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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十三章 神器都市フェルタリア過去編『ライラとフレス』
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フェルタリアの夜景


「そろそろお父様も気づき出す頃かなぁ、お姉ちゃん?」

「だと思うわよ。その為にわざとガルーカスの前に姿を晒したのですし」


 フェルタリア郊外の都市を守る巨大な城壁の上。

 フェルタリアの城下町全てを見渡せるこの絶景スポットに、王と貴族の子供二人の姿があった。


「メルフィナ。貴方、本当にいいの? この都市の次期王は貴方だったはずなのに。あっさり潰しちゃっても」

「うん。僕は王様なんて全然興味ないんだ。僕が興味があるのは王宮に隠された神器だけ。何ならアイリーンお姉ちゃんに王の座あげるよ?」

「ウフフ、それはつまり私と結婚したいと、そういうことかしら? そうでなければ私が王になるなんて不可能ですもの」

「あれ!? えっと……、今の話はそういうことになるのかな……?」


 妙に濡れた視線を感じ、背筋が冷たくなった気がしたメルフィナである。


「ウフッ、私は一向に構いませんわよ。貴方は王の血筋を次ぐ、気品溢れる私に相応しい高貴なる存在ですし、何よりその仮面を取れば、私好みの可愛らしい顔をしていますもの。今結婚する? お姉さんが色々と教えて差し上げますわよ?」

「え、えっと……、……遠慮しておこうかなぁ」

「……それは私に興味がないと……?」

「ひえっ!?」


 やんわりと断ってみたのは良いが、一気にアイリーンの周囲が凍り付いていく気がした。

 こんなところで彼女の地雷を踏めば、計画に支障が出るかも知れない。


「い、いや、そうじゃなくて! ほら、僕まだ子供だから、結婚とか恋愛とか、そういうものは全然分からなくてさ!」

「そうよね。まだお子様ですものね。後数年したら大人の付き合いというものを教えて差し上げますわ」

「う、うん」


 あまり嬉しくない申し出ではあるが、断ると怖い目に遭いそうだったので、ひとまず頷いておくメルフィナであった。

 そんな二人の背後に、さっと現れた黒き影。

 ある意味メルフィナにとっては、この場の雰囲気を変えてくれる救世主である。


「ニーちゃん、来るのが遅いよぉ~!」

「……ごめん、なの……。……? ごめん……?」


 現れた影の正体は、ニーズヘッグであった。

 どうして今謝ったのか理解出来ず、頭の上に?マークを浮かべている。


「それで、連中はなんて言ってたの? 僕の要求、通じた?」

「……うん。組織は……メルフィナに従う……なの……。ただし、条件がある、の」

「その条件って、あれだよね、『龍を手に入れろ』って奴だよね」

「…………」


 ニーズヘッグは無言で頷く。


「そっかー、いやー条件が簡単でよかったよ。でもまさか『不完全』もフェルタリア王家の人間が寝返るとは思わなかっただろうからね。フェルタリアの神器を欲している連中からは、そりゃ千載一遇の幸運、龍も手に入り一石二鳥だよね」

「本当に良いの?」


 念押しするようにアイリーンが聞いてきた。


「だからいいんだってば。僕にとってフェルタリアは要らない都市なんだからさ。逆に聞くけど、お姉ちゃんはいいの? 故郷だし、この都市の貴族なんだよ?」

「貴方が誘った癖に、今更そんな事聞いてくるの?」

「う~ん、確かにそうだねぇ。でもほら、僕が誘ったときって、結構卑怯なタイミングだったじゃない?」


 メルフィナがアイリーンに初めて声を掛けたのは、彼女が絶望にうちひしがれているときである。

 正直に話せばそのタイミングを狙っていたとも言える。

 自暴自棄になった人間の心を、破壊衝動を沸かせるように誘導するのは簡単な事だからだ。


「別にいいのよ。私だってお父様に捨てられた以上、この都市に何の未練もないし。それに本当の私の姿は、多分こっちなのよ。あのコンクールの時よく分かったもの」


 フェルタリアピアノコンクールでライラを嵌めた時の事は、今思い出しただけでも震えが止まらない。

 楽しくて気持ちよくて、あれほど興奮したのは初めてだ。

 背徳感を覚えつつも、一線を越えてしまったという解放感。

 これがたまらなく快感なのだ。


「あの興奮をもう一度味わえるなら何だってする。それにあの娘にもたっぷりとお礼をしないといけないし……!!」


 ただの逆恨みなのは判っているが、腹が立つのは押さえられない。

 一線を越えて狂ってしまったアイリーンの目には、もうライラへの殺意しかなかったのだ。


「この剣をあの子の血で濡らすことを想像するだけで武者震いが止まらないわ……!!」

「良い感じに狂ってるね、お姉さん。結構好きだよ」

「結婚しましょうか」

「それはまた今度で。ニーちゃん。組織はどう出るって?」


 アイリーンの話を終えて、メルフィナは本題を切り出す。


「……二日後。それまで……贋作たくさん出す……でも……検閲……」

「聞いてるよ。お父様が検閲を厳しくしたんだってね」


 贋作流入の噂が流れてから比較的早い段階で、王宮は対策に乗り出していた。


「でも、関係ないね。今まで通りで大丈夫。……だと思う」


 どんなに検閲を厳しくし、チェック体制に多くの人員を割こうと、絶対に邪魔の入らない流通ルートがある。


「何せ王族専用のルートだからね」


 他都市からの貢ぎ物や神器サンプル、国宝級芸術品等、一般の目には決して公開できない代物を都市に運び入れる王族のみが利用できる専用の検問所だ。

 普段は滅多に利用されない検問所だが、実は国王に隠してメルフィナは頻繁にここを利用していた。

 その内容の大半は神器関係の資料だったりで、言ってしまえばメルフィナの趣味の為のものだ。

 ここの職員も取引の大半がメルフィナのものであり、それも内容の殆どは大したことのない者のため、殆ど適当に検閲を終えてしまう。

 何より王族を疑うという発想すら彼らにはない。

 この検閲所は、メルフィナが利用するに限っては殆ど検閲の入らないザルなのである。


「すでに大量に贋作をばらまいているけど、まだやる気なのかな?」

「……一応、もう少し……流通させるの……。暴動が起きても……不自然に……ならないように……なの……。頃合いを見て、要求書も、送りつける、なの」

「なるほどねー。暴動は二日後か。うん、じゃあお城の方の神器も整理しておこうかな。準備も多々いるだろうし。それにあの娘の詩も完成しているだろうし。あ、お姉ちゃん? ライラのことなんだけど、殺すのは僕の用が終わった後にしてね」

「さあ、その約束は守れるか判らないわ。あの憎たらしい姿を見るだけで、身体に悪魔が宿るから。何なら貴方が私を止めて?」

「……頑張るよ」

「……帰る……。また、明日……」

「はいはーい。またねー」


 用件は終わったと言うことでニーズヘッグはカラスの様な翼を広げると、そのまま夜の空へと消えていった。


「素敵な夜景だね」

「あら、ガキンチョの癖に口説きの常套句を知っているの? いいわよ。口説かれてあげる」

「えっと、そんなつもりじゃないんだけど」


 神器都市フェルタリア。

 ランプではなく神器による魔力光が、都市の至る所から揺らめき、幻想的な夜景を演出している。

 光の色は様々で、例えるならば、その昔お母様に見せていただいた宝石箱の様。


「この夜景とお別れって考えると、結構感慨深いものがあるね」

「別に。私はさっさとこの都市から消え去りたいわ。憎きあの娘と、そして私を捨てたお父様をぶち殺した後に、ね」

「常に周囲に殺意をふりまくお姉さんって、やっぱり僕好きだなぁ」

「結婚しましょうか」

「ううん、今は止めとく」


 これより二日後。


 神器都市フェルタリアの未来が決まる、大事件が勃発する。


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