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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
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甘さと優しさ

「私は人助けしちゃっただけだからね。あまり面白い情報はなかったわ」


 アムステリアは自分が時計塔で経験したことを、かいつまんで話してくれた。

 すでにオークションは潰されていたこと、潰したと思われる女に襲われたこと、そしてその襲ってきた女の命を助けたこと。


「あの娘が持っていた神器、剣型の神器だったのだけど、かなりの業物だったわ。並大抵の神器じゃない。おそらくは旧神器」

「旧時代の神器だったの?」

「アムステリア、その神器の特徴は? フレスなら判るかもしれん」


 旧神器ならばフレスの分野。

 フレスの知識には、今まで何度か助けられている。


「特徴、か。大きさは大人が三人がかりじゃないと持ち上げられないくらい大きな剣だったわ。刃の色は黒光りしていて、破壊力が凄かったわね。刃物と同時に鈍器みたいだったわ。切れ味も凄まじいのだけど」

「おい、ちょっと待て、大人が三人で持ち上げるような大剣って、お前を襲ったのは女一人なんだろ!? どういうことだ!?」

「どういうこともこうもないわよ。巨大な剣を、女の子が軽々と片手で持って振ってきた。それだけのことよ」

「神器に持ち主に怪力を与えるとか、持つときだけ軽くなるとか、そう言う力を持っている神器なら、結構あるよ?」

「う~ん、多分あの子、本当に怪力なのよ。だってその神器の本当の力はそんな生易しいモノじゃないから。ほら、ウェイル、見て?」

「何を――――だっ!?」

「あわわわわっ!? テリアさん!? 何してんのさ!?」

「……?」


 一人視力のないイルアリルマ以外は、皆突然のことに目を丸くしていた。


「ほら、ウェイル? 欲情した? 襲ってきてもいいのよ?」

「馬鹿なこと言ってんじゃない! 早く服着ろ!」


 アムステリアは、唐突に衣服を脱ぎ始めたかと思うと、下着まで脱ぎ捨て上半身裸となり、自慢のスタイルを二人に見せつけてきたのだ。


「おおおおおお、おっぱい大きい!? そういえばテリアさんの裸、見たことなかったかも!?」

「ほーら、ウェイル、ここを見て?」


 自分の胸を指さすアムステリア。


「見られるわけがないだろ!?」

「あら、私の胸は見る価値がないって? 心外ねぇ」

「そういう意味じゃないだろう!?」

「そういう意味じゃないって言いたいのは私よ。ほら、見なさい」

「だから見れないって――」

「……およ? ウェイル、見てみてよ。これ……」

「フレス、お前まで何言って――」

「違うよ! テリアさんの胸に、傷がある! 痣が残ってる……!?」

「それがどうかした――――痣がある……!?」


 おかしい。それはないはずだ。


「……ホント、なのか……?」

「ホントよ。だから見て見なさいって言ったのに。ウェイルってば、こういうところはヘタレになるのよね」


 などと文句を垂れながら、さっと服を着るアムステリア。


「見たでしょ? 私の胸の痣。この私に、未だ痣が残っているの。私だって驚いているんだから」

「いや、見ては無いが……。だが、お前に体に傷を残すなんて、よほどの神器じゃないと無理だ……」


 アムステリアの身体には、神器『無限龍心』が組み込まれている。

 そのせいでアムステリアの身体は老いもしないし朽ち果てることもない。

 どれほどの傷を負ったって、すぐさま体は修復されるし、傷が痣となって残ることなど絶対にない。

 それほどまでに彼女の持つ神器『無限龍心』の力は強大なのだ。


「『無限龍心』の力と対等、もしくは上回る力を持つ神器ってことか……」

「あの神器、おそらくは切り捨てた者の魔力を吸い取ってしまう神器ね。魔力を糧に強大な破壊力を生む神器。彼女は私に追い詰められた最後、自らの魔力を剣に吸わせようとした。それを私が止めて、こんなあり様よ」


 フフ、とアムステリアは苦笑していたが、後悔している様子はなさそうだ。


「私なら魔力をいくら吸われても死ぬことはないからね。彼女の代わりに私の魔力を上げたのよ」

「敵に塩を送ってどうするんだよ……」

「私が身代わりにならないと、彼女、死んでたから。自らの剣に殺されてた」

「人助けって、そういうことか……」


 とはいえ、アムステリアの様子が、普段と少し違うことに気が付く。

 いくら敵が命を落としそうになっていたとしても、所詮敵は敵だ。

 普通の敵であれば、アムステリアは黙って見守っていただろうし、むしろ止めを刺しに行っているに違いない。

 先程の苦笑の顔は、どこかで見たことがある。

 あれはそう、なんだか昔を思い出して、懐かしさで笑みを漏らしてしまったような、そんな表情。

 フレスがライラを、アムステリアがルミナステリアを思い出す時のような、そんな顔だった。


「魔力を吸う、かぁ……」


 神器の特徴を聞いたフレスは、何やら心当たりがあるのか、少しそわそわしている。


「それ、ボク聞いたことあるかも。人間の魔力を無理やり奪って、死ぬまで吸い続ける旧神器だ。多分ミルは詳しいと思うよ。ボク、ミルから聞いたからさ」


 過去、ミルはフレスとは違い、率先して神器を操る人間と戦っていた。

 その際に、この神器は気をつけろと釘を刺されたことがある。それが今回の神器だと言う。


「……それほどの神器を持っているということは……。アムステリア、襲ってきた女と言うのは、『異端児』だったのか?」


 ウェイルの推理に、アムステリアはコクリと頷いた。

「そうね。イドゥの名前に反応していたし間違いないかしら。……イドゥの奴、あんなじゃじゃ馬、どこから拾って来たんだか。……まあ私も人のこと言えないけど」


(全くだ)

「全くだ! ……ふぎゃ!?」

(……バカフレス……)


 思ったことを口にしてしまうフレスは何と素直で、そして愚かなのであろうか。

 笑顔のアムステリアから繰り出されたチョップは、フレスの頭の上に、綺麗な山を作らせた。


「うみゅう、痛いよ……」

「お前、そろそろ思ったことをすぐに口にする癖直しておけよ。リグラスラムでも痛い目を見ただろうに」

「ううう、だって、勝手に出てきちゃうんだもん……」

「……ホント馬鹿な娘……」


 呆れるアムステリアは、そんな二人を無視して話を続ける。


「私が聞いた情報は、『異端児』が三種の神器に関わっているかということ。答えはイエス。奴らの目的が『三種の神器』であることは間違いない」


 直接聞いた情報であるし、何よりイドゥが絡んでいる。間違いはなさそうだ。


「他に情報は?」

「ごめんなさい。これくらいしか判らなかったわ。その子、イドゥの為なら命は惜しくないと言っていた。事実自身の魔力を神器に吸わせていたしね。そこまでするような子だから、おそらく拷問しても口は割らないでしょう? だから、これ以上の情報は手に入らなかったわ」

「……そうか」


 話を聞く限り、その敵の女もかなり狂ってるところがある。

 危険な神器を振い、人を殺すことも厭わぬ癖に、恩人の為ならいくらでも命を掛けることができる。

 こういう覚悟を決めた者は、とにかく危険で、厄介だ。

 もしこれから相対することになるのであれば、これほど怖い存在は無い。


「なぁ、どうして助けてやったんだ? 自分の身を挺してまで」


 これから脅威となる存在なわけだ。潰すなら早いに越したことはない。それが判らぬほどアムステリアは甘く温い女ではない。

 つまり彼女は敢えて敵を生かした。その理由が知りたかった。

 ウェイルの質問に、アムステリアも少し困った顔を浮かべていた。

 というよりは申し訳なさそうな顔と言った方が近いか。


「一応、私にとっても恩人、だからね……」

「……恩人?」

「ええ。恩人なの。『異端児』の連中を指揮しているイドゥって男は、私とルミナスの命の恩人なの。前話したことあるでしょ?」

「……ああ、そういえば聞いたよ。ジャンクエリアでお前達を拾ってくれた男だな?」

「そうよ。イドゥに会えなかったら、私とルミナスはあの時殺されていた。命を助けてくれたばかりか、私達に働き場所と、そして居場所をくれた」


 ――ああ、だからか。先程アムステリアが懐かしそうに笑みを浮かべていたのは。


「イドゥは自分が拾った子供は、本当に大切にする。おそらく今日会ったあの子も、イドゥに大切にされていたのね。だから命を捨ててもいいなんてまで考える」


 ――そう、アムステリアは、放っておけなかった。ただそれだけだ。


「私は彼女の気持ちが理解出来た。私だって、昔はイドゥとルミナス、リューリクの為なら命なんて惜しくなかったもの。だからかな……」


 ――アムステリアは優しい。何せ――


「彼女をみすみす殺したくはなかった。だって、彼女が死ねば、イドゥ、絶対に悲しい筈だから」


 ――自分と同じような境遇の、それも後輩を、敵と言う垣根を越え、同情してしまっていたのだから。


「躊躇いなく人を殺す人間だけど、イドゥは自分の子供のことだけは本当に大切にしていたから。私もね、少し甘くなっちゃった」

「…………そう、か」


 ――憂いた表情を浮かべるアムステリアのことが、何故だか少し愛おしく見えた。



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