表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
350/500

異端の奏でる交響曲


 ――一方その頃。


「さて、一通り面子は揃ったな」


 イドゥを中心として、『異端児』のメンバーが、薄暗い大ホールに集結していた。

 ここは中央『時の時計塔』地下ホール。

 本来であれば今頃、秘密結社メルソーク主催の奴隷オークションが、開催されていたはず。

 誰かさんにオークションを潰され、さらに組織のトップであったシュトレーム亡きこの会場は、すでに異端なる者達の住処と化していた。


「イドゥ、一通りじゃないよ~、アノエとルシカがいないからさ」

「判っておる。あの二人にはワシの代わりにそれぞれの奴隷オークション会場へと向かってもらった」

「何しにいったのさ? 奴隷オークションを守らせに?」


 イドゥはメルソーク総帥の情報を全て手に入れた。

 その情報を用いれば、イドゥが総帥の代わりになることが可能であった。

 元々総帥のシュトレームは表に立つ人物ではなかったことが、いいカモフラージュになっているのだろう。

 未だメルソーク会員らは、よもや総帥がいつの間にか変わったということなど、想像すらしていないだろう。

 奴隷オークションの開催を潰して回っている連中がいるという情報も、イドゥは知っている。

 だからこそ、アノエとルシカに魔力の根源となる奴隷達を守りに行かせたのだと、そう思っていた。


「いや、違う。逆だ。奴隷オークションなどさっさと潰してしまえと命令したのだ」

「潰すの!?」


 想像とは真反対のことに、思わず声が上ずるリーダー。


「ああ、そうだ。別に奴隷オークションに興味なんてないだろうが」

「ないけどさぁ。資金源にはなるんじゃない?」

「目先の利益にとらわれると、失敗するぞ。今奴隷オークションを開催してみろ。あいつと接触してしまう。それだけは勘弁だ」

「あいつって、アムステリアのことだよね?」


 アムステリアについての情報は、敵から偶然手に入れたもの。

 もちろん情報は『異端児』全員に共有されている。

 だからリーダーもアムステリアが奴隷オークションを潰して回っていることを知っていた。


「そうだ。アムステリアの奴、奴隷オークションを楽しみながら潰して回っているらしい。ワシの拾う子はどうしてこんなにおてんばなのか」


 イドゥの視線は、この場にいる全員にも向けられる。


 ――ドンッ……!!


 突如響いた強烈な音は、腕をぷるぷるさせるスメラギによるものだった。


「ちっ……、あの泥棒猫ババア……!!」


 アムステリアという名前に過剰反応を示すのがスメラギであった。


「あーあ、スメラギったら、机壊さないでよ。後片付けするのはダンケルクなんだから」

「俺はしねーよ。しかし、嫉妬というのは恐ろしいな……」


 机には見事な風穴が空いていた。嫉妬は机すら貫通するらしい。


「あの女、次るーしゃに手を出そうとしたら……殺す…………!!」

「……いや、いつもちょっかい出すのはルシャブテの方からでしょ」


 リーダーのニヤつく顔(といっても仮面のせいで判りづらいが)は、いつもルシャブテを憤慨させる。


「黙れ。あの女、腹立たしいんだよ。昔からな」

「だってさ、スメラギ。ルシャブテってば、昔からアムステリアのことしか頭にないんだって」

「ほ、ほんとなの……るーしゃ……?」


 上目遣いで涙目のスメラギ。

 スメラギのことを何も知らず、さらに言えば、鬱血しそうなほどの握力で腕を握られていなければ、とても可愛いと思える光景だ。


「は……はなせ……」

「るーしゃ、本当にあの女のことばっかなの……?」

「んなわけないだろ……!!」

「そう、よかったぁ!」


 パアっと笑顔に変わるスメラギと共に、ルシャブテの腕にもパアっと血が戻っていく。


「でも浮気したら、こうだから」


 ――ドンッ……!!


 机には綺麗な、二つ目の穴。


「あらら、だから掃除するのはルシカなんだからさぁ。ねぇ、ダンケルク」

「だな。ルシカが掃除担当だ」


 役職を決める会議に欠席する者は、いつの時代も勝手に面倒な役を押し付けられるものだ。


「いい? るーしゃ? いい? こうなるよ?」

「……ああ、判ったよ……」


 二つ目の風穴のおかげで、机はすでに机の意味を成してない。

 いつもながらに愛され過ぎというのは困ったもんだと、ルシャブテ以外の男子面々は揃って頷いた。


「お約束のコントはいらん。リーダーよ、あの二人を焚き付けるな。面倒だ」

「そうだね。ごめーん」


 全く悪びれていない所が実にリーダーらしい。似た性格のティアと息が合うわけだ。


「だが、どうしてアムステリアと接触はまずいんだ?」


 腕組みをするダンケルクがイドゥに問う。


「ダンケルク、お前ならあの女の実力は知っているだろう。不死身で、そして最上級デーモン(ジェネラル・デーモン)以上に強靱なキック力を持っている」

「……そうだったな。あの女は怒ると手に負えない。なるほど、ルシカやアノエには荷が重いということか」


 ダンケルクもアムステリアのことはよく知っている。


「一人で立ち向かうべき相手じゃないからな。今のプロ鑑定士協会は貧弱揃いだがあやつだけは別格よ」


 心臓を神器と入れ替え、不死身と化した元贋作士のプロ鑑定士、アムステリア。

 彼女と正面からやり合うのは、骨を折ると言うどころか、骨が何本あっても足りなさそうだ。


「だが偶然鉢遭う可能性もあるだろ? こっちが潰す前に奴が来る可能性だってある」

「だからルシカとアノエに行かせたのだ。ルシカであればあやつならではの感覚を使って逃げ切ることが出来るだろうしな」

「アノエを行かせた理由は?」

「アノエが唯一、アムステリアと対等に戦えるだろうからだ。アノエはワシの子の中でも別格の強さだからな……。といっても分が悪い勝負には違いないが」

「分が悪い、か。本当にそれだけならいいんだがな」


 実の所、すでにアムステリアと接触する可能性については『聞いて』いた。

 これからイドゥ達がどんな行動を取ろうと、必ずアムステリアは目の前に現れる。

 ならば、こちらの切り札であるアノエを先にぶつけるのが良いと判断したのだ。


「ねーねー、イドゥ」


 ティアがするするとイドゥのところへやってきて、ツンツンとお腹をつついてくる。


「どうした?」

「ティア達って、どこか時計塔に行くんじゃなかったの?」

「急遽止めたのだ。そうした方がいいと『聞いた』ものでな」


 微かにイドゥのイヤリングから魔力を感じる。

 ダンケルクも、その魔力光を目にしている。

 何となくイドゥの力を予測していたのか、うんと深く頷いた。


「先に時計塔へと向かった二人にはすでに話したが、お前らにはこれから三種の神器『ケルキューレ』復活についての最終作戦を伝える」

「コードネームは……(ケル)(キュー)()!? カッコいい!」

「KKR……。カッコいいの……」

「フロリア、ニーズヘッグ、急に出てきて変なこと言わんでよろしい。コードネームなどあるわけないだろうが」

「……残念」

「……なの」

「ティア、君はボケなくていいからな?」

「ティアの行動がばれてるーーーー!?」


 揃ってボケ集団である『異端児』であった。


「……いいから聞け。明日は準備だ。残った時計塔にも当然だが誰かに行ってもらう。ただし、リーダーとティアはここにいろ。来るべき時が来れば、二人には存分に働いてもらう」

「俺達は他の時計塔に行って何をすればいい。もう奴隷オークションは無いぞ」

「奴隷なぞいるか。人さえいればいいんだから。何、そのための手筈もすでに整えてある。ティア、頼んだぞ」

「はーい、任せてー! このラインレピアを、沈めちゃうからねー!」

「…………」


 嬉しそうにそんなことを言うティアに、ニーズヘッグの視線は冷たかった。


「ダンケルク、ルシャブテ、フロリア、お前達に与える作戦は――」


 『異端児』達の奏でる交響曲。


 時計塔の鐘の音から始まる旋律は、人々を戦慄させるほどの大事件(サビ)へと向かっていく。



 ――光の龍が、ラインレピアの最後へ向けて、異端が奏でるオーケストラのタクトを取る。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ