終焉の予兆
「おい、フロリア! 新しいセルクの絵画が手に入ったぞ! コレクションルームに飾っておいてくれ!」
「わっかりました! アレス様♪」
フロリアは新しい絵画を前に、意気揚々とコレクションルームへ向かっていた。
その途中、一人のメイドに声を掛けられる。
「……これ、フロリアさんにって」
手渡されたのは、一通の電信。
ここにフロリアがいるなんて、それほど公にされた情報じゃない。
とすれば、考えられる線は二つ。
「ウェイルが何か送ってきたのかな……?」
そして電信を読んだフロリアは、最初は驚いたものの、すぐにニヤリとした笑みを浮かべる。
「あらあら、リーダーってば大胆なことしちゃってさ♪」
フロリアはその電信をぐちゃぐちゃに丸めてポケットに入れると、改めてコレクションルームへと向かった。
「アハハ、楽しみが一つ増えちゃった! ……でもアレス様は裏切らないよ、私」
脳裏で笑う仲間達に、そう告げたのだった。
――その後フロリアは、王宮から姿を消した。
国王アレスにだけ、真の理由を語ってから――。
――●○●○●○――
「これは一体どういうことですか……!?」
秘密裏に進められていた作戦が実行され、プロ鑑定士協会と治安局に属する一部の者達が、その古城に乗り込んだときには、すでにもぬけの殻になっていた。
「我々の動きが感づかれたのでしょうか?」
その可能性もある。何せここは敵のアジト、それも総本山と言ってもいい場所。
「どうなのでしょうか……」
落胆の声を発したのはイルアリルマであった。
この作戦とは、プロ鑑定士になったイルアリルマの立てた計画で、うまく行けば奴らを一網打尽に出来た、誰が見ても完璧な作戦であった。
「違うわね。奴らは私達から逃げたわけでも、ましてや誰から逃げたわけでもなさそうよ。だって、まだそこらにあるでしょ?」
暗い古城だ。
それだけでも目を慣らすのが大変なのに、この部屋はさらに暗黒に包まれている。
多くの者が、視界が不明瞭な状況の中、一人の女が近くにあったランプに火を灯した。
「ね? これで何があったか判るでしょう?」
ランプの光で朧に浮かぶ、整った顔。
「匂いがないってのもおかしい話だけど。大方神器でも使ったんでしょ? 綺麗好きがそういえばいたわね」
その女とはアムステリアであった。
「あっ……!?」
「あらら、大丈夫かしら?」
イルアリルマが何かにつまづく。
視力の無い彼女であるが、代わりに察覚という類稀なる才能がある。
気配を感じて、周囲のことを手に取る様に把握することの出来る力だ。
「気を付けてね。ここに落ちているのって、気配のないものだから」
だが、逆に言えば気配を発しないものに対しては、そこに何もないのと同義になってしまう。
「うわぁ!?」
「大の大人が情けない声を出さないで」
他の局員達は、下に落ちているものがなんなのか、いい加減に気づきだす。
「こ、これ!? 人の、人の死体ですよ!?」
「そりゃ死体でしょ。生きているように見える?」
大騒ぎする周囲を放っておいて、アムステリアは死体を蹴飛ばして転がしてみる。
「ああ、あいつの仕業ね。全く綺麗に切れているわ」
「それって心臓ですか?」
「あれ、判るの?」
「ええ。心臓のところに、小さな刃が突き刺さっていますね。魔力が微かにですが残っています」
「まあ、こんな神掛かった殺し方が出来るのも奴らだけよね」
「そうですね。しかし何があったんでしょうね。――『不完全』の連中に」
そう、この古城とは贋作士集団『不完全』がアジトにしていた場所なのだ。
そしてここに転がっている死体の数々は、そのメンバーに違いない。
「アムステリアさんって元『不完全』のメンバーなんですよね? 仲間を皆殺しにするなんて何かあったんですかね?」
「さあね。目的は全然判らないわ。でもね、こんなバカなことをやるような連中には心当たりがある」
アムステリアですら、あの連中とは関わりたくないと思っているほど、その連中はイカれている。
それでいて性質が悪いのが、アムステリアはその連中のことを、結構気に入っている。
「あいつらがここにいないってことは、ある意味で危ないわ。奴ら、本当に何をしでかすか判らない連中だから」
古城をアジトに、未だ活動を続けていた『不完全』の穏健派。
その穏健派は、全員、見るも無惨な姿で発見された。
老人から子供まで、容赦なくズタズタに、見境なく残酷に、それでいて美しく。
「奴らは元々『不完全』の連中から浮いていたから、私でもよく知ってるの。幹部連中も、あいつらには出来る限り関わらなかったくらい。それくらい異端で、そして異質。ここに連中の死体もないし、犯人に違いないわね」
ウェイルの知らないうちに、贋作士集団『不完全』は根絶されていた。
しかし、それを為したのは、同じ『不完全』の連中だという。
後に『異端児』と称される彼らは、これから宗教暴動以上の衝撃を大陸に与えていくことになる。
プロ鑑定士協会と贋作士達との最終決戦は、あまり遠くない未来に訪れることを、今のウェイルには考える余裕もなかったのだった。
『龍と鑑定士』第十一章、ようやく完結させることが出来ました。
最後の方の毎日更新は、私生活も忙しい中何とか続けることが出来ました。
これも応援して下さった方がいてくれたから出来たことです。
第十一章中では、連載開始して初めて日刊ランキングにも乗ることが出来ました。
一年半以上の苦労が報われた感じがして、とても幸せでした。
評価や感想をくれた方々には、本当に感謝してます。ありがとうございました。
また第十一章についての感想、誤字脱字報告などいただければ幸いです。
さて、第三部は、三章構成にしてしまいました。
というのも、次に閑話を入れる予定なんですが、結構長いのです。
本来であれば閑話を第三部第四章目に入れようとも思ったのですが、それでは第三部のテーマである宗教戦争と神器について全く関係がなかった為、あえて三部に入れず閑話という形を取らせていただきました。
なので閑話が苦手な方には申し訳ないです。
とはいえ、この閑話、最終部への伏線など色々と入っておりますので、何とか読んでいただければと思います。
閑話は三章構成で、各キャラクターの過去話をやっていきます。
閑話第一章はステイリィ編。
二章はシュクリア編。
そして最後の第三章はアムステリア編になります。
完結までもう一息です。
最後までお付き合いくださいませ。
次は9月からの連載となります。
長文失礼いたしました。