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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
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『神除き』(ゴッドエグザイル)


「――はああぁぁぁぁあああっ!!」


 フレスの咆哮と共に練り出された青い光は、周囲に白き雪を漂わせて、温度を一気に氷点下へと引き下げる。


「――はぁッ!!」


 掛け声とともに、床に振動が走る。

 次の瞬間、床からは巨大なツララが顔を出し、ティアに向かって一直線に伸びていった。


「あは♪ なんだか楽しそう~!! それにこうしてると、なんだか懐かしい気がする~!」


 迫り飛んでくるツララをひょいひょいと器用に交わしながら、ティアはなんだか楽しそうな笑みを浮かべながらそう感想を述べた。

 フレスの『遊ぶ』という台詞を真に受けてか、もしくは冗談だと知って、からかうつもりでいるのかは判らない。


「これなら……!!」

 

 ツララを全て避けたティアの身体は、身動きの取れない宙にある。

 好機とばかりにフレスは魔力を溜めていく。

 するとフレスの背中に光のリングが現れた。


「凍てつけ!」


 魔力に呼応するように光のリングは輝き始め、そして光は一気に拡散していった。


「これはちょっと痛いよ! 覚悟してね!」


 拡散した光から、氷の塊が大量に出現する。

 それらはフレスを中心として、花火のようにはじけ飛んでいく。


「うわっ! 綺麗だ~!」


 などと笑いながらも、ティアは光で出来た盾を出現させた。


「これなら痛くないよね~!」

「光の、盾……!!」


 隕石の如く時計塔を貫き破壊しつくす氷のつぶてだが、彼女の光の盾はびくともしない。


「……あの光、凄い熱だ……!!」


 氷のつぶてが一瞬にして蒸発するほどの熱量を誇る盾。

 この攻撃も、これではティアに通じない。


「だけど、ボクだって負けてらんないもんね……!!」


 打ち放った氷は次々と光の盾に溶かされてしまう。

 氷が一気に蒸発したせいで発生した水蒸気が、時計塔の辺りを包んでいく。


「フレス~、それ、意味あるの? もう飽きたんだけど」

「大丈夫だって。もう少しだからさ」


 ティアが欠伸を一つしてからかってくる。

 それでもフレスは平然と笑みを浮かべて、氷を放ち続けることを止めなかった。


 先に変化に気が付いたのはフレス。

 ティアの光の盾が、少しずつではあるが縮小してきているのを確認していた。


(どんなに高温でも、これだけ氷を当て続ければ、温度が下がるのは当然だよね!)


 そしてフレスは、少しばかり大きめのつぶてを精製し、力いっぱいティアに向かって放った。


「……痛っ……!?」


 鋭い氷の破片が掠ったのか、ティアの頬から鮮血が上がる。


「……どうして……?」

「どうしても何も、盾が壊れたってだけでしょ?」


 さらにフレスがつぶての数を増やすと、盾は見る見る小さくなっていき、そして最後には消え去った。


「この根競べ、ボクの勝ちだよ」


 勝ち誇るフレスに対し、ティアは少し体を震わせていた。


「…………」


 ――無言。

 ただフレスは判っていた。

 遊びはこれで、終わりだということを。


「…………ヒャハハハハハハハハハッ!! フレス、いいよ、ティアもなんだかテンション上がってきたよ!」


 狂ったような笑い声を上げながら、ティアは天を仰ぐ。

 その狂喜乱舞する姿は戦慄ものだが、本当に怖いのは、彼女の背後にある存在だった。

 そう、彼女は笑いながら、背中に巨大な光の槍を出現させていたのだ。


「これ、すごい技なんだよ! 何体もの神様を貫いてきた奴だからさ!」

「……知ってるよ。ティアの得意技だもんね、それ」

「あれれー、そっかー、フレス知ってるんだー。つまんないのー」


 バチバチと稲光を発生させながら、光の槍は輝きを増していく。


「神除き《ゴッド・エグザイル》。カッコいい名前でしょー? ティア、頑張って名前付けたんだー。良い名前でしょ?」

「へん、どうだかなぁ!」


 凄まじい光と大気を揺らす稲妻。

 それらが集中するこの槍の矛先は、フレスへと向けられている。


「……龍の姿じゃないのに、これほどの力を出せるなんて……!!」


 光の龍、ティマイア。

 その力は、全ての龍の頂点に立つと言われている。

 つまりティマイアはフレスよりも格上の存在であるわけだ。

 いくらフレスといえども、あの光の槍を、少女の姿で受ければ致命傷になりかねない。


「……ほんと、厄介な相手だなぁ……!!」


 自分を凌駕する力を持っておきながら、心が壊れている相手とは、どれほど攻略が難しいことだろう。


「ティア、そろそろお仕事しないと。フレス、もうお遊びはいいよ。バイバイ」

「勝手に話を終わらせないでよね……!!」


 なんだか飽きたと言わんばかりにティアはフレスを見下すと、光の槍を掲げ持つ。


「その槍、どうするつもりなの?」

「これ? えっとね、これはあっちの山に向かって投げればいいんだってさ!」


(……やっぱり……!)


 事前に仕入れていた情報通りだ。

 ティアはあの槍を使って、この都市の近くにある運河用の貯水池を破壊するつもりなのだ。

 そうすれば一体何が起こってしまうのか。それは誰もが安易に想像つく光景だろう。

 『異端児』達は、この都市の運河を氾濫させ、都市自体を水で沈めてしまおうと考えていたわけだ。

 正しく言えば、この洪水から逃げる人々を時計塔へと誘い込むための方法である。

 奴隷オークションにより人を集めることを止めた『異端児』達の必勝法と言えるものである。


「そんなことしたら、この都市の人達はどうなっちゃうんだよ!」

「知らないよ。ティアには関係ないもんね」


 ケロっと言い放つティア。

 やはり、フレスの知っているティアはもうここにはいないのだと、痛感した。

 ティアは心を破壊され、今みたいな狂人となっている。

 もう、彼女を止めるのはここしかない。


「ティア、もしその槍を投げるつもりなら、ボクは命を懸けて君を止めるよ」

「フレスがティアを? 無理だよ?」

「むぅ、失礼な言い方だなぁ」


(……事実なのが悔しいんだけどさ)


 正直なところ、あの槍は今のフレスの持ちえる力では、到底受け止めることは出来ない。

 龍の姿であれば可能かもしれないが、少女の姿では魔力の放出に限界があるからだ。

 だからフレスは少し違う方法を取ることに。


「フレス、どいて。ティア、本当に投げるよ?」

「止めてって言ってる」

「ティア、今フレスに顔を傷つけられて少し怒ってるから、多分フレス殺しちゃう」

「それもさせない」

「……我が儘だよ? フレス」

「そうかもなぁ」


 フレスはもう一度周囲の温度を下げていく。


「判った。ティア、フレスを殺すよ」


 ティアは光の槍とは別に、大量の小さな光の刃を出現させていく。

 まるで光のクナイである。

 そんな刃が舞い踊りながら、フレス目がけて一斉に飛んできた。


「フレス、死んじゃえ」

「そうもいかないよ! それにそれは光で出来ているんだよね! なら――!」

「死んじゃえええええ!!」


 光のクナイがフレスに突き刺さったかのように、ティアは見たことだろう。

 だが実際はそうじゃない。


「…………えっ!?」


 ズキリと走る痛み。

 見るとどうしてかティアの身体に光のクナイは突き刺さっていた。

 その様子を見ながら、ティアはそっとフレスの方を向く。

 フレスの身体には傷一つついてはいなかった。


「どうして……?」

「どうしても何も、光だもん。当然だよ」


 先程発生した水蒸気が晴れていく。

 すると現れたのは、やけにピカピカとした――ピカピカし過ぎて、まるで鏡のようになった氷の壁であった。


「光は鏡で反射することが出来る。君の唯一の弱点だよ」

「……へ、へぇ、そっか。光は跳ね返せるんだ」


 もう一度周囲の温度を下げたのは、これを精製する為である。


「判ったでしょ、ティア。君がその槍を投げたところで、結局は自分に返ってくる。だからもう止めようよ」


 この時こそが説得に一番効果の出るタイミング。

 自分の技が通じないと知った敵は、およそここで説得に応じるもんだ。

 しかし、フレスは少しばかり油断していた、というよりは期待をしていたのかも知れない。

 ティアに対し、そんな理屈が通じると思い込んでしまっていたのだ。


「ヒャハハハハハハハハッ!! それもいいかも! フレス、勝負しようよ!」

「…………っ!!」


 今の状況を見て、そんなことを平然というティアの心理など、フレスに判るはずもない。

 何せ失敗すれば死を見るのだ。

 だがティアの心は、壊れに壊れすぎて、死と言う概念すら恐怖の対象にはなっていない。


「フレス、全力で止めてね! ヒャハハハッ!!」

「クッ……!! ティア……!!」


 ティアは大声で高笑いを上げながら、光り輝く巨大な槍を、目的の貯水池に向かって打ち放った。


「くっそおおおおっ!!」


 その槍の前に、フレスは氷の壁を新たに作り出す。

 激しい衝突音と、水蒸気。

 小さな爆発と稲妻を発生させながら、光の槍は氷の壁を突き破らんと突き進んでいく。

 対するフレスは何重にも氷を重ねて、槍を跳ね返そうと試みた。

 しかし、やはりと言うべきか、この槍の威力は桁外れであった。


(くっそおおっ!! ボクに残されている魔力を全部使っても、この槍は厳しい……!!)


「フレス~、どう? なんとかなりそう?」

「今話しかけないで……!!」


 余裕こくティアの顔はなんと憎たらしいことだ。


「…………ッ!!」


 しかし、その顔を見ると同時に、フレスの視界には新たな懸念材料が写っていた。

 先程よりは小規模だが、小さな光の槍がもう一本用意され、その矛先はフレスの方へ向いていたのだ。


「こいつもプレゼント。フレス、受け止めてくれるよね?」

「……ティア……!!」


 言うが早いか光の槍はフレスへと打ち放たれる。

 巨大な光の槍だけで精一杯のところへ放たれた追撃だ。

 打ち消すどころか避けることすら出来ず、その槍はフレスの翼を貫いたのだ。


「うぐぐ……!! ――!?」


 翼に走る痛みに、フレスは一瞬だが気を取られてしまう。

 それが致命傷となった。

 氷の壁はぎりぎりの均衡を保っていたのに、一瞬であるがフレスも魔力が切れた。

 だとすれば後は崩壊するだけ。

 氷の壁は破壊されたと同時に蒸発、辺りは水蒸気爆発が発生し、フレスもそれに巻き込まれて、体勢を保っていられず、重力に身を任せていく。

 そして次の瞬間には、光の槍は遙か彼方にあり、――そして。


 ――とてつもない爆音と共に、貯水池を破壊したのだ。


「フレスも消えたし、お仕事お仕事」


 のんきに鼻歌すら歌いながら、光の翼をはためかせながら、ティアは光を集めていく。

 その光は時計塔を神々しく照らしながら、神器の発動を決定付けた。

 緑色の魔力光が、時計塔に満ち溢れていき、そして。


「光の時計塔、スタンバイおっけー! お仕事終わり~! リーダーのとこ行こうかな」


 光の時計塔は、ついに発動を始めたのであった。


 残る時計塔は後三つ。


 そしてラインレピアには、猛烈なる運河の氾濫が、目の前まで押し寄せているのであった。

 ティアは遠くに見える貯水池の洪水を見て満足そうに笑みを浮かべると、この地区を飛び去ったのであった。


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