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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十三章 神器都市フェルタリア過去編『ライラとフレス』
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フェルタリア王家の秘密

 フェルタリア王についていくこと五分弱。


「ここだ」


 王専用の書斎へと案内された三人は、とある本棚の前で王に止められた。

 三人の目の前で、王はおもむろに鍵を取り出すと、それを本棚の奥へと突っ込む。

 するとカチリという鍵がはまった音がして、それと共に、ゴゴゴと本棚は音を響かせながら横にスライドしていく。


「わぁ! 隠し扉だよ!」

「あまり大声で叫んじゃダメでしょ、フレス。隠し扉って、つまりここは秘密の扉って事なんだから!」

「そうだね。ついうっかり。でもライラだって声大きいよ?」

「そりゃ、ボクだってちょっと驚いたというか」


 初めて本格的な隠し扉と言うものを見て、ライラもフレスも興奮気味だ。


「入ってくれ」


 王に促され、ライラから先に入っていく。

 暗い廊下を進んでいくと、唐突に広い空間へとたどり着いていた。


「暗くてよく見えない」

「灯りをともそう」


 王は壁際によると、マッチを取り出し、一本擦って灯をつけた。

 それを壁に引かれてある石で出来たレールの中に落とす。

 すると火はレールに沿って燃え伸びていき、その火はこの空間全体的に明るくしていく。


「どういう仕組み?」

「このレールには油が流れていてな。灯をつけると油が流れているところ全てが燃えるというわけだ」

「危なくないの? 火、消せる?」

「問題ない。流れている量は多くないし、このレールには部分部分に神器が埋められてあるからな。そもそもただ油が燃えているだけではここまで明るくはならないさ」


 酸素を操る神器がこの部屋にはあって、その神器がこの部屋の酸素供給から灯りの管理までしているということらしい。


「さて、ライラ、こちらへ来てくれ」


 殺風景な広間であるが、入口から真正面のところには、なにやら大きい祭壇があった。


「ここを見てくれないか?」


 王が指さしたのは、祭壇に置いてある巨大な石盤。


「……読めないけど。大きすぎるし文字も判らない」

「文字は良い。すでに解読してある。問題はこの楽譜だ」


 この石版には、文章の他に、楽譜らしきものが刻まれていた。

 だが損傷が酷く、所々欠けていて、このままでは曲にはならないだろう。


「ここに記されている曲を、どうか譜面に起こしてくれないか。」

「この曲をボクが? 別にいいのだけれど、色々と欠けてるところが多すぎて難しいと思う」

「欠けている部分は、ライラの感性で補ってくれたら良い」

「何言ってるの!? そんなこと出来るわけないでしょ!?」

「出来る。ライラなら、ゴルディアの血を引き、そしてあのアドリブを繰り広げたお前さんならな」


 王はそう断言したが、ライラには自信はない。


「あのコンクールは奇跡だってば。譜面がまともになかった状況で、追い詰められて投げやりになって、本当に適当に引いただけなんだから。それが偶然良い曲になったってだけで。同じ事はもう出来ないよ」

「お前は偶然と言うがそれは違う。確かにアドリブで適当に弾いて、それが偶々っていうのは確かにそうだろう。だが、全くのド素人がアドリブで適当にやっても、それはやっぱりド素人の作品だ。本当の天才は、奏で調べる全ての音を神曲へと変える者のことだ。この都市でそれが出来たのは、ライラ、お前ただ一人だよ」

「そんな、褒めすぎだってば」

「頼むライラ、この曲は王家にとって、いやこの大陸にとって非常に重要な曲なのだ。本当であれば王族以外にこの広間の存在を伝えることも問題になるほどだ」

「そんな秘密をボクらに教えて良いの!?」

「あのコンクールで優勝を取った者に、この曲を任せようと思っていた。まあ最初からライラしかないと思っていたのだがな。頼む、この曲を再び蘇らせることが出来るのはライラしかいない。やってはくれないか」

「えっと、う~ん」


 ライラは少し困った表情をして、フレスの方へ助けを求める。

 だが、そのフレスはというと。


「いいじゃない、ライラ! ボクも手伝うからやってみようよ!」

「えー、助けてくれないの?」

「ライラなら出来るから助けない! それに王様がここまでお願いしているんだよ? いつもお世話になっているし、助けてあげたいよ」


 ライラはしばらく目を瞑って考えていたが。


「判ったよ。フレスが手伝ってくれるならやるよ」

「本当か! それは助かる!」

「この曲に歌詞はあるの?」

「ここに書かれている文章がそうなのだ。これを訳した者を後でシュラディンに持たせる」

「判った。じゃあとりあえずここに書かれてある奴だけ写して帰るね」


 ライラはペンと紙を持つと、すらすらと書き写し始めた。

 彼女が作曲作業する工程をフレスはいつも見ている。

 流れるように淀みなくペンを走らせるライラの姿は、いつもとても格好いい。


「終わり! うん、曲自体はとても短いから、すぐ出来ると思う。フレス、帰ろっか!」

「うん! 王様! 帰るからね」

「書斎から出るときはこっそりと頼むぞ」

「任せてよ!」


 フレスとライラは、仲良く、そして約束通りこっそりと部屋から出て行った。







 ――●○●○●○――






「シュラディンよ、この神器をどう見る?」


 二人の退室後に、王はそうシュラディンに訊ねた。

 シュラディンは目の前の石版と、そして祭壇を見て一言。


「人の手には負えぬもの。そうとしか言えませぬ」


 この神器が何者であるか、シュラディン達は知らない。

 だが、この石版に書かれてある詩には、この大陸の滅亡への暗示が書かれている。


「この詩を正しく封印せねばならないでしょう。その為には曲の完成が必要不可欠。この神器が、現時点でも作動しているのならば、それは正しく電源を切らないと」


 ライラ達は気づかなかっただろう。

 この祭壇が神器であると同時に、今のずっと稼働していると言うことを。

 神器に詳しいだろうフレスさえ、目の前の石版の曲に目を奪われていたのだ。この事実を知る由もない。

 この神器がなんなのか、ずっとシュラディンは調べていたのだが、その解答は未だ得ていない。

 だが起動中なのは間違いない。魔力の量は微かなので、休止モードになっているのだろう。


「我が王家に伝わりし、世界を破滅へと導く神器。これを覚醒させるも殺すも、全てライラの詩次第ということ。この秘密は誰にも知られてはならぬ。シュラディンよ、あの二人の監視と警護、そしてこの神器についての調査、任せる」

「畏まりました。お任せを」


 





 ――●○●○●○――






 二人が広間から出て行った後の事。


「こいつが我が王家の秘伝の神器、ねぇ……」


 何もない空間から声が響くと、突如としてメルフィナの姿が現れた。

 右手にはガラス製の仮面を持っている。


「面白い話聞いちゃった。もしかしたらこいつが例の神器かも。……とすると、さっきの女の子が作る曲っていうのは、こいつの鍵になるものってことだよね。なるほど」


 何かに納得したのか、メルフィナは楽しげにウンウンと腕を組み頷いた後、右手の仮面を顔へとつける。


 その瞬間メルフィナの姿は消え去り、そしてこの場からいなくなっていたのだった。








 ――●○●○●○――







「これ、結構面白い曲だよ」

「そなの?」


 王より楽譜を起こす依頼を受けたライラは、その日の内からペンを片手に鍵盤を叩いていた。

 その様子を端から見守るフレス。

 こうしてライラの作曲作業を見るだけでも、フレスにとっては楽しかったりする。


「叔父さんが来ないと歌詞が判らないから、現時点では面白いとしか言えないけどね」

「歌詞が来たらそんなに曲が変わる?」

「そりゃ全然違うって。この曲、元の楽譜の半分くらいは残っていたんだけど、残りの半分は欠けているわけだよね。その欠けている部分は、歌詞から推測しながら埋めていかないといけないから。歌詞と曲調が全く合わない曲なんて、それは駄作だし王が求めている者じゃないと思うから」

「そうなんだ。それにしても王様、変なこと頼んでくるよねぇ」


 失われた曲を復活させてくれという依頼。

 王家にとって重要な曲だと言っていたけど、それをこんな片田舎に住む少女に任せるだなんて、普通に考えたらあり得ないこと。


「多分、ボクの御先祖様にゴルディアがいるからだと思う」

「……王様もゴルディアがどうとか言ってたよねぇ。……どんな人なの?」

「ボクだって御先祖様と会えるわけがないからなぁ、どんな人かっていうのはよく分からないけど。でも、アレクアテナ大陸史上最も有名で最も尊敬を集める作曲家だって、そう聞いているよ」


 ――ゴルディア。


 ライラは比較的簡素に紹介したが、ゴルディアの知名度はライラ達の想像を遙か超えたものである。

 音楽家として彼の右に出るものは皆無であるし、彼の足下程度には及ぶかも知れない、と評価される音楽家さえ皆無なのである。

 範囲を広げて芸術という観点から見ると、ゴルディアは画家のセルクや彫刻家のリンネと肩を並べることの出来る唯一の音楽家だ。


「ボクがゴルディアの子孫だから、コンクールも金賞とれたのかなぁ……」


 ぽつりとそんな事を漏らすライラ。


「違うよ! ライラはライラだから金賞取れたんだよ! ゴルディアがどうとか関係ないよ!」

「うん、ありがとう、フレス」


 コンクールでライラが成し遂げたのは、まさしくライラしか出来ないパフォーマンス。

 ゴルディアの子孫だから贔屓があったとか、そういうことは一切無いだろう。あの王ならするはずがない。


「まあいいや。それより歌詞がこないとこれ以上進めないし、お腹空いちゃったからご飯にしよっか」

「さんせーい!」

 


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