リーダーの本音
贋作士集団『不完全』の幹部達はこの日、これまでの『穏健派』と『過激派』との熾烈な派閥争いに終止符を打つため、長時間の会議を行う予定であった。
イングの巻き起こしたクルパーカー戦争を始め、為替都市『ハンダウクルクス』での人間為替を利用した奴隷商売、新リベアブラザーズとの奴隷貿易交渉など、数を挙げていけばキリがないほどの事件を起こして、そして全て失敗に終わっている。
失敗に終わった原因としては、プロ鑑定士協会の介入が非常に大きいという点もあるが、それ以上に組織としての力の低下が反省点として挙げられた。
イングの事件により表面化した『穏健派』と『過激派』との内部分裂は、これらの事件の失敗に影響がなかったとは言い切れない。
これ以上の混乱、そして計画の失敗を恐れた上層部は、このような場を設け、組織力の修復に乗り出したと言うわけだ。
多くのメンバーが、両派閥の今後の行方に注目していたのだが、極一部のメンバーはこれに遺憾の意を示していた。
それがリーダーを中心とする8人のメンバー、後に『異端児』と呼ばれるメンバーである。
気に食わなくなった理由は簡単に言えば三つ。
ただリーダーが現体制を面白く思っていなかった。それが一つ目。
そして二つ目は、これら派閥争いの原因となったイングや、その周辺のメンバーを集めてきたのがイドゥであったため、イドゥはこの責任を取らされると言うことになった。
今回の会議でイドゥがどうなるか決まるのだが、大方の見方としては、極刑であることが有力で、事実イドゥを以前から邪魔だと思っていた連中は、彼を極刑に処すために動いていたという。
現在の組織が気に食わず、そして恩人まで手を掛ける。
ならば組織を潰してしまえばいい。リーダーがそう思ったことに、周りの連中も賛同した。
そして最後の三つ目は――
「――この世界そのものが、面白くないんだよね。もっと混沌としていた方が、きっと楽しいよ」
正直なところ、リーダーの本音は、これだけであった。
時間は丁度午後七時となる。
『不完全』のこれからが決まる会議が始まる。
そんな時に、突如、巨大な爆発音が轟いた。
「僕、ダンケルク、アノエは直接会議に乗り込んで皆殺しにしましょう。イドゥさん、ルシカは援護と攪乱、後、ルシャブテ達が来たら、アトリエにいる連中を皆殺しにするように伝えてください。頼むよ、ルシカ」
「了解! じゃ、イドゥさん、行きましょうか!」
「ああ。久々に血が騒ぐ。そうだ、リーダーよ。この城には確か『セルク・ラグナロク』が所蔵されてあったはず。お前の目的にはあれが必要不可欠だ。どうにかして手に入れておけ」
「了解。最優先で探すよ」
そんなやり取りがあったなんて露も知らず、予定通り贋作士らの運命を決める幹部会議は開始された。
幹部会議中、アジトである古城には厳戒態勢が敷かれていた。
両派閥の一部の者が、己の意を貫こうと、暴れ始める可能性があったからだ。
しかし、実際に行動したのは、そんなちゃちな連中ではなかったのだ。
「あっはっはっは、ダンケルク、僕、なんだか久しぶりに楽しいよ」
「……だな」
「お、おい、お前ら一体どういうつもり――ぐああああっ!?」
先陣を切るのはダンケルク。
両手には、歪な形をした双剣が握られている。
「どういうつもりって、知ったところで意味ないだろう?」
ダンケルクは目にも止まらぬ速度で双剣を巧みに振っていく。
会議を警護する為、普段よりも多い贋作士が警備にあたっている中、ダンケルクは、逆に人数が多い方が楽しいとでも言わんばかりに、次々と血飛沫を上げていく。
「ダンケルク! 血迷ったか!?」
「別にいつも通りだが」
行く手を阻む者達の中には神器を扱う者達もいる。
その連中は、ロッド型の神器に魔力を込めて通路の床を突いた。
「裏切りは万死に値する!」
「裏切りか。先に裏切ったのはお前らだろう?」
「何を言う!?」
ダンケルクの足元から陽炎が生まれたかと思うと、ダンケルクはすぐさま飛んで、近くの壁に剣を突き立てぶら下がる。
「アノエ、リーダー、掴まれ」
「はいよっと!」
「…………必要ない」
リーダーはすぐさまダンケルクの手に捕まったが、アノエはそのまま突っ込んでいく。
瞬時、その場から巨大な火炎が現れると共に爆発が起こり、通路を焼き焦がした。
「アノエ!? 大丈夫!?」
爆発の衝撃は凄まじく、その振動は古城を揺らすほど。
「アノエなら心配いらんだろう」
剣を抜いて床に降り立ったダンケルクに、先程爆発を起こした者が、鋭いロッドの先で突いてきた。
「裏切り者には死を。それが『不完全』の掟だろう! 覚悟!」
「先に裏切ったのはお前らだ」
ロッドを紙一重で回避し、身を翻したダンケルクは、そのまま双剣の片方を、その者の頭に突き立てた。
「俺の――――期待にな」
ブシュウと激しい血が飛ぶ音が二つ。
一つはダンケルクの剣によって出た音。
そしてもう一つは。
「……手ごたえがなさすぎる。まるでゼリーだ。……貰い受ける」
一振りで贋作士四人の頭を吹き飛ばしていたアノエの大剣から出た音であった。