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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
334/500

夜の女子会は喧しい

 ――一方、『異端児』女子会の面々はというと。


「判らないなぁ……。何か判った? スメラギ」

「判ったよ」

「ホント!?」

「うん。私じゃ判らないってことが判った」

「自信満々に言うことじゃないよ……」

「う~ん、イドゥさんに解読をお願いしようかなぁ」


 『セルク・ブログ』の解読作業を進めていたものの、あまりの難解さに揃って頭を斜めにしていた『異端児』女子会の面々は、さらに揃って大きな欠伸を一つ――ではなく三つ。

 スメラギの冗談ではないが……いや、実際は的を得ている解答で、本当に三人にとって判ったのは、自分達では判らないということだけだった。


「でもさ。イドゥは今回の作戦を事細かに指示してきたでしょ? 誰に何を手に入れてこい、とか詳しい指示をさ。ということはだよ。もしかしてイドゥってば、この内容のこと、知っているのかも」

「あのジジイならあり得ると思う。でも、だとしたら、『セルク・ブログ』盗む必要、ない」

「必要ないのに盗んじゃった人、ここにいますけど」

「うっ! 心が痛い!?」


 二人のジトーとした視線がフロリアの胸に突き刺さる。

 見れば後ろでニーズヘッグさえも視線を送っていた。


「……でもフロリアさんの言う通り、イドゥさん、知っていたのかも知れませんね」


(あの人、多分知っていたんでしょうけど。情報を盗み出したのは、多分『条件』なんでしょうね)


 心の中だけで、ルシカはそう感想を漏らした。

 イドゥは時折未来でも見てきたのかと思うような行動を取ることがある。

 そして実のところ、彼は本当に未来の情報を手に入れることが出来る。

 この彼の持つ神器の力についてルシカ以外は誰も知らない。

 時を超える力を持つイドゥの力は、人に知られていないからこそ真価を発揮すると言える。

 だからルシカはその秘密を徹底的に守っている。


「「「う~~~~~~~ん…………」」」


 そして三人はまたしても揃って首を斜めにした。


 ~ 以下三人の脳内 ~


 ――フロリア――

(ううう、全然判らん! これじゃセルクマニアを名乗れない!! アレスの嫌な笑みが脳裏に浮かぶ!?)


 ――スメラギ――

(……はぁ、こんなのどうでもいい。はやくるーしゃと結婚したい)


 ――ルシカ――

(イドゥさん、作戦は無事終わったかなぁ……。早く帰ってきてくれるといいだけど……)


 ~        ~


「……あれ……?」


 三人がそれぞれ別の想いを持って、うんうん唸っていた時、フロリアはふと、ニーズヘッグの様子が気になった。


「ニーちゃんが楽しそう……?」


 見るとニーズヘッグは詩を歌っていた。

 視線は何故か『セルク・ブログ』を写しだした映像に向けられている。


「……黄金の……鍵は……龍の手なり……♪ 五つ……の……円は滅びの……歌に……♪ 女神と剣から……信仰……集め……♪」


 ぼそぼそと小さな声だったが、ニーズヘッグは一言一言噛みしめるように、口ずさんでいたのだ。


「ニーちゃん、これ、なんの歌なの?」

「フレスに……教えて……もらった……詩、なの……♪」

「ふ~ん」


 ニーズヘッグの歌った意味の解らない詩。

 フロリアら三人が、眠気のせいか気にも留めたなかったこの詩こそ、全てを繋げる鍵であった。

 そしてその詩は、フレスの心の奥底へ封印されている、大切な詩。


 親友――ライラと共に謡った大切な詩。


「~~~~♪ ――――っ……!?」


 その詩が、唐突に止む。

 ニーズヘッグが、どうしてか体勢を低くして臨戦態勢を整えていたからだ。

 背中からは黒いオーラすら放たれている。


「に、ニーちゃん、どったの!? 急にそんなに警戒して!?」

「……寒気がする、なの」

「寒気?」


 ニーズヘッグの視線の先には、部屋の扉。

 その扉が今、ギギギと音を立てて開かれる。

 扉の奥には、三人の見知った顔があった。


「ルシカ、いるか?」

「うむうう……眠い……。……――って、イドゥさん!? 帰ってきてくれたんですか!?」

「あ、イドゥ、帰ってきた。……るーしゃはいない……がっくり」


 目を輝かせるルシカに、落ち込むスメラギ。

 フロリアはというと、ニーズヘッグの異変に、少しだけ不安を覚えていた。


「……来た……」

「何が!?」


 ドタドタと階段を駆け上がる音。

 深夜の突然の来客は、イドゥと、そして――


「わーい、帰ってきたー、疲れたー」


 やけにテンションの高い龍の娘、ティアであった。

 部屋に入ってくるなり、ニーズヘッグと視線が交差する。

 一瞬だが、時間が止まったようだった。


(ニーちゃんとティア、仲良くなかったっけ……?)


 もしも二人に何かあるのなら、大事になる前に止めねば。

 フロリアも、すぐに動けるように臨戦態勢を整える。


 しかし、次の瞬間目の前に繰り広げられたものは、何とも肩を透かせるものだった。


「ニーちゃんだ! わ~い、ニーちゃん!! すりすり……」

「……ティア……!! 痛い、痛い、なの……。これだから嫌。だったの……」


 ぱぁっと目を輝かせながらニーズヘッグに抱きつくティアは、すりすりと遠慮も為しに頬ずりをし始める。

 これに対しニーズヘッグはというと、苦虫を噛み潰したかのような、何とも嫌そうな顔を浮かべていた。


「……ニーちゃん、驚かせないでよ……」

「だって、これ、嫌、なの……」

「はぁ……」


 マイペースなニーズヘッグに振り回されるのはいつものことである。


「しかしイドゥさん、どうしたんですか? 急に帰ってきて」

「いやな、本当は昨日には皆の前に顔を出そうと思っていたのだが、こいつが遊び過ぎてな」


 やれやれと、疲れた顔でティアを指さす。

 流石のイドゥも、龍の子守りは慣れないのか、かなりぐったりしたご様子。


「好きなもん食わせてやると約束したもんだから、あっちこっちで店を渡り歩かされて大変だったぞ……。しかも服を買ってやるとも言ってしまったから、目についた服全部買わされてしまってな……。おかげで財布が薄くなったもんだ……」

「イドゥさんも苦労していたんですね……。私、同志がいるみたいで嬉しいです」


 『苦労する者』全てに共感を覚えるルシカは、何故か目を潤ませて感激していた。


「あのー、ルシカ、自分で言ってて悲しくならない?」

「フロリアには言われたくないです!」

「それで帰ってきた理由は二つ。一つはお前と会うことが『条件』だったからだ」

「……なるほど」


 その意味は、イドゥと、そしてルシカだけが理解できる。


「そして二つ目は、ルシカ、お前に会いたかった」

「私に!?」

「……別に変な意味ではないぞ……?」

「そんな!? 私がいくらイドゥさん好みの可憐で美しい娘であっても! 私達にはあまりにもかけ離れた歳の差という障害がありまして!! ……いや、でも愛さえあれば歳の差なんて関係ないってことですか!? キャー、どうしましょうかー、フロリアさん~!! 私口説かれてますよ~~!!」

「あーあ、イドゥってば、やっちゃったねぇ……」


 スイッチの入ったルシカの脳内妄想の暴走を止めるのは、骨が折れる。


「どうするつもりなの、イドゥ。ルシカをこんなにして。私知らないよー?」

「イドゥ、私にはるーしゃがいるから」

「口説かねーよ……。しかしルシカの奴には困ったもんだ。いつも勝手にこうなる」

「主にイドゥの言い方が悪いと思うけど」

「……ほっとけ、いずれ元に戻る」

「放置!? 私を放置プレイですか!? イドゥさん!? そっか、イドゥさん、照れて私の顔が見れないからそんな風に……、全く、歳の割にはシャイなんですから!」


 キャッキャと妄想が止まらないルシカを見て、ティアがくいくいと袖を引っ張ってきた。


「ねぇ、イドゥ、ルシカはどうして狂っちゃったの? 壊れてるの?」


 何とも手厳しい一言であるが、ルシカをよく知らない者が見れば、この表現は妥当だろう。


「いつものことだ。気にするな。話を戻すぞ。おい、フロリア、ルシカを元に戻してくれ」

「へ~い。おりゃあ!」

「――キャン!?」


 ズバンとチョップをルシカの脳天に振り降ろすと、ピタリと動きが止まり、そしていつものルシカが戻ってきた。


「……すみません、なんだか動転してました」

「ようやく戻ったか。『お前に会いたかった』という意味はだな、ルシカ、お前の力を借りたかったということだ」

「……はい、大丈夫です。イドゥさんの為ならいくらでも力を貸しますけど。……ちょっと残念」

「何か言ったか?」

「いえ、別に」

「ティア、例のブツを持ってきてくれ」

「は~い。とってくるよ~」


 相変わらず頬ずりを続けていたティアだったが、そう言われるとニーズヘッグから離れて、部屋から出て行った。


「例のブツ? なんなんです?」

「見れば判るさ。かなり面白いモンだよ」


「帰ってきたよー」

 

 またもやドタドタと喧しく音を立てて帰ってきたティア。

 しかし、今のティアには、先程のまでのティアとは大きく違う点がある。


「え!? 人間を背負ってる!?」


 ティアはその小さな肩に、どうしてだか鎖でぐるぐるに巻かれた人間を背負っていた。


「どっせーい!」


 それを床に容赦なく投げると、再びニーズヘッグの元へと戻り、頬ずりをし始める。


「……すりすり」

「……えー、また、やるの……?」

「うん! これ、気持ちいんだもん!」

「……痛い、なの………。……気持ちよく、ないの……。ティア、嫌いなの……」

「ええー、ティアは痛くないよー。それにニーちゃんのこと大好きなんだから―。すりすり」


 なんとも微笑ましい龍達のことは棚上げしておくとして、本題はこの鎖でぐるぐる巻きにされた者のこと。

 よく見ると、この人間、すでに虫の息だ。

 体中の至る所に傷があるし、指や足なんて、あらぬ方向に向いている。

 

「このすでに棺桶に頭から突っ込んで逆立ちしてるレベルで虫の息なこいつは、一体誰です?」

「ルシカって、時々結構酷い表現するよねー。間違ってはないけどさー」

「外道」

「フロリアとスメラギに言われたくはありません!?」

「こいつは秘密結社『メルソーク』のボスだ。こやつらの計画はあらかた問いただしたが、情報の信頼性で言えば完璧じゃない。だから完璧な情報を得に来たというわけだ」

「なるほど~。こいつから私の神器で記憶を盗めばいいんですね?」

「頼んだぞ。こいつの情報さえ利用できれば、ワシらの目的に大きく近づくことが出来るのだからな。ルシカ、お前だけが頼り――うっ」


 そこでフロリアとスメラギがイドゥの口を押えた。


「……イドゥはこれ以上、ルシカを褒めたらダメ。後が面倒くさいでしょ」

「そ、めんどくさい。ダメ」

「ふごぐおぐご……」

「あの、お二人とも、どうしたんですか?」

「いやいや、何もないよ? ね、スメラギ」

「うん」


 ルシカが気づかなかったことが幸いである。

 気づけばまた脳天にチョップを与えなければならなくなり、面倒くさいたらありゃしない。


「了解しました! それでは皆さん。感覚をお貸しいただきます!」

「ええ!? またなの!?」

「ぶーぶー!」

「ふごふごふご……」

「フロリアとスメラギの抗議は却下します。イドゥさんは何ってるか判らないですし。では強制的にお借りしますからね!」

「ちょっと待って、心の準備が――うわああああああああ」


 ――こうしてルシカの力で、秘密結社メルソークの計画の全てが判明した。


 その情報は、すぐさま『異端児』全員に伝わり、その日からのイベントに影響を及ぼすことになる。


 一番最初の狙い、それは『アレクアテナ・コイン・ヒストリー』。



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