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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第一部 第二章 競売都市マリアステル編 『贋作士と違法品』
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裏オークション

「なるほどね。サスデルセルの事件は真珠胎児を手に入れるための事件だった可能性がある。次に今回『不完全』が贋作の真珠胎児を出品、その中には本物が混ざっているという噂。そしてオークションハウスのオーナーが手に入れたという情報。この都市で流された広告」


 アムステリアはウェイルが話した内容を、紙に判りやすくメモし始めた。


「偶然にしては出来すぎているわね。間違いなく『不完全』が裏で何かやっているわ」

「奴らは何をする気なんだ?」

「さあ、そこまでは分からないわね。ただ確実に言える事は二つ。サスデルセルの事件は間違いなく真珠胎児を入手するためだけにやったということ。これは過去、他の宗教でもやったことがあるわ。手口も同じ。やりそうな奴にも心当たりがある。そしてこの広告とその噂。これは嘘」

「――嘘、だと? だがお前が言うに奴らは真珠胎児を本当に入手したのだろう?」

「ええ。被害の状況を聞くに、それは間違いないでしょうね。でも――」


 アムステリアはクルクルと器用にペンを回し、答えた。



「――オークションには出品しない」



 予想外の答えだった。


「オークションに出品しないだと? ただ収集したいだけだったということか?」

「いえ、違うわ。あいつらが収集するには真珠胎児は入手難度が低すぎる」


 真珠胎児すら難度が低いという。『不完全』という組織はどれほど貪欲なのだろうか。


「なら、どうするんだ?」


「――裏オークションよ」


「裏オークションだと?」

「この都市では毎年いくつか裏オークションが開催される。協会に悟られないようにね。そこでは表の世界では手に入らない、違法品が大量に取引される。もちろん価格は尋常じゃなく高い。それでも参加する大富豪はたくさんいるわ」


 違法品を専門にコレクションしている大富豪も少なくないと聞く。

 この世で最も腐った連中だとウェイルは思っている。


「間違いなく真珠胎児は裏で取引されるわね。そっちの方が儲かるでしょうし安全だから。このベガディアルで行われるオークションは単なる囮、もしくは小遣い稼ぎ程度なものかしらね。今頃は嘘の噂が広まって盛り上がっているでしょうね」


 ウェイルは裏オークションの存在自体は知っていた。

 でもまさかこんな近場で行われているとは。

 しかもプロ鑑定士協会本部があるこのマリアステルで。完全になめられている。


「オークションは近いうちに行われるはずね。そうね。私がこの犯行を行うなら――」


「「――ベガディアル・オークションと同じ時間に開催する」」


 ウェイルとアムステリア、二人の声が見事に重なった。


「アムステリア、俺は『不完全』を止めたいんだ。協力してくれないか?」

「何言ってるのウェイル。協力するに決まっているでしょ♪ 貴方と私の仲じゃない」


 アムステリアはウェイルにウインクを投げかけた。

 味方になるとこれほど頼りになる奴はいない。ウェイルはそう確信した。


「あーっ!! それ、ボクのセリフ!!」

「黙ってな小娘!!!」


(……味方だよな……?)


 ウェイルがそう思って嘆息した時、激しく扉を叩く音が部屋に響いた。


「……誰?」


 アムステリアが扉を開けると、そこにはエリクが立っていた。


「アムステリア様、ウェイル様はおいでですか!?」

「えぇ、いるわよ」

「良かった! たった今、『不完全』がベガディアル・オークションに真珠胎児を出品しに来たようです。今サグマール様や他の鑑定士もベガディアル・オークションへと向かいました。ウェイル様も至急向かってください!」


(とうとう来たか……)


 待っていましたと言わんばかりに椅子から立ち上がった。


「フレス、アムステリア、行くぞ!! 奴らの面を拝むチャンスだ!!」

「がってんだ!」


 意気込むフレス。


「待って、ウェイル。決して奴らに手を出さないで。奴らはまだ何もしていないのだから」

「分かっているよ、アムステリア。言っただろ? 面を拝むチャンスだって!!」

「フフッ、ならいいわ。だけど時間がない。今から行っても間に合わないでしょうね」


 ここはマリアステルの郊外。ベガディアル・オークションは都市の中心部にある。走っていっても到底間に合う距離ではない。


「これをお使い下さい」


 エリクは持っていた重力杖(グラビティック)を三本渡してくれた。


「重力杖か。これなら間に合うな、流石はエリク、用意周到だな」


 ウェイルは杖を握り、伸びた光を空へと向けた。

 あっという間にウェイルは空へと駆け上がり、次第に姿が見えなくなった。

 その姿をフレスは呆然と見ていたがあることに気がつく。


(あれ? ウェイル、先に行っちゃうの? ボク、オークションがどこであるか知らないんだけど……)


「お二人共、どうかお気をつけください。私は本部へ戻りますので」

「わかった。おい、小娘。重力杖の使い方、知ってるわね? 知らないならここで留守番してな」

「むぅ。知ってるもん! ウェイルからちゃんと教わったもん!」

「じゃあ付いてきな。道案内してやる」


(あれ? 道案内してくれるの?)


「本当!? テリアさんって意外にいい人だったんだね♪」

「黙れ小娘」

「ひぃっ! ……ぐすん……。やっぱり怖い人だぁ……」




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