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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
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始まりの鐘の音


 ――集中祝福期間、最終日。


 七日間にもわたって繰り広げられた集中祝福期間のイベントも最終日と言うこともあり、ラインレピアの都市は、誰も彼もがお祭り騒ぎに興じていた。

 途中悲惨な事件も発生したが、およそ事件に関わりのない人々の大多数の人々は、このお祭りを事件なんざ関係なく最後まで楽しむ予定のようだ。

 昼間にも関わらず酒をあおる者の姿もちらほらと見受けられ、お祭りの盛り上がりは今まさにピークと言えよう。

 まさかこのような愉快な日が、壮絶な日になるとは誰が予想できたことか。


 ――『異端児』達は、すでに配置についている。


 この都市の崩壊と共に現れる、三種の神器の一つ『心破剣ケルキューレ』の降臨を拝むために、だ。

 全ての準備を整えて、後は静かに時を待つだけ。


 ――時計は間もなく、正午という時を告げる頃。


 イドゥの作戦は、時計の針が綺麗に重なり天を向いて一本になる瞬間より始まる予定だ。

 作戦開始時刻まで、後三分を切っている。


「フンフフフ~ン♪」


 イドゥの隣で、ご機嫌そうに鼻歌を歌っていたのは、仮面の男、通称リーダー。


「ご機嫌だな、リーダー」

「そりゃね! イドゥだって、ちょっとにやけてるじゃない」

「……まあな」


 イドゥも年甲斐もなく興奮していた。

 人知を超えた力を間近で臨めるチャンスなのだ。

 興奮せねば嘘というもの。


「ついに三種の神器を拝めるねぇ。楽しみだなぁ」

「ああ。我々の念願に一歩近づける。ワシも久しぶりに心躍っているよ。長生きはするもんだな」


 時の時計塔、大ホール舞台上で、そんな会話を交わしながら佇む二人。


「ねぇ、フロリアはどうだったの?」


 彼女の様子がおかしいことは、誰もが判っていた。

 もう慣れたことではあるが、彼女には裏切り癖がある。

 それが彼女の「異端」な部分であり、個性でもある。

 『異端児』は名の通り、異端な連中が集まった組織だ。

 だからフロリアの裏切り行為自体、誰も咎めようとする者はいない。

 裏切っても「ああ、またか」程度にしか思わないのだ。


 だが今回の作戦は勝手が違う。

 フロリアの裏切りによって、計画に支障が出るほどの甚大な被害が出るかもしれない。

 それを憂いたリーダーは、イドゥに事の顛末がどうなるかを訊いていた。

 しかし、訊ねられたイドゥはというと、表情一つ変えずに、


「判らん。まあ、大丈夫だろ」


 と断言した。


「イドゥでも判らないの?」

「ワシの神器の力も万能ではない。未来の情報は常に変化する。昨日は問題ないと出ていたが、先程は問題があった。しかしながらどちらが正しいかなんてことはワシには判断できん」

「そうなの? 凄く便利な力だと思ってたのにさ」

「便利には違いない。だがワシの能力は所詮ヒントを得ることが出来るだけだ。与えられたヒントを駆使して、次の行動を考え実行する、そのくらいのことしか出来んのだ。万能ではなく便利。その程度なんだよ」

「結構不便なんだねぇ、その未来を見る神器ってのも」

「いや、だから便利ではあると言っておろうに……まあ言わんとせんことは判るが」


 イドゥの耳に煌めく、ピアス型の神器。

 神器『祖先の記憶の箱舟』《アンセストラル・メモリー・ノア》。

 この神器はなんと未来と、そして過去に情報を送ることのできる神器である。


「こいつは情報の移動に著しい制限があるからな……。力には限界はある。だからこそ慎重に行動せねばならんわけだが」


 『祖先の記憶の箱舟』の情報を伝えることが可能な未来と過去は、それぞれ二日後までと二日前までのみである。

 過去から手に入れた情報をさらに二日後に送ることで、四日分の情報を移動することは出来るし、その方法を駆使すれば、さらに未来の情報まで掴むことが出来るだろうが、そこまでの酷使も難しい。

 未来や過去へ情報を送る、または情報を受信すると言う行為は、相当なる体内魔力を消費せねばならない。それ故に体への負担も大きい。

 それに情報の正確性も時間を遡れば遡るほど、曖昧性を含んでくる。

 過去と今、そして未来の自分で行う伝言ゲームのようなもの。

 何度も時間を跳躍すれば、その情報は古くもなり、同時に正確性は薄れてくるのである。

 非常に便利な力に違いはないが、発動の代償も大きく、情報の正確さもあまり信頼は出来ない。

 そうそう易々とも信頼も出来ない力であった。


「フロリアってば、慎重さも身長もないもんね」

「そのギャグは面白くないし、フロリアが聞いたら怒るぞ?」


 フロリアとニーズヘッグのことが気にはなるが、結局は彼女は『異端』な者だ。

 何か起こすにしても面白いことに違いない。

 リーダーはそう思って、彼女の後をつけることをしなかったのである。


「さて、そろそろ定刻だ。外の景色が見れないのが残念でならん」

「だねー。これから外は大変なことになるだろうしさ」


 作戦開始まで、後一分を切る。


「そういえばワシらを嗅ぎ回っている鑑定士がいたな。アムステリアと、もう一人は、なんて言ったっけか」

「……ウェイル」

「そんな名前だったか。新聞でも度々名前が出ていたな、そういえば」


 プロ鑑定士が新聞に載ることはあまりない。表舞台に出ることのデメリットを、皆よく理解しているからだ。

 そんな鑑定士連中の中、結構な頻度で名前を登場させていたウェイルは、大陸内ではちょっとした有名人でもある。


「そんな有名人だったのか」

「そりゃ龍を連れているからね。有名にもなるだろうさ」


 リーダーは知っていた。

 ウェイルのことも、フレスの存在も。

 それも――本人達よりも詳しく知っている。

 

「そっか、ウェイルかぁ。……久しぶりに聞いたよ、その名前。あの時以来だねぇ」


 クックと笑うリーダー。


 仮面のせいで表情は見えないものの、とても楽しげで、そして――とても狂気的だった。


「ティアはどうしてる?」

「手筈通りに行ってるはず。任務が終わったら、こっちにすぐ来る予定。三種の神器の暴走を止められるのは龍だけだしね」

「……ふむ。……始まるぞ」


 ――時計の針が、見事に重なった。


 ゴーン、ゴーンと鐘の音が響き渡っていく。


 祝福された七日目の最終日の、正午を告げるために。


 厳かな音は、二人の心を静かにさせて、そして狂気へと駆り立ててくれる。


 鐘の音が鳴り止んだと同時に、時の時計塔に衝撃が走った。


 遠くに聞こえる爆音は、祭りの開始を告げる合図。


 全ての終わりを告げるお祭りは、たった今始まったのだ。


「さあ、本当のお祭りの始まりだ! 楽しもうね!」

「このまま何も起きず、順調に進めば楽しいのだがな。……そう簡単には行かないだろうがな」


 イドゥはピアスを手に取ると、軽く握り締めて見つめた。


「さて、この計画が成功する未来は……」

「見たの? 見てないの?」

「見てないさ。そっちの方がお前さん好みだろう?」

「勿論! その方が絶対、面白いしね!」


 これから始まる宴、それは勿論楽しい方が良いに決まっている。



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