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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十三章 神器都市フェルタリア過去編『ライラとフレス』
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ゴルディアの血を引く者

 フェルタリアピアノコンクールから二週間。

 フェルタリアに住まう大半の者達は、いつも通りの平和な日常を送っていた。

 そう、大半の者達は、だ。


「王。まずいことになっていますね」

「そのようだな……。ここ最近の値動きは少しばかり不振であったが、まさかここまで一気に変動してくるとは……」


 それは他都市からやってくる為替商人達によってもたらされた、国家の根幹に関わる情報。

「まさかフェルダーの値段がここまで落ちているとは……!!」


 ――フェルダー。


 それはこの神器都市フェルタリアが発行する貨幣単位の事である。

 フェルタリアは古くより存在する伝統溢れる都市。

 芸術や音楽と言った文化もさることながら、神器精製に関する技術は他都市の追随を許さない。

 神器流通量は練金都市サバティエルの三倍以上とも言われている。

 このため経済は豊かで住民の生活レベルの最低基準も、かなり高いと言える。

 殆どの者がライラと同レベル、またはそれ以上といえば判りやすいか。

 故に、フェルタリアの発行している貨幣単位『フェルダー』は信頼が高い。勿論その分高価なのである。

 ハクロアやレギオンには劣るものの、リベルテよりは高い。

 フェルダーで資産を蓄えている富豪も数多くいる。


 そのフェルダーがここ数ヶ月、大幅に値段を落としていた。

 一年前と比べて、現在の価値は六分の五になっている。

 これはフェルダークラスの貨幣からすれば、金融危機レベルの価値の暴落だ。


「まさか1ハクロアとの交換が4フェルダーにまで落ち込むとは……」

「しかし王、ほんの一ヶ月前までは3フェルダーと五分の二だったのです。確かに一年程度の期間を掛けて徐々に価値を落としたのは事実ですが、これほど一気に落ちたのはこの一ヶ月間のことです。やはり例の噂が関係しているでしょうか……」

「……もしあの噂が事実であるのであれば、由々しき問題だ」


 ここ数週間。

 フェルタリア内にて密かに流れている噂がある。


「フェルタリアが出荷している神器の多くに、贋作が含まれているという噂は……」


 フェルタリアというブランドを悪用し、贋作が大量流出しているとの噂が、後を絶たない。

 事実、輸出している神器をプロ鑑定士が調べたところ、いくつか贋作が見つかっており、贋作のサンプルもフェルタリア王宮は所有している。

 贋作が見つかるというのはここ一ヶ月に集中しており、さらに言えばこの二週間の間は、毎日のように贋作が発見されている始末だ。

 贋作を流出している業者を発見すべく、王宮は自衛団を神器工房へと派遣し、監視や警備を行っているものの、何ら事件の手がかりになるような物や出来事は見つかっていない。


「このままの水準で行きますと、リベルテよりも低価値となってしまいます。そうなれば住民の不安は大きくなり、外貨へと投資してしまう。それによりフェルダーはさらに価値を落とし、後は悪循環が始まるだけです。王、早急に対策をとらねば」

「判っておる。だが、神器工房が贋作を精製するわけがない。一体どこの誰がこんな事を……?」


 一刻も早い対策が必要だが、贋作を流出させている連中の目的、場所が判らない以上、身長に調査を重ねるしかなかった。



 


 ――――――――


 ――――




 フェルタリア王の負担は、最近かなり厳しい物となっていた。

 贋作事件が最も王を悩ませている種ではあるが、それ以外にも頭痛の種はある。


 一つはラグリーゼ家の娘の事。


 彼女が何をしたのか、それをラグリーゼ侯爵本人から聞いた。

 ラグリーゼはこちらが申し訳なくなるほど、精一杯の謝罪を王にして、さらにライラにも謝罪したという。

 だがその事件を起こした肝心要、アイリーン嬢が、あのコンクールの日から姿を消しているらしい。

 貴族の一人娘が行方不明になるなんてことは大スキャンダルもので、情報が漏れないように様々な手を打っている。


 そしてもう一つが、これまたアイリーンと同じように、今度は自分の息子、メルフィナが姿を消していた。

 元々人前に出る性格ではないので、こちらはあまり工作しなくても周囲に気づかれることはなかったが、一歩間違うとこれまた大スキャンダルだ。

 一応彼の身の安全も心配ではあったのだが、王が本当に心配していることは心配事はこんな些細な事では断じてなかった。

 メルフィナは危ないのだ。

 彼は、神器に対して狂気的なまでに固執する。

 それにメルフィナは例の神器について、深く興味を抱いていた。

 もしメルフィナが万が一にも、あの神器を手に入れるために行動を起こしていたのならば、それは国家危機レベルの問題となる。


「……先に対策をとらないと、まずいことになるな……!!」


 あの神器は王家の秘密ということ以前に、人には知られてはいけない産物。

 封印を解く鍵を、王は守り、そして信頼できる者に継承せねばならない。

 そして継承に相応しい相手は、我が息子なんかではない。






 ――●○●○●○――





「ふいー、なんだか久々に遊びに来たね!」

「だねー。それにしてもなんなんだろう、王ってば」

「さてな。ワシも連れてくるようにしか言われておらん」


 フレスとライラ、そしてシュラディンは、王の命令を受けて王宮の王の私室へとやってきていた。


「来てくれたか、ライラよ」

「むぅ、ボクもいるんだけど!」

「ああ、すまぬフレス。良く来てくれた。まあ座ってくれ」


 座り心地抜群のソファーに腰を沈める二人に、王は言う。


「ライラよ。まずは優勝おめでとう、と言っておこう」

「ありがと。でも、取れたのは奇跡なんだよ? 楽譜も盗まれるし、代わりの曲は完成できなかったしさ。仕方ないからフレスの適当に書いた曲使っちゃったんだもん」

「ボク、適当なんかじゃないもん! かなり本気で書いたんだもん!」

「判ってるってば、フレスのおかげで優勝とれたの! 感謝してるんだから! それにしても、まさか楽譜を盗んだのが貴族の御嬢様だったなんて、びっくりしたよ。まあ、全部のお詫びって事で新しいピアノ買って貰ったから結果オーライかなぁ」

「ライラさ、ちょっとのんびりすぎるよ? 下手したら命が危なかったんだからさ」

「う~ん。まあ助かったし、もういいよ。謝ってももらったしね」

「それについてはあのコンクールの主催者としても謝罪する。気づけなくて悪かった」

「王ってば、別にいいよ。考え方を変えれば、そのおかげで優勝しちゃったわけだしね」


 王は謝罪のために頭を下げたが、ライラが頭を上げてと頼んでも、どうしてそのままの体制でいた。

 あまりにもその時間が長かったので、シュラディンも不審に思う。


「王、一体どうされました。頭をお上げ下さい」

「いや、このままで良い。これからライラに頼みがあるのだから」

「頼み?」


 何なんだろうと、ライラとフレスは互いに顔を見合わす。


「実はこのコンクールにライラを出場させたのには裏がある」

「……まあ、そうかもね」


 ライラは当初頑なに拒否していた。

 平民の自分が目立つことは、あまり良いことではないと知っていたからだ。

 事実今回だって、無駄に目立つことで嫉妬を買い、直接被害を受けている。


「その裏って、なに?」

「…………」


 王も迷っているのだろうか。

 ライラが聞き返しても、しばらく返事はなかった。


「王、私とフレスがお邪魔であれば、しばらく外に出ていますが」

「いやシュラディン、貴方にも聞いていて欲しいのだ。プロ鑑定士としての意見が欲しい」

「……え? シュラディンってプロ鑑定士なの?」

「鑑定士? なにそれ?」

「本当にプロ鑑定士なの!? ただの一兵士だったんじゃないの!?」


 驚くライラと、意味も分からずキョトンとするフレスの瞳を向けられて、シュラディンも思わず苦笑する。


「ワシは自分自身の事を兵士だと言っていたかな? 君らを護衛するとは言ったと思うが」

「ちょっと、王! どうしてプロ鑑定士を護衛なんて下らない任務に就かせてるの!?」

「シュラディンくらいしか信頼できる人物はいないのだよ。プロ鑑定士を信頼しない人間はいないだろう? それに下らないとはいうがフレスのことは最高機密でもあるのだ。最も信頼できる人物でないと逆に護衛は任せられんよ」


 フレスが龍であると言うことが、外に漏れるのは非常にまずい。

 伝説の神獣が存在しているというだけで混乱は起こるだろうし、龍を敵視している教会との軋轢も生む。

 このホゲーとしているフレスが争いの火種になるとは、彼女の事を知っている者から言わせれば何とも笑いたくなるような話――……実際には全く笑えないが。


「判ったよ。話を戻してくれる? 裏ってなに?」

「実は、お前さんの正体を探っておってな。此度のコンクールで心の底から確信したのだ。ライラは間違いなく、あの伝説の作曲家『ゴルディア』の子孫なのだと」

「……えーと、今さら?」

「やはり知っておったのか」

「当然。遠い昔のお爺ちゃんって聞いているの。それが何か関係するの?」

「そうだ。あのゴルディアの血を引く者であれば、この曲を受け継ぐべきだと思ったのだ。何せこの曲はゴルディアが作曲していると言われているのだから」


 そう言って王は、自身の部屋の金庫から一本の鍵を取り出した。


「ついてきてくれ。フレスもシュラディンもな」



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