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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十三章 神器都市フェルタリア過去編『ライラとフレス』
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初めての出会い

ライラとフレスの出会い、そしてウェイルの故郷フェルタリアの過去話となります。



 ウェイルに、聞いて欲しいことがあるんだ。

 それはボクの大親友のお話。

 舞台はね、ウェイルの故郷、フェルタリア。

 ボクは二十年以上前、フェルタリアで一度解放されているって、話したよね。

 そこで出会った、ライラっていう人を紹介するよ。


 ボクに出来た初めての人間の親友にして、世界で一番大好きだった人。


 ……えっと、今一番の親友はギルで、大好きなのはウェイルだけど、この二人にも勝るとも劣らないくらい大切な人だ。比べようもないよ。


 とても優しくて、明るくて、クールで、頼りがいがあって、それでいて可愛い。

 うん、何度思い出しても、ライラとの思い出は楽しいことばかりだ。


 あの最後の瞬間以外は、だけど……。


 これはボク、フレスの最高の親友であるライラとの物語。


 全てのは始まりにして、全ての終わりに至る、大切な思い出。


 それをウェイルに、ちょっとだけ話そうと思う。






 ――●○●○●○――






「誰だ、お前!」


 フレスの意識がはっきりしたとき、目の前には二人の人間がいた。


 一人は温厚そうな笑みを浮かべる老人。


 そして一人は、あまり自分に興味のなさそうなすました顔の女の人だった。


「ここ、どこなの!? お前達は誰!?」


 一番新しい記憶では、ラルガ教会の追手に捕まった場面。

 この者達は、その関係者だろうか。

 そうだとすれば、今すぐにも逃げなければ。


「おやおや、警戒しとりなさる。お嬢さん、心配はいらん。我々は君の敵じゃない」


 柔和なお爺さんのにっこりとした笑顔に、一瞬油断しそうになる。


「敵じゃない!? そんなわけない! 人間はみんな敵だよ!」


「信じてくれ。本当にワシらは何もしないさ。仲良くしたいだけだよ」


 老人はまたも微笑むと、そっとフレスに手を差し伸べてくる。

 だがフレスはその手を雑に弾いた。


「近づかないで! ボク、人間は信頼できないから!」


 フー、フーと息を荒げて二人を睨み付けるフレス。

 そんなフレスに、今度は隣にいた少女が一歩前に躍り出た。


「人間は信頼できない、か。そうだね。その通りだと思うよ。判る」


 少し冷たい口調。

 だけど、なんだか同情されているような風にも感じる。


「馬鹿にしてるの!?」

「うんや、してないよ。だって君の言うことは真実だから。そして実はこのボクも、同じように思っている。なんだ、気が合うね」

「だから近づかないで!」


 フレスは一歩後ろを下がると同時に、氷のクナイを生成し、振りかざす。


「これ以上近づくと、これで斬るよ……!!」

「うん。いいよ」

「嘘じゃないよ! ボク、本気だもん!」

「ボク、か。ボクも自分のことをボクって呼んでるんだ。やっぱり君とは気が合うと思うんだけどなぁ」


 そんなことを言いつつ目の前の女は、氷のクナイなど目もくれずフレスへ手を差し伸べてきた。


「止めてよぉ!」


 フレスは恐怖から目を瞑って、おもむろにクナイを振り下ろした。


 ――ドスッ。


「――クッ……!」


「……えっ!?」


 フレスの手に伝わる感触。

 それは耳障りな生々しい音を放つ、フレスが一番嫌いな行為。


「あ、ああ、ぼ、ボク……!!」


 フレスの振り下ろしたクナイは、少女の左手に命中し、深く突き刺さっていた。

 貫通こそしていないが、重傷には違いない。その手はすぐに血に塗れていく。


「あ、あああ……!!」


 また、誰かを傷つけてしまった。

 相手は人間だ。

 傷つけて当然の生物だ。

 そう思い込み、信じ続けていたはずなのに、フレスは後悔の念に責め立てられていた。


「あ、ボク……ご、ごめんなさい……!」


「――君は、良い子だね」


「……え……?」


 少女はクナイを抜きながら、そんなことを言ってくる。


「なんで……?」


 あまりにも想定外の反応に、また一歩後ずさる。

 そんなフレスの対し、少女はさらに前に進むと、そっと手を上げた。


「…………!!」


 叩かれる。そう覚悟したフレスの頭に、いつまで経っても痛みは降ってこない。

 代わりに、頭にはそっと手が乗せられた。何故かそのまま撫でられている。


「君は、本当に良い子だ」

「ボクが良い子……? そんなわけない!」


 フレスは手の主を睨み付ける。

 だが、その手の主の顔は涼しげだ。

 腕が血に塗れているのにも関わらず。

 痛くはないのか? 

 ……いや、それも違う。

 彼女のかいている汗の量は、尋常ではなかったから。


「お、おい、ライラ、早く手を治療しなければ!」

「王は黙ってて! 今ボクはこの子と話しているんだから!」


 少女は老人を一括すると、こちらへ今度は優しい笑みを浮かべてくる。


「大丈夫。君は良い子」

「どうして!? ボクは君を刺したんだよ! 憎い人間なんだから、刺されて当然なんだ! ボクはそんな酷いことを考えながら刺したんだ!」

「いや、君はそんなこと考えていないでしょ。だって、君は今後悔してるから」

「…………!?」


 その一言は想像以上に心に刺さった。

 まさに図星であったからだ。


「君は今、心の底から後悔してる。ボクの手を傷つけたことを、悔いているんだ。そうだよね?」

「…………」


 フレスは無言だった。

 ただ、頭を撫でられる感触だけが、フレスに感覚として残っていた。


「君は悪い子なんかじゃない。ね、だからもう近づかないでなんて寂しいこと言わないで。ボクはね、君のことが気に入ってしまったよ」

「ボクを、気に入る……?」

「そ。ねぇ、一つ提案があるんだけど、いいかな?」

「……何?」

「君がボクにしたことは、全部許してあげる。だからその代りに――」




「――ボクの友達になってくれないかな?」




 これがライラとフレスの物語の、邂逅となる出会いであった。


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