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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
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『氷龍王の牙』VS『相思相愛剣』

 

 ――激しく飛び交う金属質の音。


 火花と氷の欠片は、両者の剣がぶつかり合うたびに炸裂していく。

 ウェイルとダンケルクは、一定のテンポで接近戦に挑み、また一定の感覚で遠距離戦を行っている。

 今この瞬間は近距離戦。

 情け容赦なく、互いに全力で神器をぶつけあっていた。


「ウェイル、お前の神器と実際にやり合うのは初めてだな。良い剣だ。厄介なことこの上ない」

「そりゃこっちも同じ感想だ。全く面倒な神器使いやがって」

「お互い様だな。ホント気が合うよ、俺達」

「今はあまり嬉しくない台詞だな……!」


 軽口を飛ばしながらの戦い。

 だがそのレベルは決して低いモノではない。

 むしろ互いのレベルがあまりにも高いからこそ、為し得ている所業である。


「刃が掠める度に冷たいんだよ、お前の神器は。毛布が欲しくなる」

「年寄りが身体を冷やすなよ。腹下すぞ?」

「喧しい。ひよっこの癖に人を年寄り扱いしやがって。まだ四十代だぞ、俺は」

「尚更体に気をつけなければいけない時期じゃないか。さっさと帰って寝た方がいいぞ」

「生意気な若者にお灸を据えたら、そうさせてもらうよ」

「氷にお灸は無理だろうな。消してしまうだろうし」

「何、溶かしてやるから問題はない」

「できるもんならな」


 ウェイルの神器は、氷の剣『氷龍王の牙』(ベルグ・ファング)

 神龍フレスベルグにより作られた、強力な氷の力を持つ旧時代の神器だ。

 この剣より出現した氷は、使用者の腕を氷で包んで融合、腕自信を一本の氷の剣へと豹変させる。

 鋭い斬撃は鉄板すらも軽く裂き、打撃は地を揺らす。

 噴き出る冷気は空気をも凍てつかせ、相手の動きを鈍らすことも出来るという、最高性能の神器であり名刀だ。

 だが、ウェイルはそんな最高性能の神器に空を斬らせてばかりであった。


「軽い身のこなしだ。捕えにくすぎるぞ」

「逃亡生活のおかげで身に付いただけだ。好きで身に付いた分けじゃないさ」


 斬撃は、ダンケルクに掠りもせずに、ただ空しく空を斬る音を響かせるばかり。

 多少フェイントを織り交ぜた攻撃も、全ては彼の持つ双剣に軽く受け流されていた。

 ウェイルが下手なのではない。

 ダンケルクの重心操作の上手さと、そして持っている神器に大きく影響されている。


「お前の神器、面白い性質をしていたのよな。確か名前は――」

『相思相愛剣』(ペア・ブレイド)。お前とアムステリアの関係みたいな名前だろ?」

「それ、アムステリアの前で言うなよ? ……しかし名前を聞けば聞くほど、オッサンには似合わないな」

「ハハッ、同感だ。俺も似合うとは思っていない」


 そこでダンケルクは、左手の剣を思いっきり振り切った。

 無論、予備動作が大きすぎて難なく避けることは出来、さらに隙だらけになっていたが、ダンケルクがそんな簡単なミスをする訳もない。


「だがな、こんな俺でも時には羨ましく思えるんだよ」


 なんとダンケルクはそのまま左手から剣を手放したのだ。

 手が滑った? 

 いや、そんな筈はない。

 それはウェイルが一番よく判っている。


「羨ましい? ダンケルク、結婚願望があったのか?」

「お前なぁ、俺も一応男よ。ないわけがないだろうが」


 双剣というジャンルの武器が、片手剣になったのだ。威力は当然半減だ。

 だが、ウェイルは決して油断はしない。

 何故ならその剣は、もう一つの剣と深く愛し合っていることを、熟知しているから。


「そうやって今まで戦った奴を油断させてきたんだろ?」

「お前は油断してくれないのか?」

「当たり前だ」


 残る右手の剣を力強く弾くと、ダンケルクの身体は隙だらけ。守る剣もない。

 本来ならばこれで詰みだ。

 しかし、ウェイルはここでチェックメイトに踏み込まなかった。

 それどころか体を左方向へとずらして、ダンケルクの正面より離脱する。

 結果的に、これは正しい判断だった。


「見切られてるねぇ」

「その神器を知っていたら当然だ」


 直後、ウェイルの頬をスッと冷たいものが過ぎる。

 パシッとダンケルクが受け止めたのは、今投げたはずの剣。


「『相思相愛剣』とはよくいったもんだ。事前にそれを知ってなかったら今頃背中に穴が開いてる」


 ウェイルは一旦ダンケルクと取りを取った。

 ダンケルクの握る神器『相思相愛剣』(ペア・ブレイド)の特性は、その名前の通り深く愛し合っていることだ。

 どちらかの剣を手放しても、すぐさま剣はもう片方の剣に恋焦がれて舞い戻ってくる。

 つまり手から離れている剣を操ることが出来ると言うことで、そのリーチは無限大ということにもなる。

 厄介なのは、この剣を戻ってこさせるタイミングすら、操ることが出来ると言うこと。

 常に二本の剣に、意識を集中していないと、油断すればすぐさま風穴を空けられる。


「無限にリーチがある双剣とか、厄介すぎるぞ……!!」

「厄介だろ? なら諦めてくれないか?」


 ダンケルクは再び、今度は二本とも宙へ放った。


「そうもいかねーよ……!!」


 空中をブーメランの如く舞う双剣が、ウェイルに次々と襲いかかる。

 紙一重で回避、避けられない剣は弾き飛ばす。

 躱し、叩き落とした剣すらも、ペアブレイドにとっては生きている刃。

 再び浮かび上がって、剣と剣は互いに激しく愛し合う。


「きりがないっての……!! ……ふん……ッ!!」


 これ以上剣の嵐を浴びるのも良い結果にはならない。

 だからウェイルは、氷の剣の出力をさらに増加させて威力を上げると、飛び掛かってきた双剣に対して思いっきり振り飛ばした。


「よし……!」


 氷の剣は見事双剣を同時に弾き返す。

 その勢いはかなりのもので、双剣はしばらく帰ってこられない場所まで弾き飛ばされた。


「ダンケルク、そろそろ終いにしよう」


 武器を弾かれて丸腰となったダンケルクに対し、ウェイルは足に思いっきり力を込めて踏込み、彼との距離を一気に詰めた。


「ダンケルク。最後だ。もう止めてくれないか」


 ウェイルが覚悟を決める。

 ダンケルクの返答次第では、氷の剣を真っ赤に染めると言う覚悟を。

 彼らのしていることは、例え自分の手を汚してでも止めねばならないこと。

 それがセルクから託された想いでもある。

 しかし、ダンケルクから帰ってきた答えは、予想だにしないものだった。


「殺してみろ。殺せるものならな」

「…………!!」


 この期に及んで、ダンケルクは心理戦に持ち込むつもりなのか。

 確かにウェイルに躊躇はある。ダンケルクは今敵とはいえ、頼れる先輩であったのだ。

 でも、そう言うことを考えるのは後回しだとウェイルは覚悟をしている。

 ダンケルクを刺すと言う選択肢しかないのならば、迷う必要ないと。


「宣言する。お前には俺を殺すことは出来ない」

「……安い挑発だよ、ダンケルク。俺がそんなに甘い人間に見えるか?」


 ウェイルの目が、少しずつ暗くなっていく。

 その表情は、フレスと出会う前のウェイルそっくり。

 『不完全』という敵であれば、どういう事情があろうと情け無用で惨殺していた、当時のウェイルの様に。


「――俺はそこまで甘くない」


 ウェイルの一閃は、それこそ情けも何もない、凄まじく早く鋭い一太刀であった。


「なっ…………!?」


 ダンケルクの放つ魔力が消えていく。

 だがウェイルは、今の一振りの手ごたえに驚愕していた。

 そして耳を掠める声。


「――お前はやっぱり甘いよ、ウェイル。俺はヒントを上げてたんだから」


 ウェイルの渾身の一撃は、またもや空を斬る音を響かせただけであった。


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