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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第十一章 宗教戦争完結編 『君が為に』
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止まった時間

 オライオンの消滅後、アルカディアル教会の信徒は、一気に戦意を喪失し、治安局はそれまでの苦労が嘘だったかのように簡単に制圧を終えた。

 下からミルの姿を見ていた信徒達は、フレス達の戦いでミルが死んだものだと思ってしまったらしい。

 さらに絶対的な力と崇めていたオライオンまで消えて、彼らには戦う理由が無くなったのかも知れない。


 それによって生きる理由を失くした信徒達もいた。

 オライオンの消滅を見届けると、アルクエティアマイン各地で自害する信徒達が見受けられたという。


「本当に嫌な事件だったですよ……。後味悪すぎです」


 事後処理を担当したステイリィは後からそう語っていた。







 ――●○●○●○――







 事件の翌日から、人々は皆忙しなく働いていた。

 アルカディアル教会の暴動に参加していた信者達を治安局は一斉に検挙し、また爆撃によって破壊された都市を再建すべく、住民達は修復に乗り出している。

 変り果てた都市ソクソマハーツにも、治安局が入り、出来る限り元通りの都市に戻すように、指示が与えられていた。


「えっ!? 私がソクソマハーツ復興の担当なの!? つまり、当分ソクソマハーツに拘束されるってこと!? ……ウェイルさんに会えないじゃないですか!?!?」


 またしても手柄を上げたステイリィに待つ次なる仕事こそ、ソクソマハーツ復興であった。

 周囲の期待に満ちた目がどんどんと輝いていく中、一人瞳を真っ暗にしてげんなりしているステイリィ。理由はお察しの通りである。


 ナムルとサグマールも、事の報告で大忙しらしい。

 特にナムルは、これまでのテメレイアがしてきた犯罪行為を、自分が潜入捜査を命じていたという名目でかき消そうと躍起になってくれたそうだ。

 後から聞いた話だと、ナムルは本当に色々な場所へと駆け回り、頭を下げたと聞く。

 これを聞いたテメレイアは、悪いことをしたな……と呟いていたが、ナムルとしても同じような感想を抱いていたそうで、ここはこれでお互い様だと納得したそうだ。


 三種の神器の一つである『アテナ』の管理は、なんとテメレイアが引き続き行うこととなった。

 というのも、この『アテナ』を使いこなすのも制御するのも、テメレイア以外誰一人出来なかったからだ。

 ハンダウクルクスの地下にて見つかった『アテナ』本体には、24時間体制で治安局とプロ鑑定士協会が監視を行い、侵入者を阻む算段となったのである。

 ソクソマハーツから逃げ出していた魔獣達も、エリート集団『セイクリッド』の面々が討伐していったという。


 

 生き残ったアルカディアル教会の信者らは、治安局の監視下に置かれることとなった。

 事件後、生き残った連中を、テメレイアは見に行ったという。

 中には顔見知りもいたが、どうしてもある人の無事を確かめたかったのだ。

 だが、結局目的の人物はここにはいなかった。

 彼――リューズレイドの行方は、今も不明なままだ。


 大陸全土を恐怖のどん底へと叩き落とした宗教暴動と神器暴走も、ようやく終結を迎え、アルクエティアマインを初めとして、ソクソマハーツ、ラングルポート、そしてサスデルセルの住民達も、元の生活に戻ろうと必死に働いていた。


 復興に追われ、猫の手も借りたい程の忙しい日々を住民達が送っている中、ウェイルとフレスだけは、まるで時が止まったかのように、プロ鑑定士協会の自室に籠り、時を刻んでいた。


 あれからもう三日も経つが、フレスは未だ意識を取り戻してはいなかった。

 最初はすぐに目覚めるかと思って楽観視していたのだが、日付が経つにつれて、徐々に不安が募っていった。

 熱があるわけでもなく、うなされているわけでもない。

 ただ健やかに眠っているだけの様に見える。


「……フレス……」


 目を閉じたままの弟子の手をそっと握って、空いた手で頭を撫でてやる。


「そろそろ起きろよ。まだカラーコインの鑑定も終わっていないんだぞ? 依頼は次から次へと来ているし。お前がいないと汽車の旅が暇で暇で仕方ないんだ」


 もう何度目だろうか。こうやって語りかけるのは。

 普段はなまじ元気が有り余っているフレスが、今は何も喋らぬ人形の様。

 いくらフレスは自分を信じてくれと、あの時は言っていたとしても、現状がこの状態なのだ。

 アルクエティアマインを救ったことに間違いはないのだが、ウェイルは後悔していた。


「フレス、早く目を覚ませよ……。いつもうるさいお前がこんなだと、師匠は心配でやれないんだ」


 優しく、フレスの美しい前髪を撫でてやる。

 そんな時、部屋の扉が叩かれた。

 ウェイルは無言だったが、それでも構わず入ってきたのはテメレイアと、そしてミルだった。


「やあ、ウェイル。少しはご飯を食べたかい?」


 なんて訊ねるも、答えは聞かなくても判っている。

 ウェイルはこの三日間、ほとんど食事を取っていない。

 昨晩もテメレイアは手料理を作ってウェイルの机の上に置いていたのだが、今見ても手を付けた様子はない。


「……心配なのは理解してるけど、身体壊すよ」

「何か食べろ。折角レイアが作ってくれたのに。このままだと死ぬぞ?」

「ああ。大丈夫さ。ありがとな、二人とも」


 テメレイアは、ウェイルがここまで弱く見えるのは初めてだった。

 気丈に振る舞っているウェイルだが、明らかに無理をしているのが判り、見ていて痛々しかった。

 今までは一人でも、それが当たり前だとすまし顔をしていたのがウェイルだ。

 それが今や弟子の一人が意識を取り戻さないというだけで、とても小さく見えたのだ。


「フレス、まだ眠っているのじゃ……」


 ミルもちょこちょことベッドにやってきて、その度にフレスの顔を覗き込んでいる。


「わらわの為、だったんじゃな」


 事件後、テメレイアやミルから、これまで隠されてあったほとんどの話を聞いた。

 シルヴァンで二人を襲ったのはテメレイアの部下だったというのには大層驚いたが、『もう一つの原始太陽』を修復されたくなかった理由(逃げるための時間稼ぎ)を聞けば納得もいった。


「せっかく久しぶりに会えたと思ったのに、これじゃあんまりじゃ」

「ミル。すまないがここでフレスちゃんを見ていてくれないか? ウェイル、ちょっといいかい?」


 テメレイアが座っていたウェイルの腕を引く。


「どうした?」

「伝えたいことがある」

「大抵の情報はもう聞いたけどな」

「違う。もっと大切なことだ。僕にとっては、なんだけどね」


 テメレイアはこの時決心した。

 フレスが眠っている今というのはとても卑怯な感じはしたけど。


「ちょっと屋上まで付き合ってくれよ」


 自分の正体も、そして気持ちもを全て伝えようと、そう思ったのだ。

 もしかしたら今のウェイルを見るのが耐えられなかっただけかもしれないが。


「……今でなければだめか?」

「ああ。今でなければだめだ」


 真剣な視線のテメレイアに、ウェイルも話を聞くと立ち上がった。



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