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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
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再激突! ティアvsフレスベルグ!

「ティア、もうフレスと遊ぶの飽きたんだけどなー」


『そうか。我はそんなことはないのだがな』


 龍の姿に戻ったフレスベルグが、少女の姿のままのティアの前に対峙する。

 しかしティアには焦る様子はなく、逆に楽しげに笑みを浮かべている。


「でもこの姿のフレスと会うのって、すっごく久しぶりだよねー! こっちのフレスなら遊んであげても楽しいかも!」


『遊んであげる、か。身の程知らずが……!!』


 フレスベルグの瞳に怒りの色が宿っていく。

 こちらの性格はフレス程お人好しなんかじゃない。放たれる殺気の鋭さに、後方で見守っていたイルアリルマが竦むほどだ。

 そんな殺気の中でさえ、ティアは笑顔を絶やさない。

 こちらが本気で怒っているのさえ気づいていないかのようだった。

 そういうティアの姿に、フレスも少しばかり語気が下がる。


『ティマイアよ。我は貴様のことが不憫に思う』


 それどころかむしろ、彼女のことが可哀そうな者に見えた。


「……不憫? どうして?」


 この時、自らを不憫と呼ばれたティアが、少しだけ表情を変えた。


『我は昔の貴様を知っているからな。あの時のお前は、本当に良い奴だった』


 あまり過去を語らないフレスベルグが、ポツリとそう漏らす。


『あの時の戦いは、まだ終わってはいないんだな……』


 フレスベルグの独り言。

 フレスベルグの脳裏にこびりついているのは、ケルキューレに貫かれたティアの姿。

 数千年も前の戦いの傷跡が、今も尚こうして存在することに、感慨深いものがあったのかも知れない。


『ティアの心は、壊れたままだ』


 フレスベルグが何気なく呟いた独り言であったが、その言葉はティアの耳に入ることになる。


「ティアの心が、壊れてる? なに勝手に、ティアのこと決めつけてんの……?」


 露骨に、ティアの機嫌が悪くなった。

 自分のことを勝手に解釈されたことが腹立たしかったようだ。

 ティアの心が壊れている事、そのいきさつをフレスは知っているが、ティアにその記憶はない。

 だからフレスの言葉は、純粋にティアを馬鹿にした意味に捉えらえたのだ。

 ティアとしては、フレスが知っていて自分は知らないというもどかしさも相成って、とても気分が悪い。


「フレス、ティア、ちょっと不機嫌。ティアの心、壊れてないもん。怒ったよ」

『そうか。なら掛かってこい。遊んでやる』

「馬鹿にして……!!」

『馬鹿になんてしちゃいないさ。我はただ懐かしんでいただけだ。だが貴様が本気で来ると言うのなら、こちらも本気で遊んでやる!』


 会話の主導権を握ったフレスベルグは、戦闘の主導権も握るべく、最初から全開で魔力を放出し始めた。

 例え小娘の姿ではあるが、彼女の正体は、龍族の中でも最強クラスの力を持った光の神龍『ティマイア』なのだ。

 油断即、此方の敗北になりかねない。


『凍り付いてもらうぞ、三種の神器が消えてなくなるまでな!!』


 フレスベルグの纏う冷気は、もはや冷たいという言葉では体現できぬクラスのもの。

 空気が痛い、そのレベルにまで達していた。

 それを背中に背負った光のリングに招集すると、集まって出来た氷は、さながら蒼い太陽の様。

 絶対零度の蒼い太陽に対するは、神をも焼き尽くす裁きの槍。


「『神除き』。今度はこれ、フレスにぶつけてやるから……!!」


 バチ、バチっと稲妻が走り、ほとばしる青白い火花が、周囲を焼け焦がしていく。

 古の神々さえ葬ってきたこの技をまともに喰らえば、例え龍とはいえひとたまりもない。


『二度は負けぬ、放ってみよ!』


 一度は敗れたこの技だが、此度はこちらも真の姿。

 同じ手を二度と喰らうほど、フレスだって馬鹿じゃない。


「ひゃは! 死んじゃえええええッ!!」


 体を大きく振りかぶり、稲妻の槍が投げ飛ばされた。

 それに対し、フレスベルグも蒼く冷たい太陽で対応する。


「あははははは!! いけいけ~、フレスを貫け~!!」


 神除きを受け止めてみて改めてフレスが思うのは、やはりこの力は畏怖と表現するのに、一切の迷いのないレベルの脅威であるということ。

 龍の姿ならまだしも、力の抑制されている娘の姿でここまでの力を出せるティアという存在は、あまりにもイレギュラーだ。

 フレスベルグの氷の力だって負けず劣らず強力ではあるが、それでも徐々に徐々に押されてきている。

 ズイズイとフレスベルグは後退、今の氷の力だけでは抑えが利かなくなってきていた。


『……何とも反則的な奴だ……!! だがな!!』


 しかしフレスベルグだって、イレギュラーな存在であるのだ。

 この状況から、さらに膨大な魔力を体から生成し、リングに込めていく。

 出現させた氷の蒼い太陽は、フレスベルグの魔力に呼応するかの如く冷気をさらに濃くしていった。

 ウェイルが発生させた水蒸気をも利用して氷はさらに大きくなっていく。

 やがて、氷は完全に稲妻の槍を包み込んだ。


『あまりフレスベルグの力を舐めるなよ……!!』


 フサァっと、美しい蒼い翼をはためかせる。

 それにより強烈な突風が吹き荒れ、氷の力を後押しし、吹雪へと変わっていく。

 稲妻の槍を閉じ込めた氷は、じわじわと溶けていっているものの、後から覆い被さる吹雪が、それを改めて凍らせていく。

 それはさながら氷の牢屋だ。


「な……っ!? 槍が……!?」


 やがて、氷の牢から輝きが失われていく。

 氷の中に閉じ込めていた槍が、氷に打ち消され姿を消したからだ。


『力勝負では、龍の姿に戻った我の方が上の様だ。この意味、判るな?』


 ティアの力を、フレスベルグの力が上回った。

 それはすなわち、この場にいる者の中でフレスベルグが力の頂点に立っていることを意味し、それはある意味、ウェイル達側の勝利を確信する材料にも十分なり得る事態だ。


「まだ、まだだ! ティア、フレスなんかに負けたくないもん!」


 一発目の『神除き』に費やした魔力は、ティアにとっても膨大なものだったのだろうか。

 ティアは額にうっすら浮かんだ汗を拭おうともせず、またも光の槍を精製し始めたのだが、それが中々上手く行かない。


「魔力、ちょっと厳しいかも……。でも、絶対撃ってやる!」


 思うように光が集まらないことがもどかしいのか、表情は苦悶そのものだ。


『魔力が足りんか。当たり前だ。この短時間に、あの魔力の塊を二発も打ち放ったのだからな』


 神をも殺すほどの威力を持つ技を立て続けに撃ち放っているわけだ。

 例えティアでも、魔力は無限に持つわけじゃない。ましてや三連発できるほど、体も丈夫じゃない。

 当然、それほどの魔力を費やした神送りを受け止めているフレスだって、状態的には同様である。

 だが、今のフレスは龍の姿。

 湧き上がる魔力は、娘の姿の比ではない。

 今のティアならば、余裕で制圧できるほどの魔力は、まだ体内に残っている。


『止めておけ。今の貴様に、次は放てん』

「どうしてフレスが勝手にそれを決めるの? ティアがやりたいこと、フレスが決めることじゃない!」


 ティアが激昂したところで、その体内の魔力が増えるわけではない。

 故に光の槍もまだ小さいし、光が溜まるまで時間も掛かる。

 フレスベルグは少しばかり安心して、カウンターの準備に取り掛かった。


 ――その刹那のことであった。


『――――ッ!?』


 一瞬、フレスベルグは自分に何が起こったのか理解できなかった。


 一瞬、そう、一瞬の内にである。


 自らの身体に深々と突き刺さる光の槍を、その目で見たのだ。

 体の中に、強烈なほどの衝撃と、神経が削り取られるかのような高熱が走る。

 ダメージが大きすぎて、もう叫び声すら上げることは敵わなかった。

 だが、その激痛の中理解だけはしていた。

 自分が気づけぬほどの一瞬の内に、ティアの神送りを喰らってしまったのだと。

 薄れゆく意識の中、微かに声が聞こえる。


「イドゥ、時間を止めてくれたんだね?」

「ああ。この時計塔の発動条件は、時を操ることだからな。そのおかげでお前さんも救えたんだし、一石二鳥だ」


『――時間を、止めた……!?』


 ならば自分がこうなってしまった理由も説明がつく。


『…………クソ……ッ!!』


 悔しいが、体も動かない。

 フレスベルグは、力を使い果たして龍の姿を保てなくなり、床に崩れ落ちると同時に少女の姿に戻ったのだ。

 イドゥのピアスが、時の力を少しだけ操った。

 時を操る。それがここ『時の時計塔』の発動条件。

 発動条件を満たした時計塔は、ゴゴゴと地鳴りを上げながら、魔力の光を帯び始める。


「うっとうしいなぁ、これ。消し飛ばしちゃお」

 ティアが面倒臭そうに翼を出現させて、思いっ切りはためかせると、この水蒸気は一瞬にして吹き飛び視界は晴れる。


「フレスは嘘つきだよ。ティアの心、やっぱり壊れてなかったもん。それよりリーダー、生きてるかな?」


 ティアは少女の姿で横たわるフレスのことなど、まるで興味もないかのように、さながら壊れたおもちゃを捨てるかのように見下していた。


「あ! これ、綺麗! ぴかぴか光ってる!」


 時計塔全体から、輝きが溢れはじめた。

 魔力を帯びた光は、五つの封印を解かれた主を祝福するかのように、天へ向かって光を伸ばす。


 運河都市ラインレピアに今、五つの光の柱が立ち上ったのだった。


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