鈍感師匠と嫉妬弟子
部屋から出たウェイルたちが見たものは、全ての従業員の気絶した姿だった。
その中に一人だけ立っている者がいた。アムステリアだ。
「どお? ウェイル。奴らの面、拝めた?」
「ああ、拝めたよ。ここにある真珠胎児は全て贋作だ。ベガディアルはどうなった?」
「全くあのエロじじい、部屋に入るなり早速襲ってくるんだもの」
見るとアムステリアらが入ったはずの部屋の扉は粉々に破壊されていた。
部屋の中は見るも無残に破壊された品々、そして泡を吹いて倒れているベガディアルもいた。他の連中はただの巻き添えだろう。
「私があんなエロじじいに一目惚れするわけないじゃない。私はウェイル一筋よ♪」
と、ウェイルに抱きつく。その様子を見るフレスは不機嫌そうだ。アムステリアもそれを見てフレスに見せつけるように、より一層強く抱きついてきた。
「ウェイル!! 早く行くよ!!! 六番街のハーヴェストってところ!!!」
フレスはウェイルの手を持ってブンブンと振って急かす。
確かに急いだほうが良いが、それでもフレスの慌てっぷりは異常だった。
「本当、鈍感ね♪ そこがまた可愛いのだけど♪」
アムステリアの言う意味がいまいち理解出来なかったウェイルだが、こんなことをしている場合じゃないと自分に渇を入れた。
「アムステリア、六番街のハーヴェストっていう酒場、知っているか?」
「もちろん知っているわよ。ああ、今回の裏オークションはそこでやるのね」
流石は元『不完全』である。話をすぐに察してくれるのは非常に助かった。
「いつから?」
「七時からだ」
ウェイルが懐中時計を取り出し時間を確認する。
「もう六時!? 早く行かないと!!」
「落ち着け小娘。奴らは万全の準備でオークションに望む。見張りを始め、中には武装した兵もいるはず。まして顧客は大富豪たち。ボディガードだってかなりの数いるはずよ。いくら私達でも戦力が足りないわ」
「その点については心配するな」
背後から声が聞こえた。サグマール達だ。
「すまんすまん、遅れてしまった。話は聞かせてもらったぞ。ハーヴェストだな。こちらも情報の裏が取れた。奴らが入手した真珠胎児の本物は全て裏オークションで流すはずだ」
――エリクはサグマール達は先に行ったと言っていたはずだ。どういうことだ?
「実は治安局に行っていてな。裏オークションを摘発するから戦力を貸してくれと頼みに行っていたのだ」
流石サグマール。事の行く末をすでに予感していたみたいだ。戦力は手に入った。
「これで準備は完璧だね!」
「ええ、完璧よ。後は奴らを捕らえるだけね」
「元同僚を捕らえる気分はどうなんだ?」
アムステリアに、サグマールが意地悪く聞いた。
「別に。どうも思わないわ。私にはウェイルがいれば十分だもの♪」
それに対しアムステリアは何の素っ気もなく答える。
そしてまたしてもウェイルの腕に抱きついた。
フレスもまたもや不機嫌になったみたいだが、今回は少し様子が違うようだ。
顔を赤くしてぷるぷると震えている。
「…………ウェ」
「ウェ?」
「ウェイルはボクのだもん! ボクの師匠だもん! テリアさんなんかには渡さないよ!!!」
ガバッと、フレスはアムステリアが抱いている方と反対側の腕を抱く。
――お、おい。ちょっと待てフレス、お前は一体何を言っているんだ?
慣れない事態に動転するウェイル。
「言うね~、小娘。私と差しで勝負するってんの?」
「するよ! 絶対負けないもん!」
二人の視線が火花を散らす。その中心にいるウェイルは堪ったものではない。
「ふ、二人共、それは事件を解決した後にしてくれないか?」
板挟みになったウェイルは早々とこの場から逃げ出したのだった。