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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十三章 神器都市フェルタリア過去編『ライラとフレス』
385/500

フェルタリアの王子、メルフィナ

 ――次の日の昼。


「か~んせいっ!」

「ライラ、おめでとう!」


 長きに渡る作曲活動が実を結び、ついにライラ渾身の一曲が完成した。


 腕の痛みとの戦いの末に出来た曲だ。

 ライラ達の喜びもいつも以上だった。


「ライラ、まだ半分くらいしか出来てなかったのに、一気に出来ちゃったね!」

「手の痛みがなくなって楽になったからかな。なんだか良いメロディが沢山浮かんじゃって、一気に書き上げちゃった」


 フレスの力で傷を完全に治癒した後のライラは、誰もが目を見張るほどの速さで譜面に音符を描いていた。

 その鬼気迫る表情に、フレスも圧倒されたほどだ。

 その出来栄えは、ライラ自身も大満足のもの。


「早速弾いてみてよ!」

「まっかせて!」

 

 早く弾きたくてウズウズしていたのか、ライラはピアノの椅子に飛び乗る様にして腰かけた。


「いくよ!」

「うん!」


 そしてライラは、たおやかに流れるように鍵盤を叩き始める。

 天才たる彼女から生み出された想像を絶するほどの素晴らしいメロディは、フレスだけでなく、この周囲の音が届く範囲にいる者を皆、虜にさせるほどのものだった。


「おお、素晴らしい音色だな」

「あれ、オジサンだ」

「鍵が掛かってなかったんで上がらせて貰らったぞ」


 右手に差し入れを抱えながら現れたのはシュラディンである。


「しかし、ライラ嬢ちゃん、大丈夫なのか?」


 シュラディンの視線はついライラの腕へ。

 相当痛い筈であるのに、どうしてライラはあれほど楽しげに、心躍らせながら鍵盤を叩いているのか。


「フレス嬢ちゃん、ライラ嬢ちゃんは大丈夫なのか?」


 いつの間にか隣に立っていたのはシュラディン。

 美しい曲を楽しみながらも、ライラの手の事を心配していた。


「大丈夫だよ、オジサン。ライラ、手の痛みはもうないからさ!」

「そうか。それなら良かった。…………いやいやいや、どういうことだ!? どうして!? 何故!? あれほど傷は酷い状態だったのに!?」

 

 ケロッとフレスが言うもんだから、つい乗せられてしまったが、ライラの傷はそうそう簡単に完治出来る怪我ではない。

 それこそ一日二日で治るような傷ではない。

 今までずっと痛み止めでなんとか凌いできたほどの怪我だ。

 医者は数か月かかると診断していたほどであるのに。


「本当に治ったんだよ」


 いつの間にか演奏を終えて、ライラが傍へやってきていた。


「全部フレスが治してくれたんだ」

「フレス嬢ちゃんが? どうやって? 神器でも使ったのか!?」

「えーとね、ボクの力を使って!」

「……フレス嬢ちゃんの力か……、そんなことが出来るとはな……」


 シュラディンは王よりフレスが龍だということを聞かされている。

 だから多少不可思議な能力があったとしても驚かないが、まさかあれほど酷かった傷を癒やすことが出来る治癒能力があるとは思わなかった。

 想像を絶する龍の力。

 だが、それは諸刃の剣でもある。


「フレス嬢ちゃん。その力、むやみやたらに使わない方が良いぞ」

「え? なんで?」

「フレスの力を狙って、変なことをしてくる連中がいるかも、ってことでしょ」

「そういうこった」


 ただでさえフレスが龍であることは最重要機密事項の一つであるわけだ。

 その秘密を守るために、こうやってシュラディンが世話役という監視をしているわけだ。

 龍は宗教的に見ればあまり良いように見られていない。

 出来ることならば、知られない方が良い。

 フェルタリア王は、その点を考慮してシュラディンをライラ達につけている。


「フレス。君の力は、ボクと君だけの秘密だよ」

「ライラがそう言うなら、分かったよ!」

「二人とも、実は丁度差し入れを持ってきていたんだ。曲の完成のお祝いもかねて、ささやかだがパーティーでもしようか」


 シュラディンは手に持っていた紙の箱を机の上に置く。

 中を見ると、中には色とりどりのフルーツが散りばめられたケーキが入っていた。


「わぁ! ケーキだよ! ライラ! オジサン、ありがとう!」

「礼なら王に言ってくれ。王が用意したものを持ってきただけなんだから」

「あの王にしては気が利くね」

「あ、ボク、このメロンの載ったケーキもらい!」

「じゃあ私はイチゴね! そうだ、紅茶の用意しなくちゃ」


 こうして三人は、ささやかなパーティーで新曲の完成を祝ったのだった。






 ――●○●○●○――





「おい、メルフィナよ」

「なんだよ、お父様」

「たまには神器庫から出てきたらどうだ」

「いいだろ、放っておいて」


 フェルタリア王には、たった一人だけ息子がいる。


 ――名はメルフィナ。


 幼いながらも頭が良く、神器についての研究を大人顔負けの勢いで日々行っている。

 しかしながらメルフィナは王族としての責務を果たす気が全く無いのが王の困り種になっている。

 人前に出ることはほぼないし、王子としての職務も全て放棄している。

 性格が暗いなど、そういう心配は全く無いのだが、根っからの研究者体質なのだろうか、興味のあることにはとことんのめり込み、興味ないことには全く手をつけない。

 幼いからと、そう理由付けが出来る時間ももうあまりないので、王自らこうやって声を掛けに来ている所存である。


「そろそろ王子としての責務を果たしなさい。三日後、王宮主催のピアノコンクールがある。そこへ来賓として参加するのだ」

「えー、面倒だなぁ。パス」

「パスって、そんな我が儘が通ると思っているのか」

「いつも通り影武者くんを使ってくれよ。今までもずっとそうしてきたろ」

「ウェイルか。ホント、ウェイルが息子ならどれだけ楽なことか。お前も少しはウェイルを見習ったらどうだ」

「影武者を見習えとは面白いこというねぇ。ま、僕としてはウェイルが優秀なら優秀なだけ楽できるから有り難いんだけどね。そうだ、もういっその事ウェイルを王子にしなよ。養子なんだから、一応可能でしょ?」

「馬鹿な事をいうな。王位を継承するのはお前しかおらんのだ」

「面倒だなぁ、国とか都市とかまとめるの。僕は神器しか興味ないのにさ」

「お前って奴は……」


 本当に困った息子だと、王は一度嘆息すると、


「コンクールはどうする?」

「ウェイルにお任せしまーす」

「……仕方ないか……。ウェイルには心苦しいが」

「あれ? まだウェイルには話してないの? 僕のこと」

「話していないことはない。だがニュアンス的には兄のような存在がいるとだけ話しているだけで、お前の影武者としてウェイルを養子にしたなど、幼いウェイルには言えまい」

「僕とウェイル、殆ど年齢同じだと思うんだけどねぇ。まあいいや。今回もウェイルでよろしく~」


 メルフィナはとことん神器庫から出る気はないらしい。

 実はかれこれ三ヶ月近く神器庫に籠もりきっている。

 何か彼の興味を引く神器があったのだろうか。

 一度研究を始めれば、納得いくまで他のことに手を出さないのがメルフィナだ。

 しばらく他の行事も出る気はないだろう。

 フェルタリア王が神器庫から戻ろうと思い踵を返した時、


「お父様、ちょっとお待ちを」


 珍しくメルフィナの方から声が掛かった。


「なんだ?」

「ちょっと聞きたいことがあってね。『フェルタクス』って一体何?」

「お、お前、その名前をどこから……?」


 その名前は代々フェルタリア王にのみ継承されていく、とある神器の名前。


「フェルタクスって神器、一度見てみたいと思って。それでずっと神器庫を探しているんだけど、全く見つからなくてねぇ。お父様なら知っているかと思ってさ!」

「……知らぬ。そんなものは存在しない」


 例え息子でも、王位継承までは知らせるわけにはいかない。

 あの神器は、秘密が漏れてはならぬ代物。


「そっか、知らないか。それ、嘘だよねぇ。最初に「お前、その名前をどこから」なんて言ってたらバレバレだよ。ま、いいよ。お父様には話せない理由があるんだろうしさ。これ以上は聞かないよ」

「お前、何をしようと……?」

「さてね。お父様は何も知らないんだから、僕が何していてもあまり関係が無いと思うんだけど」

「…………ともかく、余計なことはするな。いいな」

「はいはーい!」


 まずいことになったと、王はそう思った。

 例え息子でも、いや、あのメルフィナという息子だからこそ、この秘密を知られるのはまずい。

 『フェルタクス』の秘密を暴くためなら、メルフィナは何だってするつもりだ。

 あの息子は危ういのだ。

 己の目的のためなら、手段を選ばずに冷徹になれる。そういう鋭い危うさを持っている。


(どうしたものか……!!)


 現状、メルフィナがあの存在を知ることは、まずあり得ない。

 だがフェルタクスに頼らなければならなくなる状況が、この先発生したら。

 そのとき、あの息子は迷わずフェルタクスを手に入れようとするだろう。


(要はフェルタクスを使う状況にならねば良いのだ。現状を維持、それだけでいい)


 だが、このフェルタリア王の目論見は、辛くも崩れ去る事件が、これから発生していく。




 ――――


 ――



 コンクールまで後二日。

 新曲を完成させた夜、ライラとフレス、シュラディンは、完成記念ケーキパーティーの延長ということで、今度はライラが料理の腕を振るっていた。


「オジサンも食べてってね」

「よいのか?」

「当然だよ! 人数は多い方が楽しいもんね!」


 ということで、夜は賑やかにライラの料理パーティが開かれた。


 そんな楽しい夜は、これから最悪の悪夢へと変貌していく。


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