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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
320/500

『セルク・ブログ』

「わーい、オークションだ、オークション!」

「わーいわーい」

「オークションホールもひろーい! やっほーーーい!!」

「やっほーーーい!!」


 フロリアとスメラギは、ずっと昔から仲が良い。

 互いに精神年齢が幼い部分があるという共通点もさることながら、ゴスロリやメイド服等、多少マニアックなファッションが好きだということもあり、昔からよく一緒にいる。


「二人とも、周りに迷惑ですから止めてください!」


 こうしてうるさい二人を抑えるのが、いつものルシカの役目でもある。


「えー、だってー」

「フロリアとは久々だから……」

「だからって騒ぐの禁止! 今から大事なオークションなんだから!!」


 あれから何だかんだで時間が経ち、目的のオークションの開始二十分前となった。

 13番オークションの目玉商品ということもあって、オークション会場は開始一時間前から、人で賑わっていた。


「そういえばルシカ。俺は今回のオークションについて、一体何を競り落とすのか知らないんだが」

「あれ? ダンケルクさんには伝えていませんでしたっけ?」

「ダンケルクだけじゃない。私もだ」


 アノエも自分もだと手を上げて、それに続くようにフロリアとスメラギと、そしてリーダーも手を上げる。


「……ちょっと、なんでリーダーまで知らないんですか……?」

「だって仕方ないじゃない。イドゥの奴ったら、口が堅いんだもの」

「いやいや、リーダーには伝えたと思いますよ。というかイドゥさんが私に教えてくれた場所に、リーダーもいたじゃないですか!?」

「そ、そうだったっけ?」

「そうです。もう、何で忘れてるんですか」

「……ルシカ、お前って本当に大変だな」

「そう思うんだったらダンケルクさんも私の立場、半分やりますか?」

「断っておく。このバカ共の面倒を見始めたら、俺の仕事もままならん。そんな仕事は超が付くほどのお人好しで、愚か者だ」

「その仕事をしている私の前で、よくそこまで言えますね……」


 本日何回目であろうか。

 数えきれないほど嘆息を重ねるルシカに、流石にダンケルクも不憫に思えてきたのだろうか。


「ちょっとお前ら、少し黙ってルシカの話を聞け。さぁルシカ、教えてくれ」

「判りましたよ……」


 先程買ったパンフレットの13番ホールのページを開いて、皆に見せる。


「イドゥさんの狙いはこれなんですよ」←ルシカ

「これは……」←アノエ

「本当にこれ!? というかこれ、贋作なんじゃないの!?」←フロリア

「贋作士が贋作を掴まされるなんてお間抜け、したくはないな……」←ダンケルク

「大丈夫です。これを鑑定したのは、今は亡きルミエール美術館の館長、シルグルさんみたいですから」←ルシカ

「あの人、まだ生きてるけどねぇ」←フロリア


 皆が注目し、そして疑うような反応を見せたのも無理はない。

 何せそのページには――『セルクの日記(セルク・ブログ)』が掲載されてあったからだ。


「セルク・ブログ? るーしゃ、何、これ」←スメラギ

「いちいち俺に聞くな、そこに書いてあるだろうが」←ルシャブテ

「これはですね。セルクが書いた日記なんです。そのままですけど」←ルシカ


 ――『セルクの日記(セルク・ブログ)』。


 名の通り、セルクが生前書いていた日記のことである。

 実のところ、セルクの日記の原本は、このオークションに持ち込まれた品を含めて、全11巻存在する。

 日記の内容は、セルクが絵画を書くのを止めた、死ぬ前の五年間の出来事である。

 11巻中、9巻はプロ鑑定士協会に保存されており、今回の品は、残りの2巻の内の一つと言うことになる。

 プロ鑑定士協会が記録している日記には、最後の巻がない。

 すなわち、今回の日記は、セルクの残した最後の日記という可能性が高い。

 話によるとセルクは死ぬ2日前までこのブログを書き続けたと言う。

 その内容も、大きく分けて二つのパートに分かれている。



 一つ目は文章パート。


 これは普通の日記と全く違う形式で書かれている。

 というのも、セルクは日記を全て詩の形式で書いているのだ。

 その為、何とも抽象的な表現が多いと言う。

 また、全ての日記が同じ言語で書かれていたわけではない。

 その日の気分によるのか、様々な言語が、規則性なく使われているのだ。

 またその言語の中には現代では用いられていない文字もあり、『セルク・ブログ』の完全解析には、まだまだ時間が掛かるとのこと。


 二つ目はイラストパート。


 セルクは画家だ。

 一ページ一ページに描かれたイラスト全ては、見る者を圧倒させるほどの作品だったりする。

 ラフ絵や落書きであるのに、人をここまで感動させるのは、流石はセルクと言ったところ。

 しかし、そのイラストの内容があまりにも突拍子もないことばかりなのだ。

 例えばセルクは特定の宗教を持たなかったという。

 しかし、この日記には、様々な宗教の神的存在を、念密にイラストとして描いていたりする。

 時には龍の姿もあるそうだ。

 意味不明な内容は、研究者たちを大いに悩ませ、さながらインペリアル手稿だと称された。

 一部の研究者は、セルクとインペリアルは何かしらの縁があり、二人して暗号染みた文章を製作したのではとも考えているほどだ。

 この大陸の歴史的に見ても、このセルクの日記は大いに価値のあるものであると言える。


「セルクでしょ!? 買えるの、これ!?」←フロリア

「ううん、買えない」←ルシカ


 だよねーとリーダーも笑う。


「最低落札価格が五千万ハクロアだってさ! ハハハ、こりゃ無理無理!」←リーダー

「なら俺達は何しに来たんだよ。ただオークションの行方を見るためだけに来たってか? 馬鹿らしい」←ルシャブテ

「それだけわざわざ召集なんか掛けませんよ、ルーシャさん?」←ルシカ

「てめぇ、なんでテメェがその呼び名を使ってるんだ。殺すぞ?」←ルシャブテ

「まあまあルシャブテ、そうカッカしなさんなってば。ルシカが可哀そうでしょ? ただでさえ普段から可哀そうなのに」←リーダー

「……それもそうだな。ルシカは可哀そうだった。すまんルシカ。可哀そうなお前に、強い言葉で当たってしまった。謝る」←ルシャブテ

「可哀そう可哀そうって言わないでください!! ルシャブテさん! 今わざと言ったしょ!?」←ルシカ

「間違いない。るーしゃ、自分から謝らない、我が儘な子。私が面倒みないと」←スメラギ

「お前に面倒みられるなって真っ平御免だ」←ルシャブテ


 いちいち話が逸れる度に、周囲から奇異の視線を向けられるこの連中であった。


 ――オークション開始二十分前。


「そろそろ、頃合いですかね」


 スッとルシカは立ち上がる。そして皆にこう告げた。


「私達『異端児』がこれから行う作戦の全容を明かしましょう」

「何故このタイミング!? もうオークションが始まっちゃうよ!?」

「だから今から始める作戦が、私達の作戦全ての始まりなんです。作戦開始ギリギリまで、情報は伏せておけとイドゥさんに言われてまして」

「……イドゥの言うことも一理あるな……」


 ダンケルクが皆を見回す。

 確かに、うっかり口から漏れそうな奴ばかりであった。


「そんなわけでよく聞いて下さいね。どこに敵の耳があるか判らないので、一度しか言いませんから」


 ルシカは簡潔に、そしてこのラインレピアで行う全ての作戦について、ここにいるメンバーへ話した。


「へー、なんだか、面白そう」←スメラギ

「大量に人を斬れそうだ。新しい剣、買っておこう」←アノエ

「イドゥの奴、簡単に言ってくれる……」←ダンケルク

「楽しければそれでいいや」←リーダー


 各々思うことは多々あるだろうが、今はとにかく目先の作戦だ。

 ルシカはパンと手を叩くと、不敵な笑みを浮かべて、皆の顔を見回した。


「さて、『セルク・ブログ』、頂戴しに参りましょうか!」



 『異端児』達の行動が今、始まる。




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