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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
321/500

贋作士≠盗賊≒セルクマニアのメイドさん

 ――オークション会場舞台裏。


 全員で来ると怪しまれるので、関係者を装えそうなルシカ、ダンケルク、そして清掃員の服に着替えたフロリアが舞台裏方へとやってきていた。

 勿論率先して先頭に立つのはコスプレ好きなフロリアである。


「盗む気なら最初からそう言えば良かったのに。力づくでいいならニーちゃん使えばいいしさ」

「いえいえ、今回は盗む気なんてこれっぽっちもないんですよ。私達が欲しいのは、ブログの情報だけですんで」


 彼らは盗賊ではない。贋作士である。

 盗む事は専門でないし、後のリスクを考えると今は止めておきたい。

 ならば贋作士としてやることは一つだ。


「贋作を作るつもりなんだな?」

「ええ。一応そうなりますね」

「え!? 出来るの!? 後十五分くらいしかないのに!?」

 

 あっけらかんと言い放つルシカに、無理無理と頭を横に振るフロリア。

 ルシカの計画にフロリアが驚いたのも無理はない。

 贋作とは、本物に似せるために卓越した複製技術と、本物とほとんど変わらぬ材質の材料、そして何より作品を作る時間が掛かる。

 作ろうと思ってすぐに作れるほど簡単でも甘いものでもない。

 だがそんなフロリアの懸念は、ダンケルクが払拭してくれた。 


「ああ、フロリアは知らなかったな。ルシカの持つ神器の能力のことを」

「ルシカの神器……? えっと、そのペンダントだよね」

「ええ、そうですよ」


 フロリアはここ数年、ずっとヴェクトルビアへ潜入していたのだ。故にルシカの神器の力を見たことはない。

 しかしながらルシカとは仲も良かったし、いくらか噂に聞いていたものだから、彼女の持つ神器について多少の知識はある。


「そのペンダントに、薄羽が入ってるんだっけ」

「はい。私が生まれた時に持っていた薄羽が入ってまして。結構強力な力を持っているんですよ」


 エルフの薄羽の多くは神器の魔力回路に組み込まれている。

 ガラス以上の魔力伝導率を誇るため、強い力を発動させたい神器には必要不可欠となる。

 それに付け加えて数が少ないものだから、エルフの薄羽の希少価値は高いわけだ。


「えっと、自分の感覚を鋭くできるんだったっけ? でもそれだけで贋作がパパッと出来るの?」

「はい。大丈夫です。もっとも『私の力』だけでは無理ですけど」

「『私の力』? 他に何か使うんだ?」

「直にわかるさ。ま、とにかくブツを手に入れないことにはな。この先は会話を控えておけ」


 ダンケルクの忠告に従い、その後は極力会話を減らして、怪しまれないように進んでいく。


 事前にこのオークションハウス職員の制服の贋作を作っておいたため、いくらか職員とすれ違ったが特に怪しまれた様子はない。

 特にフロリアの清掃員姿は、職員を欺くにはうってつけで、怪しまれるどころか、むしろ職員の方から率先的に侵入を手伝ってくれた。


「13-2廊下の掃除をお願いするよ」

「は~い、お任せあれ~。後でやっておきま~す」


 すでにこれで三度目の頼まれごとだ。


「お前のコスプレ姿って、半端なじゃなく説得力があるんだな」

「普段からコスプレばかりしてるからねぇ。もはや本物以上になりきれるよん」

「自分を贋作作品にするなんて、凄いです」


 大きなオークションハウスゆえに、見知らぬ職員がいても不思議じゃないという職場環境が、彼らに味方したわけだ。

 舞台裏廊下をズンズン進んでいくと、一際物々しい雰囲気を醸し出す扉を見つけた。


「保管庫だよね、この扉」

「だな」

「『セルク・ブログ』はこの保管庫かな?」

「間違いなくここです。ヒシヒシと魅覚を感じますよ」

「で、どうする? この扉、簡単には開きそうもない。周囲の壁でも壊そうか?」

「いえ、今回はひっそりと、バレない様に頼むとのイドゥさんからの指示でして。ここは待ちましょうか」


 扉には鍵が掛かっている。

 だが、この鍵はこれから必ず開錠される。何せこの中の品をオークションに出品するのだから。

 だから待てばいい。警備員が勝手に開けてくれるのを待てば。


「『セルク・ブログ』ほどの品を警備する連中が来るんだぞ。ことを荒げるなってのは中々無茶な注文だよ、全く」

「……まあなる様になりますよ。ダンケルクさんなら余裕だとイドゥさんも思っているんじゃないですか?」

「信頼はありがたいが、任されるこっちは堪ったもんじゃないぞ」

「まあまあ。そうだ! 事が荒立つ前に殺せばいいんだ! 簡単!」

「フロリアさん、それが事を荒げる行為だって言ってんですよ……」


 『セルク・ブログ』はオークションの目玉商品であるのだ。

 落札されようがそうでなかろうが、色々と目を引く。

 そういうことも踏まえて、ぎりぎりまで商品は保管庫に置いておかれている。

 防犯上、それは正しいことであるし、自分達がバイヤー側でもそうするだろう。

 しかしルシカはよく知っていた。

 ギリギリまで商品を外へ出さないことの危険性についてだ。


 扉の近くに潜んで、およそ五分。

 オークション開始十分前。そろそろ準備が始まってもおかしくはない。であれば、当然ここへ『セルク・ブログ』を取りに来るはずだ。

 ちなみにこの13番オークション会場の商品保管庫は全部で三か所ほどある。

 膨大な量の商品を保管するには、最低でもこれくらいは必要だし、どれがどの保管庫に入れてあるか非公開にしておけば、防犯の面でも役に立つ。その品がどの倉庫にあるか、判らないからだ。

 だが、ルシカの持つ魅力を感じる感覚『魅覚』の前には、それも無意味に等しい。


「あ、足音が聞こえてくるよ……!!」


 耳を澄ませばコツコツと、数人の足音を聞くことができた。


「人数は…………おそらく四、五人ってとこかな」


 物々しい形相をして、護身用のサーベルを肩から下げた警備員三人と、オークションハウスの職員であろう男が二人、姿を現した。


「さっさとセルク・ブログを運んでくれ。もうじきオークションだ」

「了解しました」


 職員の男の指示に、警備員らが従っていく。

 職員全員が保管庫内に入ったところでダンケルクが立ち上がる。


「ルシカ、お前はここで待ってろ」

「奴らは私達に任せてね」

「はい、任せました。気を付けてくださいね」

「行くぞ、フロリア」

「はいはいな」


 職員の後を追い、ダンケルクとフロリアが突入をかける。

 時間にして二分程度。いや、そんなには経っていないかも知れない。

 中からは悲鳴一つ聞こえない静かな作業だった。


「終わったよー」


 ひょこりとフロリアが顔を出す。

 ルシカが保管庫を覗いてみると、その場にいた職員全員はうつ伏せで倒れていた。


「あらら、殺さなかったんですか?」

「今回はひっそりと、だよな?」

「そうですけど、まさか本当に軽々やってのけるとは思いませんでした」

「あの、私も頑張ったんだけど」

「お前は何もやってないだろうが。一人で逃げ回りやがって」

「囮と言って欲しいですね!」

 

 全員後頭部に強い力を加えらえたのか、意識を失っていた。

 流石はダンケルク。こういう静かで細かい仕事は彼に任せるに限る。


「『セルク・ブログ』っぽいもの、見つけたよー」


 倒れた職員を台代わりにして、倉庫内を物色していたフロリアが、よっこいせと目的の物を棚から下してくる。


「こいつら、これをとろうとしてたよん。この棚が今日の競売品みたい」


 箱を棚から下ろして、開けて中を改めてみると。


「あったあった!」


 慎重に取り出したのは、日焼けした古書。

 稀代の天才芸術家、セルク・マルセーラの書いたとされる日記『セルク・ブログ』だ。


「でもこれ、どうするの? 盗まなければ贋作なんて出来ないよ?」

「心配いらない。ルシカなら出来るからな」

「贋作作る材料すらないのに?」

「まあ見てな。ルシカ、早いとこやってくれ。別の警備が来るぞ」

「判りました」


 机の上に置かれた『セルク・ブログ』の上に左手を置くと、ルシカはそっと目を閉じた。

 空いた右手を胸元のペンダントへ。

 するとルシカの体が光を帯び始めていく。


「お二人とも、少しだけ感覚、お借りしますね」

「ああ。構わんよ」

「何事何事!?」


 いつも通りやれと言わんばかりに腕を組むダンケルクとは対照的に、フロリアは訳も分からず狼狽える。


「……もしかして、五感奪われる?」

「なんだ、知ってんのか」

「聞いたことだけはあるんだよ……。スメラギから死ぬほど怖いと教えてもらったんだよぉ……」

「怖い? 笑わせるな。お前はもっと怖いことを平然とやってんだろうが」

「なにさ! か弱い乙女が怖がるのは当然の反応でしょ!?」

「お前がか弱い乙女だとは、冗談が過ぎる。もはや笑えない」

「ううううるさい! 私だって一応女なん――うわっ!」

「……何度やっても慣れないな……」


 唐突にフロリアとダンケルクに闇が訪れた。


 ――視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。


 感覚の全てを失った人間が感じ取ることが出来るもの、それは真の闇だけだ。


(ううう、想像以上に辛いね、これ……)

(死とはこういう感覚に陥るのかも知れないな……)


 フロリアは慣れない感覚に、へなへなと倒れこんでしまい、多少慣れているダンケルクでさえも、壁にのさがって立つのがやっとであった。


 一方その頃、ルシカはというと。


「うひょおおおおおおおおおおおおお!! 感じるぅ、感じますわぁああああああああっ!!」


 といつも通りの絶叫をあげていた。


「うっしゃあああああ、内容、全部把握完了っ!! あ~と~は~~~~っ!!」


 右手で握ったペンダントを、自分のおでこへと当てた。


「この記憶をここに蓄えれば~~~~~っ!! 完了っ!!」


 ルシカに帯びていた光が消え去り、同時に二人の目にも色が戻っていく。

 

「お、終わったの……? 怖かったぁ……。五感があるって素晴らしい……」

「毎回生きた心地がしないな」


 二人の元へと無事感覚が戻ったようだ。

 フロリアは未だふらついてはいたが。


「お疲れ様でした、お二人とも。無事情報を保存できました」


 記憶を保存したペンダントを、二人に見せつける。

 そのペンダントを、フロリアはツンツンとつつく。


「ここに記憶が入ってんの? 記憶ってセルク・ブログの中身だよね?」

「そうなんですよ! 私、手に入れた情報を保存して、後でまた見ることが出来るんです。しかもその記憶は他人とも共有できまして」

「そっか。欲しいのは中身だけだから、この場で贋作を作らなくてもいいんだね?」

「ええ、中身の文字や、紙の色、質感まで完璧に記憶していますので、時間がある時にゆっくり贋作を作ることが可能ですよ」


 贋作を作るには、何よりも時間がかかる。

 だが情報を抜き取るだけであれば、ルシカの手にかかればモノの数分だ。


「ルシカって、本当にすごいんだねぇ。私、尊敬しちゃうよ」

「ちょ、ちょっとフロリアさん!? そんな私のことを超絶天才至高の美少女だなんて褒めすぎです!? 世界で一番私を敬愛し、尊敬し、尊重しちゃうだなんて言い過ぎですよ!?」

「い、いや、そこまでは言ってないけど……。しかも言ってる意味ほとんど一緒だって」

「謙遜するなって!? それ以上言われると私、恥ずかしくて外を歩けなくなりますよ!? もちろん嬉しいのですけど、あまり褒めないでください!?」

「…………ああ、イドゥっていつも面倒くさかったんだね」

「だろうな」


 これさえなければ、ルシカももうちょっと普通に見えただろうに。


「それはそうと、用事は済んだわけだ。さっさと撤退するぞ。急がねば次の職員が来てしますぞ」

「そうでした! お二人とも、急いで逃げましょう!」

「りょ~かい! 私はセルク・ブログを元に戻してから行くね。二人は早く逃げてて!」

「……確かにセルク・ブログが外に出ていたら怪しまれるな」

「でしょ? 後片付けは私がやっておきますから」

「……判った。頼む」

「お二人は早く逃げてくださいな」


 もうじき商品が来ないことに違和感を覚えた職員が、ここへ来るだろう。

 三人がここへ来て、早五分。

 オークションの開催時間は、もう間近に迫っている。


「見つかるなよ」

「フロリアさんも早く逃げてくださいね!」

「うん。任せちゃって! 後で追いかけるから」


 そう言い残すと、ダンケルクとルシカは、フロリアをここへ残して、先に保管庫から去って行った。


「……ふぅ。お二人とも、もう言ったかな~?」


 入口から廊下を覗いてみる。うん、誰もいない。

 キョロキョロと慎重に見回してみるも、人の気配は皆無だ。


「うっしゃあ! これで気兼ねなく~~」


 フロリアは、一度片付けようとした『セルク・ブログ』をどうしてかまた取り出して、そして。


「ニヒヒ、このセルクマニアのフロリアちゃんが、こんなお宝を前にして盗まないわけないんだよねぇ~。皆には悪いけどさ!」


 コレクションがまた増えると、嬉しさ爆発で顔がとろけるくらい笑顔のフロリアは、こっそりと、『セルク・ブログ』を服の中に隠した。


「さて、私も逃げますかね! と言ってもオークションは中止になっちゃうだろうし……」


 今回はあまり目立たないように行動したルシカ達には悪いけど、これから一悶着ある事だろう。ここは早々と退散した方が良さそうだ。


「ニーちゃん、おいで~」

「……フロリア、終わった……?」


 フロリアが一声かけると、廊下の闇から、ニーズヘッグが姿を現す。


「ここに来るまでに、ばれなかった?」

「……私、影、薄いから」

「そういう問題なのかなぁ……? まあいいや。逃げるよん」

「……どこ、いく?」

「そうだなぁ……、あ、そうだ! 丁度明日からこの都市で面白いイベントが開催されるんだよね。それに行こう!」

「……判った。ひとまず……宿いこ」

「そうしようか!」 


 フロリア達がこの場を離れた、その三分後のこと。

 いつまで経っても商品の来ないことに不審に思った職員が、保管庫へ様子を見に来て、『セルク・ブログ』が無くなっていることに気が付いたのであった。




 ――――


 ――




『本日予定しておりました『セルク・ブログ』のオークションですが、都合により中止とさせていただきます。商品を楽しみにして来ていただいたお客様には大変申し訳ありません』


 オークション中止を告げるアナウンスが、ホール内に響き渡り、そこでルシカやダンケルク達は気が付いたという。


「フロリアの奴、何かやりやがったな……!!」

「そうでした……、フロリアさんって、重度のセルクマニアでしたね……。あんなもの見せられて我慢できるわけがなかったです」

「るーしゃ、るーしゃ、どういうこと? オークション、なくなったの?」

「そういうことだ。あの糞メイド、『セルク・ブログ』を盗みやがったんだろ」

「あらら。盗み良くない」

「……ま、こっそり、目立たなく、なんて性に合わなかったから、これくらい慌ただしくて丁度いい。なぁ、リーダー?」

「楽しければどっちでもいいよ~」

「リーダー、アノエさん、こっそりやれっていうのはイドゥさんからのお達しなんですから……。ああ、どうしよう……」


 想定外の事態に、慌てているのはルシカだけというのが、このメンバーのいつものことである。


「落ち着いてよ、ルシカ。一応、目的は達したんでしょ?」

「……はい。情報は全て抜き取ってきましたから」

「なら問題ないよ。さ、次いこう」

「あわわわわ……、リーダーが優しい……!! なんだか怖い!?」

「……結構傷つくよ、それ……」


 『セルク・ブログ』の盗難事件は、プロ鑑定士協会並びに、治安局へと伝わる運びとなる。

 ただ犯人の目星は、全くついていない状態であった。


 『セルク・ブログ』盗難事件を皮切りに、運河都市『ラインレピア』ではこれから、次々と事件が発生していくこととなる。

 この事件があった頃、ウェイル達は丁度、ラインレピアに到着し、一息ついている頃であった。



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