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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
359/500

時計塔の謎、リルの推理


 報告会も次が最後。

 トリを飾るのはウェイルだ。

 他の二組と違って、明確なる情報を手に入れていたウェイルは、どこから話したものかと少しだけ迷う。

 とりあえず見て聞いたことを、順を追って話すことにした。


「時計塔で、ダンケルクに会ったよ」

「……へ……っ?」


 思わずキョトンとするフレス。段々言葉の意味が分かってくると、ええっ!? と叫び驚いていた。

 見るとアムステリアすらも目を丸くしている。


「ダンケルクさんに!? ウェイル、カラーコインは!?」

「持っていなかった。まあ、やつの言葉を信じるのなら、だけど」


 持っているかと問われて、はい持ってますと答える盗人はそうやいやしない。

 だが、あの時のダンケルクは本当に持っていなかったはずだ。

 何せカラーコインを欲しているのは、ダンケルクではなく、その後ろであるからだ。


「ダンケルクのおっさん、なんて言ってたの?」

「色々と話してくれたよ。俺に知らせる必要のないことまでな」


 そしてウェイルはダンケルクと話した内容を語った。

 ダンケルクの言葉に、自分の解釈まで付け加えて。


「時計塔の秘密を話してくれた。時計塔は神器だ。そうだな?」


 そう問われてフレスが頷く。


「うん。あれで魔力を集める気なんだと思う」

「それがな。ダンケルクはこう言っていた。時計塔に魔力が必要なわけではない、と」

「……時計塔自体には魔力は要らないってこと……?」


 どういうことだろうと、フレスが頭をひねる。


「それはおかしい話じゃないの? だって敵は、魔力を集めるために奴隷オークションを開催しようとしたんだから」

「そうだよな」


 ダンケルクが言っていたことと、敵の動きがまるで違うことが、そもそもおかしいわけだ。

 時計塔には魔力が必要ない、ダンケルクは間違いなくそう言った。

 だが、事実メルソークや、それを利用した『異端児』は、時計塔を用いて魔力を集めようとしているわけだ。


「時計塔の名前にも触れたな。『水』や『音』と名前がついていることは、神器の性質を表していると俺は思っていたが、ダンケルクはそれは違うと言っていた」

「なんて言ってたの?」

「神器の『性質』ではなく、『糧』だとな」

「糧……? つまりそれって、神器の発動条件ってことよね」

「水の時計塔には、水がいるってこと……?」

「それが神器の発動条件なんだろうさ。しかし水と言っても、どういう風に使うのか判らない。ここは運河都市だから、水自体はいくらでも手に入るだろうけど……。しかし他の時計塔は一体……?」


 この都市にある時計塔は、全部で五つ。


『水』、『火』、『音』、『光』、そして――『時』。 


「あ、あの、時って、なんなんでしょうか……?」

「時間を糧に……? そんなもの、どうしようもないよな」


 そこまでウェイルが言ったとき、フレスが、ピクッと顔を上げた。


「ウェイル、どうしようもあるよ。神器を使えば」

「時を操る神器があるのか?」

「ううん、操ることは出来ない。でも、時を超えることや戻ることの出来る神器は、数少ないけどあるんだ! もしかしてそれを使う気なのかも……!!」

「…………!!」


 フレスの指摘に、今度はアムステリアが手で口を押えていた。


「……なるほどね、イドゥの奴、そういうこと……!!」

「アムステリア……? 何か知ってるのか?」


 一人で納得しているアムステリアに、ウェイルが訊ねた。


「ううん、直接知っているわけじゃない。でもね、イドゥは昔から、凄まじく感が良かったの。それこそ、本当に未来を見てきたかのようにね」

「未来を……!?」

「それが神器の力であるという確証はない。でもね、疑って損はないわ」


 それが本当だとするのであれば、『糧』を用意するのは、もはや難しいことじゃない。

 だが、糧のことが解決しても、疑問は残る。


「じゃあ何故奴らやメルソークは魔力を集めようとしたんだ……?」


 三人が考え込む中、おずおずと手を上げたのが、イルアリルマだった。


「あ、あの」

「どうした? リル。何か判ったか?」

「あの、私思ったんですけど、魔力はやっぱり必要なんだと思いますよ。だって、時計塔を『糧』は、そんなに小さな出力じゃダメなんですよね? 『火』だって蝋燭の火じゃダメでしょうし、『水』だって、時計塔には雨が降り注ぎます。その程度の力じゃ意味がない、そういうことですよね。だったら、時計塔を動かすにはそれ相応の力の出力がいりますよ。それは神器じゃないと出来ない。その神器を動かすための魔力は、必要なんじゃないですか?」

「…………そうか!」

「…………!」

「あ、あの、どうですか? 私の推理……」


 自信なさげに引き下がるイルアリルマの肩に、ウェイルはぽんと手を置いた。


「流石だ、リル。一度は俺を出し抜いただけのことはある」

「え? えっと、私の推理、大丈夫そうですか?」

「大方正解でしょうね、それ。なるほど、『糧』の高出力には神器が必要、その神器には魔力が必要。判りきったことね」

「そもそもこれから出てくるのは三種の神器なんだ。力を抑えるために、時計塔以外の封印術が施されていてもおかしくない。それを解除するためには、当然膨大な魔力がいるだろう。魔力はあって困るものじゃない」


 魔力は必要ないという、ダンケルクの断片的な情報に踊らされていた。

 よくよく思い出すと、ダンケルクは「時計塔の発動には魔力は必要ない」とそう言っていた。

 だから彼は嘘をついていない。なにせ時計塔には魔力は必要ないのだから。


 しかし、時計塔を動かすために必要な神器の魔力は、当然必要になってくる。

 だから当初は本当に奴隷や客を集めて魔力源にするつもりだったはずだ。

 それがアムステリア達の活躍によって、計画に変更が生じた。


 謎は残る。

 計画が変更されたとはいえ、魔力は集めないといけない。

 ではどうやって集めるのか、だ。


「オークションなしで魔力を集める方法か……まだ考察が必要そうだな……」


 しかしながら、リルのおかげで考察が一歩前進した。


「リル、お手柄だ。おかげで奴らが明日、どうやって神器を発動させるか判った」

「い、いえ、お役に立てたのならなによりです……」


 照れるイルアリルマに、ウェイルはさらに、


「リルはいつだって、俺達の支えだよ。役に立たないなんてことがあるわけがないさ」

「……は、はい……」


 なんて無駄に臭い追撃をかましているのであった。

 顔を真っ赤にしているイルアリルマに対し、他の二人から冷たい視線がウェイルに刺さる。


「な、なんなんだ? その視線は……」


 ジトーと見つめてくる二人に、ウェイルは意味が解らずたじろいだ。


「あーあ、ウェイルってさ、たまにすごーく恥ずかしいこというよね」

「珍しく小娘と同意見ね。まさかウェイル、また浮気してリルを口説いてるの?」

「くどっ!?」

「あのな、別にそういうことを言ってるんじゃねーよ。それになんで浮気になるんだ、浮気に。俺はお前のもんじゃないだろうが」

「そうだよ! ウェイルはテリアさんのじゃなくて、ボクのなんだから! 全く!」

「……テリアって呼ぶなと言っただろうに、小娘が……!!」

「いいじゃない! そろそろ慣れてよ!」

「開き直り!?」


 ついにはいつも通りの喧嘩を始めてしまうフレスとアムステリアに、照れ果てたのかポーっと惚けているイルアリルマの姿を見て、明日からのことを考えると頭の痛くなったウェイルであった。


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