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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
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ケルキューレに選ばれし者

「リーダーよ。いるか?」

「いるよーん」


 いつの間にか仮面を付け替え、いつもの仮面に戻していたリーダーが、そっとイドゥの元へと寄っていた。

 歩く間、その視線はケルキューレから一瞬たりとも離さない。

 神々しく輝く剣に、見惚れているともいえる。


「計画のもっとも重要な一歩が、ここにある」

「だね。こんなに綺麗な剣をこの目で拝めたんだ。柄にもなくテンション上がってるよ、僕」

「柄? リーダーっていつもテンション高い気がするけど! アハハ!」


 この圧倒的迫力と存在感を放つ剣を前にしても、『異端児』の三人は何食わぬ顔。

 あのアムステリアとて一瞬臆したほどの剣なのにも関わらずだ。

 だから彼らは『異端』と呼ばれるのだと、この時アムステリアは心底痛感した。


「ウェイル、止めるわよ……!! あれの剣はまずいわ……!」


 凍りついた三人を動かしたのは、アムステリアだった。


「……あれを奴らに渡すのはまずい……!!」


 ウェイルの本能が、そう全力で警告をあげていた。

 危険性もさることながら、その圧倒的な美に、見ているだけで鳥肌が立つほどの剣。

 何時間でも見惚れることが出来るほどの芸術に身体が凍りつきそうであったが、


「リルはそこで待機してろ! テリア!」

「判ってるわ!」


 ウェイルの防衛本能が身体を解凍することを手助けしてくれた。

 

「蹴り飛ばしてやる……!!」


 二人は一気に床を蹴り、ケルキューレに向かって距離を詰めていく。

 奴らの手に渡る前に、なんとしても確保せねばならない。


「強引だねぇ、お二人さん♪ ティア」

「は~い!」


 だが二人のこの行動を読んでか、二人の前に立ち塞がったのはリーダーと、そしてティア。


「邪魔はさせないよ! これから楽しくなるんだから!」

 

 ティアはリーダーの前に立つと、その両手に眩い光を集中させる。

 光の刃を精製すると、ティアは容赦なく二人へ向かって撃ち放ってきた。

 無論ウェイル達も、その行動は読めるので回避。

 後ろからのリルの指示する声がサポートとなり、光の刃は直撃するどころか掠る事すらない。


「こいつは無視だ!」

「当たり前よ。やってられないわ!」

「えー!?」


 二人はティアを無視して抜くと、一気に壇上へ駆け上がる。


「私はイドゥをやる! ウェイルは仮面の男をお願い!」

「龍がこちらに来る前に決着をつけるぞ!」


 ウェイルは氷の剣を構えて、アムステリアは鍛え抜かれた足を踏み込み、それぞれイドゥとリーダーに向かって襲い掛かった。

 しかしイドゥとリーダーは、そんな二人の攻撃を避けることすらせず、ただひたすらにせせら笑うばかりであった。

 あまりにも不審すぎる態度ではあったが、もう二人の勢いは止まらない。

 少しばかり躊躇はしたが、そのままそれぞれの武器を振りかぶった。

 しかし、これはやはり愚直な行動であったのだと、すぐに気づかされた。


「――駄目です! ウェイルさん!! テリアさん!!」


 その声が二人の耳に入った時、すでに決着はついていた。


「クッ……!?」


 突如ウェイルの横腹に走る、目から火花が出るほどの強烈な痛み。

 その痛みは、ウェイルの身体を地へと落とす枷と化す。


「あっ…………」


(アムステリアまで!?)


 少しばかり淡い声を出して、アムステリアも崩れ落ちていた。


「ウェイルさん!? テリアさん!? まさか……!? い、嫌……!!」


 その光景を見ることは敵わぬが、気配で全てを察したイルアリルマの悲痛な叫びが、ホール内をこだまする。


「一体、何が……!!」


 ウェイルの方の傷は深い。

 ドクドクと心臓の音が異常に大きく感じる。


(……傷口は、ギリギリ急所には届いてない……!!)


 一瞬敵の行動に躊躇を見せたところが不幸中の幸いだった。

 傷口は傷み具合や今までの経験から内臓までは届いていない。

 すぐに動くのは難しそうだが、これであれば意識は当分持ちそうではある。

 無論重傷なのには違いないが。

 だがそんなウェイルの横には、更なる重症患者が横たわっていた


(テリア!? どうしてお前が!?)


 肉体的なダメージなど全く利かないはずの彼女が、ピクリとも動かず伏していたのだ。


「いやぁ、助かったよ。しかしイドゥのその槍、便利だよね」

「まあな。一歩も歩かず、一度も振る事すらせずに敵を貫けるのだからな。実に年寄り向けな武器だ」

(槍、だと……!?)


 何とか見上げてみると、イドゥのその手には、何やら棒があった。

 だが、その棒はおかしいことに、先端が光り輝いていて、槍として最も重要な部分が消えていた。


 その正体はすぐに判った。


 自分を刺した刃から滴る血が、その場を教えてくれたからだ。


(……宙に槍が浮いている……!? 神器か……!!)


 しかし槍は一本しかない。アムステリアが倒れている理由は、そこにはない。


「こっちこそ助けられた。よく持ってたな、その神器」

「ああ、これ?」


 仮面の男は、何やら水晶球のようなものを手のひらの上で転がしていた。


「懐かしいでしょ? アムステリア(おねーさん)?」


 アムステリアは答えられない。

 力が抜けて、意識すら保つのがやっとの状態だからだ。


「思い出すね、おねーさんを追いかけていた頃のことをさ。なにせおねーさん、強いんだもんね」


 水晶球の中は、緑色の光が蠢いているようにも見える。


「この『星牢獄の宝球』(ゾディアスフィア)が君の弱点だったことを思い出してね。実はこれ、昔イドゥからおねーさんを殺すように命じられた時、対策に貰っていたんだよね。結局使うのは今日が初めてだよ。綺麗だからずっとお守りみたいに持っていたんだけどね~」


 アムステリアには心臓がない。妹であるルミナステリアに奪われたからだ。

 その代りに彼女の身体には、神器『無限龍心』(ドラゴンハート)が埋め込まれている。

 膨大な魔力を宿すその神器は、彼女の身体を超人へと変えてくれていたが、その代わりにいくつかの重い代償を彼女に背負わせた。

 その中の一つには、肉体的には死ねぬことがある。

 それは彼女を無限の時間の牢獄へと追いやっている。

 そして弱点と呼ぶべき代償が、神器の力を封じる神器に弱いということだ。


(神器の力を封じる神器か……!!)


 おそらくあの神器は最初からアムステリアにのみ発動する様に組み込まれたものなのだろう。

 先程の仮面の男からもそう推測できるし、何よりイドゥの神器も発動していることがその証明だ。


「……クソ……!!」


 身体が言うことを聞かない。

 自由に動けないことが煩わしくて腹立たしい。


「リーダー、お前の出番だ」

「任せて~。……あら、ウェイルってば、まだ意識があるんだね。ラッキーだね。これから僕がケルキューレの所有者となる瞬間を、間近で見ることが出来るんだから。偽物君(・・・)には勿体無い光景さ」


 うつ伏せのウェイルをそう見下し、リーダーはイドゥが横から見る中、ケルキューレの柄を掴んだ。

 その刹那、ケルキューレの刀身が、鮮烈な光と、深淵の闇を解き放っていく。

 放たれた光と闇は、リーダーの身体を包み込み、蝕んでいくようにも見えた。

 その光景は一瞬だったかもしれない。

 だが見ている者は皆、そうは思っていないはずだ。

 あまりにも現実離れした光景に、何時間も見ていた気分であった。


「あは、あはは、あははははははははははははははははははッ!!!!!!」


 光と闇が、リーダーを解放する。

 彼の仮面に、光と闇が刻印されたかのように、白と黒の傷が浮かぶ。


「上手くいったよ。なんだか生まれ変わった気分だ」


 姿こそ変わらぬリーダー。

 だがイドゥは判っていた。

 リーダーは今、ケルキューレの所有者に選ばれたのだと。


「ひとまずおめでとう、と言っておこう。だがこれはあくまでスタート地点に過ぎん」


「判ってるってば。でも、この剣、凄いよ。今なら僕何でも出来そうさ」


 身体から溢れる力。魔力も体力も、今なら無尽蔵に感じられる。


「目的は果たした。全て手に入れることが出来たし、ここには用はない。さっさと引き上げるか」

「ちょっと待ってよ、イドゥ。折角ケルキューレも手に入ったし、しかもウェイルに再会したんだよ? 少しぐらい会話させてよ」

「……判った。少しだけだぞ」


 止めさせようかとも思ったが、イドゥは彼のワガママを聞き入れた。

 いや、聞いたと言うよりは聞かされたと言うべきか。

 その声は、有無を言わさぬ首を縦に振らせるような迫力があったのだ。


「やあ、ウェイル。勝負はまたも僕らの勝ち。ケルキューレはこうして僕のモノになった」


 美しい刀身を、うっとりと丹念に見回しながら、ウェイルの元へやってきたリーダー。


「今僕は非常に気分がいい。念願の代物を手に入れることが出来たし、何より君に会えた。二十年ぶりに、僕の影にね」

「…………影、だと……?」

「そうさ。僕は光、君は影」


 そう言うと、リーダーはウェイルの前にしゃがみ込み、見下ろしてくる。


「うん。本当に懐かしい顔さ。嬉しいねぇ」

「お前、何が言いたい……!?」

「いやね、君が知りたがっていたことを教えてあげようと思ってさ。本当は一生隠しておこうと思っていたんだけどさ。今僕テンション高いから。つい教えたくなっちゃったのさ。それにこのまま一生知らないままでいるのも、君には可哀そうだしさ」

「俺の知りたがっていたこと……?」

「そうさ。君は言ってたろ? 僕が君と会えて嬉しいって言った時、一体何のことだって。その解答だよ」


 そう、この仮面の男は、最初からウェイルのことを知っている風に見えた。

 度々新聞にも名前を出していたし、贋作士であればプロ鑑定士のウェイルのことを知っていても何らおかしい話ではないのだが、この仮面の男だけはそういった類の面識とは思えなかったのだ。

 もっと深く、それこそウェイルという存在の根底から知っているような、そんな雰囲気。


「君と僕はね、フェルタリアからの仲なんだよ? 尤も、君は僕のことを知らないんだろうけど」

「フェル、タリアだと……!?」


 その言葉はあまりにも衝撃的だった。

 突如仮面の男の口から、フェルタリアと言う単語が出てきたのだ。驚かない方がおかしい。


「どうしてお前が俺の故郷を!?」

「君の故郷? それは勘違いさ。あれは僕の故郷だから」

「何だと……?」

「もう、全てを教えてあげるよ。君はね――」



「――ウェイル! 耳を塞いで! 奴の言葉なんて聞いちゃだめだ!!」


「――フレス!?」


 意識を取り戻していたフレスが、辛うじて立ち上がり、大声で叫んでいた。


「ウェイル! 奴の言葉は全部でたらめだよ! 聞いちゃダメ――うぐッ!?」

「フレス――!!」

「ちょっと黙ってて、嘘つきフレス」


 不機嫌そうなティアが、フレスを蹴飛ばしていた。


「とんだ邪魔が入ったね。話を続けよう」


 仮面の男リーダーは、さらにグッとウェイルに顔を近づけて、そして言い放った。



「君は僕の――――贋作なのさ」


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