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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
324/500

嫌な予感はラインレピアへ

 それからしばらく、カラーコインが神器と言うことが判った三人は、これまで出来なかった様々なことを試してみた。

 所持者のルーフィエ氏が、ウェイル達が遠慮していた込み入った鑑定方法を了承してくれたからだ。

 ルーフィエ氏とて、この硬貨がサウンドコインと判った段階で、ある程度の解析をしたいと申し出てくれていた。

 フレスお得意の水を用いた鑑定から、神器であるか確かめるべく魔力回路を覗き見たりと、フレスの力を総動員して鑑定を行った。


「……うん。やっぱりこのカラーコイン、神器で間違いないよ。内部に魔力回路も発見できたしね」


 魔力を硬貨に流してみると、やはり多少の魔力反応が起きた。

 内部で何らかの力が働いているには間違いない。


「それで、その魔力回路の使用用途は判ったのか?」

「ううん、全然。でもね、判ったこともあるよ」


 フレスは手に持ったコインを机に置いて、それぞれのコインを並べ始める。


「このコインさ。一つ一つが大きな魔力回路の一部になっているだけだよ」

「大きな魔力回路を、バラバラに分解したのがこいつというわけか?」

「うん、そうだと思うな。おそらく、何か別の神器に嵌めたり入れたりして使う神器だと思う。後ね、ここにあるコインだけじゃ完璧じゃない」


 ここにあるコインは七枚。フレスはそれだけでは足りないと話す。

 魔力回路の構造を見れば、フレスには判る事かも知れないが、実の所フレスはこの魔力回路の鑑定の前から数が足りないと、そう言っていた。


「……フレス、さっきルーフィエさんも訊ねていたが、これがどうして八枚あると思ったんだ? お前、これを鑑定する前から言ってただろ?」

「それはね。これがサウンドコインだからだよ。サウンドコインってのは基本的に八枚一セットなんだ。コインはそれぞれ、音階の『ド』『レ』『ミ』『ファ』『ソ』『ラ』『シ』『ド』と対になってる」


 フレスは黄のコインを投げてみる。

 鳴ったのは少しばかり低い音。

 音感のないウェイルには、何を示す音か判らない。


「これが『レ』の音だね」

「フレス、お前、もしかして絶対音感とか持っているのか?」


 フレスは龍だ。人間には聞こえない周波の音を聞くことが出来るのかも知れない。


「ボク、多少だけど音感あるみたいなんだ。ライラに鍛えてもらったからかなぁ?」

「ああ、ライラは音楽家なんだっけ?」

「うん」


 ライラの名前が出るということは、フレスには本当に音が判っているということだ。


「七枚ってことは一枚足りないんだよな。何がない?」

「さっき投げて聞いてみたらね、『ラ』の音がないんだよ。どこにあるんだろう?」

「さあな。フェルタリアにでも行けばあるのかもしれん」


 赤いコインをしげしげと見てみる。

 やはり、描かれている文字は、文献の通り、旧フェルタリアの文字。

 このコインの製造元は、やはりフェルタリアなのだろうか。

 その可能性は非常に高い。


「赤と黄色、そして黒には方角と詩が書かれてあったんだよな……」


 以前シルヴァンで調べた硬貨に書かれた詩の意味。



 ――ド 赤 北 『時代の覇者は放たれる』

 

 ――レ 黄 南 『黄金の鍵は龍の手なり』


 ――ド 黒 西 『終焉は王の手によって』



「う~ん。聞いたことがあるような、無いような」

「お前そればっかりだな」


 時間の関係で解読できたのは、この三つだけであったが、おそらく他の硬貨にも詩が書かれてあったに違いない。

 ルーフィエ氏の鑑定延長の許可も出ることだろうし、残りの詩の解読も進めるべきだろう。 

 もっとも、全ての硬貨の詩を解読したところで、どんな意味があるのかは不明。

 今度は詩について、更なる鑑定が必要だ。

 時間は途方もなく掛かるかも知れない。


「このサウンドコイン、一体何のために作られたんだろうなぁ」

「そこらへんはボクにもさっぱりだよ。でも、これが何かの神器のパーツである以上、何か元の神器があるんだよねぇ。そして、このパーツは、やっぱりその神器の一部なんだよねぇ」

「……そりゃそうだろ」


 考え過ぎて少し疲れたのか、フレスも言っていることが無茶苦茶になりつつある。


「三種の神器に関係してるのかなぁ……」

「……ん? ……そういえば」


 疲れたーと思いっきり背伸びして、ソファーにもたれ掛りながら言ったフレスの一言に、ウェイルもあることを思い出した。


「三種の神器、か。そういえばテメレイアが資料をくれたんだったな」


 テメレイアが別れ際に残してくれた、三種の神器に関する資料。

 それを見れば、何らかのヒントを得ることが出来るかも知れない。


「確かスフィアバンクの貸金庫内に入れたとか言ってたぞ。行ってみるか?」

「あ、いいね! ボク、久々にのんびり汽車の旅がしたいかも!」

「だな。俺もしばらく忙しかったし、スフィアバンクまでノンビリするのもいいかもな。よし、行こう」

「うん! ボク、早速旅行の準備するよ!」


 ここしばらく宗教戦争に巻き込まれ、二人は休暇という休暇を取っていない。

 たまにはバカンスを兼ねて、のんびり旅行するのも悪くはない。


「ちょ、ちょっといいですかな?」


 そうしようと、話がまとまったところで、依頼者であるルーフィエが話に割って入ってきた。


「ウェイルさん、申し訳ないが、先に依頼したいことがありましてな」

「ん? 依頼?」


 何とも神妙な顔のルーフィエ氏。

 勝手な予測ではあるが、なんだかまた事件に巻き込まれそうな予感がする。

 しかし彼は大切な依頼人だ。無下にする訳にもいかない。


「何かあったのか?」

「ええ、実は今日来たのも、本当はこちらの要件がメインでしてな。おまけで頼んでいたカラーコインの鑑定話に大分盛り上がってしまいましたが、この依頼を聞いてもらわねば帰るに帰れませぬ」

「そうだったのか」


 ルーフィエには別の依頼があるという。

 頼み方の語尾が少しばかり息巻いているところを見るに、結構重要な依頼なのかも知れない。

 ますます雲行きが怪しくなってきた。


「それで、依頼とは?」

「今のカラーコインの話にも関係がある話です」


 ルーフィエは、一通の手紙、もとい招待状を取り出して、ウェイルに手渡した。


「公開博覧会開催についてのご案内……? 何かイベントでもあるのか?」


 手紙をじっくり読んでみると、それは運河都市『ラインレピア』からの手紙だと気が付く。


「ええ。今ラインレピアは毎年恒例の集中祝福期間でして」

「あ、もうそんな時期か!?」

「ねぇねぇ、ウェイル。なんなの、その集中なんとか期間って」

「集中祝福期間だ。これはだな――」


 ――集中祝福期間。


 運河都市『ラインレピア』にて毎年この時期に開催されているイベント期間のことだ。

 ラインレピアのシンボルとも言える、五つの時計塔が完成したのが、およそ今から二百年程前だと言われている。

 最初は時計塔の完成式を祝って、都市の至る所でお祭りが開催され、大いに盛り上がったという。

 祭りは三日三晩どころか一週間も続き、他都市からも膨大な数の観光客が訪れて、お金をたんまり落としていったものだから、その年ラインレピアは空前の好景気に見舞われた。

 最初の祭り以降、ラインレピアではその祭りを毎年開催しようという風潮が高まり、翌年から時計塔完成記念日と、その前後三日間の一週間を、祝福期間と名付けて、祭りを開催することにした。

 そこに集中と銘がつくのは、この祝福期間に便乗して、これまた多くのイベントが開催されるようになったので、全てをひっくるめて集中祝福期間と名付けたのだ。


「お祭りがあるの!? 今から一週間も!? 行きたい!!」 

「いや、確か今日は集中祝福期間の二日目のはず」

「ええーー!? 後五日しかないの!?」


 お祭りごとに目のないフレスはというと、最初から参加できなかったことに、判りやすく落胆していた。


「うう……、ボク、もっと遊びたかったのに……」


(お前、人格変わってただろうに……)


 龍の人格のフレスが、お祭りではしゃぎ回る姿など想像できない。

 落ち込むフレスを棚上げして、ひとまず話を戻す。


「それで、祝福期間にお目当てのイベントがあると。それがこの招待状だな?」

「その通りです。実は明々後日より、運河都市『ラインレピア』にて大陸中の硬貨を集めた博覧会、『アレクアテナ・コイン・ヒストリー』というイベントが行われるのです。貴重な硬貨の販売もやっておりまして、私は是非とも参加しようと思っていまして」

「そんなイベントが開催されるのか。そりゃルーフィエさんから言わせれば天国みたいなイベントだな」

「左様。このイベントは二年に一度ありまして、私は毎回参加している常連なわけですが、今回はなんと出展側にも回ることになっているのです」

「硬貨のイベントに出展、ということはまさか」

「はい。私のコレクションであるカラーコインも、主催者側から展示をお願いされたのです。マニアの間では私の持つ硬貨は有名でして。中でもカラーコインとテスト発行されたカラドナ硬貨を是非見せてくれと依頼が殺到しているのです。ですのでこの度のイベントを利用して出展を決めました」


 ルーフィエのコレクションは、確かに他の追随を許さぬほどの希少価値のある硬貨ばかりだ。

 マニア連中がこぞって見たがると言うのも自然なこと。

 コレクターは、自分の品を他人に自慢することが何よりも好きだ。

 だからこそ、ルーフィエもこの主催者側の提案に乗ったのかも知れない。


「お願いと言うのは、カラーコインを警備してくれということか?」

「ええ。お察しが良くて助かりますよ。なにせ今年は変なタレ込みがあったものでして」

「何の情報を聞いたんだ?」

「ウェイルさん。秘密結社メルソークという連中をご存知ですかな……?」


 秘密結社メルソーク。

 その名がルーフィエの口から漏れ出た瞬間、ウェイルとフレスの時が止まった。


「ウェイル、また出たよ。おんなじ名前が」

「……だな……」


 アムステリア達が言っていた奴隷オークションを開催しているという容疑の掛かった組織。

 そんな危険な組織の名前が、再び話題に上った。

 嫌な予感というのが、現実味を帯びてくる。


「メルソークがどうしたんだ!? 今回のイベントに絡んでくると言うのか!?」

「判りません。ただ、ラインレピアに住んでいる硬貨マニア仲間から聞いたのです。この度の祝福期間中で、連中が何かを起こそうとしているのだと」

「何かを……?」


 それが一体何のことであるのか。

 おそらくルーフィエもこのことについては噂程度にしか聞いておらず、これ以上の情報も持ち合わせてはいないだろう。

 ウェイルとしては、メルソークが奴隷オークションをしている可能性があるということだけを知っている。

 故に、その何かとは奴隷オークションのことなのだろうかと一応の推測は出来たものの、何か引っかかる節がある。


「そのお願いとはメルソークの連中から硬貨を守れってことか?」

「あくまで噂ですし、メルソーク自体が存在すら危うい組織です。私は噂に過剰反応しているだけかも知れませんが、万が一も考慮いたしまして」

「……いや、その反応は正しい。万が一ってことは、起きる可能性はあるということだからな」


 ますます嫌な予感がプンプンする。

 事前にアムステリア達から話を聞いていた影響も大きいが、それ以上にフレスの顔が気になった。

 フレスはメルソークという組織は昔からあったと言っていた。

 組織の存在を確実に知っているフレスが、妙に不安げなのだ。師匠として、弟子の微妙な変化を見逃すわけにはいかない。


「よし。その依頼、引き受けるよ。なぁ、フレス」

「……うん。ボクも気になるからさ」

「ありがとうございます。それと実は、もう一つだけお願いがあるのです」

「もう一つ?」

「実は先日、常連限定に配布される今年のパンフレットにですね。興味深い硬貨が載っておりましてな。これをご覧くだされ」


 ルーフィエはそそくさとパンフレットを取り出すと、しおりを挟んだページを開いて、二人の前に広げた。


「ここをご覧ください」


 ルーフィエが指さした記事。

 そこには、博覧会に展示される硬貨のイラストと、説明が載っていた。


「どれどれ……」

「うむむむ……」


 ウェイルとフレスの二人は、顔がぶつかりそうになるほどパンフレットに近づいて、記事をしげしげと読んでみた。

 すると。


「なっ――!?」

「偶然にしては出来過ぎだよねぇ……」


 メルソークのことに驚いていた二人が、さらに驚くようなことが、そこにあった。

 何せそこには、たった今談義していたばかりのカラーコインのことが書かれていたからだ。


「……色は……茶色か」

「書かれている模様や文字も、多分同じモノっぽいよね」


 茶色の硬貨は、ここにはない。

 となれば、この硬貨が、最後の『ラ』の硬貨である可能性が高い。

 サッとパンフレットを持ち上げたルーフィエは言う。


「このカラーコイン、私が思うに、このシリーズの最後の硬貨だと思うのです。最初この記事を見た時は驚きましたよ。まさか私の持つ硬貨と似たようなものが存在するのかと。そして思ったのです。この硬貨も是非コレクションに加えたいと」


 全て揃っていると思っていたシリーズものの中に、実はまだ持っていないものが存在した。

 欠番となった穴を埋めたいと思うのがコレクター魂である。

 その心はウェイルにも痛いほどよく判る。


「この硬貨が神器と判っていても、私のコレクター魂は収まりそうにないのです。ウェイルさん。依頼をお願いしたい。是非私についてきて、カラーコインの警備と、そしてこの硬貨を手に入れる手助けをして欲しいのです。資金ならばいくらでも出せますし、いかなる交渉の場にも立つつもりでいます。しかし、専属のプロ鑑定士がいるといないとじゃ、交渉の進みが違う。こんなことを頼めるのはウェイルさんにおいて他にはいない。お願いできませんか?」


 ルーフィエは、ここぞと頭を下げてきた。


「ルーフィエさん、頭を上げてくれよ」


 ルーフィエにはこれまで、幾度となく待ってもらった。

 正直な話、ウェイルは彼に恩義すら感じていたのだ。


「大丈夫だ。俺が貴方の依頼を断るわけがない」

「……本当ですか?」

「ああ。他ならぬ貴方の頼みだ。むしろこちらから同行をお願いしたいくらいだよ」


 最後のカラーコインが現れた可能性があるというのだ。

 ここまで乗りかかった船であるし、相当な時間を掛けて鑑定してきた案件だ。

 ウェイルとしても、事の次第が気になる。

 茶色『ラ』を持つカラーコインに、ウェイル自身が興味を持っていたのだ。

 だからこの依頼は、むしろありがたいほどだった。例えどんな事件が待っていようとだ。


「この硬貨の案件、俺はプロ鑑定士として最後まで責任を持つ。だから、共に行かせてくれ」

「ウェイルさん……。承知しました。出発は早い方がいい。明日の朝早く、マリアステル駅で」

「判ったよ。フレス。お前はどうする?」

「勿論行くに決まってるよ。気になることもあるしさ」

「それではお二人とも、明日の朝、駅でお待ちしておりますので」


 そう告げると、ルーフィエは帰って行った。


「行先はラインレピアかぁ。なんだかラインレピアに縁があるね」

「……だな」


 しかしまさか次の行先が、ラインレピアだとは思いもしなかった。


「まあ何事も起きないことを祈るしかないか」

「どうだろうね。ウェイルってば巻き込まれ体質なところあるから。たぶんまた何か起こるよ?」

「そんな不吉なこと言うなよ」


(しかし、ある意味ではチャンスか)


 イルアリルマの言っていた奴隷オークション、その元凶であるメルソークのことが、今はかなり気になるし、『異端児』という厄介材料もある。

 まとめて片をつけるならば、一石二鳥と考えられなくもない。


「ささ、ウェイル、早く準備しようよ! ボク、お弁当作っちゃうよ!」

「……お前は楽しそうで羨ましいよ」

「楽しみなのは楽しみだよ。だってお祭りだもん! ……でもね、同時に不安だってあるんだよ。だってさ、メルソークだって、『異端児』だって、結局はあれが狙いだもん。嫌な予感がするよ」

「――ああ。俺だってそれが気がかりだ」


 二人の不安は、結局のところ、これに集約する。


「――三種の神器が、また絡んでくるのだろうか……!!」

「嫌な予感が当たっちゃったらね」


 カラーコインを巡る旅。

 それは必然とでも言うかのようにアムステリア達や『異端児』、そしてメルソークのいるであろう運河都市『ラインレピア』へと、二人を向かわせることになり、そして――。



「でも、お祭りは楽しむよ! ウェイル! 早く準備してよ!」

「お前も手伝えよ。それと俺の部屋のドアを直すの手伝ってくれ……」



 ――またしても二人の嫌な予感は、的中することになったのだった。



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