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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
325/500

天国への螺旋階段(ヘブンズ・スパイラル)

 ――ラインレピア 集中祝福期間 四日目。


 ――早朝。

 久々の汽車の旅は、丸一日を要して、ウェイル達は運河都市『ラインレピア』内へと向かっていた。

 周囲の客は未だ夢の中だというのに、ウェイルとフレスは、寄り添うように毛布を被りながら、二人揃って窓から外の景色を眺めていた。


「良い景色だねぇ。最近色々とありすぎて、この景色を見ると癒されるよ」

「ソクソマハーツの空は汚かったからな……。それに比べ、こいつは最高だ」


 静かな客室内で、汽車の汽笛と車輪の音をBGMに、徐々に明るくなっていく空を眺めるのは最高の贅沢と言えよう。

 空は薄暗いながらも、太陽の登場を待ちわびるかのごとく赤みを帯びて、清々しい朝の訪れを表現していた。


「フレス、今日はやけに早起きだな。まだ朝六時前なのに」


 ウェイルがふと目を覚ました時、フレスはすでに起きて外の景色を見ていたのだ。


「なんだか今まで寝すぎちゃったのか、今はあまり眠くないんだよ」

「そうか」


 人格がフレスベルグと入れ替わっている間、フレスはある意味眠っていたといえる。

 十分休養も取れたということで、昨晩からテンションはやけに高かった。


「ウェイル、ラインレピアって、後どれくらいで到着するの?」

「実はだな。もうすぐなんだよ。太陽の方を見てな。これが絶景なんだ」

「太陽? まだ出てないよ?」

「今から出てくるから。いいから見てろって」


 「どういうこと?」と頭に?マークを浮かべるフレスだったが、その意味もすぐに判ることになる。


「フレス、ラインレピアに入ったぞ」


 平原と森ばかりだった風景に、新たな色合いが登場した。

 赤や白、黄色などの色とりどりの屋根が、現れてきたのだ。


「家だ! 家がたくさん!?」


 朝日のてっぺんが顔を出す時、色とりどりの屋根が、その光を反射していく。

 その光景は、さながら光のカーペットの様。


「フレス、太陽の方を見てみろ!」


「だから、一体どういうこと――――」



 ――朝を告げるオレンジ色の太陽が、ほっこりと顔を出すと。



「うぇ、ウェイル!? こ、これ、凄いよ……!!」

「だろ? これを見せたかったんだよ」


 運河都市ラインレピア中央にそびえる時計塔の背後に、輝く太陽が重なった。

 時計塔のデザインと凹凸、それが太陽の光を複雑に反射し、影のアートが登場する。


「まるで、天に向かって階段が出来ているみたいだ……!!」


 時計塔の影は、都市にある家々の影にも影響を与えていく。

 光と影の螺旋状のコントラスト。

 フレスの感想通り、天の象徴である太陽に向かって、影の階段が現れているように見えるのだ。


「ラインレピア名物、『天国への螺旋階段(ヘブンズ・スパイラル)』。ラインレピアに来たのだから、是非とも見ておかないとな」


「うわああ!! アレクアテナ大陸の人達って、本当に何でも芸術にしちゃうんだね……!!」


 フレスは翼こそ出さなかったが、しばらくその光景から目が離せないほど感動してしまっているようだ。

 フレスは気が付かなかったが、周囲の客も、この光景目当てで続々と目を覚まし、そしてあまりにも素晴らしい奇跡に、心から酔いしれていた。






 ――●○●○●○――





 朝の感動冷め止まぬフレスは、太陽はもうだいぶ上がりきったというのに、未だ外の景色を眺めて、うっとりとしたため息を漏らしていた。


「フレス、そろそろ降りる準備だけはしておけよ」

「……う、うん。って、駅って、もう目の前じゃない!?」


 外の景色を眺めていたフレスだ。

 目の前に駅が迫っていることに気が付き、一人あたふた慌てている。


「おい、落ち着け。この駅じゃない」

「……え? ラインレピアでしょ? ここ」

「まあな。だが、駅は後二つ先だ」


 ラインレピアには、朝の時点ですでに入都している。

 といっても都市内に入っただけで、目的の駅にすぐ着くわけではない。

 ラインレピアという都市は、競売都市マリアステルよりも広大な敷地を持つ都市で、その大きさはアレクアテナ大陸にある都市の中でも随一だ。

 何せラインレピア内だけで駅は九カ所も設置されているほどである。

 東西南北それぞれにそびえ立つ時計塔の近くに駅が配置され、それぞれの中間に一つずつ。円になるように路線が敷かれている。

 さらに中央にはこの八駅すべてと接続された駅があり、各駅の周辺と中央、それぞれが別々の都市のようになっていた。


「俺達が降りるのは中央の駅だからな。もうしばらくは景色を楽しんでおけ」

「うん! ラインレピアって、すごく綺麗な都市だったんだね!」

「準備もしっかりな」

「綺麗だなぁ……」


 プロ鑑定士というのに、あまりにも語彙の乏しいフレスであったが、仮に語彙が豊富でも、おそらくフレスは綺麗という言葉以外は使っていないことだろう。

 それほどまでに、この都市は美しく、綺麗であると有名なのだ。


「この都市の景観はハンダウクルクスと並び立つほどだからな」


 為替都市ハンダウクルクス、運河都市ラインレピア、図書館都市シルヴァン。

 都市の景観が美しい三大都市であり、ラインレピアは、その中でも最高と称される。

 汽車が都市部に入ると、運河や時計塔、そして美しい街や人の営みの様子を楽しめて、汽車の旅にうんざりした旅人の目も、十分満足できる景観なのである。


「ラインレピアの光景だったら、見てみても全然飽きないよ!」


 フレスも先程から窓から身を乗り出して、美しい景色をその瞳に収めていた。


「ラインレピアは芸術の都と言われているほどなんだ。この都市の景観だって、芸術の都と呼ばれるのに恥じないように、都市全体が協力して作り上げたものだしな」

「そうなの?」

「大陸一の芸術家を生んだ都市が、芸術を馬鹿にするわけにはいかないといってな。誰もが率先して協力してくれたそうだ。この都市の景観は、まさに奇跡と表現してもいい」

「う~ん、大陸一の芸術家かぁ。誰なの?」

「セルク・マルセーラさ。お前もなじみ深いだろう」

「うん! そっか、ここ、セルクの生まれた都市なんだ! ……ん? とすると……」


 フレスは、考え事をしていたが、その顔はなんだか嬉しそうだった。


「そっかぁ、ここがそうなのかぁ……」


 フレスは独り言みたいに、『ここがなぁ……』などと呟きながら、また窓から景色を見ながらぼうっと惚けているのだった。


「ここがなぁって、なんのことなんだ? フレス」

「あのね、ウェイルには以前話したことあるよね。ボクの親友のこと」

「ああ。――ライラ、だっけか」

「うん。ライラ。セルクと同じ出身地だって言っていたからさ。なんだか嬉しくて」

「……そっか」


 フレスのライラを想う時の表情は、正直見ていて辛い。

 もう二十年も前の親友の影を追い、一人想い耽るフレスの姿は、見ていて切なくなる。


「……『不完全』、もうないんだよね」

「……ああ」


 ウェイルはここで初めて気が付いた。

 ここのところのフレスの変なテンションは、憎むべき敵を失った虚無感から来ていたのかも知れないと。


「ウェイル、君はどうするの?」

「さあな」


 気持ちの良い風を浴びながら、ウェイルは素直に返答する。

 ウェイル自身、行き場のない気持ちに戸惑っていた。


「ボクも判らないよ。でもね」


 フレスはそっと、ウェイルの手の上に、自分の手を重ねた。


「ウェイルとこうして旅をして、綺麗な景色を見るの、ボク、楽しいよ。ずっとずっと、こうしていたいよ」

「…………」


 俺もだよ、とすぐに言葉に出来ない自分の小心さに、嫌気が差す。


「ウェイル、ボク、ずっとウェイルの弟子だからね」

「……当たり前だ」


 乗せられた手を、しっかりと握ってやる。


「そうだよね。何せ、ボクとウェイルの仲なんだからさ!」

「そうだ」


 なんて互いに笑みを送り合ったのだった。




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