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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 プロローグ 『異端な者達』
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『不完全』最後の宴

 会議室は紛糾していた。

 元々仲は険悪な『穏健派』と『過激派』だ。

 少しの意見の食い違い、主張の言い合いが、大きな喧嘩へと発展することも珍しくない。

 重要な会議だからこそ、このような光景が繰り広げられていく。

 そんな中、会議室の扉が唐突に開き、参加者の注目が集まった。


「ほ、報告します! 皆さん、静粛にお願いします!」


 会議に割って入ってきたのは会議を警備していた中立派の男。

 何やら焦った様子であり、肩で息をし、額には汗。


「何があった?」


 この会議の議長だろうか。

 中央の奥の席に座り、腕を組む初老の男が、会議を中断し、男に尋ねた。


「く、クーデターです! イドゥ氏の手下達が、クーデターを起こしています!!」


 その報告に、一同の背中が凍りつく。

 議長の男も、たったその一言だけで絶句していた。

 参加者は皆、ある共通の思いを抱いていたことだろう。



 ――まずい、と。



 イドゥの部下達は非常に優秀だと、『不完全』内でも有名だった。

 イドゥの人間を見る目は確かで、彼が拾ってきた孤児のほとんどは有力な贋作士に育っていった。

 スメラギやルシャブテ、ルシカ、他にもアムステリアやルミナステリアも、イドゥの見つけてきた人材である。

 アムステリアやルミナステリアなんかは、当時『不完全』を代表する贋作士であったし、彼女達は、腕っ節の方も強かった。

 スメラギ、ルシャブテもかなりの使い手であるし、他のメンバーだって同じだ。

 イドゥが『不完全』内で力を持っていたのも、背後にある彼の部下が恐ろしかったということが大きい。

 この度のイドゥ極刑の件とて、穏健派や過激派はとても慎重に議論してきた。

 極刑となると彼の部下は黙ってはいない。

 それは判ってはいたが、『不完全』という組織を崩壊させないようにするために、この判断に踏み切ったのだ。

 その為にもこの会議会場には多数の警備員を用意してあるし、外にはその倍以上の警備員がいる。

 何としてもこの会議を、何者の邪魔も受けず、なおかつ穏健派と過激派とが上手く進めていける結果を残さねばならないのだ。

 そんなところへ飛び込んできたクーデターの報告。

 誰しもが顔を真っ青にするのも頷ける。


「クーデターを起こしたと思われる人物は――――っ……」

「はいはい、自分で名乗るからいいよ。お疲れ様」


 報告しに来た男が、突如倒れたかと思うと、その後ろには、血まみれのナイフを持った仮面の男がいた。

 突然の急襲に、面食らい静寂となる会場に、仮面の男――リーダーは楽しそうにスキップしながら入ってくる。


「やあやあ皆さん、お揃いで! 僕らも会議に混ぜてくれるかな?」


 ここに集まっているメンバーは馬鹿でも弱者でもない。

 それなりの実力を持つ、組織の幹部以上の面々がここに集っている。

 治安局の一個小隊、それどころか一部隊程度なら数人で地に沈めることの出来る実力すらある。

 そんな議員連中を前にして、リーダーは鼻歌すら歌って、議会中央に躍り出ていた。

 最初から闘争になることを想定していたのか、両派閥のメンバーはそれぞれ自慢の神器を構えていた。

 矛先は当然、中央にて遊んでいるリーダーに。


「あらら、みんな物騒なもの持っちゃって。イドゥさんを殺す会議にそんなものが必要だったっけな?」

「お前は会議に参加する資格などない。ただちにここから立ち去れ」


 誰もが武器を持って立ち上がる中、唯一どっしりと腰かけていた議長の男が、静かにそう告げる。


「今は我々組織の行く末を決める大切な会議の途中だ。お前みたいな異端な者に邪魔立てされる理由はない」

「あのさ、何か勘違いをしてるみたいだけど、僕らは会議を邪魔しに来たわけじゃないんだよ」

「……と言うと……?」

「今更邪魔なんてする意味なんてないもん。ただね、一つだけ聞きたいことがあって」

「貴様らに答えることは何もない」


 リーダーがそこまで言って、ちらりと議長の顔を見た、その直後。


「――――!?」


 この場の全員が、例外なく息を呑んだことだろう。

 特に驚いたのは議長に違いない。


「議長、お願いだよ。僕の訊きたいことは、たった一つだけなんだから」

「……貴様……!!」


 議長の隣に座る副議長の首が、コトンと机の上に落ちた。

 議長の冷や汗は止まらない。

 隣の人間が殺されたのもそうだし、自分の気が付かないうちに、喉元に冷たい感覚があったからだ。


「……質問には答えた方がいい」


 アノエが大剣を、議長の首にあてていたのだ。

 周囲の者も、武器を構えて交戦しようとしたが、議長がそれを視線で制止させる。

 下手をすれば、このアノエという女は、即座に自分の首を跳ね飛ばすだろうから。


「議長さん、質問、いいかな?」


 リーダーが聞いているのは、今質問をして良いか、悪いかではない。

 さらに言うなら、生きたいか、死にたいか、ですらない。


 ――今死ぬか、後で死ぬか、だ。


「……答えてやる。それで質問とはなんだ?」


 発言権を得たリーダーは、その見えない表情からでも判るほど楽しげに、こう尋ねた。

 


「――ティマイアは、どこ?」



 その瞬間、この場にいた事情を知る者の顔が凍りつく。


「……どこで聞いた、その名前を」

「どこって言われてもなぁ。そもそも『不完全』は龍を集めるのが目的でしょ? だとしたら、ここにいる人なら知っているかと思って」

「知らん。知っていてもお前らに教える筋合いなどない」

「そう? アノエ」

「…………」

 

 議長の首から血が流れ落ちる。

 アノエの瞳から、光が消え去った。

 これは彼女が人を殺す時に、一瞬だけ見せる表情である。


「教えてくれないかな? 議長?」

「…………判った。判ったから剣を下げてくれ」


 議長とて人間だ。

 後ほんの数秒、返答が遅れていれば、首は即座に宙を舞ったということを本能的に理解したのだろう。

 冷や汗で、服がビッショリと濡れている。


「そんなにあれが大事?」

「……当たり前だ。我々はいかなる手段を用いてでも、あれを欲さんと躍起していたのは貴様も知るところだろう」

「そうだね。だから僕等も欲しくてさ」

「お前らは何も知らんのだ。あれは駄目だ。危険すぎる」


 額から落ちる汗を拭うこともせず、議長は続ける。


「よく聞け。龍は我々の目的の終着点だった。我々の目指す『完全』な理想郷実現の為に、必要不可欠だと思っていたからだ」


 議長は、さらに語気を強めた。


「龍はな、――鍵なのだ。全てを終わらせるためのな。だからこそ、扱いは慎重にならざるを得ない」

「鍵、か。確かにそうだね」

「鍵が揃う時、『セルクの予言』が始まる。それが何か我々は研究の末、辿り着いた。そして気が付いたのだ。現代に蘇ったとされる龍は五体。あれらが集結せし時、世界は終焉を迎えるのだと。止めておけ。龍には手を出さない方がいい。結末は知らないに越したことはない」


 ――世界の崩壊。

 冗談など言える状況にいない議長が、真剣にこう言うのだ。何も知らない議員の間には緊張も走る。

 だがリーダーはやはりと言うべきかのほほんとしていて、それどころかこんなことを口にした。


「その結末を僕は知ってるんだ。どうしていけないのかな? 楽しいんじゃないの?」


「お前は阿呆か!? 結末を知っているくせに、何故やろうとする――」


「――よし。話してくれないなら、もういいや」


 リーダーは唐突に話を打ち切ることを多々やる。

 相手のペースや都合などに、合わせる気は皆無だからだ。

 本人すら気づかなかったに違いない。

 すでに議長は、この世の住人ではなくなっていることに。

 コトリと落ちた議長の首が、この会場をさらに凍りつかせた。


「よ~し、会議は終わり! この組織、これから潰れちゃうんだもん。会議の必要性なんてないでしょ?」


 議長の首を蹴飛ばして、リーダーは議長席の机の上に立った。


「代わりに宴を始めよう。音頭は僕に任せてもらおう。『不完全』最後の宴を! さあ、皆、楽しんで逝きましょう!」


 その台詞を皮切りに、会場各地から鮮血が飛ぶ。


「リーダーも物好きだ。敢えて目立つような真似をするなんてな」

「リーダーは歌劇が大好きだから。自分に酔ってるだけ」

「付き合わされる方は堪ったもんじゃない」

「私は魔力を吸えるから嬉しいけど」


 すでに大剣で人を薙ぎ払いまくってたアノエに、影から様子を見ていたダンケルクが合流。

 ダンケルクとアノエは、突然のことに体が動かない連中を、次々と容赦なく斬って回った。

 議員からすれば、大剣と双剣を振り回す二人のことは、さぞかし恐ろしい存在だったに違いない。

 神器を向けられているのにも関わらず、恐怖心もないのか、躊躇なく向かってくるのだ。

 それどころか神器の攻撃を全て躱し、受けきりながら迫ってくる。

 さながら二人の姿は悪魔の様。


「ま、まずい……!! あいつら、化け物染みている……!!」


 一般人からすれば、ここにいる全員は十分化け物ではあったのだが、この連中はさらにその上のレベルにいる。


「は、早く逃げ――」


 他の議員が切り刻まれるのを尻目にしてようやく出入口まで辿り着いた連中も、結局この会場から出ることは出来なかった。


「ルーシャ、そっち、お願い」

「言われなくても殺るさ。そっちもしくじるなよ、スメラギ」

「ムッ、ルーシャ、ちょっと生意気。でもそこが可愛い」


 出入口に構えていた新たな刺客、二人。


「お前らの眼、見せてもらおうか」

「ひぎっ!?」

「……汚い眼だ。コレクションにもならん」


 ある者は長く伸びた鋭い爪に眼球を抉られ、


「私で溶けて? ね?」

「うががががあがががががあああああががっ!?」


 ある者は首を掴まれ、強烈な握力に逃げることすら敵わずに。

 掴まれた首から煙と共に、強烈な臭いが発生していく。

 体が、溶けているのだ。


「み~んな、溶かしてあげる」


 眼球を抉られた男も、結局は彼女に、体を溶かされた男と同じ運命を辿って行った。



今回で300話を迎えました。

読者の方々の応援のおかげでここまで来ることが出来ました。

引き続き『龍と鑑定士』をよろしくお願いします!

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