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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
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神龍『ティマイア』と、フレスの決心


 集中祝福期間最終日。

 その前日の夜のことである。

 唐突にウェイルの前に現れたのは、敵であるはずのフロリアとニーズヘッグであった。


「ウェイルに伝えておきたいことがってさ。明日のことなんだけどね――」


 いつものように飄々と語るフロリアであるが、ウェイルの目はごまかせない。

 彼女の話す姿は、なんだか少し焦って見えた。

 それに彼女はこの話をウェイル達にする必要性は本来は無い。

 彼女の語る話は、『異端児』がこれから行う計画を、細々と説明するもので、立場を変えれば裏切り行為に他ならない。

 何故彼女はこのような行動に出たのだろうか。ウェイルは推理を巡らせていた。


 嘘をついてこちらを惑わすつもりなのか。


 ――いや、それはなさそうだ。目を見ても、彼女にはなんだか嘘を吐く余裕もなさそうだったからだ。


 話の内容は突拍子もないものもあったが、ニーズヘッグが無表情なところを見ると、本当のことに違いない。

 フレスを前にしたニーズヘッグは、素直であることを知っている。

 話の途中、フレスが目を丸々とさせていた場面もある。


 ――それは彼女の話に『龍』の存在があったから。




 ――――

 ――



「フレス……、気を付けるの……。ティアが……いるの……」

「ティアが!?」


 フレスを前になんだか嬉しげなニーズヘッグが、おずおずとそう言うのに対し、フレスはこれ以上ない驚きの声を上げていた。


「フレス、もしかして龍か?」

「……うん。ボク達、神龍の仲間なんだ。ボク、サラー、ミル、ニーズヘッグ、そしてティア。これで全員揃ったんだ」

 フレスの表情はとても複雑そうである。

 現代に五体全員が揃うことが奇跡であって、でもそれは同時に不幸な前触れでもあると言う。

 龍が勢ぞろいした時代には碌なことが起こらない。

 これは歴史がすでに証明していることだ。


「ボク、以前ミルのことを危ない存在だって言ったよね。確かにミルは危ない存在だよ。神龍の中では一番危険――人間にとってはね」

「人間にとっては……?」


 フレスの間の開け方には、何かしら深い意味がありそうだ。


「ミルは確か人間に相当な恨みがあったんだよな」

「そうだよ。だからミルは人間には容赦しなかった。でもね、人間以外には、ミルはとっても優しかったんだよ。生意気で子供っぽいところはあるけどさ」


 後半は、そりゃお前もだろと突っ込みたくもなる内容であったが、黙って頷き、話の続きを聞く。


「だからボクら龍や神獣にとって、ミルはそれほど怖い存在でもなかった。本当に怖いのはミルじゃない」


 フレスはもう一度間をおいて、そして――


「――ティアなんだ」


 ――最後の龍の、名前を告げた。


「そいつは一体どんな奴なんだ……?」


 ウェイルの質問に、ニーズヘッグがズズイと出てくる。

 そして一言こう呟いたのだ。


「ティアは……壊れているの……」


「壊れてるの!? それってニーちゃんもじゃない、やだー」


 キャハハと笑うフロリアに、アムステリアのゲンコツが炸裂している間に、フレスが補足説明を入れる。


「ティア。正しい名前をティマイア。光の力を司る最強のドラゴンだよ」

「最強、か……」


 フレスにこう言わしめるほどの実力の持ち主と言うことは、人間では手も足も出ないということ。

 そんな龍が、壊れているというのはどういうことなのだろうか。


「ティアは、本当はとても優しい龍だったんだ。ボクとも仲良くしてくれて。龍の皆を大切にする、親友だったんだよ。でもティアはある事件を機に変わっちゃった」


 フレスの声のトーンが一気に下がる。

 見ればフレスの目じりには涙も。

 彼女はこんなにか弱い娘の姿であるが、実質は何千年を生きてきた龍の娘だ。

 想像を絶する過酷な環境だって経験しているはず。

 親友が、目の前で変わっていく様を、心の優しいフレスが見て、ショックを受けぬはずはない。


「聞かせてくれ、フレス。何があった」


 今師匠として出来るのは話を聞くことだけ。それに務めようと思ったのだ。


「ティアは人間との戦争の時、ボクを庇って攻撃を受けてくれたんだ。その攻撃は普通の攻撃じゃなかった。三種の神器の一つ、『心破剣ケルキューレ』のものだったんだ……!!」

「ケルキューレ……!? ……そうか……」


 フレスはケルキューレのことを知っているような節を見せていた。

 それはまさにこのことなのだろう。

 ケルキューレはフレスにとっても因縁の神器というわけなのだ。


「ケルキューレはティアの心を壊してしまった。だから以前のティアはもういない。残ったのは人間だけでなく龍にとっても危険なティアだけなんだよ……」


 親友が変わってしまい、相反する敵となる。

 その話を聞いたウェイルとイルアリルマにも、似たような境遇がある。

 だからフレスの痛みは身を持って理解している。


「フレス、お前はティアと再会したら、どうするんだ?」


 意地悪な質問かも知れない。

 自分自身、ダンケルクの扱いを決めかねているのだから。

 だがフレスは強い光を持った目で、しっかりとウェイルと目を見合わせて、断言した。


「ティアはボクが止める。それがティアに対するボクなりの友情だよ」


 フレスの口調はとても頼りがいのある力強いもので、その横顔を見ていたニーズヘッグが「フレス、かっこいいの……」と漏らして頬を染めるほどであった。


「判った。フレス、頼む」


(……俺も、決めたよ)


 弟子が決心したんだ。自分も心を決めなければならない。

 ダンケルクと決別する決意。

 それを今、弟子から貰ったのかも知れない。


「ケルキューレはこの世に存在しちゃいけない。だからボク、全力で行くよ」

「ああ、頼んだぞ」


「話まとまった? じゃあ話を続けるねー」


 そしてフロリアの話は続く。


 『異端児』の計画が、徐々に露わになっていき、その内容はウェイル達の推理が正しかったと裏づけられるものであった。



 ――

 ――――



「――ということなんだ。だから、命が惜しければ早く逃げた方がいいと思うな」


 あらかた話し終えたフロリアの最後のフレーズは、何故かダンケルクとも被る。

 ウェイルは案外敵から心配されているようで、なんだか苦笑ものだ。


「ここまで来て逃げることなんて出来ない」

「そうだよ。それにボクらだけ逃げるなんて卑怯だから」

「そりゃご立派な覚悟なこと。私なら逃げるけどね~」

「フロリアは……卑怯者、だから……なの」

「ニーちゃん酷くない!?」


 変におどける二人を見て、ウェイルは浮かんでいた疑問を直接ぶつけることにした。


「なぁフロリア、どうして俺達にこの話をしてくれたんだ? 俺達はお前らから見て敵だろう?」

「どうしてだろうなぁ? 気まぐれ? ねぇ、どうしてだろうね、ニーちゃん?」

「知らないの……フレスの為……?」

「うんにゃ。フレスの為なわけないでしょ。どうでもいいって、こんな娘は」

「……ボクの扱い酷い人多いよね……」

 ちらりとアムステリアを見ると、どこ吹く風といった表情である。


「ま、気まぐれってことにしときましょうぜ、ウェイルの旦那!」

「適当すぎるぞ、お前」


 惚けるフロリアにこれ以上追及はしない。

 こいつともソコソコ長い仲になる。無論友好的な関係ではないが。

 基本的にこいつの行動原理は理解不能なことが多々あるが、ウェイルは一つだけフロリアのことを信じることが出来る要素を知っている。


「ま、信じるか信じないかはウェイル次第だね! じゃ、私とニーちゃんは帰るからね!」


 それだけ言って、フロリアとニーズヘッグはスッと去っていった。


「嵐のような娘ね。言いたいことだけ言って帰っちゃった」

「…………」


 フロリアが去って行ってから、フレスは終始無言だった。

 それも無理はない。

 まさか『異端児』に最後の龍の存在があるとは思わなかったから。

 それにティアは親友だったと言った。

 今決心をしたばかりではあるが、フレスはそう簡単には割り切れないはずなのだ。

 何せフレスは――優しいのだから。


「あの人の話、信じられますかね? もしかしたら罠ってことも……」


 イルアリルマの心配は尤もである。

 フロリアは敵だ。その敵の話を鵜呑みにするのもまずいことではある。

 だが、ウェイルとフロリアの付き合いは結構長い。だからこそ判ることはある。


「俺は信じるさ。あいつはこんなに出来た話をでっちあげるほどの嘘つきじゃない」


 あまりにも詳しすぎる説明だ。嘘を吐くにしては出来過ぎている。

 これまでのフロリアの嘘は、大抵すぐにばれるようなものばかりだ。

 本人だって考えて嘘をついているわけじゃないのだろうし。

 それにあいつはあいつなりに思うところがあったはず。

 そもそも嘘を吐く為だけに、こんな大それた行動をするような馬鹿でもない。


「ま、あいつはあいつなりに考えてるんだろうさ」


 裏切りはフロリアの十八番だ。味方を裏切り敵に付くなんて、いつものことだ。


「さて、フロリアの話を考慮して、作戦を少し練り直さないと」


 そう言ってアムステリアはフレスの方を見る。

 落ち込んだ様子のフレスの肩を叩いてウインクしてやり、こう言った。


「フレス、龍が出てくる以上、アンタの力が鍵となる。さっきの決心は中々良かったわよ! 任せるわ!」

「う、うん…………――えっ?」


 ドンと、アムステリアに背中を叩かれたところで、フレスはとあることに気が付く。


「テ、テリアさんが初めてボクを名前で呼んでくれた……!?」


 そういえばアムステリアはいつもフレスのことを小娘と呼んでいた。

 それがどういう風の吹き回しか、彼女は今、間違いなく名前で呼んだ。


「テリアさん……?」

「あのね、アンタはこの中で一番強い力を持っているの。つまりフレス、貴方でなければ龍には立ち向かえない。ひいてはウェイルやリル、そしてこの都市を救えない。フレスでないと、出来ないことがたくさんあるの。だからもっとしっかりしなさい!」

「う、うん……!!」


(そうだ、ティアが出てくる以上、ボクがしっかりしないと……!!)


 それに初めてアムステリアから認めてもらった。

 この事実がフレスには嬉しくてたまらない。


「うう、ボク、嬉しくて感動して泣きそうだよ!」

「……まあ、私もアンタの力は認めざるを得ないのよ。それにこの度はアンタの力なしじゃこの都市を守れない。小娘とまた呼ばれたくないのなら、死ぬ気でやりなさい!」

「はい!」


 そんなやり取りの二人を見て、これじゃアムステリアの方が師匠みたいだと、苦笑しながらポリポリと頭を掻くウェイル。


「フレス、頼んだぞ。アムステリアの言う通り、お前が鍵だ。俺の弟子なんだ。大丈夫だよな?」

「任せてよ、師匠!」

「さて、皆。これを持っていきなさい。このラインレピアは広いから、これはかなり役に立つはずよ。数が足りないから、フレスには渡せないけど」


 アムステリアがバッグの中から煌めく石を三つ取り出して、それを一つずつウェイルとイルアリルマに手渡した。


「こいつは……、確かに便利だな……!!」

「うん、これは確かにボクには要らないよね!」

「さあ、作戦会議、続けるわよ!」


 そしてフロリアの話を元に、四人は作戦をさらに練り、一睡もすることなく、そのまますぐに行動を開始したのであった。



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