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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
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真の狙いと、深夜の来訪者



「落ち着いたか?」

「うん」

「一応ね」

「すみません……」


 三者とも落ち着いてくれたようで何よりである。


 まあフレスとアムステリアが騒ぎ過ぎて宿のマスターから――


「――やかましい! 叩きだすぞ!! 痴話話なら外でやれ!!」


 ――なんて苦情が来たものだから、これ以上は騒げなくなってしまっただけなのであるが。

 ということで若干小声にして話を続ける。


「もう一つ、伝えることがある。ダンケルクは最後にこう言ったんだ。『今日中にこの都市を離れておけ。明日になれば、この都市は『沈む』からな』ってな」


 ウェイルはダンケルクから受けた忠告を、三人にそっくり聞いたままを話した。

 何やら意味深な、暗号とも取れるこの台詞に、聞いた三人も首をひねる。 


「都市が沈む……? どういう意味だろう?」


 敢えて『沈む』と表現したのだ。この言葉には何か意味はあるはずだ。


「何かの比喩、何でしょうか……」

「ダンケルクは比喩表現を使うような、オシャレな台詞を吐く奴だったかしら……?」

「ねぇ、ウェイル。その意味なんだけど、ダンケルクが言ったってことは、おそらくそのままの意味だと思う」


 アムステリアやイルアリルマもフレスの考察に同意して頷く。

 

「そのままの意味と言えば、この都市が水で沈むっていう意味か?」

「他に沈むっていう表現は聞いたことないもん」

「ここは運河都市。運河が氾濫すれば、沈むっていうのは再現できるはずよ」

「……まさか奴ら、運河を氾濫させるつもりなのか?」

「だとしたら逃げておけと言う意味も判るでしょ。危険だから逃げておけと。ダンケルクなりに後輩に気を使ってくれたのかもね」


 ダンケルクのことだ。それは大いにあり得る。


「だが、水はあるのか? この都市を沈めるほどの水量なんて」


 運河を氾濫させ、都市を飲みこむほど水が、この都市のどこにあると言えるのか。

 運河を運営しているわけだし、ある程度の水量は確保しているだろうが、それにしたって都市全部を沈めるほどの水量があるとは思えない。


「……ありますよ」


 イルアリルマが呟く。

 彼女は何か気づいたようで、顔色が少しだけ青くなっていた。


「……どういうことだ?」

「この都市の運河は水はですね。近くの山に作られた溜め池にて操作されているんです」


 そこまで聞いて、三人はハッと気が付いた。


「この溜め池を崩壊させれば、溜まった水はこの都市に一気に押し寄せると思います。都市を丸ごと飲みこむ、大津波となって……」


 ラインレピアに入る前に、イルアリルマは目が見えない故に、この都市の地図を完璧に頭の中に叩き入れており、ついでに都市の周辺についても調べていたのだ。

 運河を操作する溜め池の存在も、この時知ったという。


「ウェイル、もしさ、運河が氾濫したら、一般住民は何処に逃げると思う?」


 フレスは何か悟った様子で、そんなことをウェイルに尋ねてきた。


「運河が氾濫したら、か。そりゃ当然高い場所に――……高いところ……ッ!?」


 そこで皆が敵の真の意図に気が付いた。

 なるほど、この方法ならば奴隷を使わなくても、魔力が自然と時計塔に集まる。

 何とも一石三鳥なやり方だ。


「住民はより高所、つまり――時計塔に逃げる。それを利用する気なのか……ッ!!」


 先程の疑問が一気に解消された。

 同時に、あまりにも卑劣なやり方に腹立たしさも覚える。


「奴ら、溜め池を崩壊させて運河を氾濫させるつもりなんだ……!! それに怯えて時計塔へ逃げ込んだ人々の魔力を使って神器を動かし、時計塔を起動させる。水の時計塔は、運河の水で起動できるし、効率を考えればそれが一番手っ取り早い、なるほど、外道にも程がある……ッ!!」


 運河の崩壊は、今まで集めた敵の情報を纏めるに、それほど大した仕事ではなさそうだ。

 それほどまでに強力な神器を、メンバー一人ひとりが所持しているのだろうから。


「ウェイル、今からすぐにでも動けないのかな! 一人でも多く逃げてもらわないと!」


 フレスの言う動くとは、都市の住人に声を掛けてこの都市から避難してもらうこと。


「……避難を呼びかけるのは難しいことだ」


 正直に言ってそれは無理というもの。

 フレスの話を信じて、住み慣れた都市を捨ててまで逃げ出す住人などいるはずもない。

 この都市でそれなりの権限を持つ人間が発するのであれば多少の効果はあるだろうが、この都市ではフレスは所詮観光客。

 観光客の戯言に、一体誰が付き合うものか。


「ボクの言うこと、信じてもらえないのかな……」

「残念だが、信じてはもらえない。例え信じてもらえても、実際に行動する奴は少ない」


 人は皆、実際に被害に遭うまでは、人の忠告など聞く耳を持たない。

 自分には関係ないと、信じ込んでしまっているから。


「どちらかというと運河の氾濫を止める方が良さそうね」


 そうすれば避難はせずに済むだろうし、水の時計塔も動かせない。

 こっちの方が遙かに現実的ではある。フレスの力を駆使すれば、だが。


「ボクら、これからどう動けばいいの?」

「『異端児』共を止める。そして何より、この都市を守らなければならない。知ってしまった以上責任があるからな」


 そう言ってウェイルはふと、机の上に投げっぱなしになっていた『セルク・ブログ』を見た。

 セルクの最後の言葉を知ってしまったウェイルは、セルクの意思を継ぐ必要がある。

 無駄に正義感の強いウェイルだ。責任は果たそうとするに違いない。


「うん。ボク、ウェイルについていくよ。ボクも責任、果たすから」


 だからフレスはウェイルの手をそっと握った。

 危なっかしい師匠を守るために、自分は傍にいようと決めた。

 フレスには予感がしていた。

 明日、途方もない力が、この都市に現れるだろうと。

 だからこそ、フレスはこの都市と、そして師匠を守ると固く誓った。

 もう目の前で大切な人を失いたくない。

 もう目の前で、大好きな都市が滅ぶのを見ていたくない。


「運河の氾濫はボクが止める」


 フレスは迷わず、そう言い切ったのだった。



 ――それから深夜遅くまで、最悪のケースを考えての会議を行った。



 アムステリアやフレス、イルアリルマのもたらしてくれた情報から、各々最適な役割を与えて、来るべき時に備えることになった。

 そんなところに、部屋の扉をノックする音。


「……誰だ……?」


 ウェイルが恐る恐る扉を開けると、そこには――


「やっほー、ウェイル。今良い? 良いよね? ちょっと伝えたいことがあってさ」


「――フロリア!? 何しに来た!?」

「まあまあ、ちょっと面白いお話がありましてねー。入るよー」


 ――あまり見たくない者達の姿があったのだった。


 深夜の来訪者がもたらした情報は、ウェイル達の推理の正しさを裏付ける結果となる。


 各々の役割分担の重要性が、さらに増したのであった。


 集中祝福期間 最終日。


 この大イベントの最後の歌劇を演じるのは、ウェイル達と、『異端児』達。


 そしてその開催場所は、中央地区――時の時計塔。


 これから始まるアレクアテナ大陸最大の危機は、この日より始まるのだった。




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