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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
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お祭りの始まり

「さて、これで準備も整ったか」


 時の時計塔 中央大ホール。

 この場所にイドゥを中心とした『異端児』のメンバーが全員集合していた。

 普段であれば各々好き勝手な行動や会話を楽しんでいるはずであるが、今回に限っては皆真剣な面持ちで黙ってイドゥの言葉を待っていた。

 負傷しているアノエは一人椅子に座って腕を組んでいたのだが、その面持ちと瞳の色に敗北の色合いは皆無。

 むしろ何か決意を秘めているような、そんな瞳の色合いをしていた。


「計画は最終段階に移る。お前達にはこれからの作戦について全て伝える」


 イドゥの前置きに、一同の喉が鳴る。

 ついに仲間達にも隠されていた任務の全容が明らかにされるからだ。


「この作戦が終わった時、この大陸、いやこの世界自体が、我々の自由になることだろう。お前達はこの世界から見れば『異端』な者達だ。だがこれから伝えることを、お前達は実行に移したのならば、お前達は『異端』でなくなる。そうだ。我々こそが全ての中心となる」


 イドゥの力説を、皆黙って聞いている。

 ここにいる者は皆、世間から異端とされた連中だ。

 イドゥの言葉に、各々想うところがあるのだろうか。


「イドゥ、前置きはいいから、早く話してあげなよ」


 コツコツという足音と共に、イドゥの後ろから、今度はリーダーが現れた。


「僕達が世界を掌握する。こんなに愉快なことはないね」


 相も変わらず不気味な面をつけていて表情は判らぬが、その口調はなんだか楽しげであった。


「イドゥ、そろそろ今回の任務だけでなくさ、僕らの計画の最終目的までの全部を皆に話そうよ。こんなに面白いことを、皆に黙っているのはもう我慢できない」

「いいのか? 話しても」

「いいさ。ここにいる皆は僕の仲間だからさ」

「そうか。判った。リーダーがそう言うなら」



 そしてイドゥは、『異端児』のこれから為すべき計画の全てを、メンバー全員に話した。


 イドゥが言葉を連ねる度に、驚き、声を上げ、そして笑う。


 皆表情は違えど、似たような笑みを浮かべているに、やっぱりここのメンバーは異端児なんだなとルシカは実感していた。



「リーダー、やっぱりお前らは面白い。乗って正解だった」


 計画を聞いたダンケルクは満足そうに頷いて。


「るーしゃ、二人だけの世界、ようやく作れる!」

「いらねーよ」


 目を輝かせたスメラギがルシャブテに抱きつき。


「存分に斬れそうだ……! 楽しみだ……!!」

「ティアも遊べる!?」

「十分、遊べますよ!」


 無邪気に笑うティマイアと微笑みを返すルシカ。


「…………」


 最終計画を聞いた『異端児』達は、一人を除いて皆満足げに頷いていた。

 ただ一人、フロリアを除いて。


「フロリア? どうしたの?」

「ううん、何もないよ。うん、何もない」


 妙な反応と、なんだか憂いた顔を見せるフロリアにルシカは少しだけ不審にも思った。

 しかしいくらフロリアでも、こんな大それた計画を聞かされたのだ。

 武者震いや緊張があるとするならば、それも当然かと思ってそっとしておくことにした。

 ニーズヘッグというと黙ってフロリアの後姿を見守っていた。


「さて、それでは計画を実行に移す。明日が最も重要な日だ。失敗は許されん」


 集中祝福期間最終日。

 この祝福されるべき日に『異端児』達は、この都市での仕事の全てを終了させる。


「皆には次の通りに配置についてもらう。邪魔する者がいれば、容赦しなくてよい」

「それは殺してもいいということだな?」

「ルシャブテ、お前がそうしたいのなら好きにしろ。計画が成功するのであれば何をしたって構わない」

「そうか。久しぶりに腕が鳴る」

「ルーシャの場合、爪だけどねー」


 そしてイドゥは明日の計画の詳細を語った。

 その話を聞いて、面倒な仕事が回されたと嫌な顔をする者、あまり興味ないとあくびする者、腕を組んで納得だと頷く者、楽しみだと目を輝かせる者と様々だったが、彼らから計画に反対する者は出てこなかった。

 なんだかんだ言って、彼らは最終目標が楽しみで仕方がないようだ。


「ダンケルク、ルシャブテ、スメラギ、そしてティア。お前らに発動は任せる。面倒ではあるが最も重要な仕事だ。頼むぞ」

「は~い、ティア、頑張るよ~」

 

 意気揚々と手を上げるティアの隣で、指を咥えて不満そうな顔を浮かべているスメラギ。


「またルーシャと別々……でも、今回も我慢する。後で思いっきり甘える」


 そんな言葉は軽くスルーして、ルシャブテは気分良さそうにニタリと笑みを浮かべていた。


「さて、久しぶりに暴れられるか……!!」

「ルシャブテ、あまりはしゃぐなよ。お前はいつも爪が甘い」

「はっ、ダンケルク、テメーには言われたくねーよ。この前だってあの鑑定士達を見逃しただろうが」

「あいつらを見逃した? ああ、お前にはそう見えたか。ならまだ青いな」

「なんだと……?」


 ルシャブテが爪を展開し、ダンケルクも双剣へと手を掛けた。

 一色触発の雰囲気。


「ほーら、お二人とも、喧嘩は全部終わった後にしましょうね」

「なっ!?」

「がっ!?」


 ひりついた空気の中、ルシカが二人の間を取り持つために、二人の聴覚以外の感覚を奪い去った。


「落ち着いた?」

「「……ああ」」

「ルシカの能力やっぱり怖い!? まあ喧嘩を止めるには最適だね」


 リーダーが声を上げて笑ったが、その声が唐突に消え去る。

 感覚を取り戻した二人も、リーダーの気配が変わったことに気付いた。

 周囲に緊張感が伝わったのか、皆口を閉じて、リーダーの言葉を待った。

 緊張感あふれる空気の中、リーダーが言う。


「まあまあ、緊張するのもいいけれど、せっかくだから楽しもうよ。世にも不思議な、誰も見たことのない最高の光景が僕らを待っているんだからさ!」


 手を広げ、天を仰ぐ。


「じゃあ、始めようか。僕らのお祭りを!」


 リーダーの宣言に、皆一様に笑みを浮かべて頷いた。

 そんな中、ただ一人同意する表情でなかったのがフロリアであった。


「はぁ~」


 フロリアは大袈裟にため息をついて皆の注目を集めると、踵を返して、この場から出ていこうとする。


「あれ、フロリア、どうしたの?」

「……ちょっと用事!」

「へぇ……」


 何かを吟味する様にフロリアを見るリーダー。


「悪巧みかい?」


 ねっとりとした嫌味な声だったが、フロリアはニカッと笑って、


「もちろん。でも心配しないで? 仕事に支障はないからさ。さて、ニーちゃん、遊びに行くよー」


 などとおどけてから、ニーズヘッグを連れて出て行った。


「イドゥ、あれ、大丈夫なの?」

「……ああ、問題ない。奴はなんだかんだでしっかりと仕事をこなしてるさ。それは確認済みだ」

「そ。イドゥがそれを聞いたんなら、大丈夫そうだね」


 イドゥの情報は絶対だ。

 そういう信頼が、ある意味では彼らの目を眩ます煙幕となることを、この場にいる全員、誰も想像もしてなかった。


「行動開始だ。各々、配置に付きに行ってくれ!」


 一週間にも及ぶ集中祝福期間。


 その最終日となる七日目は、歴史上稀に見る波乱の一日となるであろうことは、この都市に住まう住民の誰一人として知る由もなかったのだった。



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