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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
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イルアリルマの覚悟

 ―― 一方、ウェイル達はと言うと。


「さて、今日あった出来事を全て話してくれ」


 宿の部屋に戻ってきたプロ鑑定士の面々はというと、各々が担当した場所で発生した出来事を報告しあう会議を行っていた。


「フレス、リル、頼む」


 まずはフレス共に時計塔へと向かったイルアリルマからということで、二人は頷いた。

 宿へ帰ってきた当初は、フレスがやけに興奮していて、ウェイルも宥めるのに時間が掛かったほどだ。何か想像もつかないことが起こったに違いない。


「それがさ! 酷い話を聞いたんだ! ボクもう頭に来て頭に来て!」

「いいから落ち着け。でないと伝わらないぞ」

「う、うん……」


 頭を撫でられて幾分落ち着いてきたのか、


「ふう、やっぱりウェイルに頭撫でられると心地いいねぇ……」


 なんて呟きながら次第に笑みまで見えるようにもなっていた。

 背後からアムステリアの激しい殺気を感じもしたが、気づいていない様子に振る舞って、イルアリルマの話に耳を傾けた。


「私、『異端児』の一人と接触しました。人間ではなくエルフです。名前はルシカ=ルワカ。かつて私の親友だった――いや、私は今も親友だと思ってる女の子です」

「エルフが、『異端児』に……!?」


 エルフは『不完全』の被害者に回ることが多い。

 まさか贋作士のエルフがいるとは思いもしなかった。


「ボク、あのエルフ嫌い。大嫌い。リルさんに酷い目を合わせた奴なんだ」


 ふん、とまたも機嫌を損ねるフレス。

 よほど腹立つことがあったのだろう。

 我慢できないと言った様子で、リルの代わりにフレスが語り出した。


「ボク達は、あのエルフからリルさんの過去と、目を失った本当の原因を聞かされたんだ」

「本当の原因? 高熱の後遺症って言ってなかったか?」

「いえ、私もそう思っていたのですが、どうやら違うみたいで」

「あのエルフ、リルさんのことを嵌めて騙して、視力を奪ったんだ……!!」

「感覚を、奪う……!?」


 イルアリルマの壮絶な過去。

 ルシカはイルアリルマにとっては大切な親友であった事。

 そしてルシカはイルアリルマを裏切り、彼女から大切な感覚を奪い去った事。

 そのせいでイルアリルマは今尚苦労している事。

 途中からは半分涙さえ浮かべながら、フレスは説明していた。

 そんなフレスの話を、イルアリルマは一切止めず口を挟まず聞いていて、話し終わった後、一言ありがとうと述べてフレスの肩を抱いていた。


「……なるほどね、感覚を盗む、か。何らかの神器を使ってるのね」


 アムステリアも心臓を盗まれた者。

 臓器と感覚という内容こそ違うものの、他人に自分の一部を盗まれると言う境遇は一致している。

 自分と同じような目に遭った者が、こんな身近なところにいたということに、少しばかり同情を含んだ複雑な気持ちとなる。


「それでリル、この会議の本題からずれるんだが、聞いておきたい。お前はルシカって奴から感覚を取り戻したいのか?」


 その質問に、イルアリルマは少しばかり沈黙すると、やがてフルフルと首を横に振った。


「私、視覚や触覚を取り戻したいかと問われたら、もちろん取り戻したいです。でも、私がそれを取り戻して、今度はルシカの感覚が失われるのなら、私は返してもらえなくてもいい」

「リルさん……」


 フレスはイルアリルマの名前を漏らすだけで、もう言葉を紡ぐことはなかった。

 その様子と、フレスの性格を考えると、すでにフレスとイルアリルマは、その事について話をしているのだろう。


「親友と戦ってまで、感覚を取り戻したいとは思わないと、そういうことか」

「……はい」


 こっくりと、しかし確実に頷いた。

 それに対して、ウェイルの顔から優しい色が消える。

 あるのは、イルアリルマの見定めするような、威圧的な色だ。

 

「じゃあもう一つ確認だ。ルシカは『異端児』だ。感覚の為でなく、『プロ鑑定士』として親友である『贋作士』と戦うことになった時、お前は戦えるのか?」

「ウェイル、そんな質問意地悪だよ!」

「フレス、お前は黙ってろ!!」


 堪りかねて口を出したフレスに、ウェイルが怒号を飛ばす。

 ウェイルの目を見て、フレスも黙るしかなかった。

 フレスだって、判っている。なにせ自分達はプロなのだ。

 だからこそ状況によっては冷徹にならなければならないこともあるということを、イルアリルマは理解しないといけない。

 たとえ相手が親友でも、場合によっては剣を胸に突き立てる覚悟を持たねばならないのだと。

 しかし、そんな二人の心配は杞憂だったようだ。


「プロとして、ルシカを止めます。私が、必ず」

「判った」


 力強い言葉に、ウェイルは安堵すると共に、彼女の決意を背負う覚悟をしたのだった。



 ――――

 ――


「感覚を奪う神器か、フレスは聞いたことあるか?」

「う~ん、ないこともない、かなぁ。でもボクが知っているのは、対象の相手を麻痺させるものでさ。武器と言うよりは治療具として使っていたんだよね」

「麻酔の役割をする神器ってことか。なら今回のとは違うだろうな」

「神器回路の組み方は多分違いと思うけどね」


 ルシカの証言からフレスの知識を使って推理すれば、次第にルシカの持つ神器の力が見えてきた。


「ウェイル、たぶんルシカって娘の神器、精神系の神器ね」

「精神系なのか? 感覚を司るものだろ?」

「精神系の神器は、恐怖を与えたり洗脳するものばかりだと思ってる?」

「そうじゃないのか?」


 実際にテメレイアは精神介入系神器のせいで、ミルを助けるために大変な目をしたのだ。


「そう言う神器は確かに多いわ。でもね、今回のケースは少しだけ違う。今回のケースは、人を騙すタイプの精神系神器だから」

「私、騙されてるのですか……?」


 そんな心当たりはないと、イルアリルマも首をかしげた。


「あのね、貴方しっかりと騙されてるわよ。だってリルは目が見えないと、触っても感じないと、そう暗示を掛けられているだけでしょうから」

「……ええ!?」


 アムステリアの解析に、思わずイルアリルマは声を上げた。

 フレスも唖然と絶句している。


「暗示を、掛けられているだけ、なんですか?」

「その神器を見たわけじゃないから分からないけど。リル、貴方、視力を失ったことについて、医者から見解をもらっていたわよね?」

「はい。お医者様は病気や高熱の影響じゃないと」

「原因は分からなかったのね?」

「はい」

「まあ、そうでしょうね」

「……どういうことですか?」


 少し落ち着かないといった様子のイルアリルマに、アムステリアは容赦なく告げた。


「だって、貴方の目と皮膚は、全く損傷を受けてないのだから。つまり病気が原因なんかじゃないってこと」

「……え?」


 間抜けな声を漏らしてしまったフレス。

 イルアリルマに至っては驚きすぎて声を失っているほどだ。


「貴方の目、見た感じ正常に動いてるわよ? 皮膚だって、触感を失っている感じは全くない。ちゃんと反応しているわ。ただそれを脳が認識していないだけ」

「私の目が、正常……?」

「アムステリアが言うならそうなんだろうよ。もしかして感覚を奪う神器に心当たりはあるのか?」

「ええ、といっても今話を聞いて思い出したのよ。ルシカルワカって名前、ちらっと聞いたことがあったのよ。そういえばいたわね、『不完全』にエルフの子が。イドゥのことを心酔していた、あの子の事でしょうね。一度襲われたことがあるわ」


 アムステリアも、組織から追われていた時に見たことがあるという。

 およそ持っている力は並みの贋作士以下であったが、彼女は周囲の贋作士のサポートをしていたそうだ。


「感覚を奪う……、そう、あの神器よ。体中をだる気が襲い掛かってきたあの時。私は常人じゃないから感覚を奪うことが出来なかったのに驚いたのか、そのまま逃げ去ったんだったわね」

「アムステリアの感覚は奪えなかったのか」

「私は特別だから。でも、これは武器になるわね」

「だな。その女に出くわしたときは、お前の仕事になるだろうさ」


 ルシカの神器の力はイルアリルマには通用しない。

 これは対ルシカ対策として相当な武器になるはずだ。

 だが、その会話にイルアリルマが割って入ってきた。


「ルシカは、私がやります」

「リルが? だが、相手は感覚を奪うような奴で――」

「――彼女は、私がやります! さっきも言いましたけど、ルシカは私が相手をします!! やらせてください!!」


 珍しくイルアリルマが叫んでいた。

 先程のウェイルの質問の時もそうだが、イルアリルマは自分なりに硬い意思と決意を持って、ルシカに相対すると決めた。

 その熱意と意気込みを、無碍には出来ない。


「判ったよ。頼んだ」


 掛ける言葉はそれだけでいい。

 アムステリアも見ると、仕方ないわね、なんて呟きながら少し嬉しそうに頷いてき返してきたのだった。

 


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