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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
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秘密結社『メルソーク』とルーフィエ氏の来訪

「ウェイル。私、ラインレピアへ行ってくる。フロリアのことを信じるなら、ラインレピアで何か起きると思うから。リル、一緒にくる?」

「はい。『不完全』の残党が絡むかも知れない事件であれば、私だってどこまでも追いかけますよ。それに実は丁度ラインレピアの方で一つ案件を抱えてまして」

「ええと、奴隷オークションが開催されるんだったっけ?」

「そういうタレ込みがありまして。なんでもこの奴隷オークションのバックには、何やら大きな組織が存在するとか。ウェイルさん、『メルソーク』という組織はご存知ですか?」


 ――メルソーク。


 その名前を聞いた瞬間、フレスベルグが笑い出した。


「フフフ、メルソークか。懐かしい。まだあったとは驚きだ」

「……フレス、お前何か知っているのか?」


 まさかフレスが反応するとは思わなかった一同は、一様にフレスに注目した。


「メルソークという組織はだな。歴史を遡れば旧時代から存続する組織よ。まあ、当時と今、相当なる時間が経っているから、色々と違うかもしれんがな」


 旧時代にルーツを置くという組織だそうだ。

 メルソークと言えば、まさに秘密組織として、有名な名前ではある。

 知能指数の高い人間のみに入会を許され、大陸の歴史を影から操っていたとか、かのセルクも会員だったとか噂されている。

 とはいえ結局噂、真相を知る者は少ない。

 メルソークの名を知るほとんどのものは、その存在を迷信か、噂、おとぎ話程度にしか認知していないのだから。

 フレスの知るメルソークは、もう何百年も前の組織である。

 現在の組織と同名とはいえ、活動や方針、目的に差異がある可能性は高い。

 組織が残っていること自体、窺わしいとさえ思う。


「そのメルソークと言う組織は、奴隷オークションをする可能性はあるのか?」

「神器を手に入れるためならば、おそらくするだろう。目的の為なら人をも殺すからな。ま、我にとってはありがたい存在であったわけだが」


 フレスが語るメルソークという組織は、想像通りあまり印象の良いものではない。

 メルソークは執拗に神器を集めていたそうだ。

 それだけなら問題はないが、その収集方法は強引で、神器を取引して貰えない相手には死を与えていたという。


「奴らは三種の神器を手に入れようと必死になっていた。当時から三種の神器とは伝説級の代物。同じく伝説級の生物である我々龍族に媚を売って情報を得ようとしていたんだろうな。だから我々龍族には、奴らは親切にしてくれた。我らは三種の神器については何も知らぬと言うのにな。笑える話だろう?」

「……これで笑えるお前が凄いぞ……」


 またもや出てきた三種の神器という単語。

 その一角であった神器『アテナ』の力を目の当たりにしている以上、あれが再び大陸に危機をもたらすと考えると笑うに笑えない。


「しかしメルソークが昔のままだと厄介だな。もし奴らの行動を止めたいのならば、結構な武力が必要だぞ。敵は神器のスペシャリストみたいなもんだ」


 フレスはジッとイルアリルマを睨んで警告した。

 事実、奴隷オークションという行為自体が違法だ。

 当然、そのバックには何らかの犯罪組織が存在するだろう。タレコミ通りならメルソークが関わっている。

 バックがメルソークであれ何であれ、止めるとならば戦闘になる。

 命を失う危険性だってある。


「ただじゃ済まない。判るだろ、お前なら」


 その覚悟があるかと、フレスは問うたわけだ。

 イルアリルマは決して腕っ節のある鑑定士じゃない。

 それでも、彼女の奴隷制度撲滅に対する強い決心は揺るがないようだ。


「奴隷オークションなんて非人道的な行為、絶対に許せません。必ず検挙します」

「……いい返事だ。だが、気をつけろ。奴らは神器以外に価値など見いだせないのだから。命すらもな」

「承知の上です」


 イルアリルマの強い決心に、フレスは満足げに頷いた。


「丁度好いタイミングだったわね。私も手伝うわ」


 そんなイルアリルマの気迫を気に入ったのか、アムステリアはイルアリルマの手の上にそっと手を重ねた。


「私がいれば、誰が相手でも楽勝でしょ? それが例え、糞生意気なロリ鑑定士でも」


「フン、この小娘が、言ってくれるわ」

「あらら、いつもと立場が逆転したわね。まあ、今の貴方ならそう言われても嫌な気はしないけど」

「アムステリア、リルを頼むよ」

「ええ。可愛い後輩鑑定士ですもの。厳しく鍛えてあげるわ」


 もしイルアリルマ一人で、奴隷オークションを止めるというのであれば、ウェイルは迷わず止めていただろう。

 以前イルアリルマとは約束をした。

 前線に出るのはウェイル達、イルアリルマは後方で支援をしてくれと。

 

 だが、アムステリアがいるなら話は別。

 彼女はウェイルの知る限り、誰よりも強い鑑定士だ。精神的な面も考慮すればフレスすらも凌駕する。

 アムステリアなら、きっとイルアリルマを守ってくれる。


(……優しいからな、アムステリアは)


 面と向かって本人には言えないけど。


「二人とも、気をつけろよ」

「私にも言ってんの? ウェイル。大丈夫に決まってるでしょ?」

「そうだな」


 次の行先が明確になったわけだ。

 二人はすぐに目的地へと向かうだろうし、しばらくは帰ってこないだろう。


「ウェイルは来る?」

「いや、済まないが今はいけないんだ。奴隷オークションと聞いては黙ってはいられないんだがな」


 ウェイルとしても続きたいのは山々ではあるのだが、その前にやらねばならないことがたくさんある。


「何があるの?」

「最近のごたごたで鑑定依頼が溜まっているんだ」


 ここしばらく、アルカディアル教会絡みの事件や、フレスの看病ばかりしていた故に、その間の仕事を一切こなしていなかったのだ。

 大したことのない小さな仕事は全て断ってくれとサグマールに依頼していたものの、それでもウェイルの元へ依頼も多い。

 もっぱらのところ、ずっと前から預かっているカラーコインの鑑定をやり終えておきたいところ。


「奴隷オークションや『異端児』とかいう連中のことも気にはなるが、仕事の方もおろそかには出来ない。それにこいつのこともある」


 ぽんとフレスの肩に手を置く。

 こいつをどうにかしないと、下手に動けないというのも事実である。


「だからフレスを心配する必要はないと言っておろうに」

「そうはいかないんだよ。俺はフレスの師匠なんだから」

「では我のことはどう思っておる? 我もお前の弟子か?」

「当然だ。今更聞くな。俺とお前の仲だろう?」

「……だったな」


(――フレスだろうが、フレスベルグだろうが、そんなことは関係ないさ)


 口に出していうのは恥ずかしいが。


「そういうことで俺達はとりあえずマリアステルにいるよ。何かあったら電信で伝えてくれ」

「分かったわ。何かあればすぐに連絡する。そっちこそ、何か面白い情報を掴んだらお願いね」

「ああ、ラインレピアの治安局に話をしておくよ」


 話もアムステリアとイルアリルマの二人は荷物をまとめる。


「このセルク・ラグナロクはどうするの? 贋作だし、処分する?」

「いや、わざわざフロリアが持ってきたんだ。贋作士がわざわざ贋作を、『贋作』として持って来たんだ。何かあるのかも知れないから、ここに置いておくよ」

「そうね。わざわざ持って来たんですもんね……」


 そこに大きな謎でもある。

 結局フロリアはこれを持って来た本当の動機を喋らなかったし、二人も特に聞くつもりはなかった。どうせ話す機などさらさらないだろうから。

 それでもフロリアは親切だと思う。

 フロリアが最初に警鐘とヒントという意味を考えれば、おのずとこの絵画で伝えたいことが判ってくる。


 フロリアは暗にこう言いたいのだ。


 セルク・ラグナロクに、大きなヒントがあるのだと。

 そしてわざとらしく最後に言った、次の目的地。

 フロリアを信頼するのであれば、これは警鐘。

 導き出される結論は簡潔だ。



 ――『異端児』のメンバーは、ラインレピアに集まって、何かをやらかすつもりなのだ。



「行くわよ、リル。ウェイルも、もし来れそうなら来てみたら?」

「ああ。仕事が一通り済んだ後にな」


 こうしてアムステリアとイルアリルマは、奴隷オークションの捜査に、ラインレピアへと赴くのであった。






 ――●○●○●○――





「ウェイル、お前は本当に行かなくていいのか?」


 話を終えて、部屋から出て行った二人を見送りながら、フレスが少し心配げに聞いてくる。

 イルアリルマにあんなことを訊ねたフレスだが、なんだかんだで心配しているようだ。


「行きたいのは山々なんだがな……。本当に仕事が溜まりまくっているんだ。鑑定依頼は協会内に届けられた依頼品をこなせばいいだけなんだが、問題はこれだよ」


 金庫から取り出し、机に並べたのは、七枚の色鮮やかな硬貨。

 赤、黄、緑、紫、青、白、黒の七枚だった。


「カラーコイン、だっけか」

「こいつの正体をシルヴァンで掴みかけた途中でアルカディアル協会の事件が起きやがったからな。いい加減ケリをつけないとルーフィエ氏に申し訳ない」

「この正体なぁ……。我はどこかで見たことがあるはずなんだが……」

「そういえば以前にもそんなこと言ってたな」


 人格が『フレス』の時にも同じことを言っていた。

 記憶は共有しているのだから当然と言えば当然だが、此方のフレスベルグの方であれば、何か思い出せるかも知れない。


「どこでみた?」

「……簡単に思い出せれば苦労はせん。何せ我は封印されたり解放されたりで、結構記憶が曖昧になっていてな」

「ということは封印される前の段階か。お前、以前はフェルタリアで解放されたと言ってたな」

「そうなんだが……、ううむ……」


 フレスが腕を組んで、うんうん唸っている中。


「失礼します。ウェイル殿、貴方に用が――、ってなんだこりゃ!?」


 ニーズヘッグにふっ飛ばされて、もはやドアとしての定義を成していない扉を開けて、事務伝達員が入ってきた。


「……あ、あの、ウェイル殿、どうして貴方の部屋の扉は毎回毎回こんなことに……?」

「俺のせいじゃないぞ……」

「……直す方は大変なんですから、お気をつけてくださいね……」

「あ、ああ。悪いな……」


 最近この部屋の扉はよく破損する。

 その修理の手続きを、毎度毎度してくれる事務員達も大変だなと、つい同情してしまう。

 ……そろそろ彼らからの冷たい視線が痛い。


「それで何か業務連絡か?」

「あ、はい。実は今、ウェイル殿に会いたいというものがロビーに来ておりまして」


(誰かと会う約束なんてあったか……?)


 頭の中のノートを全力でめくり直してみるも、そんな予定はない。


「誰だ?」

「依頼人のルーフィエといえば判ると」

「ルーフィエ氏が!?」


 まさかまるで測ったようなタイミングで、カラーコインの依頼主が現れるとは思わず、声が少し裏返ってしまう。


「ああ、判った。すぐに会いに行くと伝えてくれ」

「了解しました」


 今日は何とも噂をすればその人物が現れる日である。


「フレス、お前も来るか?」

「無論だ。カラーコインを見続けていれば、記憶にたどり着けるかもしれぬ」

「だな」

 

 唐突に来訪した、カラーコインの依頼人、ルーフィエ。


 彼がこれからする依頼は、ウェイル達を事件の渦中へと向かわせるものであった。



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