ウェイルの目
二人が見た『不完全』と思われる人物は、それは――イレイズとサラーであった。
「――おや、意外と早く再会出来ましたね、ウェイルさん」
イレイズは何事もないかのように言葉を紡ぐ。
「イ、イレイズ……!? 何故お前が真珠胎児を……!?」
「何故って。お話し致しましたよね。仲間と仕事をしにきたって。その仕事がこれです」
「そんなことを聞いているんじゃない!! お前、『不完全』だったのか!?」
信じられなかった。
たった二回会っただけとはいえ、ウェイルはイレイズのことを気に入っていた。
出来ればこれは冗談だと笑い飛ばして欲しかった。
「――はい。『不完全』に属しております」
そんな期待は淡々と話すイレイズにバッサリと切り捨てられた。
決して冗談なんかではない、イレイズは本当に『不完全』なのだ。
「お前、ラルガ教会へ取引に行くっていってたよな。あれはどういうことだ」
「真珠胎児の原料を納品してもらいにいったのですよ?」
――こいつ……っ!!
怒りで歯を食いしばっているのが自分でも分かった。
「サラー、貴方もそうなの……?」
フレスが聞く。その表情は愕然としたものだ。
「……私はイレイズについていく。昔も今も、そしてこれからも。ただ、それだけだ」
サラーはそっとイレイズの元へと寄り添った。
「さて、どうします?」
イレイズが余裕たっぷりな表情で両手を広げ、語り始めた。
「貴方方はここで私達に手出しは出来ないはずです」
その通りだ。イレイズはこの場では何も違法なことをしていた訳ではない。へたに動くことは出来なかった。それも全て計算の内なのだろう。
「私達はたった今仕事を終えたところです。そろそろ帰らねばなりません」
イレイズがウェイルの方へと足を進める。
「ではウェイルさん。またお会いしましょう。次は奢って下さいね?」
イレイズはウェイルの肩に一度手を置き、サラーと共に部屋から出て行こうとする。
「――待て!!」
奴らは『不完全』の一員だ。
――だが違う。何かが違う気がしたのだ。
何故かは分からない。つい叫んで引き止めていた。
「どうしました?」
イレイズがこちらに振り返った。その顔は怪訝な顔をしていた。
「……俺はプロ鑑定士だ。だから自分の目には自信がある。その俺の目はお前達は他の『不完全』の連中たちとは違うと言っている」
「なら貴方の目が腐ったのでは? 私達はこういう集団ですし、その一員である私だって同じです」
「違う!! お前は明らかにこの仕事を嫌がっている。俺には分かる!!」
「何をおっしゃいますか。貴方は私を買いかぶりですよ。たった二度しか会ってないのに。私は進んでこの仕事を引き受けたのですよ?」
「じゃあ何故この前仕事の話をしたとき、辛そうな顔をしていたんだ!」
相変わらず余裕たっぷりな表情を浮かべていたイレイズだったが、ウェイルの言葉を聞いた瞬間、表情が少し歪んだ。
「サラー、お前だって分かっているんだろう!?」
「…………」
サラーは何も反応しなかった。でもそれは肯定したということでもある。
「何故こんなことをしているんだ! お前は分かっているのだろう? これがどれほど酷いことかを! 善悪が分かる人間なのだろう!? お前は――」
「――知ったような気で喋るな!!! ウェイル!!!」
イレイズの保っていた表情が露骨に変わった。だがそれは怒りの表情ではなく、悲しみに似た何かだ。
「私だって、本当はこんなことをしたいわけではない! だがやらなくてはならない! やらざるを得ないんだ!!」
「……イレイズ……。どうしてそこまで……」
「……『不完全』の仕事だからだ!!!」
ウェイルには分からない。
やりたくない。ならやらなければいい。
「仕事で人を殺め、仕事で違法品を集める。私だって分かっている! これが如何に酷いことかを!」
イレイズは半分自暴自棄のような感じだった。
「だったら止めればいいだけだろ!」
と、ウェイルが言い返したとき、足元にボワッと小さな爆発が起きた。
サラーの腕から炎が揺らめいている。怒りに満ちた瞳でウェイルを睨んでいた。
「おい、お前……!! 少し黙れ!!」
ずっと無言だったサラーがついに口を開けた。
「これ以上喋ると――焼き尽くす!」
サラーは左手をウェイルの方へ向けた。その手には真紅に輝く炎が、先程より更に激しく燃え盛っていた。
サラーは本気でウェイルに牙を剥いてきたのだ。
「――させないよ」
フレスがウェイルを庇うかのように両手を広げた。
「サラー、止しなさい」
イレイズがサラーを制止する。
「だがイレイズ、こいつら!!!」
「いいんだ、サラー。ウェイル達は私達に手が出せない。それなのに私達が手を出してしまったら卑怯者だろう?」
イレイズは大分落ち着いたみたいだ。
それを聞いたサラーは手を下ろした。だがその目に灯る怒りの炎は、未だウェイルに向けたままだ。
「ウェイルさん、そろそろ時間ですので失礼したします」
そう言いウェイルに背を向けた。そして言い放つ。
「次に会ったとき、邪魔をするようなら容赦いたしません。全力でお相手いたします」
――これは警告か? いや何か違う。
この言葉の中に殺気や悪意といった類の感情は感じ取れない。
何か悟ってくれ。そんな感じのする口調だった。だとすると――
――そう、これはヒントだ。本当はイレイズだって止めたいのだ。『不完全』を。
だが何等かの理由で止めることや逆らうことが出来ない。イレイズが本当にウェイルらを邪魔だと思っているなら、今ここで消すはずだ。
次に会った時。
これは必ず近いうちに出会うということ。つまり『不完全』の犯行は今から行うということ。
全力で相手をする。
すなわち戦わざるを得ない状況がある。つまりは違法取引。
「サラー、行くよ。確か六番街の酒場『ハーヴェスト』で、七時からだったね」
そう言った後、イレイズはウェイルの方を一瞥し、部屋から出て行った。
サラーは最後までウェイルを睨んだままだった。
最後のヒント。これは決定的だ。
六番街にある酒場『ハーヴェスト』。ここで裏オークションが開かれる。
今は午後六時。開始時間は午後七時だ。
「フレス、俺の目は腐ってなんかいなかったよ」
イレイズは良い奴だ。間違いなく、絶対に。
今は何らかの事情があって『不完全』にいる。
だが他の『不完全』みたく人として腐っているわけではなかった。今分かった。
最後に見せたあの表情。あれは何かを諦めた人間の表情に似ていた。
だがウェイルにはそれだけには見えなかった。
イレイズは半ば諦めているとしても、まだ『不完全』を止めるチャンスがあるという希望を持っているのだ。
イレイズはその希望をウェイルに託した。そうでなくては最後にヒントなんてくれやしない。
「フレス、俺達もいくぞ」
「うん! 裏オークションを止めに、そしてイレイズさんとサラーを救いに、だね♪」
「ああ!!」