて」

「何をするつもりなのだ?」

「さてね。だけど、この都市にはいない方がいいよ。粉々になっちゃうかもね。ヒントをあげると、僕は相当な神器マニアであること。これだけ言えばいいでしょ?」

「…………!!」


 贋作士の男達は絶句していた。

 確かに贋作士として、また過激派に属する人間として、人を殺めるような仕事に従事することもある。

 自分自身が鬼畜外道であることをよく理解している。

 だがそんな自分達でさえ、恐怖を覚えるほどの外道が、ここにいた。


「お姉ちゃん、とっても楽しい光景が見られるかも!」

「ライラが苦痛に歪む顔が、私にとっては一番の光景よ」

「それも見られるってば」

「あら、それなら楽しみね」


 ――自分が守っていかねばならないはずの民や都市を、容赦なく破壊すると若干十才程度の子供が笑って話しているのだから。


「……三日後、フェルタリアにまた来る。その時に龍を渡してくれ。さすれば上は君を幹部候補に任命するはずだ」

「幹部になんてなる気は毛頭ないんだけどね。僕は神器さえ手に入れば別にそれでいいんだ。ま、今後のために地位はあった方がいいけどね」

「…………」


 贋作士の二人は妙な寒気を覚えながらメルフィナ達と別れると、互いに無言のままフェルタリアを後にしていった。


 この日の夜のことだ。


 神器都市フェルタリアの崩壊への第一歩が踏み出されたのは。




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