目を覚ました『フレスベルグ』
「私はね。ウェイル、君のことが好き……ううん、愛してるのさ。友人としてではなく――一人の女として」
「…………!?」
突然すぎる告白に、思わず面を食らうウェイル。
冗談かとも思ったが、テメレイアの顔を見ると、その可能性はすぐに違うと判る。
ここまで真剣な顔、そして緊張した顔を浮かべるテメレイアは初めて見た。
「理由を聞いても――て、たぶん今の話が関係しているんだよな?」
「そうさ。君が私を助けてくれたとき、私は君に一目惚れしたんだ。君への恋心が芽生えたのはその時だけど、その気持ちは今だって薄れてはいない。むしろ増しているほどさ。私は、君が欲しい」
急なことに言葉を失うウェイル。
返答を待つテメレイア。
小恥ずかしいしばらくの沈黙の後、口先に開いたのは、ウェイルだった。
「……すまない。今の俺には、答えられない」
明確な拒絶でも受諾でもない、曖昧な回答。
だが、テメレイアは最初からその答えを知っていたとばかりに苦笑を浮かべる。
「ああ、判っていたさ。ウェイルがそういう回答をすることはね」
「……すまない」
「いいさ。君だって迷っているんだろうからね」
「……迷う?」
「そうさ。君が本当に大切に想っている人。それが誰か。君はしっかりと迷って、そして選択していったらいいと思う。願わくは、その誰かが私になることを祈るよ」
そこまで言い切ったテメレイアの顔は、清々しいくらいに爽やかなもので、ウェイルとしては申し訳ない気持ちで一杯になる。
正直な話、テメレイアの告白は、とても嬉しく、心もときめくものではあった。
女と正体を明かされた時も、驚きはしたが、なんとなく心の奥底ではやっぱりかと思う所はあったようで、すんなりと受け入れることができた。
男としてはあまりにも色っぽすぎて、違和感を覚えることがなくもなかったからだ。
互いの気心も知っているし、器量もいい。
結婚するのであればテメレイアがベストだと、今考えても思う。
だが、テメレイアの告白を素直に受け入れることは出来なかった。
――何故?
それは告白されたとき、一人の少女の顔が脳裏をかすめたからだ。
(…………フレス、なのか…………? どうして…………?)
「ああ、これでスッキリした!」
悩むウェイルに、うんと背伸びをするテメレイア。
「長年君に伝えたかったことを、ようやく伝えることができた。なんだか憑き物が落ちたようで、気持ちいいね。後は君の結論が最高ならこれ以上の幸せはないさ」
「すまん、レイア、今はちょっと――」
「おっと、勘違いしないでくれよ、ウェイル。僕は君に催促をしたわけじゃないのだから。あ、そうそう、この瞬間から一人称をまた僕に戻すよ。私ってのは君といい関係になったら使おうと思う。後、覚えておいてほしい。僕は君を諦めないよ。君の心がどこに向かおうと、僕は隙あらば君を襲い、既成事実を作ってでも僕のものにするからね。覚悟しておいてくれ」
「なんて過激な奴だ……」
「それだけ本気ってことだよ」
唐突に始まり、そして終わったテメレイアの告白。
その告白は、ウェイルの心に重く響き、これからの人生を変えるに違いない衝撃であった。
今すぐに結論は出ない。
それでもいつかは出さねばならぬこと。自分を慕ってくれている人間がいる以上、彼女を裏切らないためにも逃げてはならない。
テメレイアの後ろ姿と、そして天空墓地から見える景色を眺めながら、ウェイルはそう決心した。
その時のことであった。
「た、大変じゃ! ウェイル! レイア! フレスが目を覚ました! 急いで来い!」
バタンを激しく屋上の扉を開いて、ミルが現れた。
見ると背中には翼も出ている。
重力杖を使う時間も惜しかったのか、飛んできたようだ。
「フレスちゃんが目を覚ましたって、本当かい!? ミル!」
「フレスが目を覚ました……!?」
「そうじゃ。じゃがそのフレスの様子がおかしいんじゃ! とにかく、はよ部屋に戻れ!」
「ああ、急ぐぞ、レイア」
「うん!」
「余に掴まれ! 飛ばすぞ!」
周囲の鑑定士が驚愕する中を、ミルとウェイル、テメレイアは一気に翔け抜け、最短距離で部屋までたどり着いた。
――●○●○●○――
「フレス!? 大丈夫か!?」
ウェイルが急いで扉を開き、フレスの姿を確認する。
ベッドの上には、ポツンと座るフレスの姿。
見たところ、普段のフレスとどこも変わりはないように見える。
「フレス、何かあったのか!? ミルが大慌てしていたが」
ウェイルの声に、フレスは顔を上げる。
そして一言。
「ああ、ウェイルか。すまぬな、今は我が出てきているようだ」
「……えっ!?」
その口調、いつものフレスのそれではない。
だからと言って聞き覚えがないわけでもない。
「ミル、これは一体……?」
「だから言ったであろう。様子がおかしいと」
「ウェイル、この口調って……」
揃いも揃って気が付いた。
この口調、それは――
「ウェイル、気にするな。お前のよく知っているフレスは無事だ。ただ、今ちょっと眠っている状態だから我が表に出てきたという話だ。お前に話もあったしな。すぐに元に戻るさ。あまり我が表に出過ぎてもフレスに怒られてしまう」
「フレスはまだ眠っているのか?」
「魔力の制御というのは想像以上に神経を使う。テメレイア、お前だってよく知ってるだろう?」
「……うん。正直オライオンを鎮める力を持つほどの神器を操れるフレスちゃんは凄いと思ったよ」
「三種の神器を操ったお前には言われたくないがな。だからウェイル、あまり思いつめるなよ。フレスが目を覚ました時、心配するだろう」
「ああ、そうだな」
フレスは無事。それが判っただけでも儲けものだ。
「それで、お前の話ってのはなんだ?」
「後だ後。今はとにかく腹が減った。この体でどれほど食えるかは知らんが、くまのまるやき一匹くらいは食えるだろう? 早く用意しろ」
「……くまは無理だろ、くまは……」
「い、いや、ウェイル、突っ込むところはそこじゃなくて」
「判っているさ……、ただ俺も少し混乱しているだけだ」
ツンとした表情で腕を組むフレスの姿は何とも違和感だらけだ。
「フレスちゃんがふてぶてしいなんて想像すら出来なかったさ……」
「わらわとて少女の姿のフレスがこんな態度を取るなんて初めて見たぞ……」
ミルが口をひきつるほどレアな光景のようだ。
「だから、フレスはいずれ元に戻るから。それまでは我で我慢しろ。とにかく腹が減った。メシだ、メシ」
この口調、それは――フレスのもう一つの人格、神龍『フレスベルグ』のものであった。