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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第十一章 宗教戦争完結編 『君が為に』
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オライオンの最後

「フレス。どうしてその姿に戻った?」

「少しでも多くの力をそれに注ぎたいからね。龍の姿ってのは結構魔力の燃費が悪くてさ」


 普段少女の姿をしているのは、力を抑えるのと同時に、魔力の節約をしているためだとフレスは話す。

 ウェイルは改めて『氷龍王の牙』(ベルグファング)を握り直し、腕に氷を纏わせ剣とした。


「ウェイル。この感覚、覚えているかな」

 

 フレスが両手を広げると、体がぽうっと少しだけ輝いていく。

 するとウェイルの体も、スッと微かにだが軽くなったような感じがした。


「これが龍の力を借りているってことなのか」

「そうだよ。バジリスクと戦った時、ボクはウェイルに少しだけ力を貸したんだ。これはその状態ね。今回はこの力を、ウェイルと、そして『氷龍王の牙』に集中させる。ボクの持つ力のほとんどを、ウェイルに授けようと思う」


 ほんの僅かな力の借用でも、ウェイルの動きは相当機敏になり、腕力も増加したと実感できる。

 これほどの強大な力だ。それをフレスの持ちえる魔力のほとんどを借りるというのだ。

 確かにこれならば十分、火力としては申し分ないと確信できる。

 ただ気がかりなのはやはりフレスの事。

 力のほとんどを貸すというのだ。魔力が抜けた後、本当にフレスの体は無事なのだろうか。


「……フレス、お前はどうなるんだ……? 本当に大丈夫なのか……?」

「もう、ウェイルってば。フレスベルグから説明があったでしょ? ボクなら平気だって。ただ力の譲渡が終わった後、少しばかり気を失うと思う。でも絶対に起きるから大丈夫。ボクは死んじゃったりしないから」

「判った。信じる。必ず生きていてくれよ。約束があるんだからな」

「うん! 一緒にフェルタリアに行こうね!」


 ハンダウクルクスの地下でした約束。

 共にフェルタリアに行こうと、二人は誓っていた。

 互いに拳を叩き合い、そして改めてオライオンの方を見る。


「ウェイル、もうすぐアルクエティアマインに影響の出る高度まで落ちる。急いで欲しい」


 二人の様子をじっと見ていたテメレイアが、そっと本を開いてアテナを発動できる体勢となった。


「『氷龍王の牙』は神器だろう? なら僕もアテナを使ってサポートするからね。フレスちゃんが少しでも楽できるよう、僕も出来ることをするさ」

「助かるよ、レイア」


 テメレイアとて、何もできないわけじゃない。魔力の供給の手助けを少しでもしたい。

 本を輝かせ、魔力を集め始める。


「いつでもいいよ、ウェイル、フレスちゃん」

「うん! じゃあ、やるね!」


 フレスが六枚の翼を眩いほど輝かせ始め、そして氷の刃にそっと手を置いた。


「……ウェイル、かなりの衝撃が来ると思うから、覚悟しておいてね!!」

「……ああ!!」


 蒼白い光は、フレスの方から消え、代わりに神器へと収束していく。


「フレス……」

『…………』


 ミルもサラーも、この時ばかりは黙って見守るしかなかった。


「ウェイル、後はお願い……!!」


 フレスの光がどんどんと弱まっていく。

 美しい翼すら、色艶が霞んでいくように。

 対するウェイルも、歯切りするほど力み、神器から来る衝撃に耐えていた。

 フレスの光は、そっと蝋燭の火を消すかのごとく、消え去った。

 意識を失ったフレスの体が空に投げ出される。


「フレス……!!」


 フレスの体を空から抱き上げたのは、四枚のエメラルド色の翼を持つミルであった。


「凄いですね、これは……」


 イレイズが感嘆の声をあげる。

 眩いばかりの光の刃が、アルクエティアマインの空を明るく照らしているからだ。

 フレスの光を受けた『氷龍王の牙』は、力の譲渡を受けた刹那、力を失うかの如く氷の刃が崩れ落ちたが、次の瞬間には、新たな蒼白い光を放つ小さな刃と変わっていた。


「これ、なんて、なんて力だ……!? 魔力が凝縮されているようだ……!!」


 見た目は小さなナイフのような姿であったが、その溢れんばかりの魔力に、ウェイルすら恐怖を覚える。


「使い方は訊いているのかい?」

「……訊いてはいない。だが判る。この剣が、俺に教えてくれているようだ……!!」


 超人的な身体能力を得たこともよく実感できた。

 この神器の使用方法だが、不思議なことにウェイルは理解出来ていた。

 まるで脳内にフレスが直接伝えてくれたかのよう。

 今なら長年使い込んだ神器と同じくらい、手際よく使えるだろう。


「これならイレイズの腕だって粉々に出来そうだぞ」

「……ウェイルさんと腕相撲だけは絶対にしないようにします」


 冗談抜きで、軽く石を握っただけ粉砕できそうだ。ダイヤモンドですら砕けかねない勢い。


「サラー、頼みがある」

『空に投げ出された自分を拾え、と言いたいんだろ。判っている。行ってこい』

「理解の早い仲間がいて助かるよ」

『私はお前と仲間になったつもりはない』

「え!? そうなのですか!? 駄目ですよ、サラー。ウェイルさんは恩人ではないですか」

『お前は今喋るな、イレイズ!!』

「お前らはどこでも相変わらずだな」


 そんな漫才を敢えて交わして緊張を解そうとしてくれる二人に、内心感謝しつつ、ウェイルは思いっきり足を踏ん張らせた。


「す、すごい……!!」


 テメレイアが絶句するほどの、超人的な跳躍力で、ウェイルは一気にオライオンへと詰め寄った。


「自爆装置ごと破壊してくれる!! うらあああああああああああああ!!」


 ウェイルはオライオンに向かって、光の短剣を思いっきり振り降ろした。


 振り降ろされた光の刃は、オライオン近辺で巨大な、大きさで言えばオライオンの数倍もの大きさのある大剣となりて、オライオンの結界と大衝突したのだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ウェイルの咆哮の気迫の強さと比例するかの如く、大剣もその大きさを増していく。

 ピキピキと、結界にひびが入っていく様子は、少し離れたテメレイアからでも確認が出来た。


「今、助太刀するよ、ウェイル……!!」


 本から輝く楽譜を出現させ、テメレイアはアテナの歌を奏でていく。

 今度はウェイルを祝福する讃美歌の様に、テメレイアは祈りを込めて歌った。

 歌の力が『氷龍王の牙』にも反映されていく。


 膨大な魔力をさらに増幅させ、大剣の数は一本から二本、二本から三本へと増えていき、テメレイアが四小節目を歌う頃には五本もの大剣が、オライオンを破壊せんと結界と衝突していた。


 ミシミシと、結界がついに悲鳴をあげはじめる。


 ――そして、ついにその時が来た。


 限界を迎えた結界は、光り輝く魔力の粒子となって粉々に砕け散っていく。

 結界を失ったオライオンを守るものは、もうどこにもない。

 オライオンには容赦なく、五本の光の超巨大大剣が突き刺さっていったのだった。



 その日、アルクエティアマインの上空にのさばり続けていた超弩級戦艦『オライオン』は、きれいさっぱり姿を消した。


 いや、正しくは消滅したのである。


 自爆装置すら瞬時に消滅させた光の刃により、オライオンは文字通りこの世界から消えてなくなったのだった。


 フレスの命懸けの行動によって、大陸を恐怖で震撼せしめた超弩級戦艦『オライオン』は、撃破されたのだった。


 オライオンの消滅によって、治安局とラルガ教会 VS アルカディアル教会の宗教大戦争は幕を閉じたのだった。


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