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龍と鑑定士  作者: ふっしー
番外編5 アムステリア編 『愛に狂った朧月』
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イングの来訪

 リューリクには両親がいないし親戚もいない。

 だから葬儀はアムステリアとルミナステリアだけで行った。

 略式の葬儀を執り行った後は、二人で庭に穴を掘った。

 二人で掘った穴は、これから大切な人が眠る場所。

 だから丁寧に、心を込めて掘っていく。

 掘り終ると、リューリクの入った棺桶を、二人で抱えて中に入れた。

 涙はとっくに枯れ果て、二人とも疲労と心労で衰弱していた。

 それでもリューリクのことを思えば、疲労なんて吹き飛ぶほどの絶望が二人を包んでいた。

 笑顔のリューリクを思い浮かべて、心が壊れるのをなんとか耐えながら、ゆっくりと優しく、丁寧に棺桶を持って、そっと穴の中に置いた。 

 最後に棺桶を開けて、安らかに眠るリューリクの顔にキスをして、改めて閉めて土をかけ始める。

 大好きなリューリクが埋まっていくのは、二人とっては胸が引き裂かれる以上に辛かった。

 もしアムステリアかルミナステリア、どちらか片方しかいなければ、リューリクを追って自ら命を断っていたかも知れない。

 彼女達は二人だから、互いに苦しさを共有できたから心の崩壊を防ぐことが出来ていた。

 全てを埋め終わり、その場所に墓標を立てる。

 皮肉にも、二人の器用さはここでも発揮され、それはそれは立派な墓標が出来たのだった。

 全ての工程が終わった後、ルミナステリアはポツポツと語り出す。


「お姉ちゃん、リューリクね、最後の時、起きたんだよ」

「最後に、起きたの……?」

「うん。とっても苦しそうだったけど、リューリク、こう言ってくれたんだ――」



「――『テリアも、ルミナスも、愛してる。もし生まれ変わっても、二人と一緒にいたい』――って…………っ!!」


「リューリク……っ!!」


 すでに枯れ果てたと思っていた涙が、止まらなく溢れてくる。

 もうリューリクはこの世にはいない。

 その事実が重すぎて、二人はやっぱり抱き合って泣いた。









 ――●○●○●○――








 しばらく、二人は仕事を断り続けた。

 リューリクのいなくなった世界に、なんの価値を見出すことが出来なくなっていたのだ。

 半ば現実逃避の様に眠り塞ぐ二人であったが、それでも彼女たちは生きている。


「…………お腹すいたな…………」


 人間はどれほどの悲しみに包まれようと、生きている以上お腹が減る。

 何か食べないと死んでしまう。


「何か作らないと……」


 アムステリアは、気分は乗らないが、夕食を作り始めた。


「ルミナス、何なら食べてくれるだろう……?」


 ルミナスはこのところ、ほとんど何も口にしてはいなかった。

 なんとしてもルミナステリアに、何かを食べさせないといけない。


「ルミナス、何か食べたい物、ある?」

「…………何も要らない…………」

「でも食べないと死んじゃうよ」

「…………いいもん。別に」


 まるでリューリクの後を追うかの如く。

 意地でも食べ物を口に入れていなかったのだ。

 アムステリアは死に急ごうとする妹を見て見ぬふりは出来ない。


「ルミナス、何か食べて」

「…………要らない」

「食べさせてあげるから! ね!」

「…………」


 ルミナステリアはそれからもう喋らなかった。

 目は虚ろで、ぺたりと座り込んでいる。

 アムステリアが口まで運べば何とか口に含んでくれる。

 少しばかり安心はしたけど、このままではルミナスとて体力が持たない。


「ルミナス、頑張ろうよ……、私達はリューリクの分まで生きないと……!!」


 そう言っている本人すら涙が溢れ出る。

 それでもルミナスの虚ろな表情は変わらなかった。

 こんな調子が、二人がリューリクを埋めた日から続いているのだ。









 ――●○●○●○――









 ある日、アムステリアは気分転換に買い物に外に出ていた。

 その頃、アムステリアの家には、一人の来訪者が現れていた。

 ルミナステリアの状況を聞いて、『不完全』の中の一人が、様子を見に来ていたのだ。


「お邪魔するよ。勝手に入るね」


 見た目の年齢は十二、三くらいの少年だろうか。

 いつも依頼に来る連中とは違い、あまりにも若い。

 ルミナスはいつものようにベッドに塞ぎ込んでいた為、男の来訪には気付かなかった。


 その来訪者の名前は――イングと言う。


「あらら、噂通りベッドで寝てる。お姉ちゃんの方は……いない、か。都合が良いね」


 そしてイングは、塞ぎこむルミナステリアにこう囁いた。


「――大切な人を、生き返らせる方法がある。知りたくはないかい?」


 今のルミナステリアにとっては、あまりにも甘美な悪魔の言葉。

 その瞬間から、ルミナステリアの時間は動き出した。


「それ、本当なの? リューリク、生き返るの……?」


 もぞもぞと頭だけベッドから出して、目の前にいる男に問う。

 それに対し、イングはニコッと笑顔を向けた。


「僕なら出来るよ。そういう神器を持っているんだ。それに僕等は贋作士集団『不完全』だよ? 人間を一人作り直すくらい、簡単だよね」

「私は、リューリクを生き返らせるために、何をしたらいいの……?」

「何もしなくていいさ。僕はただ、リューリクを復活させるためのお手伝いをしてあげたいだけだから」


 その方法とやらを、イングは耳打ちして、そして帰っていった。








 ――●○●○●○――








「ただいま、ルミナス。今日はルミナスの好きな梨のハチミツ漬けを買って来たんだ。食べようよ」


 イングの来訪を露も知らないアムステリアは、ルミナステリアの大好物を買って、今日こそは元気を出してもらおうと帰ってきた。


「ルミナス、起きてる?」


 ルミナステリアのベッドを見てみる。そこでアムステリアは驚いた。


「ルミナスがいない……?」

「お姉ちゃん、お帰り! 私、お腹すいちゃった」

「ルミナス!?」


 アムステリアの背後から、聞き慣れた、そしてもう一度聞きたいと願っていた声があった。


「どうしたのルミナス!? 大丈夫なの!?」

「うん。お姉ちゃん、心配かけてごめんね。私、リューリクの為に生きなくちゃならないよね」

「そうだよ! 二人で頑張って生きていこうね!」

「うん。でもお姉ちゃんじゃ無理かな? 私はイングにお願いする」

「イング……?」

「イングと一緒に、私、頑張るからね!」


 この時アムステリアは、ルミナステリアの発言の意味が全く判らなかった。

 

 



 この日以降のことである。


 ルミナステリアの行動は、日に日におかしくなっていった。

 行動は残虐性を増してきたし、贋作だって、気持ちの悪いほど精密に作り始めた。


 特に興味を示したのは、人間の体の標本や骨格とかであった。


 時折イングと共に、外に出ることも多くなった。


 何をしているか、最後までルミナステリアは教えてくれなかった。


 そんな日々が、アムステリアが十九歳になるまで続いたのだった。






ついに『龍と鑑定士』は連載二周年を迎えました!

二周年記念として、第一章のイラストを頂きましたので、掲載いたしました。※印の入っている話に掲載しています。


ここまで続けてこれたのも、読者の皆様のおかげです!

更新スペースも徐々に上げていこうと思うので、これからも完結までウェイルとフレスの二人を、どうかよろしくお願いします!

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