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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
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揃った役者


 ついに四つの時計塔が発動した。

 魔力と共に光を放ち、ラインレピアを眩く照らす時計塔は、この都市に住まう者の誰もを混乱させた。

 異変を感じ、恐怖を覚える者、祭りのイベントだと声を上げて歓声を上げる者。

 その反応は様々ではあったが、誰もが時計塔に注目していたのは間違いない。


 集中祝福期間の最終日に、とんでもなく異様な光景が、この都市を恐怖へと駆り立てていく。




 ――中央地区 時の時計塔。



「イドゥ、準備はいい?」


 四つの時計塔の発動を確認したリーダーは、声を弾ませながらイドゥに問う。

 

「ああ。ケルキューレ解放の準備は整った。すぐにでも始められる。このまま何も起きず、順調に事が進めばな」

「何も起きずに、ねぇ」


 すでに何者かが邪魔に動いていることは、イドゥの能力からも判っている。

 楽に計画を進めるならば邪魔は無いに越したことはないが、リーダーはそう思っていない。

 むしろ邪魔のある方が楽しいと、そう思っていた。


「あ、ティアが来たよ」


 ちらりと窓から外を見てみると、金色の翼を携える少女がこちらへ向かってきて飛んできているのが見えた。

 時計塔の窓を開けてやると、そこからティアが室内へと入ってくる。

 入ってきてそうそう、彼女は相好を崩した。


「イドゥ! ティア、結構楽しかった!」

「そうか、良かったな、お嬢ちゃん」


 口を開くなりそんなことを言ってくるものの、主語がないので何のことかは判らなかったが、とりあえず適当に相槌を打ってやる。


「あのね! フレスと遊んできたの!」

「……フレス? 誰だ?」


 聞き慣れぬ名前。

 ティアが他の誰かの名前を覚えるなんて滅多にない。

 というよりは、『異端児』メンバー以外の他人の名前を知る機会自体がない。

 つまり元より知っている名前と言うことになる。


「あのね! フレスはね! ティアのお友達だよ!」

「……友達?」


 そこでピンと来たイドゥはリーダーと視線を交わす。


「フレス、か。うんうん」


 リーダーもなんだか満足げに頷き返してきた。


「いやあ、ティアの友達がこの都市にいるなんて、僥倖だねぇ」

「ああ。これで全ての龍の居所を掴むことが出来た」


 計画に龍は必要不可欠。

 『セルク・ラグナロク』の通りならば、これでほぼ全てのパーツが揃ったことになる。

 もちろんキーとなるパーツは、ここに封印されている神器であるが。


「ティアも早く三種の神器みたい! 早く封印解いて!」

「そうしようよ、僕も早く使ってみたいし」

「そうしたいのは山々だがな。そうも行かないらしい」


 イドゥはチラリと、ホール入口の扉を一瞥した。

 イドゥが、ピアスを右手で取って手で握りしめ、左手は何もない空間を掴んでいるかの様。


「どうやら、お客さんが来たようだ」


 扉の奥より強い気配。

 リーダーはとても嬉しそうに気配を感じていた。


「あれま。行動早いねぇ。……いや、もう時計塔は発動したんだし、むしろ遅いのかな?」

「大方時計塔が発動するところまで想定しての動きだったんだろうさ」

「お客さん? 誰―?」


 ティアがワクワクと期待に胸を膨らませる中、来客者が扉を開けて姿を現した。



「――客が来たんだもの。お茶の準備は出来ているんでしょうね?」

「出来てるわけないだろ。『異端』な連中にそんな常識が通じるかよ」

「それもそうですね」


 凛とした声と共に現れたのは、ウェイル、アムステリア、イルアリルマ。


 そして遅れて――


「ティア、まだお遊びは終わってないよ」


 ティアが入ってきた窓と同じところから、蒼い翼を携えたフレスが現れたのだ。

 ついに中央『時の時計塔』に、役者が全て勢ぞろいした。


「イドゥ。久しぶりね。元気にしてた?」


「お陰様で。アムステリアの方も元気そうで何よりだ。一応、気には掛けていたものでな。茶でも用意しようか?」

「要らないわよ。安心して飲めたもんじゃないし。それに「元気そうで何より」なんて、自分で刺客を送った癖に良く言うわよ。あら、その刺客の一人もいるじゃない。仮面の気持ち悪い貴方?」

 

 一同の視線は、イドゥの隣に座るリーダーへと集中する。


「これはこれはお姉様。お久しぶりでございます。まさかこんなところで再会できるとは思いもしませんでしたよ。ホホホ」

「相変わらず気持ち悪い子ね……」


 アムステリアと仮面の男は、以前に会ったことがある。


「リーダーよ、受けを狙った口調かも知れんが、皆に引かれてるぞ」

「やっぱり? ホホホと笑う前から薄々そんな気してたんだ~」


 緊張感のなさ過ぎるリーダーと呼ばれる男に、ウェイルは嫌悪感を覚えていた。

 ――何だろうか。

 敵である以上、嫌悪を抱くのは至極当然ではあったのだが、この男の口調や声には、なんだか形容しがたい気持ち悪さを感じていたのだ。


「ボク、あの男、気持ち悪いよ」


 それはフレスも同感の様。

 この男には要注意だ。

 そう思って身構えた時、仮面の男は衝撃的なことを口にし始めた。


「いやー、ちょっと嬉しくて舞い上がっちゃってさ。アムステリアに会えたのも嬉しんだけど、それ以上にね――ウェイルとフレスに出会えたことにさ!」


「――なっ……!?」

「――ボク達……!?」


 どうして、この男が自分達のことをさも知っているように語るのか。

 もちろん、こんな気色の悪い仮面男など、ウェイルとフレスの記憶の隅にも有りはしない。


「久しぶりだねぇ、というのも生ぬるいほど久しぶりなのだけど。ああ、そうか。君は僕のことは知らないんだったね」

「なるほど。以前お前が話していたのはこの男のことか」


 それに対し、異端児の二人は勝手に納得している様子。


「一体何のことだ!?」

「だから気にしないでいいって言っているでしょ? ティア!」

「は~い!」


 仮面の男の隣に、ティアが並び立つ。


「イドゥ。ケルキューレはお願いね。僕等はここまで来てくれたお客様をもてなすからさ」

「承知した。アムステリアに龍までいる。気を抜くな」

「心配ないって。僕、今久しぶりにウェイルに会えて柄にもなく興奮してるんだからさ!」

「お前さんは結構普段から興奮しているような気がするが……」


 そう言うとイドゥは右手で握ったピアスに魔力を込め始める。


「ウェイル! イドゥを止めるわよ!」

「当たり前だ! 三種の神器を奴らに渡すわけにはいかない!」


 セルクの意思を引き継ぐ覚悟を背負った時から、この状況を心のどこかで想定していた。

 五つの鐘がなるとき、ケルキューレは目覚める。

 すでに四つの時計塔の鐘は鳴り響き、天へ光を伸ばしている。

 最後はこの時の時計塔。

 ここの鐘が鳴る響く時、聖なる器は姿を現す。

 それをウェイル達は絶対に阻止せねばならない。


「フレス! 行くぞ!」

「ボクだって、ティアにはお礼をしないといけないんだ! ここは躊躇している時じゃないよ!」


 すぐさまフレスがウェイルの元へと駆け寄る。


「私、察覚によって皆さんのサポートをいたします!」

「さっきにみたいにお願いね、リル!」


 イルアリルマはホール外から。

 アムステリアは先陣を切って。

 そしてウェイルとフレスはというと。


「ミルの事件以来だな。行けるか?」

「大丈夫だよ! ……テリアさん、今こっち見てないし」

「だな。さっさとやろうか」


 何度やってもやはりこの瞬間は慣れることはないだろう。

 二人は意を決して、しかしながら自然に唇を重ねることが出来ていた。


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