贋作士VS元贋作士
「久しぶりねぇ、ルシャブテ。貴方、全然変わってないじゃない」
逃げる参加者を一通り気絶させたアムステリアがルシャブテに話しかける。
「お前はずいぶん変わったよなぁ? あんな貧弱そうな鑑定士に骨抜きにされちまってよ」
ルシャブテは客の心臓を引き抜いたときのように爪を伸ばした。
「昔のお前は良かったぜ? いい感じに狂っていやがった。自分に酔っていやがった。だが今はどうだ。腐った魚見てーな目になってよ」
「お生憎様。私は今でも酔っているのよ? もうベロンベロンにね。これも全てウェイルのおかげだわ」
言うが早いかアムステリアはルシャブテに蹴り掛かった。
「おっと」
ルシャブテもそれを読んでいたのかスルリと避ける。
「蹴りはまだ死んでないようだな」
避けたルシャブテはバランスを崩すことなく体制を整え、素早く胸元へ入り込んできた。
とっさに後ろへと飛んだが、予想以上に爪の太刀が速く、躱しきれずに服が裂け、白い肌が露わになった。
「あらあら、せっかくのドレス、台無しだわ」
「そうか。それは済まなかったな。お詫びに代わりのドレスを用意してやるよ」
そのままの勢いで攻めてくる。アムステリアは今避けたことによってバランスを崩してしまい、一瞬身動きが取れなかった。
その隙を狙ってルシャブテはさらに踏み込み、剣のような爪をアムステリアの心臓目掛けて突き出した。
「――死に装束、なんてのはどうだ!?」
グサッと胸に爪が突き刺さった。
「それはありがたいわね。でも遠慮するわ」
「そうか? お似合いだと思うぞ?」
ルシャブテが力を込め、そのまま心臓を抜き出そうとする。
だがルシャブテはそこで違和感を覚えることになった。
「……? 何故だ、何もないぞ!? 心臓おろか他の臓器まで!?」
「あら、ばれちゃったわね」
胸に爪が刺さったまま、アムステリアが答える。
「……私の心臓はね。こんなところにはないのよ?」
突き刺さった爪を握る。そのまま力を込め、力任せに爪をへし折った。
「うがぁぁぁぁ!!!」
ルシャブテが苦痛で悲鳴を上げる。
その様子を見てアムステリアはニヤリと唇を歪めた。
「あら、いい声で鳴くじゃないの……」
ルシャブテは傷みで崩れ落ちそうになる。だがそれをアムステリアは許さない。
胸元を掴み無理やり立たせた。もちろんアムステリアには爪が刺さったままだ。
「フフ、ドレスが血で汚れちゃったわね。お・し・お・き、しないとね♪」
胸に爪が刺さっていることなんて忘れているように、アムステリアの動きが止まる様子はない。
それどころか、先程より激しく容赦ない蹴りをルシャブテに浴びせる。
「ふぐっ!!」
「ああ、いいわぁ……。その声、もっともっと!」
「うがぁぁ!! クソ、どういうことだ、胸に爪が刺さっているんだぞ……」
かなり蹴りを浴びせているがまだ口を利く余裕があるみたいだ。というのもアムステリアはわざと急所を外して蹴っていたのだ。簡単に倒す気はないらしい。
「そろそろ飽きてきたわね……。もうお終いにしましょう。いい声のお礼に命だけは許してあげる」
「……何故だ、何故この俺が……」
「簡単な話よ。貴方より私の方が強かった。そして――」
メキョ……。
アムステリアがルシャブテの急所を蹴り飛ばした音だ。
「あがぁ…………っ!!」
悶え苦しむルシャブテをあざ笑うかのようにアムステリアは言い放った。
「――私がまだ狂っていた。ただそれだけよ♪」
ルシャブテはそのまま崩れ落ちた。
アムステリアは刺さっている残りの爪を引き抜く。
倒れたルシャブテを見下しながらアムステリアは呟く。
「どうしよう、このドレス、結構高かったのに。……足に来ているわね」
アムステリアの足が震えていた。足に力が入らなかった。
「この体も不便ね……。少し休まないと――」
アムステリアが息を整え、目を閉じたとき、すると体から力が抜けその場に崩れた。