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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 『水の都と光の龍』
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『セルク・ラグナロク』のメッセージ

 フロリアが語った内容をかいつまんで話すと、


「『不完全』という組織は『異端児』が潰した」

「『異端児』はこれから、この世界を楽しくしようと行動を始める」

「イドゥという男は、とある神器を欲している」


 そして特に驚いたのは――


「私の解釈では『セルク・ラグナロク』は普通の絵画じゃない」


 ――という話であった。


「この絵画が絵画じゃないと……?」

「私の絵画好きはウェイルも知っているでしょ?」

「一応な」


 フロリアは一流の贋作士に違いない。

 何せこれほど精密な『セルク・ラグナロク』を書いて持ってきたのだから。

 常々思うことはあるが、鑑定士と贋作士、両者は相反している存在と言えるのだが、共通する点も多くある。

 もっとも大きい点、それは、誰も彼も、芸術が好きだという点だ。

 そもそも芸術に興味がなければ、贋作など作る気すら起きないだろう。

 それはフロリアとて例外ではない。

 贋作を作るには、元となる作品についての研究が必要不可欠だ。

 どこにも矛盾が出ないように、見抜かれないように完璧に作り上げる。

 それは好きじゃないと出来ないことだといえるのではないか。


「正直なところ、私はセルクについて、ルミエール美術館の館長よりも詳しいよ」

「シルグル以上、か」


 そこまで言い切るのだ。

 よほど知識があって、そしてセルク作品を愛しているに違いない。

 セルク作品のことをアレスと語るフロリアの顔は、思い出してみればとても楽しそうであった。


「セルク・ラグナロクはセルク最後の作品。資料によれば、書き上げたのはセルクの死ぬ五年前だった」

「それは俺も知っている。セルクが死を悟り、描いた作品だとされているな」


 プロ鑑定士からすれば、至極常識的な話である。


「とても教科書通りの知識だね。でもね、果たして、本当にそうだったのかな。私はそれが本当だとは思わない」

「……どういうことだ?」

「セルクは、本当に死を悟ったのだろうか」

「……どうなんだろうな」

「セルク暗殺説とかもあるわね」


 アムステリアも、諸説聞いたことがあると話す。


「セルク・ラグナロクは、死ぬ五年前に書いた。でも、セルクほどの絵描きのこと。残りの五年間にまったく絵を書いていないというのも、なんだかおかしい話」

「体調が悪くなったと考えられないか?」

「もちろん考えられるけどね。でも、こう考えられないかな。セルクはもう絵画に興味がなくなったと」

「興味が、なくなった、か」

「それは何も絵画だけじゃない。もしかしたら、この世の中に興味がなくなったのかも」

「…………」


 その言葉に、アムステリアが黙り込んだ。


「…………アムステリア?」

「…………一緒ね。奴らと」

「うん」

「奴らというと、『異端児』とかいう連中のことか」

「この世界に興味がない、か。確かにそう思っていたかもしれない。……ルミナスがそうだったから」

「…………そうか」


 ルミナステリアこそ、そのもっともたる例かもしれない。


「お前さっき、『異端児』の連中の目的を言ったよな。『この世界を楽しくするって』」

「あれさ。私にもよく分からないんだよね。でも常々みんな言っていたよ。この世界はつまらないって」

「セルクもそう思っていたのかしら」

「どうなのかなー。でもそう考えると、この絵画には何らかのメッセージがあると思うんだ。だって怪しいとは思わない? この絵画、どうしてか龍が描かれているんだよ? セルクはあまり龍の絵画を書いていないのに」

「龍、か」


 ちらりとフレスとニーズヘッグの方を見る。

 なんだかもの欲しそうにフレスを見つめるニーズヘッグに対し、フレスは存在すら気が付いていないとばかりに本を読んでいた。


「赤、青、緑、紫、そして黄色の五体か。なんだかフレス達のことを書いている気がするよ」


 サラー、フレス、ミル、そしてニーズヘッグ。

 黄色の龍など聞いたことはないが、フレス達がいるんだ。いないことはないだろう。


「……そういえば前にフレスは龍は全部で五体いると言ってたな……!」


 考えれば考えるほど、この絵画の謎は深まるばかりである。


「とまあこの絵画っていろいろと怪しいじゃない? だからウェイルに持ってきたんだ。龍のパートナーなら、この絵画について色々と考えることが出来そうだからさ」


 ウェイルはふと、感じたことがある。

 フロリアのいう、この絵画は普通の絵画じゃないという意味が、なんとなくだが理解できた気がした。

 それは初めてフレスの絵画を見たときと同じような感覚。

 見逃してはならないメッセージのようなものを感じたのだ。


「一応、礼は言っておこう。ありがとな、フロリア」

「いやいや、アレス様を助けてくれた恩もありますことですし!」


 アムステリアは、こんな二人のやり取りを見て、少しだけ微笑ましく思えた。

 何せ今フロリアは、セルクの絵画談義を楽しそうにしていたからだ。

 そしてアレスのことを語る時の眼。

 その眼はもうすでに、この世界に興味がないという虚ろな目ではなかった。


「フロリア。異端児のことをもう少し聞かせて。……というかイドゥは何を狙っているの?」

「私にも詳しいことは分からないけど、一つだけ知っていることがある」


 フロリアは指を一本立てて、こっそりと呟いた。



「――三種の神器が欲しいと以前イドゥは言ってたよ」



「……三種の神器か……!!」


 すでに三種の神器の一つ『アテナ』の存在は確認している。

 他の二つについても実在する神器に間違いないだろう。


 『アテナ』は他の神器に魔力を供給する神器であった。


 これまで見たどんな神器よりも強力な力を持っていて、龍の力を持ったとしても歯が立たないほどの神器である。

 『アテナ』の力を、ほんの少し借りただけのオライオンですら、フレスが命を賭してまで全力を出さねば勝てなかったのだ。

 そんな神器を異端の連中は探しているという。


「……下手に使われると大陸が消飛ぶかもな……」


 『アテナ』のことを考えると、それも現実に起こり得るだろう。


「異端児共は、次どこに行くか知ってるの? 当然知ってるわよね?」


 スラリと美しく伸びた足を、フロリアの前に突き付けたアムステリア。

 この足はただ美しいだけじゃない。下手なナイフよりよく切れ、ハンマーよりも重い武器だ。


「え、えーと、そんなに足を見せびらかさなくても大丈夫だよぉ……。……あ、そういえば次の指令ではラインレピアに行くって言っていたよ」


 冷や汗掻きながらフロリアが答える。


「ラインレピア……、あそこに何かあるのかしら」

「どうだろうねぇ。でも招集があったから私も行かないといけないんだよね」

「……フロリア」


 ウェイルはフロリアをぐっと睨み付けた。

 『異端児』という連中は『不完全』をも潰した奴らだ。

 そんな連中のところへ行くとなると、フロリアのこと、また何をしでかすか分からない。

 フロリアがこれまでしてきたことをウェイルは全て許したわけじゃない。

 だからこそ、しっかりと釘を刺さねばならないと思っていた。

 だが、そんなウェイルの視線の意味を理解していたのか、フロリアは苦笑を浮かべる。


「大丈夫だって、ウェイル。私はアレス様を裏切るような行為はしない。奴らを監視する眼だって必要でしょ?」

「まあ、そうかもしれないが」

「私は私の思うようにするよ。異端児の連中も中々に面白くて、アレス様もどちらも裏切りたくないんだよ。だからウェイルも好きに動いてよね。もしまた敵として会ったら、その時は手加減してね?」


 なんとも無邪気な顔だった。

 時折ウェイルは、こんなにも自由奔放なフロリアのことが羨ましく思える時がある。


「知るか。容赦なく叩き潰すよ」


 敵としてまた会ったのなら、今度こそきっちり決着をつける。

 クルパーカーの時の続きを、これから始めるのもやぶさかではない。


「楽しみにしてる。じゃあ私、伝えたいことも伝えたし、そろそろ行くね。ニーちゃん、行くよ~」

「え、あ……でも……フレス…………」

「フレスは後でじっくりと会えるでしょ! さっさと行くよ!」

「……うん……今は我慢……」


 なんて言いつつチロチロ名残惜しそうにフレスを見るニーズヘッグを引きずりながら、フロリアは部屋の外に出た。

 そしてフロリアは、またもやバリーンと廊下の窓ガラスを粉砕しながら、ニーズヘッグに掴まって外へと出て行った。


「どうして普通に出ていけないんだ……」

「しかもモヒカンのまま去って行ったわね……」



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