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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
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神器『裂け目隠れの聖槍』(パラレル・グングニル)

 ――集中祝福期間 三日目。


 イドゥは、光の力を持つ龍『ティマイア』と共に、一足早くラインレピアへと潜入していた。

 その目的は、彼らの最終目標に必要なものを手に入れる為。

 すなわち三種の神器に関すること。


 イドゥは自身の神器による情報や、多方面にわたるコネクションを駆使して、秘密結社メルソークが、三種の神器の一つ『心破剣ケルキューレ』を手に入れようとしているという情報を掴んだ。

 二人の今の目的は、彼らの神器入手を阻止し、隙を見て奪取することである。


「ねーねー、どうしてイドゥはここに敵が来ると知ってるの? ティアはわかんないよ?」

「ワシの神器を使えばこの程度容易いことだ」


 イドゥの耳に怪しく光るイヤリングが、その神器なのだろうとティアは知っていた。

 おびただしいほどの魔力が、そのイヤリングから発せられていたから。


「どんな力があるの?」

「それはまあ、秘密ということにしておこうか」

「ぷー、イドゥってば、けちだね」


 ぷくーっと頬っぺたを膨らまして、不満げなティアである。


「そう怒りなさんな。ティア嬢ちゃんにもいずれわかる」

「ほんとう?」

「ああ。『二日』以内にな。それより、そろそろ静かにしたほうがいい。時間だ」

「は~い」


 イドゥとティアは、すでにラインレピア中央にある『時の時計塔』の天井裏に潜んでいた。

 時の時計とは、その昔から秘密結社メルソークの活動拠点であるという噂があった。

 下の門より堂々と入るのは監視やチェックが入るし、何より今日は貸切だという。

 だからティアに頼んで、屋上からの侵入をすることにしたのだ。


 太古の昔よりそびえ立つこの時計塔には、本来の時間を告げる役目の他に、二つの役目を持っている。

 一つ目が巨大な建物設備を生かした、劇場である役目。

 芸術の都と称されるラインレピアでは、演劇や歌劇などのエンターテイメント的な芸術が太古の昔より伝統的に引き継がれており、毎日のように何らかの演目が開催されている。

 人口の多いラインレピア住民だけでなく、観光客の収容も考えると、この時計塔くらいしか大規模な演目を開催できない。

 逆にそれほどまでに広く高くそびえる時計塔であるのだが、重要な役目がもう一つある。

 それは一般人にはまったく公開されていない役目。時計塔の秘密でもある。


 その秘密とは、この時計塔は、実は神器であるということだ。


 五つの時計塔は、旧時代に何らかの目的を持って建てられたという文献が残っている。

 今ではその目的が何なのか知ることも出来ないが、時計塔が神器であったというのは事実である。

 実際にティアに確認させたので、それは間違いない。 

 秘密結社メルソークが、この時計塔の秘密を握っているとされているが、そのメルソーク自身も眉唾物である可能性の高い組織故、誰も真相を求めようとはしなかった。

 ティアの魔力制御では、この神器が何の役割を果たしているかまでは判らない。


「イドゥ、下に誰か来たみたい」


 ティアが床に耳をつけて下の階の様子を窺う。

 微かにだが人の話し声も聞こえる。誰かが、何らかの目的を持ってここに来たに違いない。


「今日は一般客は入れないはずだ。貸切だからな」


 ここを貸し切るほどの力を持つ組織、

 そしてそれは秘密結社メルソークである可能性は高い。

 ということは、下にいる連中はメルソーク会員であるはずだ。


「……よし、下に降りて様子を見る。出来ればここは穏便に行きたい。見つかると面倒だからな。見つかるなよ、ティア嬢ちゃん」

「りょーかいしましたー!」

「……大声禁止だ」

「ぷー、わかったよ」


 イドゥは天井裏の隠れ床を外して、下の階層へと降り立った。



 ――現在 時の時計塔 八階。



「さて、どこへ向かおうか……」


 イドゥはそう呟くと、目を閉じて神器に魔力を集中させる。

 耳にしたピアスが赤と青に輝き始めた。 

 そうすると、脳内にとある声が響いてくる。


『――三階だ。三階以外の敵は殺して構わない。敵は十七』


「……よし」


 イドゥのピアスが光を失っていく。

 少し疲労感も込み上げてくるが、この程度ならば日常茶飯事だ。


「……三階か。ティア嬢ちゃん。すぐに動けるか?」

「ティアにおまかせ!」

「心強い。これから三階まで降りる。その道中、敵は十七ほどいる。ワシが七、嬢ちゃんは十やってくれ。頼むぞ」

「十もいいの!? 殺しちゃっていいの!?」

「嬢ちゃんの好きにしてくれ」

「ほんと!? やったー!!」

「油断はするなよ? 敵は神器を持っているはずだから」

「判ってる判ってるって! やった! 久々に遊べる!」

「三階の階段で落ち合おう。三階にいる敵は一切殺すな。後、出来る限り静かにな」

「は~い! やっほおおおおおお!!」

「全く聞いてない……」


 嬉さのあまりに雄叫びを上げながらティアは走り去っていく。

 天真爛漫すぎる相棒に、多少不安も覚えたりするが、ティアの実力さえあれば多少のことは目を瞑れる。

 いざとなれば敵全員を捕まえて拷問に掛ければいい。


「なんだ!? 今の声は!?」

 

 ティアの大声に、敵の監視が気づき、此方へとやってくる。


「むっ……!? あれは……同志じゃない! 偶然ここに紛れ込んだのかどうだか判らんが、今日は貸切。偶然ってことはないだろう。拘束させてもらう!」

「おっと、早速見つかったか。嬢ちゃんめ、後で少し説教せねば……。待てよ、教会の信徒と違って一人一人違う服装をしているのに、どうして奴らはワシを同志じゃないと判ったのだ……?」


 神器や武器を持つ二人に囲まれるイドゥ。

 相手に魔力が充満していくのが判るが、イドゥに焦りはない。


(メルソーク会員だけに判る何かがあるのか……? ……ふむ)


 むしろ落ち着いてそんなことを考えていた。

 事前にここへ来る連中だけ顔合わせをしていただけかも知れないが、メルソークは秘密結社。会ったこともない仲間だっていないことはないと考える。

 とすれば彼らだけに判る何かがあるという可能性が高い。


「見た目……。入れ墨でもしてるのか……?」


 敵は剣を振りかざし、今にもイドゥの命を断ちきらんと迫っているというのに、そのイドゥはというと、のんびりと腕を組んで考察をしていた。

 そんなイドゥに対し、敵は神器の刃を容赦なく振り降ろしてきた。


「先にあの世へ行っててくだされ。いずれ我々も行きます故!」


 剣の刃がイドゥへ降りかかる瞬間だった。

 イドゥの目に、鋭い迫力が宿る。


「やれやれ、久々にこいつの出番かな」


 イドゥは背中に手を回すと、普段から持ち歩いている細い槍を取り出して、瞬時に剣を受け止めた。


「先に行くのは御免こうむるぞ。もう少し長生きしたいのでな」

「小癪なっ!」


 二人目の剣が、横腹目がけて振われた。


「小癪などと、若造の癖に寝ぼけたことを言いよる」


 槍の先端を床に付けて、続く追撃を完璧にガードし、そして。


「メルソークの若造よ。恨みはないがあまり時間がないものでな。そう長くは相手できん。その詫びと言っては何だが、素晴らしいものをお見せしよう」


 イドゥがそう言うと、持っている槍から、光が放出されていく。

 ただ、その光は輝いていない。光を発するというよりも吸い込むと言った表現が正しいか。


「神器『裂け目隠れの聖槍』(パラレル・グングニル)。こいつはこの世界から忌み嫌われる槍。それはすなわち、この世界の常識を割く槍。こいつの見せる光景は、人生の最後を飾るにふさわしい。さあ、存分に楽しんでくれ」

「――――!? ――くっ!?」


 敵の一人の足から、唐突に鮮血が上がった。

 イドゥの槍に切られたか。

 いや、そんな素振りは一切なかった。

 イドゥは、ただ天井に向かってクルリと槍を回しただけだ。


「お、おい、大丈夫、ふぐっ!?」


 今度はもう一人の男から鮮血。

 しかもそれは腹のど真ん中からの出血だった。

 無論イドゥに攻撃した素振りは無い。


「ど、どういうことだ……がはっ!?」


 次は足。今度は腕。そして耳。

 一度たりとも攻撃は当たっていないのに、どうしてか体中切り刻まれている。


「気が付いたか? ワシはしっかりと攻撃しておる」


 イドゥがブンと槍を地面に付くと、今度は背中から激痛が走った。


「遠距離に攻撃できる槍、なのか……!?」

「左様。よく気づかれた。褒美に楽に殺してやろう」

「ふ、ふざける――」


 生々しい音が廊下に響き、二人分の首が転がった。

 彼らの体が元にあった場所には、どうしてか槍の先端だけが現れていた。


「こいつは世界から外れた槍。この世界の空間を跳躍して、別の場所へと現れることが出来る。ワシはここから一歩も動かずに、敵の好きなところを切り刻める。実に年寄り向けの神器だよ。こいつは」


 転がる死体を踏み越えて、イドゥは進んでいく。


 イドゥが三階に降りるまで、敵と三度交戦したが、イドゥの服には返り血の一滴たりともつかなかった。


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