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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第一部 第二章 競売都市マリアステル編 『贋作士と違法品』
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裏の酒場『ハーヴェスト』

 ――午後六時五十分。

 ウェイル達は裏オークションが開催される酒場『ハーヴェスト』へと到着していた。


「全員、揃ったか?」


 ウェイルやフレス、サグマール、アムステリアを筆頭に、他のプロ鑑定士や治安局員、総勢二十数名程が集結した。


「この中にいるものは全員容疑者だ。一人も逃すな」


 サグマールが各員に細かい指示を与える。


「ウェイル……」


 フレスがこちらを見つめてきた。フレスが言わんとしていること――


「分かっている。イレイズとサラーは必ず現れ、戦うことになるだろう。そして絶対に――」

「――助ける!」


 そこにはフレスの強い意志が感じ取れた。俺だって同じだ。絶対に助ける。


「――突入!!」


 サグマールの叫び声が暗くなった通りに響き渡った。

 ウェイル達は扉を蹴破り、一斉に突入を開始する。


「な、なんだ!? お前らは!!」


 突然に入ってきた侵入者に、酒場に不釣合いな武装をした兵士数人が喚いていたが、かなり場慣れしているようで、すぐさま戦闘態勢を整え攻撃してくる。

 ウェイルも『氷龍王の牙』(ベルグファング)を取り出し、氷の刃を生成し腕と合体させた。


「死ねぃ!」


 武装兵が手に持つ剣を振り下ろしたが、ウェイルはそれを難なく受け流した。


「遅い!」


 ウェイルはすかさず肘で相手の鳩尾を突き、さらに頭に手刀を振り下ろした。

 たまらず倒れる兵士を避けつつ、更なる敵へと氷の刃を振るう。


「はああぁぁぁ!!」


 背後からはアムステリアの怒号が飛ぶ。

 素早く、そして重い蹴りが武装兵に襲い掛かる。


「あんたら、根性入れてかかってこいや!!」


 ドレスのスリットから時折見えるスラリと伸びた足を強調させながら、まるで草をなぎ倒すかのように武装兵を蹴り飛ばすその姿は、ヴァルキリーに匹敵するほどの美しさであった。

 ウェイルやフレス、アムステリアの活躍もあってか、戦況は圧勝だった。

 中には怪我をする者もいたが、その都度フレスが治癒に当たっていた為、大きな怪我人は出なかった。


 突入してわずか数分。ウェイル達は中にいた武装兵を全員縛り、逮捕した。


「――入り口がないだと?」


 部下からの報告を聞いたサグマールの声だ。

 確かにハーヴェスト店内に、裏オークションへと続いているような入り口は見当たらない。


「なら逮捕した者から聞き出せ。場合によっては怪我させても構わん」

「待て、サグマール。尋問の必要は無い。俺達に任せろ」


 サグマールが部下に指示するが、それをウェイルが制した。


「アムステリア。こういうとき、オークション会場はどこでやる?」

「もちろん地下ね」

「だよな。ならこうすればいいだろ? フレス! 頼んだ!」

「うん♪」


 フレスが床に手を着けたとき、そこから光と共に水が溢れ出した。

 溢れる大量の水は、あっという間に床に広がり辺りは水浸しになる。


「地下に繋がる入り口があるなら、水は必ずそこへ向かうだろ?」


 ウェイルが紙を取り出し水に浮かべる。

 その紙は流れに乗って動き、ある一点で動きを止めた。


「……ここだ」


 紙の止まった場所の床を、ウェイルは氷の剣で突きたてた。

 すると床は音を立てて崩れ、後には地下へと続く階段が現れた。


 今のやり取りにウェイルとフレス、そしてアムステリアを除く全員が驚愕した。


「な、なんだ、この子の力は? 手から水が出たぞ!?」

「ただの神器でしょ? 驚くことは何もないじゃない?」


 サグマールの問いにウェイルの代わりに何故かアムステリアが答えた。


「……そうなのか……、流石は神器。だがあれはどう見ても手から水が出たとしか……」

「サグマール。そんなことは今どうでもいい。問題はここからだ」

「そ、そうだな」


 怪しむサグマールだったが、状況が状況だけにそれ以上深くは追求してこなかった。


「ここから先は俺とフレス、アムステリアの三人だけで行く」

「無茶を言うな! 相手は何人いるのか分からんのだぞ!」


 ウェイルの提案はサグマールに反対される。当然だ。どんな敵がいるかも分からない場所にたった三人で行くなんて愚の骨頂だ。

 しかしウェイルが提案したのは二つの理由があった。

 一つ目の理由は保険だ。会場は地下にある。

 全員で行って万が一、敵にやられてしまった場合、外部に通報することが出来なくなる。

 そして二つ目の理由はフレスだ。

 下には間違いなくイレイズがいる。もちろんサラーもだ。龍同士の戦いとなること必至だ。

 龍と龍の戦いの激しさは人間の戦いの比ではないはずだ。巻き込まれる可能性が高すぎる。


「――私は良いと思う」


 アムステリアはウェイルの提案に賛成した。


「言っては悪いけど、あんたらお荷物。私らだけで何とかなるわ。それよりも中から逃げてくる連中を一人残らず捕らえる仕事に回ってくれないかしら。こっちの方が大変でしょ?」


 確かにその通りだ。サグマールも考えを改めだし、フレスの方を見た。サグマールはフレスが龍であることを知らない。ただの子供だと思っている。それ故に心配なのだろう。


「ボクなら大丈夫だよ。ウェイルが守ってくれるもん」


 フレスの実力を知らないサグマールは迷うのは当然だ。


「心配するな、サグマール。これでも俺の――」

「――弟子だもんね♪」


 フレスの返事を聞いて、ようやく頷いてくれた。


「分かった。中はお前らだけに任せる。恥ずかしいことだがワシ達の力はお前らの足元にも及ばない。だがな。ある程度時間が経っても戻らないようならワシ達も行くからな!」

「ああ、そうしてくれ。それよりも逃げた奴の取りこぼし、するんじゃないぞ!」

「ガハハハハ、鑑定士が取りこぼしなんてするもんか!」


 サグマールは三人の肩を叩いて見送ってくれる。



「行くぞ!」


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