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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十三章 神器都市フェルタリア過去編『ライラとフレス』
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脅迫と抜け道


「シュラディン、力を貸してはくれぬか」

「無論です。なんなりと」


 王はこの日、シュラディンを呼び出していた。

 いつもであればライラ達への差し入れを彼に渡すのであるが、今日の用件は全く違うものだ。


「今この都市に起きていることは知っているな?」

「鑑定士としては由々しき事態だと思っております。今日も二十以上の贋作を破棄したところです」


 プロ鑑定士たるシュラディンは、すでに現状を理解し実際に対策に乗り出ていた。

 王自ら彼にこの事実を話したことはないが、すでに全てを知っているものとして会話を続ける。


「この事件、『不完全』が関わっている」

「……ええ、贋作に奴らのマークがありましたからね……」


 五つの丸を重ね、中心に龍を描いた紋章。

 贋作士組織『不完全』が、贋作につけるマークだ。


「奴らは、一体何が目的だと思う?」

「王、そもそもこれまで、『不完全』の連中はフェルタリアに何を要求していましたか?」

「……神器とそして龍だ。どこでフレスの存在を知ったのかは判らんが」

「やはりその二つですか。大方神器の取引を優先して行えとか言ってきたのでしょうな」

「龍を売れともな」


 贋作士集団『不完全』は、普通の犯罪組織の様に、低レベルな不良や犯罪者が集まっている組織という訳では決してない。

 属しているメンバー一人一人が大陸トップクラスの実力を持つ芸術家であり、そしてコレクターであるのだ。

 彼らはより珍しい品を欲する。

 その為の資金調達手段として贋作を作るのである。

 フェルタリアには、彼らが喉から手が出るほど欲しがっている神器や芸術品が、数多くある。

 無論、珍しい神獣、つまり龍とて例外ではない。

 それが狙いであろうというシュラディンの憶測は、当たっていたことになる。


「王! ご報告がございます!」


 そんな会話を一時停止させるように、一人の家臣が王へ封筒を持ってきていた。


「王にこのような封筒が届いておりました! 不審物であったため、我々が中を改めたところ、大変なことが書かれておりまして……!!」

「なに? 封筒を渡しなさい」


 王は封筒を受け取ると、乱雑に中身を取り出した。

 それは一枚の紙であり、そこには簡単に言えばこう書かれていた。


『――明日までに、王宮内にある全神器と龍を渡さなければ、フェルタリアは経済崩壊が起こることになる――』


 タイムリミットは明日。

 詳しい取引場所も指定されており、ここに書かれた取引に応じればフェルタリアには今後一切関わらないという内容だった。


「脅迫文ということか……!!」


 しかしこれはただの脅迫文ではない。

 実際に奴らはこの脅迫文の内容を実行に出来る段階にいるのである。

 『不完全』の神器の贋作流通は、すでに市場を麻痺させている。

 この状態が続くだけでもまずいが、敵は更なる手を打ってくるに違いない。


「脅迫文を送りつけてきたということは、敵は最終段階に入る準備が整っているということですな」

「時間がない……!!」


 王として、フェルタリアの崩壊を黙ってみているわけにはいかない。

 しかし敵の言う通りにすれば、フェルタリアは安泰だと太鼓判を押せるかと問われれば、それは無理というもの。

 そんなことよりも、まず一都市として脅迫に屈すること自体を避けねばならない。


「シュラディンよ。プロ鑑定士としての意見を聞きたい。この取引、どうみる?」

「応じるべきではありませんな」


 シュラディンは間を置かず答えた。


「正直なところ、この脅迫文に意味はありませぬ。どの道敵は実行するのですから。それよりも贋作流通を抑えることを徹底すべきです。その方が敵は嫌がります」

「すでに贋作の流通を押さえるように検閲を強化しているのだ。だが贋作の流入源が判らぬ以上、流通を押さえるのは難しい」

「流通源ですか。……ふむ」

「何か心当たりがあるのか?」

「無いこともありませぬ。王家の抱える現状を鑑みるに、可能性の一つとして浮かび上がる場所があります。いわば抜け道とも言える場所ですが」

「どこだ!?」


「――王家専用の検閲所は、調べましたかな?」


「王家、専用……!?」

「はい。あまり深く言うと王族を侮辱することになるので、私はここまでしかヒントを申し上げられませぬが」

「……殆ど答えではないか……!!」


 唯一調べていなかった検閲所。

 そこならば、誰にも怪しまれずに、邪魔されずに贋作を流入させることが可能だ。

 無論、そこを利用できる人間であれば。


「……メルフィナ、なのか……!?」

「さて、どうですかな……」


 ここ数日、消息を絶っている息子メルフィナ。

 メルフィナは何を考えているか皆目見当のつかない子。

 ただ一つ確かなのは、メルフィナは興味のある神器についてはとことんこだわる事。


「……まさか」


 王の脳裏に過ぎるのは、例の神器の存在。

 もしメルフィナがあの神器を狙っているのであれば。

 我が息子は、いかなる犯罪にも手を染めかねない。


「すぐさま調べさせる」

「それも重要ですが、それ以上に危惧する点がありましょう。王家専用検閲所に今更向かったところで、贋作はすでに都市内に流通済み。それよりも対策はまず民の感情コントロールです」

「噂はどこまで広がっている?」

「商人の大多数は知っております。故に私の鑑定にも素直に応じ、贋作の破棄にも手を貸してくれました。無論、腹の中は相当怒りに溢れていることでしょう。王や王宮に対する不満もあがっております」

「……左様か……」


 立場の弱い民から、強い王への不満が出るのは、それほど珍しいことじゃない。

 むしろ常に誰かが愚痴をこぼす。

 だが、この度の民からの不満は、普段の比ではない。

 直接被害を受けているのだから当たり前のことである。

 目に見えた対策をパフォーマンス的に行わねば、彼らの怒りを収めるのは難しいだろう。


「王宮の対策を民に見せつけるのが一番効果的ですが……懸念すべき事がありましてな」

「なんだ?」

「これは『不完全』という組織がよくやる手なのです。経済混乱を起こし、民に扮した連中が声を大きくして王を批判、反乱を起こすという手口は」

「そ、そうなのか。どうしたらよい?」

「声を上げる連中を片っ端から捕まえるのが良いですが、それも民に見られれば心象は下がりましょう」

「八方塞がり、か」

「いえ、手はございます。少しばかり財産を使うことになりますが」

「……なんだと……? それは一体どんな方法だ?」

「買い取るのです。贋作を。正しく言えば贋作を見つけ出してくれた報奨金という形で」

「報奨金!?」

「ええ。民を味方につけましょう。まずは共通の敵を作るのです。『不完全』という組織が、フェルタリアを荒らそうと贋作を流通させたと。王宮はそれを対策するために、奴らの流した贋作を見つけてくれた者に報奨金を出すと。さすれば民はこぞって贋作を探し出し、王宮に引き渡しに来ます。値段設定は低くて構いません。民のマイナス感情を安く買い叩くのです」


 高い金を払った品が贋作であった。

 当然買った側は怒るし、売った側を恨む。

 それは贋作が流通しているという事情を知っていても止められない。

 両者ともに対応の遅い王宮に良い感情を覚えないはずだ。


 だが、そこへ王宮が贋作を買い取ると宣言したらどうだろうか。

 多少高い金を払ってしまった者も、多少は金となって帰ってくる。

 無論損はしているが、贋作流通をさせた敵というのが明確であれば、怒りの矛先はそちらへ向かうだろうし、逆に救済措置を始めた王宮に感謝するはずだ。


「なるほど……。よし、早速そうするように手配する」

「住民にも宣伝を急いだ方が良いです」

「贋作かどうかの鑑定を頼めるか?」

「いえ、それは他の鑑定士でも出来るでしょう。『不完全』製の品に限れば、そこそこ目の利く鑑定士であれば鑑定可能です。私には別の仕事がありましてな」

「別の……?」

「ライラとフレス。あの二人を守らねばなりますまいて。敵は龍を狙っている。ならばしばらくの間、この都市には何が起こってもおかしくはありませぬ。『不完全』という組織がバックにいる以上、警戒はしておかねば。奴らはコレクションを増やすためなら、何だってする連中ですから」

「……確かにそうだ。そうだったな……!!」


 特にライラは、メルフィナの狙う神器に大いに関係のある、例の曲を作って貰っている。

 もしメルフィナがライラの事を知れば、真っ先に狙うに違いない。シュラディンがついてくれるのであれば心強い。

 だが心配はある。なにせシュラディンは戦闘のプロフェッショナルというわけではない。鑑定士だ。

 そんなシュラディンに対し、神器を持つ敵が現れたのであれば、勝つ見込みは薄い。


「……よし、シュラディンよ。王宮の兵の一部指揮権を授けよう。自由に使うがよい。それとこいつも授けておく」


 王が自室の金庫より出してきたもの、それは――


「これは……!!」

「フレスが蘇った後、フレスが王宮に献上してくれた神器だ」


 王がシュラディンに手渡したのは、刃が氷の様に透き通ったナイフ。

 氷の力を操ることの出来る旧神器『氷龍王の牙』(ベルグファング)であった。


「どちらも感謝いたします」

「フレスの牙で、フレス達を守ってやってくれ。そして二人を、ここに連れてくるのだ。万が一のことを考えれば、王宮が最も安全だろう。フレスもライラも、ここで匿おう。それにライラに託した曲が必要になる」


 ライラの持つ曲は、必ず死守せねばならない王宮最高の機密。

 万が一にも漏らすわけにはいかない。

 彼女ら二人の安全を考慮すれば、王宮に匿うのがベストなはずだ。


「畏まりました」


 受け取ったベルグファングを腰に差して、シュラディンはこの場を後にする。

 その際、王に一言呟いた。


「メルフィナ様を見つけたら、親という感情を殺すのです」

「…………」


 王は無言で、その言葉に肯定も否定もせず、シュラディンが行くのを見送ったのだった。


「お、王、報告いたします!」

「なんだ、何があった!?」


 シュラディンが出て行って間もなく、またも家臣の一人が慌てた顔で王の元へやってきていた。


「あ、アリクローズ侯爵と、ルメール伯爵、それにリリアレーカ音楽学校長が殺害されたとの報告です!!」

「……なっ……!? その三人が!?」


 いずれもフェルタリアでは有名な貴族。


「どうしてその三人が……!!」

「判りません! ですが三人には共通する点が!」

「なんだそれは!?」


「――三人とも、フェルタリアピアノコンクールの――審査員です……!!」



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